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2022.7.31 新日本プロレスSTRONG SPIRITS Presents G1 CLIMAX 32 DAY9 試合雑感

◼️ 第5試合 30分1本勝負 
「G1 CLIMAX 32」Aブロック公式戦
ランス・アーチャー vs ジェフ・コブ

この二人の対決から想像できるイメージに反して、序盤の立ち上がりが軽やかで驚きました。アーチャーのアームホイップを回転して着地したコブには驚かされましたし、アーチャーの長身がピンと伸びきったドロップキックもよかったですね。アーチャーの躍動ぶりは凄まじく、ヤングライオンを巻き添えにしてのエプロンを走ってのトペコンや、単なるリング内へのホイップでもゴム毬のようにコブがバウンドして弾き出されます。コブもアーチャーのオールドスクールを抱え上げてのアスレチックプレックスや歩きながらのブレーンバスターなどを完璧に決めましたが、やはり全体的なポテンシャルではアーチャーに軍配が上がるかなと。

アーチャーのパワーはコブに引けを取らないどころか、上背を活かしてのハイアングルのチョークスラムはド迫力でこれ一発で試合が終わってもおかしくないだけの威力がありましたね。やはり長身かつ外国人限定の技といえばチョークスラム一択でしょう。万事休すかと思われたコブでしたが、デッドエンドのようなスローモーなジャーマン3連発でアーチャーの巨体を完璧に投げ切ると、強烈なエルボーを挟んでのツアーオブジアイランドでブン回して勝利。試合だけ見ると奮闘はしたもののアーチャーが優勢と言っていい試合ではありますが、一撃の破壊力と説得力さえあれば不思議と完勝な気もしてくるだけに、やはり代名詞技というのは大事ですね。これを決めれば勝てる技があるというのはとても大切なことなのです。

◼️ 第6試合 30分1本勝負 
「G1 CLIMAX 32」Dブロック公式戦
YOSHI-HASHI vs ジュース・ロビンソン

破天荒なヒールであるジュースがいきなりの奇襲。連続しての鉄柵へと振り、抱え上げて柵へとホイップしてYOSHI-HASHIを苦しめます。コスチュームを着たままのYOSHI-HASHIからコスを剥ぎ取ると股下を拭いて放り捨てる悪どさ。リングに戻して観客に見せつけるようにオーソドックスなパイルドライバーで叩きつけると、再び場外へと放り出す。戦いの舞台を執拗にシャッフルすることで空間を広く使いつつ、破天荒なイメージを拡散させます。マットを剥がしての場外パイルはヒヤリとしましたがYOSHI-HASHIもショルダースルーで応戦。まあ決まらないだろうな……と思いきや、抱え上げられたときは声が出ちゃいましたねwしかしYOSHI-HASHIはフランケンシュタイナーで窮地を脱すると同時に、鉄柱にジュースの頭を叩きつけることでどうにか回避しました。

リングに戻ったYOSHI-HASHIは怒気を発しながら逆水平一閃。ジュースの反撃を一切受けずに連続で逆水平をジュースの胸板に打ち込みます。ドス黒く染まり、崩れ落ちても手を緩めずに執拗に逆水平だけで強引にペースを握り返しました。この辺はまるで石井が憑依しているかのような無骨さで、これだけで自分の空気に持って行ったのが凄いです。

やはり警戒すべきはジュースのナックルであり、YOSHI-HASHIもダッキングで躱すものの、何発かはまともに被弾しましたね。特に二発目の左ストレートはまともに入り、ダウンするときの受けっぷりは素晴らしかったです。そしてジュースはナックルの後はパルプフリクションで勝負を決めにかかりますが、スリーパーからのバックスタバーや高速のフルネルソンスープレックスなどで切り返し、YOSHI-HASHIも徹底的に相手の勝ちパターンをマークしていましたね。当然ジュースも都合三度YOSHI-HASHIのカルマを防いでいたわけですが、最後は格が上がりつつあるカチ上げ式のしゃちほこラリアット。そして四度目の正直で決めた正調のカルマでジュースを下しました。YOSHI-HASHIんも試合ってわりと勝ち負けが読みにくいせいか、ついつい手に汗握っちゃうんですよねえ。ジュースのような格上に勝つのは金星ですが、意外と外国人選手相手の勝率の良さもあり、試合内容の良くなったYOSHI-HASHIはかなりの好敵手になるのかもしれません。

◼️ 第7試合 30分1本勝負 
「G1 CLIMAX 32」Bブロック公式戦
ジェイ・ホワイト vs チェーズ・オーエンズ

2万円の賄賂には笑いましたwこう言ってはなんですが、こういう流れのときって日本円だと馴染みがあるせいか変に生々しく、ちょっとダサく映っちゃいますね。ドル紙幣とかなら格好もつきますが、逆に外国人が円安の中で日本円で星をやり取りしてるあたりが妙におかしみを誘うわけで、これはこれで面白いなとw

外国人同士でのこうした試合はオーバーなリアクションに傾きがちではあるものの、チェーズの見せたスタイルズクラッシュはどんな言葉よりも雄弁ですよね。バレクラ2代目リーダーのAJスタイルズの代名詞であり、またオーエンズはケニーの紹介の印象が強いかもですが、加盟時期はAJスタイルズがリーダーのときですので、使う理由は明確に存在します。僕はこれらのリーダーの技はキン肉マンのマッスルスパークのようなものというか、ある種の王位継承権のようなものだと思っていて、オーエンズがこれを見せたのは単なる揺さぶり以上に強烈な自己主張を感じました。バレットクラブは歴史が長く、その都度リーダーが変わっているからこその愛憎劇があるわけで、こうしたストーリー性をユニット内で完結した形で出せるのは新日だとバレットクラブだけですね。

試合は一瞬のブレードランナーでジェイが貫禄勝ち。動揺こそ見せはしたものの、時にヘタレに、時にコミカルに、そして最後は冷徹なマシーンに。こうした千変万化の不安定さこそがジェイの最大の魅力なのかもしれません。シェイクスピアのキャラクターみたいですね。

◼️ 第8試合 30分1本勝負 
「G1 CLIMAX 32」Aブロック公式戦
オカダ・カズチカ vs バッドラック・ファレ

対ファレ戦は大型選手相手に色々と試せるせいか、毎回オカダのテンションはわりと高めですね。今回もボディスラム予告みたいなことをしていましたし、オカダvsファレは名物カードだと思います。

パワーで張り合う展開になるか?と見せかけて、その想像に反して低空ドロキで崩す頭脳プレイを見せるとロープ往復式で加速してのタックルでファレをなぎ倒します。対するファレもオカダの長身を宙に舞わせるド迫力のショルダースルーを見せ、速さと高さで分かりやすく対比させてきましたね。オカダを抱え上げるシンプルなベアハッグに、腰へのエルボーと、オカダの腰を重点的に狙っていきます。

オカダもカニ挟みで崩しつつのスライディングフロントキック、ランニング式のバックエルボーで怯ませてロープの反動を利用してボディスラムチャレンジを成功させます。単純な地力はありつつも、こうした理にかなった動きをオカダは毎回好みますね。新たに追加された「択」の一つであるマネークリップを予想以上にファレに効いており、コーナーの激突で外されるもの巨体のせいか極まり具合が深く、涎を滴らせて苦悶に顔を歪めていましたね。ここは実に怪物らしくていい表情だったと思います。

巨体と体重を逆利用してのリバースネックブリーカーに、ダイビングエルボードロップ、そしてレインメーカーへと繋げますがここはサモアンドロップで迎撃。そして軽く飛んで反動をつける砲弾のようなスピアーに、毒針エルボーと巨体をフルに活かして攻め込みます。

一度目のグラネードはオカダもカウンターのショットガンドロップキックで返し、カウンターのドロップキックからレインメーカーの必勝パターンに繋げますが、ここはサモアンスパイクでファレが迎撃。そしてグラネードで一気に畳みかけます。オカダはギリギリでキックアウト。ファレは奥の手のバッドラックフォールにいこうとしますが、背後に着地したオカダがショルダーネックブリーカー。そこからマネークリップを仕掛け、そのままファレを引きずり込んでクロスフェイス式のマネークリップに移行しタップアウト勝ち。まだこのタイプはレア技の印象がありますし、ほぼチョークでは?と思わなくもないのですが、これはこれで位置付けとしては魔性のスリーパーみたいなものですかね?少し文句があるとしたら、この体勢に移行してからのタップアウトが早いせいか、極まった図が一瞬しかないのはやや勿体無い気もします。とはいえそれだけ深く極まってることの証であり、変に粘るよりはいいのですけれど。マネクリの進化は面白いですね。

◼️ 第9試合 30分1本勝負 
「G1 CLIMAX 32」Cブロック公式戦
内藤哲也 vs "キング・オブ・ダークネス"EVIL

この二人のマッチアップは二冠戦のワーストなイメージが先行しつつも、その中には神宮での花火の幸福なイメージやEVILの出世試合というイメージもあり、近年の中ではかなり濃密な関係性のある顔合わせとも言えるわけです。

いきなりのEVILの奇襲から幕を開けますが、最初に軽く拳を合わせたのがニクいですよね。情緒すら逆手に取る一撃でしたが、これを内藤は軽くいなすとゴングを要求し、シャツ姿のまま場外へ出て鉄柵へのカウンター。この姿のままでの攻撃はレア感がある上に戦闘服ではない私服での戦闘という感じがあって格好いいです(元がフォーマルな服ではあるのですが……)その後に悠々と服を脱ぎ、コスへと変わる姿は余裕綽々といった感じで、その後も椅子を持ち出すEVILに対してロープワークフェイントからのいつもの寝そべりポーズでアピール。ネックロックと見せかけてEVILの髪を引っ張るなど、ややラフな攻めを見せていたのが初期のロスインゴのような荒々しさがあって良かったです。

しかしながらEVILも手練手管で、コーナーを外した金具へ内藤を激突させると、そのまま場外戦へと雪崩れ込み、本部席を崩壊させます。内藤の首に椅子をかけてのホームラン!このときの首をぐるりと回しての被弾は神受けと言っても差し支えなく、これができるのは内藤ぐらいのものですよ。その後に内藤の余裕を奪う形でEVILが寝そべってのポーズをしたのも挑発めいててギラつきを感じさせましたね。ウィークポイントへの膝へのストンピング連打から足へのエルボードロップと極悪さも見せつつ、やはりラフでは一枚上手であることを観客に見せつけます。

内藤も打撃で応戦します。内藤の打撃のテンポは常に三拍子に絞っており、だからこそリズミカルな流れが生まれるわけです。マンハッタンドロップから低空ドロップキックでペースを取り戻すと、アームホイップ、バックエルボー、後頭部への低空ドロップキックとこれまた三拍子での反撃。そして続くコーナーミサイルも同じく串刺しドロップキック、足払い、振り子のようなドロップキックと心地の良いテンポで刻んでいきます。場外戦でも果敢に椅子攻撃を見せ、EVILのお株を奪う掟破りの椅子ホームラン。ジェリコ戦でも見せた一本足打法であり、内藤はかなりノリノリでしたね。

好調な内藤はそのまま雪崩式フランケンを狙うも、ここは足を払われて不発に。再びの場外乱闘で再度巻き込まれるリングアナ。荒れ模様が上塗りされ、EVILの試合特有のアトラクション性が上手い具合に噛み合ってきました。荒れるEVILもペンデュラムバックブリーカーからのダークネスなサソリ固めで内藤を苦しめます。内藤も片足踏み切り式のロケットキックで逆襲し、足掛け状態から放つ単発式のバックブリーカー、そこからエスペランサ狙いも、これはEVILがラリアットで場外へと迎撃。こうして見ると場外戦が段階的にエスカレートしていってますね。テーブル設置は不穏な伏線として機能しつつ、テーブル葬はEVILと東郷を衝突させて回避し、そのままEVILを鉄柵へ。EVIL大回転は派手すぎて笑ってしまいました。まさに拷問の館はアトラクションですよ。これは受けの面でも内藤を喰おうという野心すら感じますし、この受けっぷりの良さはヒールとしては百点満点です。

リングに戻った後の内藤の笑み。これは本当にいい表情をしていました。不敵な感じはそこまでなく、純粋に試合を楽しんでいるような会心の笑みであり、これだけでダーティーかつ荒れ模様な試合の暗雲がぱあっと一気に晴れるかのような、そんな輝きがありましたね、それを潰そうとするサミングの小技もしっかりと防ぎ、バックエルボー3連発。これ、ほぼ確実に決まる反撃不可の攻撃であり、格ゲーやカードゲームなら必ず通る、とりあえず振ることを推奨される技だよな……と毎回余計なことを考えてしまいます(笑)そのまま三連発のバックエルボーをもう一度。引きずり起こした所を不意打ちのEVILが襲いますが、上手く外して3度目のバックエルボー地獄。三回×三連発の三拍子。内藤、やっぱり上手いですよね。このバックエルボーは便利技な反面、どうしても試合の流れが中断してしまう欠点もあるのですが、ここはしっかり先ほどのEVILに呼応する形でコリエンド式のデスティーノという大技を合わせていきます。そこから正調のデスティーノという必勝パターンへと移行しますが、これは外され、内藤もすかさずシャイニング式の延髄でペースを握らせません。そのまま再びデスティーノを狙いますが、これはレフェリー衝突からの金的という逆・勝ちパターンとでもいうべきEVILの術中にハマってしまいました。

いつの間にかエプロンに上がってきていたディック東郷と協力して、エプロンから断崖式のマジックキラーを狙うEVIL。先ほどのテーブルが怪物の口のようにリング下で待っていましたが、ギリギリのタイミングで切り返すと内藤はディック東郷にスタンガン。不用意にリングインしようとしたEVILにはセカンドロープを蹴り上げての金的というラフ&テクニカルな一撃でファンの溜飲を下げます。

そしてここからがこの試合一番のハイライト。EVILをパイルドライバーで抱え上げます。内藤のパイルドライバーは膝の負傷もあってかスマートな内藤にしては非常に危なっかしい技で、エプロンという不安定な場所もあってか一度は崩れましたが、片手でロープを支えつつ、断崖式パイルドライバー敢行!EVILの脳天をテーブルへと突き刺しました。この喰らった直後のEVILの顔は素晴らしかったですね。本当に絵になる男です。

グロッキー状態になったEVILにエスペランサ。これも一回転してまともに脳天が刺さります。そこからアピールをしてのデスティーノを仕掛けますが、突進からのコーナー金具へ激突させてEVILは回避。先ほどのテーブル葬は内藤の背中にもダメージを残しており、これも金具で狙うセンスはたまらないですね。そしてラリアットで内藤を一回転で宙を舞わせると、一撃必殺のEVIL!これはバックエルボーで防ぎ、隠し技の浴びせ蹴り。そこからのフライングフォアアームというスターダスト時代からの二つの技で反撃します。そして再三再四のデスティーノは抱えられますが、密着体勢のままエプロンの東郷を確認するやいなや、ロープを蹴ってのスイング式DDTへと切り替えてディック東郷を蹴落とします。そこから矢継ぎ早にバレンティア、正調デスティーノと畳みかけて内藤激勝!開幕二連敗の憂き目にこそ遭いましたが、不思議とそのトーンは明るく、昨年の欠場の鬱憤を晴らすかのような会心の勝利をモノにしました。止まっていた時計がようやく動き出しましたね。

振り返って見ると、今回のEVIL戦では内藤はほぼグラウンドでの関節技を封印しており、テンポの良い打撃とエクストリームな技で爽快感に極振りしていたように思います。それはさながらジェットコースターのようでいて、今までのEVIL戦と比較して今回が一番スタイリッシュであり、かつ最もエクストリームでしたね。またしてもEVILとは好試合になったなと。対EVILはベビーとしてのカタルシス不足もあって当初はかなり叩かれはしたのですが、適度にラフを交えつつ乗り切っていくという「解答」は素晴らしかったですね。いやはや、内藤は凄いものですよ。メインに相応しい大激闘でした。





今回も面白かったですね。さすがに更新頻度を急に上げたせいかだいぶ書き疲れがありますが、これは書いているのではなくプロレスによって「書かされて」いるのですよ。何を言ってるのか分かりませんね。ではでは、今日はここまで。怒涛の更新にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。また次回。