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2022.8.7 新日本プロレスSTRONG SPIRITS Presents G1 CLIMAX 32 DAY13 試合雑感

◼️ 第5試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Cブロック公式戦
アーロン・ヘナーレ vs "キング・オブ・ダークネス"EVIL

EVILの悪の方程式に呑まれた結果となりましたが、ヘナーレはかなり成長しましたね。対EVIL相手にベビーによりすぎることなく、武闘派らしさを出して一対多数で抗っていたのがよかったです。レフェリー誤爆で詰め寄るシーンでは、コミカルと怖さをいい塩梅で出せていましたね。レフェリーが選手に手を出すのは個人的には大嫌いなのであまり評価はしたくはないのですが、その効能は会場のどよめきがもう答えみたいなものでしょう。

ハイライトは椅子を低めのボディブローで迎撃したシーンで、対椅子ではこれ一番の対抗策かもしれませんね。そしてアルティマで足をバタつかせるディック東郷をそのまま追放。これもコミカルではありますが、アルティマの意外な応用性を見た感じです。しかしながら最後は椅子を投げつけて、そのままEVILでヘナーレ撃沈。払う軸足が浮いていたのがやや引っ掛かりがありますが、椅子でのフラつきでのプラマイゼロという印象で、ダークネスな幕引き。中ボスとしてのEVILの格はまだまだ揺らがないなという印象です。

◼️ 第6試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Aブロック公式戦
トム・ローラー vs バッドラック・ファレ

トム・ローラー、会場人気こそあれど真価がいまいち伝わらず、レスラーとしての評価に困る人は多いのかもしれませんね。まあそれも無理もない話で、トム・ローラーのG-1リーグ戦は色んな意味で「相手が悪い」の一語に尽きます。負けた相手は勝てるはずもなくといった感じですし、勝った相手は勝った相手で大金星!とはいまいちならず、ガッチリ噛み合ってスイングする相手に恵まれなかったのは不幸な印象があります。まだリーグ戦は終わってないので断定はできませんが、これほどブロック分けで明暗が分かれた選手もいないでしょう。

しかしながらこのシリーズを通じて徐々に巨漢狩りを会得していくという成長要素は興味深く、最後はNKOTBを突き刺して勝利。勝ち星さえあれば一応は次に繋がるわけで、やはり天王山はオカダ戦でしょうかね。プロレスは一試合で評価を覆すことが可能なジャンルであり、トム・ローラーが悪いというよりまだ誰も本当のトム・ローラーを知らないだけなので(ストロング見ろよ)これからも注目ではありますかね。

◼️ 第7試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Dブロック公式戦
ジュース・ロビンソン vs エル・ファンタズモ

公式戦を丸々一試合使ったスキットでしたね。ここまで振り切られると試合としての評価はできないのですが、馴染んでいるようで浮いている印象もあるジュースを、コミカルあり、デンジャラスありというバレクラ劇場に巻き込んだのは一定の価値があるのかもしれません。見所はジュースのお行儀のよくない日本語シリーズと、ノータッチで飛び乗る宇宙人トペコンですかね。この技自体、ひょっとしたらこの試合が初という人も多いのかもしれません。私事で恐縮なのですが、友人がファイプロでこの技を見た際「人間にこんなことができるわけがない(=再現不可能のゲームのオリジナル技だろう)」と言ってまるで信じてくれなかったのを思い出しますwこの試合を見せる理由が一つできましたかね。

試合はファンタズモの反則負けというコミカルであり不穏な結末へ。この容易に答えの出ない謎かけと妙な後味がある意味バレクラらしくて振り切った試合だなと思いました。

◼️ 第8試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Bブロック公式戦
石井智宏 vs チェーズ・オーエンズ

セミファイナルというシチュエーションのせいか、かなり白熱した試合となりました。オーエンズは他の外国人メンバーほど人気というわけでもなく、地味で埋没しがちではあるのですが、その実力は折り紙付きかつ、最高の仕事人の一人です。タイガー服部も「トップに持っていける」と評したほどの職人肌かつクラシカルなオーエンズの攻めは非常に面白く、石井の軸足を逆に払う形でダメージを与えたのは他に類を見ないオリジナリティがありましたね。公式戦で猛威を振るった鉄柵やコーナーへの回転エビもクラシック&デンジャラスという「怖さ」があり、こういう部分をもっとフルに見せられる機会に恵まれて欲しいですね。

オールラウンダーな石井との相性も良いのですが、目を見張ったのは石井のテンポの早さにしっかり順応してたことで、何よりも試合全体を通してオーエンズの立ち上がりが抜群に早かったんですよね。最後はCトリガーから説得力抜群のパッケージパイルドライバーで石井相手に金星。

オーエンズのCトリガーは良かれ悪しかれといった感じで、クラシカルなオーエンズのプロレスに足りなかった躍動感や疾走感を補う意味ではベストマッチな技でありつつも、本来のクラシカルなスタイルとは若干合わない技であり、また今回は石井戦というのもあってか後半はジェネリック・ケニー みたいな印象がどうしても出てきてしまいました。バレクラの系譜という文脈はありつつも、当のオーエンズのキャラとしての薄さもあって返って技に喰われている印象もあるなと。なまじこれのあるのと無いのとでは試合のクオリティがだいぶ変わるだけに、ここら辺は本当に難しいですね。しかしながら身体をもっと引き締めて、キャラや方向性をもう少し研ぎ澄ませれば一気にトップ外国人選手になるだけのポテンシャルは間違いなくある選手なんですよ。オーエンズの飛躍に今後も期待したいですね。

◼️ 第9試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Aブロック公式戦
オカダ・カズチカ vs ジョナ

今大会のベストバウトです。コブを粉砕して勢いに乗るジョナが中央を陣取り、その周囲を偵察飛行のように回るオカダで幕を開けた一戦ですが、両者ともにデカいながらも細身のオカダと比較するとジョナは横幅の太さ含めて「厚み」が全然違うんですよね。これを活かすポジショニングをやったことでまず両者に拍手を送りたいなと。

前哨戦を通してのボディスラム予告は投げられるか否かという焦点が定まる分かりやすい動線ですね。オカダも巨漢レスラーの一角であり非力というわけではないのですが、重さという純然たる差はどうしようもなく、階級差というリアリティがあります。ジュニアではなく、立派なヘビー級のオカダが相手だからこそ、より人外に等しいスーパーヘビー級のジョナが際立つわけで、牛若と弁慶のマッチアップというわけではないんですよ。オカダ自身、体格×トップスピード×相手の力の逆利用という掛け算による「理合」の巨人であるわけで、それがどうジョナを切り崩すかにまず注目が集まりました。

しかしながらオカダの攻撃のほとんどはジョナに通じず、全てジョナの肉弾の壁の前に弾き返されます。元々わりと受けるタイプではありつつも、ジョナが規格外かつオカダもデカいせいか、受けるシーンの一つ一つが驚くほどにダイナミックでした。

予告通り、オカダはボディスラムを何度か仕掛けますが、投げられるか否か?というのは結果論に過ぎず、その本質はジョナが受けたダメージ値の分かりやすい視覚化というほうが正しいんですよね。加えてボディスラムという基本技をチェンジオブペースに置いて一つの指標として大技化させることで、後の技のグレードを一段階上げたわけです。肝心のボディスラムはというと、一度目は動じず、二度目は片足が浮き上がる感じで、上手く段階を踏みつつ、三度目の正直でボディスラムチャレンジを成功させるわけですが、そのきっかけがオカダの代名詞でもあるドロップキックの直後という「合わせ」が本当に上手いですね。崩しから投げに入るという至極当然な方程式を解に導きつつ、両方ともにシンプルかつベーシックな技というのがたまりません。

しかしながら、このシンプルさは同時にジョナにも効果的に作用するわけでして、場外含めたDDTで脳を揺らされ、オカダ渾身のこれまた珍しい投げっぱなしジャーマンという大技を喰らいながらも、最後はミサイルキックを切って捨てての投げ捨てパワーボムことブラックフォレストボム。続けざまにもう一発。最後はダメ押しのトーピードで文字通りの圧殺。シンプルながら一撃必殺であり、さしものオカダもこの一発で轟沈しました。ジョナ、まさに怪物ですね。そうそう簡単に負けないオカダだからこそ、その首には一攫千金の価値があるわけで、負けた相手の価値がさらに上がるのは一つの理想形ではありますね。

振り返って思えば、この試合のポイントは「キャッチーさ」にあったと思います。最初から最後まで一貫して試合そのものが非常にわかりやすく、何の予備知識もない初心者が見てもこの試合の凄さは伝わるでしょう。幻想に必要なのは万人の共通認識であり、徹底的に削ぎ落として共通の感想を狙ったこうした試合は素晴らしいものだと思います。

オカダからすると手痛い失速ではありますが、個人的には対ジョナという極上のカードが単発で終わらずに続く気配を見せてくれただけで万々歳ですね。もっと見たくないですか?このカード。レインメーカーがクリーンヒットしたとしても果たして倒せるのか……。それほどまでに絶望的な質量の差があるわけですが、この試合でもちょくちょく抜いて苦しめてきたマネークリップが、ここにきて光るかもしれませんね。あとは一度も放っていないツームストン……。シンプルに見えて次戦への伏線と期待感は張り巡らされているわけです。「巨人の大巨漢狩り」第二章に期待します!





いやあ……大阪二連戦は流石の高カロリーでしたね。長いようで短かったG-1もいよいよ終盤戦に突入です。このまま最後まで走り切っていきましょう。ではでは。