2021.10.13 G1 CLIMAX 31 15日目 試合雑感

◼️ 第3試合『G1 CLIMAX 31』Aブロック公式戦
石井智宏 vs 高橋裕二郎

この二人のマッチアップはいつ見ても手が合いますね。NEVER6人タッグの前哨戦での石井の言葉は辛辣で、それに対するリベンジマッチという意味合いでも面白い試合でした。格が低いからこそ因縁は復讐となり、このG1で躍進したからこそ、そのリベンジにちゃんとした説得力が生まれる。シンプルながら力強い導線であり、それが石井のリング上で語る「ゴタクの要らなさ」と非常に噛み合っていたわけです。

コーナーへ叩きつける危険なコーナーパワーボムに、石井の得意技である掟破りの垂直落下式ブレーンバスター、さらにピンプジュースと裕二郎はフルコースで攻め立てますが、フィニッシャーであるBIG JUICEは惜しくも決まらず。最後は強烈なラリアットからの垂直落下式ブレーンバスターで石井が勝利をもぎ取りました。終わってみれば順当ながらも裕二郎の奮戦は色濃く残りましたし、こういう試合ができるなら大丈夫でしょう。

◼️ 第4試合『G1 CLIMAX 31』Aブロック公式戦
KENTA vs タンガ・ロア

悪の同門対決ながら互いにクリーンファイト……と見せかけてのKENTAのスカしは面白かったですね。ロアもトータルファイターらしく応戦しますが、WWEで培ったKENTAの振り幅の広さは素晴らしく、竹刀を奪ってのハッスルぶりは本当に生き生きしてて良かったです。レフェリーを誤認させてからの反則狙いは日本でやるには少々バタ臭いムーブなのですが、それを邪道へのミスディレクションに使い、そのまま竹刀でフルスイングを狙うあたり、中々のキレ者だと思います。それをしっかりローブローで返すロアも悪の面目躍如といった感じでしょうか。

しかしながら最後はコーナーに激突させてのスクールボーイ。ライ・チート・スティールでKENTA勝利。こういう勝ち方を定着させつつも「手段の選ばなさ」として機能しているあたりがいいですね。ひょっとしたら中邑ヒールターン時のローブローに対して、俺が同じヒールならこれを使うという対抗意識もあるのでしょうかね。KENTAはその技一つとっても当人の思想や反骨心が見え隠れするのが良いのです。

◼️ 第5試合『G1 CLIMAX 31』Aブロック公式戦
矢野通 vs ザック・セイバーJr
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矢野は勝ち星を重ねている推し選手と当たるときはそのファイトスタイルもあってか一気にヒールとして見ちゃいますね(笑)それはともかくとして、試合自体はいつもの矢野ワールドではあるのですが、ザック当人は至って冷静でした。対する矢野もザック相手にまさかの腕ひしぎを狙うなど、かつての総合参戦をほんの少しだけ彷彿とさせる攻防を見せましたが、ザックが手錠を使って矢野と「接続」したことで、コミカルな試合が一気にデスマッチめいた雰囲気に。最後は手錠で捉えた腕ごと腕ひしぎで極めて危なげなく矢野戦をクリア。いやはや、いつもの矢野の試合でありながら、今回は少しハラハラしましたね。

◼️ 第6試合『G1 CLIMAX 31』Aブロック公式戦
鷹木信悟 vs グレート-O-カーン

現IWGP世界ヘビー級王者とのマッチアップでありながら、オーカーンの後ろ手にした堂々とした佇まいはまさに大器の片鱗です。そして向かい合ってあらためて伝わるオーカーンのガタイのデカさ。これはもう財産ですよ。対する鷹木も脇腹の負傷を感じさせないド迫力ファイトであり、顔色ひとつ変えずセントーンを放つあたりはプロ意識を感じました。

鷹木との逆水平の撃ち合いもサマになっていて、関節技だけでなく打撃も含めての"武芸百般"ぶりは中々のものです。しかしながら鷹木も張り合いでは負けず、オーカーンに呼応するように放った掟破りのモンゴリアンチョップは掟破りと思えないほどにクオリティが高くてびっくりしましたね。モンゴリアン、簡単なようでいて難しく、特にフォームの美しさという意味では合格点に値するレスラーは少ないのですが、鷹木のそれは持ち技かと錯覚するほどに見事な一撃でした。当人のイメージにも合っていますし、普通に通常技に組み込んでもいいのでは?と思ってしまいましたね。

試合がより白熱したのは、平伏す鷹木をオーカーンが強制的に靴舐めの刑をさせて「拍手!」と煽ったシーンで、このときにちゃんと握力の強いクロー用の右手で押さえつけていたのは芸が細かいですね。ここで怒気を発する鷹木もまた素晴らしく、殺気と怒気はまた違うものです。ここでの怒気は見て分かるぐらいに燃え盛っており、こうした新日の正統血脈の殺気とはまた違った空気感を醸し出せるのもまた鷹木の面白さの一つなのですよね。オーカーンをコーナーに追い込んでのベイダーハンマーの迫力も良かったのですが、負けじとオーカーンも額を突き合わせてのエルボー合戦へ。胸を叩いて「来てみろオラ!」とオーカーンが煽れば「そうこなくっちゃなオーカーン!」と叫んで鷹木も呼応。しかし不意の地獄突きで制すると、振り抜くエルボーで打ち勝ったのはオーカーンでした。この試合、手技のバリエーションが多くて面白いですね。

この試合のハイライトはこのG1で格が一段上に上がったオーカーンの大空スバル式羊殺し。今回はここから抱え上げてのシュミット式バックブリーカーで鷹木の痛めている脇腹に追い討ちをかけると、そのままジャイアント・バックブリーカー気味に固める荒技を披露。いやはや、この技、単なるネタ技かと思いきや意外と応用が効きますね。そこからさらに抱え上げてのアバランシュホールド。オーカーンはこうしたシンプルかつクラシカルな技を愛用しており、格闘技方面だけではなく古典的なプロレス技が好きなあたりも好感が持てます。しかし鷹木も百戦錬磨で、エリミネーターを飛びつき腕ひしぎで切り返すと、そのままアームブリーカーへ。オーカーンの王統流二段蹴りをキャッチし、反撃の腕もクラッチするとそのままMADE IN JAPANへ。鷹木のこの技の入りのバリエーションの奥深さはいいですね。ラストオブザドラゴンより高度と威力が低いぶん、技の応用力で勝るという位置付けが非常に巧みで、形勢逆転としてぴったりの技ですね。

そして試合は佳境に入ります。鷹木のナックルを正拳突きで返すオーカーン。さらにパンピングを先に走り込むことでラリアットで打ち勝つオーカーン。この辺りの打撃戦で上回ろうとする野心は素晴らしいものがあります。鷹木もオーカーンのタックルをカチ上げエルボーで迎撃しましたが、これは初めて見るパターンですね。中邑vs高山や中邑vsイグナショフでよく見たタックルカウンターなのですが、相変わらずえげつない……。しかしアイアンクロー+スリーパーという実にプロレスらしい技で追い縋るオーカーン。しかしながら終盤戦でギアが上がるのが鷹木で、投げっぱなしのドラゴン、側頭部へのスライディングD、そしてド迫力のパンピングボンバーからのラストオブザドラゴンで激闘に終止符を打ちました。

いやはや……ザック戦と並んでオーカーンのベストマッチでしょう。擬似王座戦といっても差し支えない内容で、オーカーンの試合ってリズムのせいかテンポのせいか、はたまた本人の技のチョイスや風貌のせいなのか、なぜだかゼロ年代あたりのひと昔前のプロレスの試合を見ているような気にさせられるんですよね。懐かしい……とはまた違うのですが、明らかに最先端の風景とは少し異なる印象があり、だからこそ早急にIWGP世界ヘビー級王座戦線に食い込んで欲しいですね。それぐらいのポテンシャルは十分に兼ね備えていると、そう思わせただけで単なる星勘定以上の価値はあると思います。

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