加熱する舌禍と舌戦〜内藤vsKENTAに思うこと〜

お久しぶりです。はじめましての方ははじめまして。ネットの片隅で駄文を書き連ねております。過去ログを見れば分かる通り、前回の更新から随分と間が空いてしまいました。基本書きたい熱が溜まって臨界状態になった時に熱に浮かされたようにガーッと書く、というスタイルですのでどうしても不定期になっちゃうんですよね、毎度毎度書いてる継続性のある人は尊敬します。今年は1.4と1.5というダブルドームがあったということもあって、復帰がてら試合感想を書こうかととも思ったのですが、印象に残った試合に絞ったとしてもテキストが膨大な量になる上、見返して書くと時間がかかり、旬を過ぎてしまうとも思ったので割愛します。

それでも筆を取らずにいられなかったのは、やはりあの男の存在でしょう。KENTA。彼に言及せずして今の新日の感想は語れません。デハポン締めを潰すという暴挙。驚愕のバッドエンド。その衝撃は一ヶ月以上経った今となっても尾を引いており、SNS界隈をざわつかせています。今回は内藤vsKENTAについて独断と偏見で語っていこうかと思います。

■ドームエンディング後の乱入の是非について

ダブルドーム以後、最も反響を呼んだのはKENTA乱入によるバッドエンドの是非についてでした。TPOを弁えない乱入だったというのもあるのですが、問題点は主に二つあり、一つは「悲願のドームでの内藤勝利によるデハポン締めを潰したこと」もう一つは「NEVER無差別級王座戦で敗北しているのに乱入という事実上の挑戦表明をしたこと」です。

前者に関してはせめて1.6に乱入してればという声も多く、その場合は批判こそあれどこれほどまでに炎上しなかったでしょう。デハポン締めを潰すということは、すなわち試合の余韻を消すと同義であり、ひいてはダブルタイトルの価値にまで関わってきます。つまりはそれを覆すほどの格やバリューがKENTAにあるのか?といった所でしょうかね。そのインパクト重視のやり口がWWE的であり、新日はエンタメ路線になったと非難する方々がSNS上で多数見受けられました。

後者に関しては、IWGP含む各種シングルタイトルへの挑戦は、事前の試合での勝利者に限られるという暗黙の了解があります。これは実際はルールでもなんでも無いのですが、そう考えているファンは意外と多く、そうした順序を守らないKENTAのやり口か許せないという声も多いようです。誤解しないように書きますが、王座挑戦に関して本来は上記のようなルールや暗黙の了解というものはありません。これはWWEを見ていれば分かることなのですが、NEVERやインターコンチといった大関クラスのベルトの陥落は、最高位の王座へのステップアップとして捉えるのが基本的なならわしなのですよね。しかしこの考えはリマッチやリベンジによる星勘定を重視する日本のスタイルとは若干相性が悪く、今までは陥落後にワンクッション挟む必要があったわけです。今回はその間を置かず、超短期スパンでの乱入=事実上の挑戦表明になったわけなので物議を醸しているわけですね。

結論から書くと、単純な是か非かで言えば間違いなく「非」でしょう。内藤、もといロスインゴファンが怒るのは当然で、その感情は当たり前のものです。からかう気は毛頭なく、怒りは正当な感情でしょう。

ただ、それを踏まえてなお自身の感想を書くならば「非」だからこそ今回の乱入はアリです。というか「非」でなければ成立しないんですよね。本音と建前とでも言いますか、プロレスというのは難儀なもので「客の見たいものを見せる」ことと「客の見たくないものをあえて見せる」という二律背反が容易に両立するジャンルなのです。前提条件として、KENTAは「ヒール」です。「ヒール」というのは悪役であり、悪役が序列や順番を気にするというのはおかしな話です。また他者に気を遣う必要もなく、場の空気を読む必要もありません。そしてその結果、ファンから嫌われるのも当たり前のことなのです。ある程度プロレス歴が長くなると、乱入や反則を含めたヒールの所作を「普通のこと」として受け入れてしまい、どうしても「俯瞰」で見てしまうことが多くなるんですよね。その結果、ファンをヒートさせることが少なくなってきて、ヒールに対するブーイングにも愛が篭るようになってきます。そんな中で本来の悪役としてのヒールを貫くのは非常に難しく「悪」を証明することは困難になるわけです。

KENTAが凄いのは、挑戦表明に関する暗黙のルールをあえて逆手にとって横紙破りをすることで、自身を絶対的なヒールとして印象付けた点にあります。大袈裟な書き方をするならある種のタブーに踏み込んだとも言えますし、これは新日の歴史として未来永劫残る所業でしょう。1.6で仮にやったとすればそれはお作法としてのヒールに過ぎず、今回のようなインパクトはありませんでした。KENTAにとってみればまさにここしか無かったわけです。

この乱入劇にはいくつかポイントがあり、一つは今回のメインはダブルタイトルマッチだったことです。これは事前の1.4の試合結果を含めた4人による「現新日で最もタイトルに近い選手」による序列争いであったため、その枠の外にいるKENTAの乱入はまさに想定外として機能したことです。ミステリ的な言い方をするならば、NEVER王座戦での陥落はミスリードであり、次期挑戦者を探すファンの視線は完全にKENTAから外れたため、影のように虎視眈々と機会を窺うことができたわけですね。ここには非常にリアリティを感じます。

二つ目はKENTA自身の悪評にあります。昨年のG-1で鳴り物入りで参戦しましたが、その期待感とは裏腹に新日ファンの評価は芳しくありませんでした。受けを極力抑えて攻めの姿勢を崩さない蹴撃スタイルもウケが悪く、当人も今の新日のスタイルに完全にアジャストできなかったため、柴田の肝煎りというエピソードも虚しく完全にソッポを向かれたという経緯があります。また当時のKENTAの評価を難しくしていた要因がNXTでの戦績にあり「向こうで通用しなかったから新日に来た」という冷ややかな視線があったわけですね。端的に言えば「過去は凄かったけど今はそうでもない」という評価であり、それはNXTでの技ミスやらの評判を知っていれば致し方ない評価であったとも言えるわけです。

そんな中、リーグ戦を通じて溜まったヘイトはまさかの柴田への裏切りというセンセーショナルな事件を経て、ヒール転向することでどうにか持ち直しました。悪評をそのまま活かすことでファンのヘイトを溜め、それを「線」として今回の乱入まで繋ぎ続けて爆発させたわけですね。この半年間、話題の中心にいながらも、決して新日には馴染まない「異物」としての存在感を強調し続けたのは何気に凄いことで、下手をすれば埋没している恐れもありました。「嫌われ」の最大瞬間風速ならあのジェイ・ホワイトすら凌駕していましたし、嫌われ続けるというのも並大抵の努力ではできないことなのです。まとめると、以前から嫌われていた下地があったからこその今回の大炎上なわけで、KENTAにしてみれば大きな意趣返しになったことでしょう。

あとポイントとなるのはKENTA自身のヒール適性であり、これは今までの経験をブラッシュアップしたものであると言えるでしょう。元々KENTAは背丈に恵まれず、アンダードッグ効果を利用しながらも、格上の相手にも物怖じせずに特攻を仕掛けていく反骨精神溢れるスタイルが人気を博したというのもあり、その戦う相手が新日という強大な権威にすり替わっただけのことで適性は最初からあったんですよね。またノーマーシー時代のフロントの仲田龍とのシュートめいたやり取りや客弄り、NXTでのRespect meなど、今までの経験が存分に活きているわけです。単なる話題作りで昨日今日ヒールになったわけではないんですよね。とはいえ、ノーマーシー時代はヒールとは言いながらもアンチヒーローめいた人気がありましたし、NXTでのヒールはそもそもあまり目立ちませんでした。今回のヒールはそれらの反省点を踏まえたversion1.3のヒール像で、完成形であり進化形なのです。プロレス界の最先端に躍り出たと言っても過言ではないかもしれません。ノアに戻らず新日参戦した時はあとがなかったわけですが、KENTAは賭けに勝ったのです。

■内藤との舌戦について

KENTAの最大の特徴として、SNS全盛期に完全適応した、反発するアンチや対戦相手への煽り芸があります。SNSでの因縁や小競り合いをするレスラーは今までにもいたのですが、ここまでTwitterに適応できたレスラーを僕は他に知りません。単なるクソリプ晒しだけでなく、長文によるお気持ち表明スクショなど、あまりにも手馴れ過ぎていて、それはもはやアルファツイッタラーのそれでしょう。リングネームとはいえ、実名アカウントの有名レスラーがこれをやるあたりにKENTAの面白さがあります。

対する内藤も負けじと試合後コメントやサイトで反論を重ねて両者の舌戦は激化していったわけですが、双方のファンを含めたこのヒリヒリ感はたまりませんよね。ただ、現時点では話題性も含めてKENTAの独壇場のようにも感じてしまいますね。内藤が不甲斐ないというより、KENTAのムーブは挑戦者としては理想的というだけの話です。話題を作り、客を煽り、それを全て受け止めて王者が立ちはだかる。なので現時点での勝敗は個人的にはあまり気にしておらず、むしろ内藤ヤバくね?と思わせてこれだけ話題を作っただけでも抗争としては大成功でしょう。

KENTA側のスタンスとしてはダブルタイトル挑戦を口にしたものの、ベルトにさほど興味がある風でもなく「内藤哲也を堪能したい」と言っています。KENTAにしてみれば格も順序も間違ってることは先刻承知の上で、あえて反論するところを作って暴挙に及んだわけですから、内藤側の反論は恐らくあらかた予測できていると思うんですよね。

対する内藤のスタンスとしては、今のキャラクターを維持しながらの余裕綽綽の泰然自若で、KENTAのことを「三枚は落ちる」と言い放ち、自身の方が格上であることを崩していません。スタンスとしては守りに入ってると言わざるを得ないのですが、迎え撃つ王者としてはすこぶる正しく「格下」相手に攻めに転じてしまうと前述の発言と矛盾が生じてしまいます。

内藤が上手いなと思ったのは、KENTAとは戦うけれどダブルタイトルを賭けるか否かは団体側の判断に委ねたことで、これは中々にズルいですよねwロスインゴファンの支持率は依然として高いままではあるのですが、やはり以前の制御不能と違って丸くなったという声も多く、それに対する自分は変わらないことへの目配せだとも邪推してしまいます。ダブルチャンピオンという頂点=いわば権威の象徴になっても反権威という個人的なスタンスは崩さずに貫く意志の表れでしょう。「大人」としてKENTAへの称賛は送りつつも、暴挙は許さず、ファンの声の代弁者として語り続ける。この立場が吉と出るか凶と出るかはまだ判断のつかない部分ではあります。

そんな中、KENTAが仕掛けた口撃の一つに、内藤の「一歩踏み出す勇気」に対しての真っ向反論がありますよね。詳細はKENTAのアカウントを追ってもらうとして、これは中々に手厳しい言葉です。「お前は団体側に守られている」というのは核心をついた言葉だとも思いますが、オカダならともかく、反権威である内藤に言うのもややズレてる印象を受けます。この言葉は額面通り受け取るより「反権威を気取ってるわりに会社の犬じゃねえか」という皮肉として捉えるのが正解かもしれません。内藤も「会社、潰れかけてたぜ」と返すも「なら尚更大事にするだろ」と返す刀で切られたわけで、この辺りはやや内藤が不利ではあります。とはいえ、内藤がKENTAの偉業を褒めたというのはKENTA側も少しカチンときたのか、そこだけは結構熱くなって反論してますし、それこそ「トランキーロ」になるでしょう。意外と内藤もしたたかなものです。

実際のところ、KENTAの指摘した矛盾点こそが内藤の最大の弱点でもあり、ロスインゴファン以外に苦言を呈されてる部分でもあるんですよね。本当に反権威の制御不能ならば本来はKENTAのようなやり方を好むはずで、団体側の設定した格や順序にこだわるというのはかなり権威的な発言で矛盾が生まれるわけです。結局のところ価値観の破壊より既存への迎合を選んだのは少し残念な点でもあり、喩えるならば校則にやたらうるさいヤンキーみたいなもので、そこにノレないファンは意外といるでしょう。ただ、反権威こそがヤンキーというのも時代の古い話であり、実際問題今のヤンキーって体制側というか、文化祭とかに参加しない奴を同調圧力でいじめるような奴なんですよね。そういう意味では矛盾こそあれど内藤のスタンスってかなりリアルなんですよ。ファンの声の代弁者というポピュリズムでありながら、完全に内藤一色というわけでもないあたりで瑕疵が生まれているだけで、個人的にはそれでもいいのではないかと思っているわけです。矛盾とジェラシーを抱いたねじ曲がった優等生、というのは個人的にはかなり好感が持てます。他の人の内藤イメージとは違うかもしれませんが……。

内藤のキャラクター自体、オカダ一強と団体の優遇に対する鬱屈で生まれたようなものなので、いざ自分がその立場に立った時には軌道修正しなければいけない発言なのですよね。その点では、デハポン締めを乱入で邪魔することで団体側に冷遇されているという印象をファンに与えたのは絶妙であるとも言えますね。

当初、そうしたKENTAの振る舞いを見て僕は「信者を作らないやり方」として絶賛しましたが、今のKENTAはクソリプ晒し芸でかなりの支持率を獲得しており、見立ては完全に外れてしまいました。あれがあれだけウケたのも今の露悪的な風潮とマッチしたというのもあり、クソリプファンに眉を潜めながらも実のところみんな楽しみにしてるんじゃないか?wと日本の未来に危機感を抱かずにはいられません。冗談はさておき、実際内藤が今の立場に上り詰めたキャラクターすら簒奪しようとしているのでは思ってしまいますね。そうなると、内藤にとっては今までで一番の難敵でしょう。下手すれば支持率が逆転する恐れもありますし、1.5ドームのバッドエンドを超えるハッピーエンドを提示しつつ、完勝するのは中々に骨の折れる仕事だと思います。裏を返せば二冠を抱く者に相応しい難題であるとも言えるでしょう。

KENTAのほうにも問題点が無いわけでもなく、内藤の言った「三枚は落ちる」はその通りで、平たく言えばKENTAには新日での「実績」がありません。NEVER王者ではあったのですが、IWGPとインターコンチというタイトルに挑戦するには「格」が足りないのは明白であり、かつてGHCヘビーを巻いた男にNEVERを実績としてカウントするのも過小評価に過ぎるでしょう。KENTAのキャリアや今までの実績から求められているものはいまだクリアできているとは言い難く、端的に言えばまだ結果を残していないんですよね。乱入劇もSNS煽り芸も、言ってしまえば「パフォーマンス」であり、乗っていて言うのもなんですが話題先行の域は出ていないのです。だからこそKENTAはあぐらをかかず今でも必死なわけですし、その闘争心と野心を燃やし続ける姿に惹かれるというのもあるのです。

KENTAにとってはキャリアに相応しい大一番であり、失敗は許されません。内藤にとっては、抱いてしまった二冠と、今までの内藤のスタンスではいられない、本当の「主人公」として振る舞う必要があります。内藤vsKENTAはゾクゾクする反面、単なる勧善懲悪ではない、互いの存在理由をかけた大勝負でもあるんですよね。トランキーロじゃいられませんよ。このテンション、二人の死闘までしっかり維持していきたいと思います。

長々と書き連ねましたが今日はここまで。久しぶりの長文を読んでくださってどうもありがとうございました。内藤ファンもKENTAファンも、この大一番を楽しみに、そしてプロレス自体を楽しんでいきましょう!

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