二冠戦線異常アリ〜飯伏vs内藤のインターコンチネンタル戦について思うこと

飯伏vs内藤のインターコンチネンタル戦、色々と騒がしくなってきましたね。ファンの反応としては個人的な観測範囲だと8:2ぐらいで内藤支持が多く、飯伏は苦しい戦いを強いられています。今回の抗争、所謂イデオロギー闘争の様相を呈してはいるのですが、鷹木vs棚橋の時とは少し違った空気になっていて、端的に言えばちょっとギスギスしていますよね。内藤と飯伏のファン層って微妙に被っていることが多く、内藤以後の飯伏政権がファンの望む方向に行かなかった不満が噴出しているせいかと思われます。今回拗れに拗れたインターコンチネンタル戦をちょっと紐解いていきたいと思います。

◼️飯伏の語るIWGP統一構想について

この問題を語るためには、まず飯伏が統一を持ち出した理由について触れなければいけません。飯伏はIWGPは"最強"インターコンチネンタルは"最高"のベルトと定義した上で、昨年の二冠戦線は変化に乏しく両ベルトの魅力が半減している、というのが飯伏の主張なわけです。これは確かにその通りで、そもそも昨年の段階で二冠を巡る防衛戦は一セットで扱われており、ほぼ一本のベルトに挑戦している状態となんら変わりありませんでした。当初内藤の語った並行防衛プランは行われずじまいで、これはコロナ禍による大幅なスケジュール変更の影響や、同一の選手がIWGPを巻いている中で、敢えてインターコンチネンタルを選ぶ理由の不在など、様々な問題があったわけですが、それを加味しても二冠という意味合いが薄かったことは否めないです。最強ならば頂点は一つで構わないですし、最高はそれを彩ればいい。団体最高峰の王座が同価値で二本あるという現状がおかしいというのは同意しますし、統一してさらに価値を高めたいという飯伏の主張は間違ってはいないのです。

しかしながらこの統一プランはファンの反発を呼ぶものとなってしまいました。元々個別での防衛戦を主張していたファンは多く、またインターコンチネンタルは歴史が浅いとはいえ、あの中邑真輔のイメージが色濃く残る大関クラスのベルトであり、また裏IWGPとしての役割を果たしてきたという歴史があります。加えてインターコンチに対する愛着もそうなのですが、それ以外にも飯伏の語る統一プランには不明瞭な点がいくつかあり、悪戯にファンの不安を煽ってしまったというのもありますね。

僕が気になった点を具体的に挙げると

①統一した場合のIWGP王座の名称
②IWGP王座とインターコンチネンタル王座の履歴
③統一ベルトのデザイン


なのですが、まず①に関してはいまだ不明で、IWGP構想を持ち出したことや飯伏自身の両ベルトへの敬意を考えると、全く新しい名称にするとは考えにくいです。IWGPという名称を残しつつ、インターコンチネンタルが無差別級ということを考えるなら"統一IWGP無差別級王座"みたいな名称になるのでしょうかね。本来、プロレスリング競技者規約に則るなら、IWGPヘビーは体重100kg以下の選手は挑戦できないのですが、近年はこのルールが崩れつつあるのもあって、無差別級との名称になることに個人的に違和感はありません。個人的にはIWGPの名称さえ残るなら統一でも構わないのですが、IWGPヘビー級王座というタイトルにこだわりのあるファンも多く、安易に変えて欲しくないという意見が多いのも分かる気がします。

次に恐らく皆が最も気にしているであろう②に関してなのですが、これは新日本プロレスワールド内の動画で飯伏が明言しましたね。飯伏の考えでは歴史を残したいとのことで、飯伏がIWGP初代統一王者(仮称)というわけではなく、恐らく第○代IWGP王者、第○代インターコンチネンタル王者という形で、並行して履歴は刻まれていくのでしょう。つまりは防衛戦のカウントは現状の二冠に沿う形で、名称のみが変わり、分割不可能になるという形ですかね。③に関しても、物理的に一本にまとめるなら新デザインと語ってはいましたので、ベルトのデザインも変わると思われます。

◼️飯伏の問題点

一番は「振り切り」の弱さだと思います。既設のベルトを統一するという立場上、飯伏が王者としてどれだけベルトに対する愛着を語ろうが、立場的には歴史改変の側であり、逆にIWGPの価値を守ろうと挑む内藤のほうが、変則的であっても伝統的価値観を重んじる歴史を守る側に立つわけで、奇妙な「ねじれ構造」になっているんですよね。二冠の処遇についてばかり語ることが、すでに内藤のフォーマットに乗っかっていることの証左であり、ひたすらシンプルに統一をゴリ押すか、変に日和らず、内藤の挑戦者としての資格を問えばよかったように思います。歴史を守ろうとする内藤に対して、会見で語っていたIWGP構想を持ち出して歴史的な方面へと焦点を当てるのはやや筋が悪く、出すなら出すで元の理念に則り、インターコンチだけでなくUSヘビーも視野に入れた既存の全IWGP統一プランをブチ上げるぐらいの胆力が欲しかったように思います。飯伏の語る展望の先にワクワク感が微塵も無い。それが支持を得られない一番の理由でしょうかね。

もう一つ問題点があるとしたら、内藤のインターコンチ挑戦に納得していない層の取り込み、もとい受け皿に飯伏がなり切れてない点ですね。現時点だとファンはともかく、それ以外の内藤にノレない層は消極的な飯伏支持の立場になりますし、完全に飯伏の側につくと言い切るには飯伏には言霊力が足りません。旧来の破天荒な飯伏幸太像と、エースの後継者という正統派の飯伏像。今の二冠の状態が、そのまま危うい均衡を保っている飯伏の立場を表しているような気がします。恐らくは両方をブレンドさせた未知の世界が飯伏の望む理想像であるとは思うのですが、現状はやや日和見主義かつ腰が座らない印象を受けます。それならばいっそ破天荒に振り切って、履歴に拘らず今までの戦いは"前史"として堂々と統一を提言するか、頂点は一つでいいとばかりに、ファンが拒否しているインターコンチネンタルの封印を打ち出してもいいとは思うのです。インターコンチのイメージの強い中邑は考えからしても恐らく納得するでしょうし、そもそもいまだに中邑イメージが強く、またMr.インターコンチネンタルが現状団体に存在せず、またインターコンチネンタルを強烈に欲する人間がいない現状、そうなっても仕方ないと僕は考えます。ようはファン全員を敵に回すぐらいの胆力を見せてくれるのならば、IWGPの歴史もろとも飯伏と心中してもいいとさえ思っていますよ。

今の飯伏幸太を喩える時、よくゴールデンに移った深夜番組のような言われ方をするのですが、そもそも飯伏幸太の持つポテンシャルは深夜番組で収まるような器ではありません。DDTや新日ですらその存在を飲み込み切れず、文字通りの世界レベルのスーパースターになるだけの素質が飯伏にはあります。だからこそ、いつまでもピーターパンではいられず、内藤と好敵手のままでいたいのも分かるのですが、ここはもう少し腹を括って、敵として立ちはだかる怖い飯伏幸太が見たくはありますね。「社会の敵になること」と語ったのは猪木でしたが、もし飯伏が本気で歴史の継承者になるのであれば、嫌われることを恐れないで欲しいものです。

◼️内藤の挑戦理由について

飯伏のそれと比較すると、内藤の挑戦理由は一筋縄ではいかない難解さに満ちており、端的に言ってかなり歪んでいますよね。内藤はインターコンチネンタルに挑戦を表明しましたが、当のベルトに対する執着心はさほどなく、むしろもう一つのIWGPヘビーの価値を守るために"手段"として取りに行くというスタンスはかなり斬新です。それはNEVERを格下扱いした棚橋の変奏のようでいて、棚橋自身のNEVERのスタンスもかつての内藤の「まずはNEVER」発言のブラッシュアップ版と考えると、奇妙な繋がりを感じますよね。内藤は飯伏より苛烈なIWGP至上主義と言っても過言ではないですし、あくまでベルトの序列に拘りつつ、至高のタイトル=IWGPに不純物を混ぜて欲しくはないのでしょう。もっともインターコンチネンタルの価値を信じていない男が欲することで、逆説的に自分以外の人間がそのベルトの価値を証明しなきゃいけないという仕掛けは中々に興味深いですね。内藤自身、インターコンチを封印したいわけでは無く、防衛期限の間に欲する人間が現れなかったらとのことで、そうしたタイトルマッチに対する異常な拘りからも内藤の特異なバランス感覚が窺えます。

これは以前にも書きましたが、内藤が白眉なのは「言うべきこと」と「敢えて言わないこと」の使い分けが非常に巧みで、行間を読ませる盤外戦術にあります。出された言葉を無限に拡大解釈するプロレスとはまた違った内藤なりの方法論の一つであり、行動理由=即ち動機は示しつつも、肝心のインターコンチを欲する理由は敢えて明かさず、無数にばら撒かれたインタビューの中で、ボソッと「(ICに)思い入れが無いわけではない」と語るツンデレ具合。ファンに想像させる余白を残しつつ、ファンのエンパシーを無限大に煽る共感特化型のプロレスなのです。あえて自身が「問う者」で在り続けることで、グレーゾーンに線引きして欺瞞を徹底的に炙り出す。それでいながら自身が関わることで自分が二冠王者時代にできなかった並行防衛戦を実現させるという形になっており、今回の抗争のイニシアチブは終始内藤が握り続けているように思います。

◼️内藤の問題点

これはシンプルにインターコンチネンタルへの態度でしょうね。内藤にノレない人間はここが気に入らないのではないでしょうか。問い続ける立場である内藤の最大の弱みは、やはり自分が問われる立場であるという自覚の有無にあり、そもそも二冠戦がここまで拗れてややこしくなったのは最初に仕掛けた内藤が一番の原因であることは忘れてはなりません。「団体が内藤の言うことを聞かなかった」とファンは語りますが、それはいくらなんでも責任転嫁が過ぎますし、僕に言わせれば団体に言うことを「聞かせる」のが王者の役割です。インターコンチを奪取した後の未来像も、飯伏の語る統一より不明瞭で「求める人間がいなければ封印も辞さない」というのは後ろ向きに過ぎます。ベルトの価値を上げるのは王者の役目ですし、インターコンチネンタル王者としてどうしたいのか?が現状全く見えてこないです。そもそもインターコンチ最多戴冠回数6回を誇りながら、未だにインターコンチのイメージが中邑が根強いというのはあまり健全とは言えない状態ですよね。欲しい人間が獲りにいき、獲った人間が王者としてのグランドデザインを描く。僕は古い価値観の人間ですので、王座に挑むスタンスは純粋かつシンプルなほうが好きですね。

ただ、これに関しては内藤を擁護する部分もあり、中邑離脱後にインターコンチネンタルについたカラーを打ち消し、方向性を差別化しようと腐心したのは歴代王者で内藤だけです。棚橋になれなかった男と言われた内藤哲也ですが、中邑真輔の路線も拒絶するあたりに内藤の反逆の真骨頂がありますし、Mr.インターコンチネンタルを襲名しなかった意地は素晴らしいと思います。しかしながらそれが内藤のスタンスが狭まった要因でもあり、インターコンチネンタルで独自路線をやろうとする行為そのものが、中邑真輔の路線の踏襲になってしまうんですよね。個人的な見解として問題点を語るなら、いまだに内藤は反発という形で棚橋と中邑の残像を追っている部分があって、そこに共感しつつも何とも言えない寂寥感を覚えることもあるのです。内藤も新日の顔なのですから、あえて二人の土俵に踏み入る資格は十分にありますし、そこから塗り替えてしまってもいいように思うのですよ。しかしそれを良しとせず、徹底的に自分のやり方に拘り続ける。他の誰でもない、内藤哲也であるために。それが内藤の最大の魅力でもあるので、非常に難しいものですね。とはいえ、二人の後を継ぐよりも、その道のりは険しいと思います。

内藤のスタンスに関して、これは以前語った内藤と新日の「共犯関係」の話になるのですが、団体側としては選手の商品価値が落ちるのが一番のマイナスなので、団体が叩かれる分には別に構わないのです。内藤自身もそれを意図的に利用していた部分はありますし、二冠の防衛戦も「受諾はするけど決めるのは団体」という風に押し付けてきた過去があります。団体に反旗を翻しつつ、たまにボヤきながらも独自路線を行く。それが今までの反権威ポジションからスライドさせた内藤独自の王者像であり、また団体側も内藤の態度を許容しつつも、伝統的な勧善懲悪の路線に内藤を縛り付けていましたし、そういう意味では内藤は十分「制御不能」であるとも思うんですよね。制御されていればもう少し団体の望むようなチャンピオン像に擦り合わせができていたでしょう。

人によって賛否はありますが、内藤の王者像って面白いんですよ。体現はしないが隷属もせず、支配もされなければ、敵対もしない。戦う人間の主張にケチはつけつつも、対戦そのものは拒否せず、来るものは全て受け入れて、決して「否定」のスタンスは取らない。ベルトを巻いた団体の王者としてはかなり異色な立ち位置で、それが内藤の考え抜いた末に出てきた王者像なら、賛否はあってもあれはあれで良かったように思います。ノレるかノレないかで言えば、僕は内藤にさほどノレてはいないのですが、それはそれとして内藤哲也のスタンスは非常に興味深く、令和の時代に適合した新しいチャンピオン像だとも思うので、注目していきたいですね。

◼️飯伏防衛後、もしくは内藤奪取後の未来予想図

まず飯伏防衛の場合なのですが、新日の公式Twitterは死ぬほど荒れるでしょうね(笑)それはそれとして、内藤から防衛、即統一とはならないと思います。恐らく次はIWGPに拘りを持つもの=オカダの挑戦が濃厚なように思いますし、IWGP単独での防衛戦になるんじゃないでしょうか。昨年のEVILがオカダ、内藤の2タテで二冠を巻いたことを考えると、飯伏が本当の神になるなら、やはりこの二人は避けては通れないでしょうし、この二人を倒してこそようやく統一構想に現実味が出てくるとは思います。このままAEWとの関係が続くのであれば、そう遠くないうちにケニーとの禁断のIWGP王座戦が組まれるでしょうし、新日所属として成り立った今の飯伏なら、ドームメインも夢ではないです。それが飯伏政権の一つの天王山ではないでしょうかね。

内藤奪取の場合ですが、これははっきり言いますがIWGP王者の価値は地に落ちます。当然、内藤もそのことをチクチクと突っ込むでしょうし、それにイライラするファンも多いことでしょう。これは当然で、かつてオカダとの二冠戦ではインターコンチネンタル王者がIWGP王者に勝つという異例の事態が起きましたし、大方の人間は数年越しのオカダへのリベンジという一大サーガとして見ていたため、あまりそのことは取り沙汰されませんでしたが、本来からあってはならないことなのです。前回は両獲りしたことでそのイメージが薄かったのもありますが、IWGP王者がベルトを巻いたままインターコンチネンタルのフォーマットで負けた場合、当然王者の資質が問われることになるでしょう。その場合、インターコンチネンタルは賭けず、IWGP王座のみをかけた三度目の飯伏vs内藤が組まれる可能性が高く、棚橋vs中邑のインターコンチネンタルを巡る三度の連戦を思い起こさせます。仮にやらないとするならば、このIWGP王者の資質問題に新日がどうケリをつけるのかが非常に気になりますね。

内藤は封印を示唆しながらも、なんだかんだでインターコンチネンタルを防衛し続けると思います。ヒロム欠場がなければヒロム戦は組まれていたと思いますし、恐らくは来年ドームでvsオスプレイ戦があるんじゃないですかね。内藤vsオスプレイは密かに新日が寝かし続けているカードの一つであり、今年の上半期でエンパイアの価値を上げ、後半で本格的な抗争になると思っています。

さて、最後になりましたが、僕は飯伏防衛にベットします。両者の主張、特に内藤の語るIWGPの価値を重んじるのであれば、飯伏はIWGP王者としてインターコンチネンタル戦では絶対に負けられないですよね。逆に言えば、内藤はこれを語らずに飯伏に「揺さぶり」を掛けているわけで、この辺りの硬軟織り交ぜた心理戦は上手いと思います。


いかがだったでしょうか。書きながらTwitterで検索をかけたりして、色んな人のインターコンチネンタル戦についての意見を数多く見たのですが、思った以上にインターコンチネンタルを大切に考えている人が多くて驚きました。自分の中にはあまり無い考えでしたし、こうしたさまざまな意見を見るのがプロレスの面白い所だと思います。またしても長くなってしまいましたが、運命の王座戦、見守っていきましょう。今日はここまで。