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2022.8.5 新日本プロレスSTRONG SPIRITS Presents G1 CLIMAX 32 DAY11 試合雑感

◼️ 第5試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Dブロック公式戦
ジュース・ロビンソン vs 高橋裕二郎

会場が愛媛ということもあってか地元のSHO登場が噂されていましたが、変に引っ張らずあっさりと出てきましたね。裕二郎がセコンドを伴って入場したことで必然的にこの試合におけるヒール的な立ち位置で先手を打ったというか、ヒール転向に疑義のあるジュースに対してベビー側に追い込むというのは一番の揺さぶりな気もします。ヒールvsヒールの試合でこうしたイニシアチブの取り合いはわりと重要で、純粋にヒールvsヒールの荒れ模様の試合になることもまあ多いのですが、どちらがより「悪」なのかって誰もが気になる所ですものね。

いきなりのナックルでジュースは荒っぽく「解答」するものの、裕二郎がジワジワと沼に引き摺り込む展開に。とはいえパンチは弱く、盛り上がりそうで盛り上がらない展開が続きましたが、最後はBIG JUICEで裕二郎が勝利。恐らくジュースがベビーならもっと盛り上がっていたであろう試合なのは明白で、微妙な緊張感はあれどストーリー性も弱く、またジュースのヒール転向以後、因縁決着戦だったフィンレー戦はともかく、YOSHI-HASHI、そして裕二郎と格下相手への連敗はかなりキツいですね。ヒールで転落していくのも珍しいというか、純粋に格が下がった感じがあるのがもったいない印象がありますね。

◼️ 第6試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Bブロック公式戦
タイチ vs チェーズ・オーエンズ

意外なことにオーエンズが一方的に攻める展開に。攻防の中でサッと足を掬った技術が素晴らしく、事前情報抜きで見たらオーエンズがめちゃくちゃ強い選手に見えたんじゃないでしょうか。セコンドのあべみほとの絡みや、つっぱりを見せて誘っておいてのCトリガーなどの手練手管は中々のもので、地味な印象は抜けきらないですが、ここまで見た中だと個人的には今まででベストなオーエンズでしたね。ただ、Cトリガーを多用するようになってからジュエルハイストがあまり見られなくなった気がして、好きな技だけに少し寂しくはありますね。

途中のバックエルボーはかなり強烈ではありましたが、返礼となったタイチの白鵬エルボー、そしてブラックメフィストによりタイチはかろうじて一敗をキープ。後半は盛り上がりましたし、オーエンズの格さえ上がればもう何段階か上に行けそうな試合な気もします。

◼️ 第7試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Cブロック公式戦
内藤哲也 vs アーロン・ヘナーレ

ヘナーレの構えのせいか、両者の立ち上がりが格ゲーっぽくてちょっと笑ってしまいました。ヘナーレのボディブローはだいぶ周知された印象もあり、G–1での評価もあってか自信がそのまま強さに直結しています。惜しむらくはヘナーレの喧嘩スタイルのストライカーに呼応するシュートスタイルのキッカーがあまりいないことで、たまにはバチバチの打撃戦も見てみたくはありますね。とはいえ、ヘナーレはそうした格闘技の技術はあれど、そちらに寄りすぎない喧嘩ファイトめいた部分が魅力ではあるので難しい所ではあるかもしれませんが……。

内藤は華麗に、そしてスタイリッシュにいなしつつ、ファイトスタイルで差異を見せつつも至ってオーソドックスな試合運びではありましたね。途中のコーナーミサイルはミスがあり、以前の試合でのパイルドライバーでのよろめきややや身体が流れたバレンティアなど、膝に少し不安を抱いてしまいますが、そこを誤魔化さずにすぐに低空ドロキに切り替えたのはよかったですね。

目を見張ったのは殺人ビンタで、内藤もビンタの名手ではあるのですが、打撃偏重のヘナーレに対してここ一番で解禁することで、あの一発で試合の空気感を一気にクライマックスに持っていったのは上手かったですね。それに呼応する形で放ったヘナーレのバックスピンキックはペースチェンジとしての技という印象の強い新日だと異彩を放ってて、しっかり合わせることで技の格が上がっていってる気がします。

そこからのアルティマもボディブローと同じくだいぶ必殺技として定着した感もあり、内藤も一度は強引に反転して切り返すも、技を解かずに絞めあげることで拷問技としての印象がより深まったのはよかったです。あれで終わってもおかしくないと思わせるあたり、技としての格も申し分ない感じになりましたね。

もう一つのメインウェポン、Streets of Rageはデスティーノで綺麗に切り返され、そのまま二発目の正調デスティーノと繋いで内藤が勝利。絵に描いたような逆転劇でありつつも、終わってみれば変に捻らない非常にオーソドックスな好試合かつ、バレンティアを使わずとも勝てるだけの余力も感じる試合運びでした。崖っぷちの内藤がそう簡単に星を落とすとも思えないのである程度は結果の見えた試合ではあったものの、ヘナーレのポテンシャルも存分に引き出した面白い試合だったと思います。

◼️ 第8試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Aブロック公式戦
ジョナ vs ジェフ・コブ

今大会のベストバウトです。体格というのは一つの財産であり、ロックアップ一つだけでリングが揺れるのはまさにモンスター同士の戦いですね。ド迫力の力比べや、ショルダータックルの激突など、シンプルながら見ただけで伝わるその質量。やはりスーパーヘビー級というのはプロレスの大事なコンテンツだと思います。

160キロ近いジョナを放り投げたのも驚きですが、一番はコーナーから跳んだジョナをブレずにしっかりと両の腕でコブが受け止めたシーンで、体幹の強さとパワーが桁外れですよね。こういう誤魔化しの効かない部分こそがリアルだと僕は思うのですよ。

コブが投げ切るか、ジョナが潰すか、という分かりやすい試合の中で、ハイライトはやはり雪崩式のブレーンバスターでしょう。巨漢同士の対決で、しかもトップロープからの一撃は構えに入るだけで悲鳴が上がるのも無理はないかなと。そこから間を置かず、すかさずジョナがトーピードを発射してコブを圧殺。巨漢は空から降るだけで銭が取れますし、これ以上に説得力のあるフィニッシュもそうはないでしょう。コブが負けたのは残念ですが、よりデカく重いほうが勝つというのはシンプルな解答で僕は好きです。このインパクトのあるワンシーンがあるだけで試合としては十分でしたね。

◼️ 第9試合 30分1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』Cブロック公式戦
棚橋弘至 vs "キング・オブ・ダークネス"EVIL

究極のベビーvs至高のヒールと言っても過言ではない光と闇の対決ですね。前述の怪獣バトルの後にヒーローショーを持ってくるのは夏休み感があっていいですね。

一見するとボロボロの棚橋がEVILに凌辱される処刑マッチのような印象も受けますが、対EVIL戦での棚橋は、以前のザック戦のときのような悲壮感に極振りはしておらず、むしろ相手が相手だけにどれだけやり返してもいいという風にタガが外れてるような感じがあります。平気で反則でやり返し、とにかく倍返しで返していく。根底にEVILの嫌われがあり、またカタルシスの薄さが後味の悪さに繋がっていると以前のEVIL評で書きはしたわけですが、そこをちゃんとベビー側からの返答として出してくる棚橋はやっぱり凄いですよね。前回はそこをやり過ぎたせいで、逆にEVILが勝たないと帳尻が合わないぐらいの暴れっぷりだったわけですが、今回は抑えつつも全体的にエンターテインメントかつ明るさに振っていきましたね。

EVILもルールの範囲外の盤外戦術をフル活用して暴れ回りますが、その消費のされ方もだいぶ変わったというか、2020年の悪評を思うとどうしてもコミカルに振れざるを得ず、そこは良かれ悪しかれなんですよね。時代の空気感がBADENDを求めておらず、ヒートではなくヘイトを買ってしまった以上、軌道修正も仕方ないのですが、以前noteにも書いて危惧した通りの「中ボス」感に落ち着いた印象もあり、大ヒールとしての運用は厳しいだろうなと。それだと2020年を丸々生贄に捧げた分の「投資」が回収しきれないのではと要らぬ心配を抱いていたわけですが、今回の試合を見てまた少し印象が変わりました。

EVILは場外戦での反則や介入・乱入といったアトラクション性があり、今の新日だと多種多様な稀代のルールブレイカーとしての役割があります。それが今回のような田舎の地方興行のメインとの相性が抜群であり、変に重厚かつ重苦しい試合よりも、一見さんにも伝わりやすい気楽に見れるB級娯楽大作のようなライトさのほうが空気にマッチしているんですよね。画面で見ても伝わるぐらいに現地は盛り上がっていて、そう考えるとEVILというのはブシロード以降のスタイルの新日が作り上げたキャラクターの中でも、ひょっとしたらオカダ以上の最高傑作なのかもしれません。これが今の新日が考える一つの理想系。目指すべき方向性ではあるのでしょう。それは受け入れる部分もあり、また納得のいかない部分もありで、ここを語れば非常に長くなってしまうので割愛しますが、一番それがわかりやすい試合だったと思います。そしてそれを迎え撃つのがユークス時代の最高傑作である棚橋というのもまた感慨深いもので、この二人を通して新日の変節が知れると言っても過言ではないのかもしれませんね。

テキサスクローバーホールドからのゴングでの勝利偽装はスペシャルなシーンの一つであり、タイミングとしては中盤でのテキサスなので勝利の誤認としてはかなり弱かったものの、騙しよりも特別性のほうでチャラになった感じがあります、裏を返せば、勝負が本当に決まるタイミングだと、また悪い意味での「何でもアリ」感が出てくるので、足をバタつかせて連行されるディック東郷のコミカルシーンと合わせて早々にカードを切ってきましたし、棚橋のテーマ曲が流れたのもシチュエーションとしては凝っていましたね。間違いなく今日現地で見た人はこのシーンを話題にするでしょうし、仕掛けとしては賛否がありつつもまあアリかなと。

そこからのレフェリーダウンやSHOの乱入、新たなレフェリー追加と凄まじい荒れ模様だったわけですが、棚橋はきっちりと「処理」しつつ、EVILのラリアットに合わせる形でスリングブレイドでの倍返し。最後はEVILを切り返す形でのグラウンドコブラツイストで棚橋の逆転勝利。思えばこのG–1は全てハイフライフローではなく押さえ込みで勝っており、その全てが異なる技というのは熱いですよね。

怒り狂うEVILに金的の仕返しをやると、終わってみれば完全無欠のヒーローショー。荒れっぷりや反則の数と比較すると試合全体のトーンは明るく、試合後のマイクで棚橋が言っていた通りの試合。つまりはこれが見せたかったものなんだろうなと一人で腑に落ちておりました。明るく楽しい勧善懲悪。その空気感は同じ四国の片隅に住んでいる僕の元にも、しっかりと届いた気がします。





金土日の興行の、まず最初の一日のレビューが終わりました。いやはや、分かってはいましたが連続更新となるとかなりキツいですね。全戦レビューは本当に修羅の道ですし、同じことをやっている人はもう「戦友」ですよ。決勝戦まで頑張りましょうね。僕も頑張ります。ではでは。今日はここまで。また明日お会いしましょう。