SUMMER STRUGGLE 2020 8.26後楽園ホール試合雑感

色々と各方面で物議を醸しているKOPWがいよいよ実体化することと相成りました。毎度毎度長文ばかりだと読む方も気疲れするので前置きはこれぐらいにして、 今回はKOPWの試合のみをざっくりと取り上げていきたいと思います。

◼️KOPW一回戦 必殺技禁止マッチ
小島聡vsエル・デスペラード

必殺技禁止マッチと銘打たれていますが、実質ラリアット禁止マッチですね。絶対的なフィニッシャーを持つ人間と多彩なフィニッシャーを持つ人間では必殺技の格に絶対の差がありますし、何より小島の試合構成はラリアットを帰結点としてそこから逆算して組み上げていくタイプとなっていますので、自ずと観客の注目もラリアットを封じられた小島へと焦点が定まります。

デスペラードは早々に小島の足を潰していくという小回りの良さを見せてて、その巧みさに惚れ惚れしました。どうにもレスラーとしての格が追いついていないのが気になりますが、個人的にはデスペラードは過小評価されていると思ってます。対する小島の苦しみも単なる痛み以上にラリアットが使えない息苦しさがしっかり現れていましたし、小島の試合はラリアットを含めてカタルシスが何よりも大事であることが骨身に染みて分かりました。途中見せた疑惑のラリアット(佐々木健介のかまいたちのようなやつ)のシーンは非常に面白く、ああいうコテコテな場面が似合うのが小島聡というレスラーの最大の長所でしょう。トップレスラーはコミカルとシリアスの両面を演じ分けられることが絶対条件だと思うのです。

ラリアット禁止マッチで期待された小島側の秘策は久しぶりのオリジナルホールド「川田殺し」で、これは本当に知る人ぞ知る隠し技ですよね。三冠戦を前に開発した技であり、別名三冠ホールド……トリプルクラウンホールドというナイスなネーミングで呼ばれていた時期もあった気しますが、個人的にも天山のアナコンダバイスと対になっている印象があって思い出深い技です。そしてブラインドでのタップという幻の勝利もまた、この技の価値に貢献していますね。

最後はラリアット禁止マッチは何処へやら。デスペラードのラリアットの挑発に応じる形で抜いた伝家の宝刀と共に心中する道を小島は選びました。この選択はラリアットにこだわりを持ち、レスラー人生をラリアットともに全うするであろう小島の意地を感じましたし、またその意地を逆手に取って勝利に拘ったデスペラードの作戦勝ちであるとも言えます。この落とし所はとても良かったですね。

普通に考えれば特殊ルールが肝のKOPW、しかも映えある最初の第一回戦でいきなりルールを破るというのは前代未聞かつありえないことで、バカ負けに等しい感じではあるのですが、まさに「いっちゃうぞバカヤロー!」であり、これに尽きますね。ルール?うるせーバカヤロー!という言葉がまざまざと聞こえてきそうで、いくつになっても小島はこういうノリが似合いますし、そうしたノリが一番期待されていて見たかったものになっているのかもしれません。試合としては振り返ってみれば最初から最後までコテコテの一戦で想像通りではあったのですが、逆にここまでコテコテだと様式美の域に達している気もします。そして小島聡はもはや様式美なんですよ。僕は小島聡の勝利だと思います。

◼️KOPW一回戦 ピンフォール2カウントマッチ
矢野通vsBUSHI

試合形式で内容が容易に想像つきそうな一戦といえばこれが一番で、 KOPWのバラエティ性が存分に出た一戦とも言えます。

2カウントというのもあって試合のテンポはかなりのハイスピードで、当初想定されたであろう緊張感よりもむしろノンストップな短距離走のようなイメージの一戦でした。1カウントのニアフォールでの矢野の揺さぶりも見事でしたが、個人的に目を引いたのは途中の体固めの連発で、ああいう返されるフォールの繰り返しは通常の試合だと食傷気味に思われる人もいるかもしれません。しかしこの試合に限っては1カウントという制約があり、本来の意図であるスタミナ消費の意味が際立っていた気もします。あえて通常ルールと少しだけ変えることで本来の3カウントやフォールの意味合いがクローズアップされたというのは興味深いですよね。

BUSHI側の秘策は場外での矢野の両足を縛るという「意趣返し」だったのですが、ラ・マヒストラルをそのまま切り返されて敗北することとなりました。BUSHIはたまに凄く不遇に感じることがあり、好きな人には申し訳ない気もするのですが、元が色気があって格好いい分、こういうチョンボで負ける姿が妙に映えるんですよね。やはり真面目な印象があるせいでしょうか?そういう意味ではBUSHIも隠れた立役者であり、こうした「弄り」があってこそ成立した試合であると言えなくもないです。

◼️KOPW一回戦 サブミッションマッチSHOvsSANADA

個人的に一番期待していた一戦であり、また一番ガッカリした試合でもあります。わりと好きな攻防もあり、また両選手とも好きなためあまり低評価するのも心苦しいのですが、それでも感じたことに嘘はつけず、またそれだけこの二人に寄せていた期待感が大きかったとも言えるでしょう。

最初に断っておきますと、完全に二人のせいというわけでもなく、今回実験的に導入されたリモート歓声システムにあります。古い人間だ、と言われるのも仕方ないのですが、個人的にグラウンドでのサブミッションの攻防は、観客の静まり返った中でやって欲しく、皮膚や骨の当たるゴツゴツとした音、マットへ打ちつける音、選手の息遣い、観客の息を飲む音といった、静寂と殺伐の支配するヒリヒリとした場で行われるものです。これはもう好みの問題だと言われたらそれまでなのですが、今回の観戦スタイルの悪い面が最も出てしまった試合形式であると言えますし、本来の魅力が4割減になったと言っても過言ではありません。色々と事情があるのも理解しつつ、また観客が悪いというわけでもないのですが、没入感を削がれてしまいました。

試合序盤はSHOがややリードしており、柔術ベースのサブミッションを見せていきます。通常なら足を取りにいくか、腕を取っていくところで引き込みを見せたあたりにそうしたバックボーンを感じましたし、ああいう所がわりと好きだったりします。腕ひしぎ→ガードされたらキーロック→そこからのコントロールなどは唸りましたし、それを持ち上げるといつSANADAのクラシカルな切り返し方も良かったです。

ただ評価するのはここまでで、この試合に限っては両者の意図がかなりズレていた気がするんですよね。サブミッションマッチに期待されたであろう試合構築から逸脱するようなSHOの大技やエルボー合戦はかなり興醒めしてしまいましたし、これではフィニッシャー指定マッチと変わりません。ギブアップがレフェリーストップしか許されないサブミッションマッチと、単にフィニッシャーがサブミッションに固定された試合では同じようでも意味合いは全く異なります。このあたりはSHOの「若さ」というか、出し尽くそうとして悪い意味で何でもかんでも出し過ぎてしまった気がしますね。

対するSANADAはSANADAで特殊な試合形式ながら、あまりにも佇まいが普通すぎて、良くも悪くもいつものSANADAの試合でした。試合形式をやや逸脱して違和感があったのがSHOならば、SANADAは逆に元のスタイルが適合し過ぎていて逸脱する必要がなかったのが違和感の正体であり、それは「余裕」とも見てとれますが、期待以上とは言えません。SANADAは武藤チルドレンの趣が強いレスラーではあるのですが、無我の後継者の側面もあり、変える必要がなさ過ぎたのが逆にアダになった感じがありましたね。ただラウンディングボディプレスという逸脱しかねない大技が、SHOが足でブロックしたことで足殺しの意味を持って通じたあたりは上手いなあと思いました。フィニッシャーは足4の字で、序盤の足殺しから恐らくこれだとアタリをつけていたので驚きはありませんでしたが、逆にスカルエンドではなく、足4の字を新たなフィニッシャーとして持ってきたのは面白く、本来ならこの試合での新技は、代名詞になるほどのサブミッション技を持たないSHOに期待された部分なので、そこをSANADAがやるというのは少し意外でした。ここで負けたことで、機会があるとするなら次のリベンジマッチはSHOが腕ひしぎでも腕絡みでもない、新たなサブミッションを会得してSANADA超えを果たすのかもしれませんね。

見てて実感したことではあるのですが、サブミッションマッチというのは実に奥が深いものですね。ギブアップ&レフェリーストップのみでフォールがないという縛りは思った以上に大きく、ある意味ではフォール禁止マッチという見方もできます。それだとただの制限のある試合形式であり、それも間違いではないのですが、ではサブミッションマッチとは何なのでしょう?

サブミッションマッチにおいて一番大事なのは「プライド」であると僕は思います。サブミッションとは、本来は「服従」の意味であり、相手に服従を強い、また自身が服従しないというのはまさに「プライド」に他ならず、またそうした技術に対して誇りがあるからこそ選ぶ試合形式であります。サブミッションに対してプライドのある人間がやるからこそサブミッションマッチは面白く、挑んだ両者にプライドがなかったとは言いませんが、何としてでもこの分野でこいつより上に立ちたいという気概は感じなかったです。SHOの敗因はサブミッションを単なる手段としての意味合いでしか捉えてなかったことであり、それがそのまま結果に繋がったのではないかと思ってしまいました。しかしSHOもSHOで会得した技術は嘘をつかず、まだその分野は発展途上であるためそちらを磨き上げて再びSANADAの前に立って欲しいですね。

◼️KOPW一回戦 1vs3ハンディキャップマッチ
オカダ・カズチカvs邪道&外道&高橋裕二郎

メインイベントらしい勧善懲悪かつ、オカダを狙う裕二郎に対する格の差を込めた試合形式でもあります。提唱者でありながら負ければ神宮への出場権を失い、それはメインイベンタークラスのオカダにはあってはならないことです。だからこそ読みやすい結果を、1vs3という圧倒的な数の不利でハードルを上げるという、とてもわかりやすい試合でした。わかりやすさ、というのは馬鹿にされがちですが大事な概念で、実のところKOPWを提唱したオカダもルール設定含めてかなり気にしているのではないかと思ってしまいました。真剣勝負へのこだわりの強い日本だと、この手の試合形式は今のご時世逆に色褪せてしまい、ベビーだとやや成立しにくい形式であるように思います。体格や体重が怪物級のヒール選手に対して、ベビー側の軽量級の選手が数人で挑むという構図のほうがスカッシュマッチとして馴染みやすく、そっちのほうが重用されてきたイメージがありますね。恐らくそうした部分でも原点回帰を狙ってきたのではないでしょうか。

試合は邪道のコンディションの悪さがかなり引っかかってしまい、実質1vs2の様相を呈していたのですが、それでも介入のタイミングはよく、元々がオカダと裕二郎の抗争の一幕で、邪道外道はオプションみたいなものなのでさほど際立つ違和感というわけでもなかったです。反面、外道のコンディションの良さはコントラストのように際立っていて、終盤に見せたスーパーフライはキレッキレの一撃でした。オカダがNJCから愛用している新型コブラクラッチにこだわりを相当見せていたのも面白かったですし、最後に外道と二人きりになった時は決別のレインメーカーを期待したのですが、そこでも敢えて変形コブラクラッチで仕留めるあたり、オカダのこの技へのこだわりも相当なものです。自分はエモーショナルな流れを重視する人間ですが、レスラー側があえてそれに乗っからない意思は尊重しますし、そうした部分のこだわりのほうが好きだったりするのでフィニッシャーに異論はないです。途中に見せたバックスライド気味に仕掛けたアームドラッグは相変わらず惚れ惚れする技で、オカダがこうした部分で垣間見せるルチャの血が結構好きだったりします。

ハイライトはやはり外道にロープに振られたオカダがそのまま場外の邪道と裕二郎にトペコンで突っ込んでいったシーンで、この辺りの視点の切り替えはまさに盲点で、見てて声が出てしまいました。クライマックスの分断の大技のチョイスがトペコンというのも味わい深く、そこから裕二郎ではなく因縁の外道に繋がっていったのも良かったですね。これも結果は予想通りであったものの、外道のコンディションとキレッキレのスーパーフライ、オカダのトペコンで元は取れたのでメインとして十分満足しました。

これでKOPWの試合雑感は終了となります。皆さん、 KOPWはどうでしたかね?僕は総合的には今回の試合は「アリ」でしたし、何より格に直結しないタイトルという新規性には期待する部分が大きいです。だからこそ参戦する選手に縛りが出てきそうですが、KOPWは以前書いた通り「概念」に近いものだと思ってるので、その気になればKOPWを保持したまま他の王座に挑んでルールを上書きしちゃえばいいんですよ(笑)それはそれでまた二冠戦かというお叱りの声が聞こえてきそうですし、オカダ自身IWGPとは別軸と語っているので当分はないでしょうけど。KOPWは白紙のキャンバスみたいなもので、色がつくのと形ができるのもまだまだこれからです。このKOPWというタイトルでどう「遊ぶか」?一番はそれですよね。期待しつつも様子見といった段階はいまだ変わらず、末長く見守っていきたいと思います。

また長文になってしまい申し訳ないです。今回はここらで筆を置きつつ、神宮を楽しみにしましょう。ではでは。