至高vs究極の超人タッグ編〜内藤&SANADAvsデンジャラス・テッカーズ試合雑感

お久しぶりです。毎回気分で更新しているので、次に書くのは7.25のドームあたりかな……と思っていたのですが、7.11のこのタッグ王座戦があまりにも素晴らしく、Twitterで済ませるのもやや惜しくなったので、備忘録がてら珍しく試合一本のみで記事を書こうと思います。本当はNOAHやGREAT旗揚げ戦についても書こうかとは思ったのですが、どうにもタイミングを逃してしまって……。こういうのって水物ですよね。毎回発信している人は本当に尊敬します。

◼️第6試合 IWGPタッグ選手権試合
内藤哲也&SANADAvsタイチ&ザック・セイバーJr.

さて、本格的な試合感想の前にまずは試合前の印象から。この試合を語るにはどうしてもここに触れなくてはいけなくて、ここからは長い反省文になりますw

恥ずかしながら白状すると、内藤&SANADAのタッグ結成は、当初全くと言っていいほどノレていなかったのですよ。ロスインゴのユニット内で組んだだけに過ぎないというか、タッグとしてあまり惹かれるものは無かったんですよね。敢えてロスインゴの文脈ではなく、内藤哲也&真田聖也として見るなら、ALL TOGETHERでの第一種接近遭遇……未来を見据えた新世代ドリームチームから継続した歴史を感じますし、かつては「組むことはない」とまで言い切ったライバル心の成熟を感じますので、その視点ならノレるかな、程度でした。ただ、どうにも現状はロスインゴのカラーが強く、またSANADA自身もEVILや鷹木といった相方とソツなくタッグをこなしていたのもあり、優等生的な感じに終始するのでは……と。つまりは選手としての評価の高い二人をとりあえず組ませたような急造タッグの匂いを感じ取ってしまったわけです。言葉を悪く言うならば、内藤のシングル戦線復帰のための「充電期間」タッグは「腰掛け」だろう……という揶揄めいた心境も多少はありまして……。この場を借りて掌返しと謝罪をします。いやはや、本当に見る目がなくてすみません。

ロスインゴのリーダーはいないとは言いつつも、アイコンはやはり内藤であり、その存在感は非常に強いです。そうなるとSANADAは性質的にもスタイル的にも恐らくサポートに回るでしょうし、格も内藤のほうが高いので、僕がタッグチームに求める条件である「対等」感が薄れるのでは?と考えてしまったわけなのです。一応書き添えておきますが、これは単に好みの問題で、実際は「対等であること」がベストなタッグチームの条件というわけではありません。その理屈なら師弟タッグは軒並みダメということになってしまいますし、ベテランと発展途上の選手が組むことによるケミストリーもタッグでは往々にしてよくあることです。格に差があることが、逆に引き立て役に回る選手の「用心棒」感が強調されるケースもあるので、これがベストとは一概に言えるわけではないんですよね。これはただ、内藤&SANADAではなく、内藤&真田なら「対等」を求めてしまうかな、という個人的なワガママの発露に過ぎません。

そんな懸念とは裏腹に、試合後のTLは絶賛の嵐。その評判の良さもあって、半信半疑で追っかけて視聴したわけなのですが……いやはや、自分の見る目のなさを痛感しました。プロレスの魅力の一つは固定観念の破壊にあり、プロレスとはこちら側の感性が常に問われ続けるジャンルなんですよね。どれだけ観戦歴を積み重ねようが、こればっかりは本当に分からないというか、この裏切られる感覚が、プロレスが長年僕を虜にしているものの正体であったりするのです。

まず当初心配した「格」の問題なのですが、これは完全に杞憂でした。二冠王者陥落以降、シングル戦線からは一歩遠のいた形になった内藤なのですが、責務に押し潰されそうな中、刹那性と共に駆け抜けた王者時代とは違い、陥落後の内藤は本当に「自由」になったなと思います。加えて、ほぼ同時期に同ユニット内の鷹木がIWGP世界ヘビーという、いまだ内藤が保持していない頂点に君臨したことで、間接的にユニット内の序列も入れ替わったわけなのですよね。「アイコン」は内藤でありながらも「最強」は鷹木の手元にある。この「拗れ」は内藤にとってはかなりの逆風であり、また鷹木の造反、もしくは内藤の手による追放という可能性すらも視野に入るわけで、それはトップ選手の仲間割れというロスインゴというユニットの存続にも関わる話にもなるわけです。アイコンである内藤が裏切りならのユニット追放の憂き目に遭えば、それはもうロスインゴの終焉を意味すると言っても過言ではないですし、鷹木の造反はEVILと同じ路線の再演に過ぎません。また王座に君臨した鷹木を内藤が追い出すというのは、ヒールならまだしも、アンチヒーロー的な立ち位置でそれをやるのは少しダサいようにも思ってしまうんですよね。

そうした中で内藤の去就には注目が集まっており、インタビューでは堂々とジェラシーを口にしたわけなのですが、そのユニット内での「序列」そして「格」の微調整が、意外なことにSANADAとのタッグ結成においてプラスに働いていることにまずは驚かされました。制御不能の首魁でありながら、存在感を残しつつ、最強を一時的に預けておくことで当人は自由に振る舞う。漫画で喩えるなら前作主人公、もしくは主人公の師匠格のようなおいしいポジションで、加えて少し格が下がったことでSANADAとの格の帳尻が合い、逆に違和感がなくなったとも言えるわけです。仮に二冠王時代が続いていたなら、このタッグもなかったでしょうし、いざ組んでも傍に二冠王がいるというのは違和感が強かったように思います。シングルタイトルでは無冠の帝王であるSANADAからすると、同じコーナーに文字通りの頂点がいるのは引け目がありますし、タッグとしてのバランスも悪くなったことでしょう。つまりは内藤&SANADAのタッグは、内藤の二冠王時代ではできなかったことの一つであり、ここに内藤の進化を感じ取ったわけなのです。

さて、試合なのですが、今回は内藤がMVPと言ってもいいでしょうね。試合冒頭のザックに対するスカしに始まり、ストンピングもかなり強烈。さらに徹底したアジテーションと、本来の制御不能な本質を全面に出ていましたね。やはり内藤は新日がやりたがる勧善懲悪の王道的な路線より、あらゆる方面に上から目線で喧嘩を売る、権威に対する反骨のほうが性に合ってると思います。そういう意味では昨年の王座戦は、ロスインゴのベビー人気にあやかった新日側の読み違えがあったというか、内藤らしい王者像の構築をサポートする形でやればよかったのにとも思っちゃいますね。徹底した反権威とアナーキズム。これこそが内藤の持ち味であり、それが継承から背を向けて独自路線を歩んだ内藤なりの答えなんですよね。

そんな風に自由奔放にあしらいつつも、内藤が白眉なのは、おちょくりに対するデンジャラス・テッカーズ側の猛反撃を、その身に一身に受けるという献身ぶりにあり、これはSANADAの救出という引き立てをやりつつも、おちょくった代償としての文脈の帰結になっているんですよね。四方のロープに寄りかかりながら受け切る様は非常に素晴らしく、攻めと受けの両面で輝けるのもまた内藤の強みの一つなのです。そしてSANADAの救出も内藤を主人公としたサポートではなく、SANADA自身が主人公としてのオーラもありましたし、SANADAのピンチの時には内藤がその役目をするのもタッグの「絆」を感じてよかったですね。互いが互いのピンチを補い、局面を即座に判断できる視野の広さと阿吽の呼吸。これはもう名タッグと言っても差し支えはないでしょう。

忘れてはならないのは、その方法論がちゃんと成立したのはタイチとザック・セイバーJr.のデンジャラス・テッカーズがタッグ王者としてあまりにも完璧だったからです。デンジャラス・テッカーズは新日本プロレスの歴史上から考えても過大評価抜きに十指に入るタッグチームだと思っていますし、フィスト(拳)&ツイスト(関節技)のバランス感(厳密に言うならタイチはシューターなので拳ではなく蹴りなのですが)そして帳尻の合った両者の格と絆。ほどよいエグみと、アンチヒーローにも完全ヒールにもなれる幅のあるアウトロー性。どれをとっても一級品です。対戦相手の捕獲と弱体に一日の長のあるザックなのですが、やはり体格差で押される場面も多く、その時はタイチが持ち前の打撃の鋭さによる突破と、ザックより強いヒールムーブによる小細工で埋めるという、まさに理想的なタッグチームなのです。蹴りの強者と関節技の強者という感じで、タッグとしてのストロングポイントが分かりやすいキャッチーさもありますし、そこにタッグ戦線を長く盛り上げてきた自負と経験が上乗せされているので、王者としては本当に文句のつけようがありません。

タッグのピンチを打開する一人全日本のタイチの独自性もさることながら、その打破の場面にはヒロイックな雰囲気も漂っていて、この試合はベビーとヒールのポジションが熾烈なキャッチボールとなって互いのチーム間を行き来していました。役割が明確に色分けされた試合も魅力的ではあるのですが、個々の因縁と試合の局面によって、こんな感じで役割が入れ替わるほうが僕はどちらかと言えば好きですし、どちらのファンが見ても感情移入しやすい名勝負になったのも頷けます。

こう書くとザックはただのサポートなのか?と思われがちですが、要所要所でのネックツイストのエグさと速度は素晴らしく、タッグ戦線での相手の釘付けに一役買っていましたよね。ザックのタッグの面白さはタッグ用に若干の修正とアレンジを加えたサブミッションにあるのですが、そうした周囲のイメージとは裏腹に、ザック自身も新日参戦で進化しつつあるのです。当初はサブミッションマスターみたいな位置付けではあったのですが、そうした「プレゼン」が終わってスタイルが周知され、また対SANADAや対矢野のようなメタ対策が蔓延してくると、少しスタイルを軌道修正して、ザック流のキャッチアズキャッチキャンの深淵へと近づきつつあるようにも思うのです。その証拠に近年のザックはピン・フォールに対して重きを置いており、最終的に相手をコントロールして両肩をマットに付けるというレスリングの原理に非常に忠実な試合運びになっているんですよね。言うなればそれはサブミッションによるギブアップ勝ちという「服従」よりもさらに高度な、相手の動きを完全に封じて支配するという「生殺与奪」であり、プロレスの基本は両肩をつけて3カウント取れば勝ちであり、そこに至るのは究極の合理性でもあるわけです。

今回の試合で目を引いたのは何を隠そう、ザックのドラゴンスープレックスで、使い勝手のいい一撃必殺のザックドライバーより、こちらのほうがイメージに合ってて好きですね。しなやかかつ高速で、相手をフルネルソンで固めて両肩を押し付ける……。これはもうフィニッシャーにしてもいいんじゃないですかね。それにザックならダブルアームからの連絡技で飛龍風車固めの復活すらあるのでは?と思ってしまいました。(風車固めは鈴木秀樹が使ってはいるのですが)

技と言えば、ラウンディングボディプレス、オコーナーブリッジと比較すると三番手の位置付けになってしまうSANADAのスカルエンドが、相手を捕獲して強制的にタイマンに持ち込ませる技として機能していたのもよかったですね。カットの阻止そのものが見せ場になるという絵力の強さと、羽交い締めのエモーショナルさのハイブリッド。これはSANADAにしか出せない味です。あとロスインゴタッグ限定技と言っても過言ではない内藤の切れ味鋭いジャックナイフ式エビ固めが出たのも個人的には満足度が高かったですね。内藤&SANADAの格の帳尻や、内藤&真田の組み合わせの魅力については語りましたが、ここに来てロスインゴであることの魅力もあらためてピックアップされたわけですよ。同格のタッグチームとして確立しつつ、ロスインゴ特有の高速連携をベースに使えるのって、ほぼ完全無欠じゃないですかね。明確なタッグチームでありながら、ユニットとしての所属も明確にする。この辺りの匙加減が絶妙で、このジャックナイフ式エビ固めでフォールを取る展開があってもいいのではと思いました。地方の6人タッグでよく見る技でありながら、王座戦ではあまり見せないプレミア技という、周知と温存の配分が絶妙で、タッグのような混戦模様で一番光る技でもあるという……。内藤は自身のバリューをよく理解していますし、この試合における文脈の理解に関してはほぼ完璧と言ってもいいです。思った以上にタッグに関してはしっかりと練り込んできましたね。

突き刺さるようなエスペランサに、内藤がタッグ戦線に本気で介入したことを満天下に示すようなデスティーノ。どっちが勝ってもおかしくない試合でありながらも、タッグチームとして機能しつつ、タッグチームとして新王者に輝いた。はっきり言って脱帽です。タイチ&ザックが負けたのは残念ではあるのですが、この二人を輝かせるためにもタッグ戦線のテコ入れは重要ですし、やはり相手がいてこそなので、この戦いがさらなるブランド向上に繋がるでしょう。即座のリマッチも納得で、これは何回でも見たい組み合わせですね。逆にブランドが完全に高まった内藤&SANADAのタッグから、1.4ドームのセミあたりでベルトを奪回するテッカーズのストーリーも非常に見てみたいですし、それはそれでこの負けも糧としつつ、最後に勝つことで主役奪還になるわけですよ。誰が何と言おうとここ最近のIWGPタッグ戦線はデンジャラス・テッカーズが支えてきたものですし、このカードは名勝負数え歌にしてもいいと思います。

内藤&SANADAのタッグ、新王者になったことにより、これから先の展望も見えてきましたね。個人的に一番見たいのはEVILvs裕二郎なんですよ。EVIL自身は二人との関わりが深く、ロスインゴの裏切り者という強烈な文脈がありますし、内藤からすると二冠陥落の因縁の相手、SANADAからするとかつてのタッグパートナーという二重構造の因縁があるんですよね。そして裕二郎は内藤にとっての初めてのタッグパートナー……NO LIMITの相棒という青春時代の相方であり、また裏切りによる膝の破壊という、より深い因縁があります。一見するとロスインゴのお家騒動になりそうな組み合わせでありながらも、内藤&SANADAがタッグチームとして確立したことによって、その文脈に呑まれなくなったという強みがありますし、また裕二郎との因縁はそれに負けないだけの十数年に渡って醸成された嫉妬と怨念があります。何より期待するのは、最近の新日の流行りの一つであるタッグ王座前哨戦でのシングル……ここで内藤vs裕二郎が組まれる可能性があるのですよ。内藤の11年ぶりのタッグ戴冠発言って、ひょっとしたらこの前フリなんじゃないかと疑っているわけです。実現したら狂喜乱舞で裕二郎応援しますよ。これ、マジ!

それ以外だと、タッグ王座戦線ならNEVER6人タッグのブームの火付け役かつ、その中核にいるゴトヨシへのリベンジも面白そうですね。この二人もまた、当初のイメージに反して驚くほど飛躍したタッグチームであり、そうした意味でもタッグチームらしい戦いになりそうです。あと二人にとっての天王山になるなら、一番はアンギャロこと、カール・アンダーソン&ドク・ギャローズのバレットクラブ相手でしょうね。不遇だったIWGPタッグ戦線の以前の「顔役」であり、現状提供できる中ではほぼ最高クラスのタッグ王座戦になると思います。そこにデンジャラス・テッカーズも絡むなら、ひょっとしたらIWGP世界ヘビーを喰う可能性すらありますよ。こうして見ると内藤戴冠によるストーリーの広がりは凄まじく、単なる腰掛けと思っていた自分を恥じるしかありません。いやはや……本当にすみません。毎回思うのですが、ちゃんとユニットのファンで応援している人に解像度で勝てないなと思うのはこういう時なんですよ。おみそれしました。

内藤&SANADAのタッグ王者は本格的に「化けた」わけなのですが、これによって内藤の語る言葉の説得力が強まったわけなのです。鷹木がIWGP世界ヘビーに行くなら、残りの面子は他のベルトを狙う。これ、当初は「逃げ」ではないかと思ってしまったわけなのですが、それは内藤のタッグ参戦をあまりにも軽視しすぎてたからなんですよね。内藤&SANADAのタッグがここまで爆発したのなら、前述の通りIWGP世界ヘビー王座戦の「メイン喰い」すら視野に入るわけで、同ユニットに所属しながら試合のクオリティで間接的に「圧」をかけるというのは、内藤の提唱したユニット内における競争原理としとしてとても正しく、非常に理にかなっていると思うわけです。何も対角線に立つだけが戦いではない。こうした番外戦術や印象のコントロール、内藤は本当に巧みなんですよね。


さて、一試合にも関わらず、妄想も含めて長々と書き連ねてしまいましたが、ほとんどが謝罪とベタ褒めですね。これだからプロレスは面白い!内藤&SANADA、仮に即座にタッグ解消したとしても、この試合がある限り二人のタッグのプレミア感は消えませんし、この一年はタッグに専念したとしても十分に満足できますよ。本当に素晴らしかったですね。今日はここまで。また次回お会いしましょう。ではでは。