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2022.7.30 新日本プロレスSTRONG SPIRITS Presents G1 CLIMAX 32 DAY8 試合雑感

◼️ 第6試合 30分1本勝負 
「G1 CLIMAX 32」Dブロック公式戦
デビッド・フィンレー vs 鷹木信悟

ジュース戦を終えて一皮剥けた感じのあるフィンレーではありますが、やはり「緩急」でいえば鷹木のほうが上であり、また観客への印象の付け方も鷹木に軍配が上がります。フィンレーの当面の課題はここでしょうね。しかしながらそれは観客の周知の問題も多分にあるため、馴染みさえすれば特に瑕疵にはならないでしょう。

エプロンへの叩きつけからスムーズな場外DDTへの移行。天龍ばりのパワーボムから間を置かずに仕掛けるSTFなど、この辺のシームレスな動きは鷹木は流石といったところです。対するフィンレーもMADE IN JAPAN切り返しのバックブリーカーやスライディングパンピングボンバーを切り返しての押さえ込みなど、切り返しの速度が恐ろしく速く、カウンターまでのセットアップに淀みが一切ないんですよね。これは傑物の香りがあり、やはり当人の努力は当然としても、血統による才能の輝きを感じてしまいます。Prima NoctaからACID DROPのコンボなども変にバタついておらず、バックブリーカーと合わせて相手の脊髄破壊というエグさで統一されているのがいいですね。

鷹木のパワーは凄まじく、轢き殺すかのようなパンピングボンバーとタメにタメてのMADE IN JAPANは、フィンレーの格も相まってこれで終わるのでは……という雰囲気があってヒヤリとしました。

ダメ押しに鷹木はロープを利用しての鷹木式GTRを仕掛けようとしましたが、くるりとすり抜けてリング内に跳ぶスプリングボード式のPrima Nocta、そこからカウンターのサムソンクラッチで鷹木を押さえ込んで値千金の勝利。大金星かつ大番狂わせではありますが、星調整で落とした印象はまるでなく、圧倒的格上に対し、切り返しのセンスの良さというストロングポイントの一点突破で勝ったのがとてもよかったです。それは小さな刃物のようなか細いものでありながら、その煌めきはとても眩しく、フィンレーの可能性を感じるものではありました。

◼️ 第7試合 30分1本勝負 
「G1 CLIMAX 32」Aブロック公式戦
ジョナ vs トム・ローラー

まず何よりも空気感が素晴らしかったです。配信で見てることに違和感のある試合だったというか、場末のレンタルショップでたまたま借りた画質のあまりよくない輸入版のビデオテープで見ているような感じがあったというか……。テイストはそこまで古めかしい試合でもないのですが、90年代の強豪「ガイジン」同士のマニアックな試合のような雰囲気があったんですよね。

脱いだデニムを投げつけてのドロップキックという奇襲を仕掛けますが、ジョナにはほとんどノーダメージであり、蹴りは捕らえられ、ベイダーハンマー一発で昏倒します。一撃の重さは圧倒的にジョナのほうが上であり、リング外半周のサッカーボールキックなどの盛り上がりはありましたが、二発目はリングインするほどのショルダータックルで吹き飛ばされ、リフトホイップからそのまま放り投げられます。

トム・ローラーもやられっぱなしというわけではなく、大型選手崩しのセオリーに則り、足殺しを仕掛けます。股下をくぐり抜けての逆片エビ固めから、一気に極めにいったヒールホールド。惜しくもロープ間際であり、プロレスという格闘技の難しさが出てくるわけですが、背中合わせからのフライングニールキック、ジグザグめいた飛びついての河津落としなどでカバーにいきますが、体格差は如何ともし難く、キックアウトだけで吹っ飛ばされてしまいます。

果敢にもトム・ローラーは打撃戦を挑みますが、形成不利と見るやいなや、相手の腕をハンマーロックで極めてのエルボー。ここで手拍子に誘うあたりもアメリカンな印象があり、そこから延髄斬りでストロングな香りを足すなど、トム・ローラーの試合は型があるようでないような、無形の強さがあって本当に面白いですね。

裏関節を踏んでのヘッドロックドライバーは不発に終わり、そこで交通事故のようなジョナの真正面からのベイダータックル。至ってシンプルな技でありつつも、まさに肉弾戦車という感じでこれほど説得力のある技もそうはないですよね。

そこからジョナは雪崩式を狙いますが、ここはトム・ローラーが必死の抵抗。先ほど攻めた膝裏の裏関節にヘッドバットを挟むと、足を持って抱え上げて叩きつけます。その後に藤田和之ばりの脳天への膝蹴りを叩き込むと、走り込んで正面からのサッカーボールキック。こうした総合格闘技でのワンシーンを上手くプロレスに落とし込むのがトム・ローラーの魅力ですね。

しかしながらやはりパワーと体格の差はどうしようもなく……。コーナーを駆け上がってのフロントネックロックも持ち上げられ、トップロープに腹部を打ち付ける変則的なF5に、ベイダーのビッグクランチやノートンの超竜ボムを彷彿とさせるブラックフォレストボム。そしてトップロープからのダイビングボディプレス、トーピードで文字通りの圧殺。これは流石に返せませんよね。ベイダーやノートンといった新日のパワーファイターの系譜に新たに刻み込まれたジョナという脅威。ようやく一勝といった感じですが、そのポテンシャルを存分に感じる一勝となりました。トム・ローラーはこれで2敗目と、どうしようもない「階級差」に苦しめられていますが、ここから先にまだコブとファレ戦と苦戦必死になりそうです。しかしながら、テーマが明確だからこそリーグ戦ならではの進化に期待してしまう……。トム・ローラーはまだまだこんなものじゃないですよ。ややチャレンジマッチになりそうな懸念もありますが、トム・ローラーはそんなポジションで終わる選手ではありません。一勝がどんな試合になるか。めちゃくちゃ楽しみですね。

◼️ 第8試合 30分1本勝負 
「G1 CLIMAX 32」Bブロック公式戦
SANADA vs グレート-O-カーン

序盤から繰り広げられたレスリング対決。5分をゆうに超える濃厚さであり、地力を探り合うこの攻防はまさにストロングスタイルという感じですね。オーカーンのこうした仕掛けはマニアに対する目配せのような印象もあって、スパイスとしての不穏さを求める面倒臭いオタクとしてはガワだけだろ!とやや反発したくなる気持ちがなくもないのですが、オーカーン自身の実力は本物であり、アマレスをやらせたら天下一品ですね。これにしっかり応じていくSANADAも素晴らしく、オカダ内藤以後を支える新日の正統血脈としての香りを感じてしまいました。

とはいえやはりこの勝負ではオーカーンに一日の長があるなというのが正直な感想で、バックボーンを活かしたアマレス式のアンクルホールドにはついつい腰を浮かしてしまいました。その後のアキレス腱固めも道場マッチの雰囲気があり、こうした形で新日幻想の再演をやるあたりオーカーンもニクいですね。

このまま試合が終わってもいいかなと思いましたが、ストンピングを一発挟んでのコーナーに振ったあたりで切り替えたのが分かりましたね。ここからSANADAのプランチャで一気にいつもの空気を取り戻します。

攻防の中、オーカーンが不意に仕掛けたストマッククローのアクセントがよかったです。コーナーへの顔面叩きつけの連発からリフトしての一撃。重みのあるモンゴリアンと一気呵成に攻め立てます。対するSANADAは倒れながらの偶発的な金的という、グレーゾーンの攻撃。これ、対ヒール限定の技かと思いきやそういうわけでもないようで。クリーンなイメージのあるSANADAだからこそ、こうした「汚し」が浮いて見えるわけで、澄んだスープにひと匙混ぜたSANADAなりの不穏さですかね。ブリッジしないオコーナーブリッジことバックロールクラッチホールド。実況はノーブリッジと言いますが、僕は原型の呼び方のほうが好きですね。返されるとローリングエルボー、さらに走り込んでのローリングエルボーと、SANADAのファイトスタイルの中でも貴重な打撃技でオーカーンを攻めると、TKOからのラウンディングボディプレスを仕掛けますが、これは不発に終わります。

先ほどの金的もグレーゾーンでしたが、オーカーンの弁髪を掴むのもSANADAにしては珍しいラフさで、怒気や対抗心の表出という見方もありますが、感情表現というより既存のファイトスタイルと比較しての違和感のほうが先立ちましたかね。こうしたささいな「違和」はこれはこれで謎かけみたいな感じもありますが……。オーカーンも大空スバル式羊殺しからのアイクローというラフで応じつつ、SANADAの古傷を攻めていきます。今回の試合でちょいちょい混じるラフは綺麗な試合になりすぎないような「逸脱感」がありますが、オーカーンもSANADAも極めて頭がいいだけに、それでもコントロール感が出てしまうのは惜しまれる部分です。逸脱は意図的にはできないもので、それこそこの二人クラスの選手になると相当振り切らないと難しいのかもしれません。ただそうした小難しいことを考えずとも、今の両者の格が似通った立場であるからこそ、バチバチに対抗心があり、手段を一々選んでられないというのも理解できる話ではありますかね。

SANADAもローリングソバットを抜きますが、オーカーンはレフェリーブラインドからの正拳突き。ちょいちょい混じったラフの要点がまるで星座のようにつながりましたね。そこから対SANADA限定技と言ってもいいオーカーンのムーンサルトプレス。流石にこれでやられるわけにはいかず、SANADAも必死にキックアウト。虎の子のエリミネーターは躱されて、ポップアップ式のTKO。そして本家本元のラウンディングボディプレスでSANADAが勝利。オーカーン、ここで連敗はかなり厳しいですね。とはいえセミファイナルらしい語りがいのある好勝負だったと思います。

◼️ 第9試合 30分1本勝負 
「G1 CLIMAX 32」Cブロック公式戦
棚橋弘至 vs ザック・セイバーJr.

オールドスクールな試合を愛する棚橋にとってザックとの一戦は自身の好きなタイプの試合でありながらも、相性としては最悪の一語に尽き、救済が地獄への道筋になっているというのはとても心臓に悪いですね。満身創痍で戦える相手ではなく、またピンポイントで弱点を攻められる一番の難敵でもあります。

序盤は徹底したリスト・コントロールで棚橋は何度も膝を屈します。こうしたザックの手技はやはり素晴らしく、手首一つで棚橋をキリキリ舞いさせて「落日の象徴」として扱うのはザックにしかできないことですよ。技で押されるのは力で押されるより精神にクるもので、上手く動かない機械を無理やりフル稼働させているような、そんな哀愁さえ感じました。

日が沈みかけた棚橋ではありますが、活路を見出したのは同じく「太陽」の名を冠す技の太陽ブローであり、深めのボディブローでザックの腹を抉ることで的確にダメージを入れてきましたね。棚橋へのバッシングが最も苛烈だった2006年にボクシングWBA世界スーパーフライ級王者だった名城信男の支持のもと会得した技であり、当時は決め技にもペースチェンジにもならない地味なボディブローとして失笑の憂き目にあった技ではあるのですが、打撃のコンビネーションに混ぜる形で地道に使い続けたそれが打開の一手になるというのは感慨深いものがあります。ここ、地味に棚橋が老獪だなと思ったのは、効果的なボディブローで執拗に攻めることで、後のザックの攻めを腕に誘導した部分であり、腕を敢えて差し出すことで一番のウィークポイントである膝への攻撃をさりげなく散らしたことですかね。

対するザックもお株を奪うロープ越しのドラゴンスクリュー、棚橋を悶絶させるとロープブレイクを無視しての腕ひしぎで棚橋を苦しめます。ザックの残酷さが際立つのはやはり棚橋相手が一番でしょう。ロープブレイクに応じないだけで若干ヒールテイストになるのが面白いですよね。脇固め、アンクルホールド、STF、脇固め、ゆりかもめと流れるようにサブミッションを極めていき、棚橋を地獄に誘っていきます。

棚橋vsザックの名シーンでもあるコブラケンケンはややコミカルで個人的にはあまり好きではないのですが、そこからの反撃のドラゴンスクリューは良かったですね。そこからまた太陽ブローにサンセットフリップと重みのある一撃で取り返します。低空ドロップキックで膝を着かせて再度の低空ドロップキックは足をスカされ、そのままザックの腕ひしぎ。首を洗濯バサミのように挟んで一気に腕固めを仕掛けますが、ここは棚橋がギリギリでロープで命拾い。いや、本当にいつ極まってもおかしくないだけにヒヤヒヤしちゃいますね……。

ここからのフルネルソンの仕掛けあいは本当に素晴らしかったですよ。是非一時停止を繰り返して確認することをオススメします。ザックのフルネルソン、クラッチを切ってザックの左腕と肩を押さえて動きを制しながら、背後に回って今度は棚橋のフルネルソン。フルネルソンの状態から足を高く上げ、膝裏の下から両腕を回して輪を作り、そこから足を一気に踏み抜くことでフルネルソンのクラッチを切るテクニックがあるのですが、ザックの仕掛けたそれを即座にダルマ式で切り返す棚橋。それを堪えたザックが棚橋の股下をくぐり抜けて背後に回り、棚橋の膝裏を自身の膝で押し上げることで崩してのスリーパー。ここ、本来なら押し潰してフォールを仕掛けたかったようにも思いますが、棚橋の膝の踏ん張りが効かなかったようにも見えて、思い通りに動かない身体のことを思って言葉を失ってしまいましたね……。暴れる棚橋をコントロールしてすかさず腕ひしぎ。そして三角絞め。棚橋はロープに救われましたが「くそー!」と怒鳴りながらマットを殴打……。ここが一番胸に来るものがありました。決して万全ではないコンディション。想像通りについていかない身体への苛立ち。技術の攻防で上をいかれたことによる敗北感。もし棚橋の身体が全盛期だったならもっと互角に渡り合えたはずなのにと思わずにいられないだけに、目頭が熱くなってしまいましたね。

ここから勝負は後半戦に突入します。ザックは立ち上がるときにはほぼ必ずといっていいぐらい相手のリストをクラッチしており、有利なポジションからスタートしてるのがいいですよね。ザックは徹底して左腕を折らんばかりの勢いで攻めますが、サッカーボールキックは棚橋に掴まれて、ドラスクと見せかけて軸足への低空ドロップキック。走り込んだところを詰められて胴絞めフロントネックロックを仕掛けられますが、ここはブレーンバスターの要領で外しつつツイスト&シャウト。棚橋の復活の狼煙としての技ですよね。三発目はスタンディングのフロントネックロックで絞り上げられて、そのまま一撃必殺のザックドライバー!これをギリギリで防ぐと、返す刀で12/6。ほぼみちのくドライバー2ではありましたが、久しぶりに解禁しましたね。

そこからのスリングブレイド。晩年の棚橋のスリングブレイドはかつての軽薄さが嘘のように身体と年月による「重み」を感じますね。そしてそこからのハイフライフロー。やはりこの二つが棚橋を象徴する技の二大巨頭ですね。ハイフライフロー式のボディアタックはそのまま反転してザックのジャパニーズレッグロールクラッチホールドで返されます。このときの場内の悲鳴は凄まじく、ザックの押さえ込みが必殺技として認知されてるのをひしひしと感じましたね。これはギリギリで棚橋がキックアウト。サッカーボールキックをドラゴンスクリューで返しますが、ここはザックが回転させつつするりと抜けて腕ひしぎ!ロープ側でありながら棚橋万事休すかと思いきや、そこから腕ひしぎを押さえ込んでのエビ固め。これ、2008年3月30日、後楽園ホールでの中邑真輔とのIWGP王座戦で見せた中邑の飛びつき腕ひしぎへのカウンターを思い出して涙腺が緩んでしまいました。伊達にその技は何度も喰らってるわけじゃないと。

ザックはこれを返すと同時に、密着体勢であることを活かしてそのまま三角絞めを仕掛けて落としにかかりますが、棚橋はジャックナイフ式の要領でブリッジしてエビ固めで再度ガッチリと押さえ込み、そのまま3カウント。かつてあれだけ押さえ込みを批判された棚橋が、晩年になり円熟を増して再び押さえ込みを使用する……何度も書いていますが、この事実が本当に感動しちゃうんですよね。ザックの腕はロープの下を出ており、ロープブレイクはできたかもしれませんが、切り返されるはずのないサブミッションを切り返されたことによる動揺。加えてザックの顔の上にしっかり棚橋の身体が乗っていて視界を封じており、両肩もしっかり押さえつけられていて、これは返せないだろうなと。この体勢に持ち込まれた時点でもう敗北というか、凄惨な試合から一転して、試合後の両者の晴れやかな顔を見ると、なんだかんだで純然たる技比べだったのかなと思ってしまいました。

まさかの逆転勝利と、試合後のハッピーエンド。この空気感があと何度拝めるのか。優遇されてるだのなんだのと心ない人からは言われますが、されてるならとっくにIWGP世界ヘビーを巻いてますよ。現状だとビッグマッチのメインを任されることはあっても、IWGP世界ヘビーの挑戦権は中々掴めず、エースを証明するために本当に崖っぷちのところで指がかかっている状態で、それができなくなった瞬間、棚橋なら即引退するであろうことがわかってるからこそ、こうして試合が終わるたびに安堵で胸を撫で下ろすのです。まだ目指していいんだと。まだまだやれるのだと。どれだけボロボロでも、万全なコンディションでなくとも、プロレスラーは人に何を見せるのか。奇しくも棚橋が最後に語った「没頭する」という言葉は、雑念に惑わされがちな今の時代を生き抜くための警句かもしれませんね。理性によるセーブをやりがちな大人にとって没頭と衝動は大事ですよ。つまりはバカになれ夢を持て、と(笑)ではでは、オチがついたとこで今日はここまで。今回はとてもいい興行でしたね。