2023.4.8 新日本プロレス SAKURA GENESIS 2023 試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。今回の興行はCSというのもあって見れず、感想はワールド配信が始まってからでいいかな……とも思ったのですが、王座戦のみ配信されていたのと、あとでいくらでも追記できるなとも思ったので、取り急ぎメインのIWGP戦のみアップしておこうかなと思い急遽筆を取りました。急遽と言っても2〜3日遅れてしまっているわけですが、やはり鉄は熱いうちに打たねばと。それぐらい今回の王座戦は語りたくなることが多いんですよね。ではでは、さっそく書いていきましょう。

◼️第9試合 60分1本勝負
IWGP世界ヘビー級選手権試合
オカダ・カズチカ vs SANADA

当初、この試合に対する個人的な期待感はかなり低くて、SANADAの初戴冠を望みながらも、生み出された流れにはノレないという非常にアンビバレントな気持ちのまま不安混じりで当日を迎えてしまいました。

スランプに陥った選手が新技を会得し、ユニットを離れてトーナメントで優勝する。プロレス界では普遍的な復活劇であり、本来ならケチをつけるようなものではありません。しかしながら今回の復活劇で戴冠の機運が爆発的に高まったかと言われたらそこまでとは言えず……。こういう場合のノレなさって大抵はスランプ期間の短さやドン底であることを共有できなかったパターンが多く、ドン底=強化フラグとメタ的に捉えられてしまう現状、如何にしてその前段階である惨敗を印象付けるか?そのドン底期間をどのようにファンと共有するかにかかっているわけですが、今回はそういうケースでのミスではないように感じるんですよね。きっかけの一つである征矢戦が対抗戦の中堅戦という位置付けだったというのも多少あるかもしれませんが、それでも成田戦での敗北や師である武藤敬司引退試合での関わりの薄さなどもあったわけで、スポットライトの当たり具合がやや弱かっただけで、その「弱さ」と含めて種蒔き自体はわりとちゃんとできていたように思います。じゃあこの「ノレなさ」の理由はどこにあるのか?それはひとえにSANADAの出した「変化」という言葉にあったように思います。

NJCでのめくるめく快進撃とは裏腹に、ロスインゴ離脱を決めたSANADAの打ち出した「変化」は乏しく、はっきり言えば肩透かしだったんですよ。目新しいのは髪色を黒に戻したことと新技の変形DDTデッドフォールぐらいなもので、スタイルは以前とさほど変わりなく、その程度の変化ならわざわざユニットを変えてまでやるほどのことか?という疑問にすら抱いてしまったわけで、同じことを思った人はわりと多いのではないですかね。また、J5Gというユニット自体がまだ色のない「ただの5人組」であったというのも大きく、他のメンバーもかつての鈴木軍に所属してた頃とイメージが変わらなかったため、せっかくのユニット移動によるキャラクターとしての変化がいまいち作用しなかったというのが理由の一つではあるでしょう。

逆にSANADA個人を好きなファンからすると、彼自身の決断は尊重しつつも、所属したユニットに対して思う所のある人は多く、TAKAみちのくが嫌な人からするとせっかくのSANADAプッシュの前口上も利用されてるようにしか感じず、ノイズでしかないんですよね。SANADAは推せてもユニットは推せない。そんな消極的賛成では変化による熱も生まれにくく、待望のNJC優勝なのにファンとしては不安要素のほうが強かったのではないかと思います。

そんなこんなで迎えた運命の王座戦。変わるとしたらここしかない……そう思いながら固唾を飲んで見守っていたわけですが、それを嘲笑うかのような軽快なギターによる耳馴染みのない入場曲。まずここでガッツポーズしちゃいましたよ。やりやがった!ってね。

新しい入場曲は非常に爽やかかつ、SANADAのイメージカラーであるブルーを基調としているのは共感覚がなくても伝わってきましたよ。ユニットの立ち位置はニュートラルでありつつも、SANADAは根っからのベビーでありエースなんだなと。それを諦めていなかったこと。この時点で実はちょっと感動しちゃいましたね……。その方向性だけは見失わなかったことに個人的には一番安堵の気持ちがあったわけです。

そしてキラキラのブルーのロングガウン!新入場曲に続いて新コスチューム!これだけで前述の変化に対する不満が一気に霧散したというか、ここを外したら後がなかっただけにギリギリ間に合いましたね。あのキラキラ感はリック・フレアーを彷彿とさせますし、僕も古い人間なので入場コスはやはりクラシカルなガウンが一番だと思いますが、それ以上の問題は脱ぎ捨てた後なのですよ。SANADAの新コスチュームはまさかのショートタイツ……いやはや素晴らしい……。最初は蛇の鱗のようなデザインかと思ったのですが、あのメタリックさだとどちらかといえばステンドグラスかダイヤモンドのカットですかね。メタリックかつクラシックでいいデザインです。頭から落とす云々の拘りは捨てたとしても「クラシカル」は一切捨てる気がないどころか、堂々とド真ん中を体現してきたなと。現代プロレスだとショートスパッツかロングタイツのほうがいいという意見が多いと思いますが、鍛え抜かれた大腿部をしっかりと見せられるショートタイツこそプロレスラーの正装ですよ。黒髪ツーブロックと合わせるとかなり男らしく精悍な風貌になっていて、ようやくイメージチェンジが完了しましたね。

対するオカダの入場。いやあ……こっちも相変わらず息を呑むほどに素晴らしいものです。これはTwitterに書いたことの焼き直しになりますが、オカダの猪木模倣って当人のキャラクターやスタイルにまるで合わないせいか全然ハマってはいないんですよね。しかしながら猪木の「畏れ」を纏うようになってからオカダの色気と殺気が以前とは段違いに「香る」ようになったのも事実で、レインメーカー猪"鬼"モデルとでもいうべき脅威の落とし込みぶりなのですよ。これは猪木に対して鬱屈や屈託がなく、純粋に憧れを抱ける距離感にいたからこそできることで、だからこそ継承者にはなりえないなと個人的には思うわけですが、逆に距離があるからこそ過度に実像やイメージに引きずられることなく、完璧に模倣ができるわけです。模倣というのは他に言葉が思いつかないので便宜上そう呼んでるだけの話に過ぎないのですが、誤解しないで欲しいのは単なるモノマネやパロディに留まっていないことが凄いわけで、これはレインメーカーがちゃんとキャラクターとして確立しているからこそできることであると同時に「キャラクター」としての猪木の再解釈を既存のイメージに囚われることなく広げたことが素晴らしいわけなのですよ。猪木を絶対神とする人からするとこの振る舞いは納得できないかもしれませんが、そういう人たちは単に猪木の再臨を望んでるわけで、オカダのアレは面影を追っているわけではないんですよね。レインメーカーのキャラとしっかり融和させて蘇らせてるわけなのですから。祭りにおいて神をかたどるような感じというか、現代風に言うなら猪木のコラボアバターを纏う感じといえばわかりやすいかもしれませんね。いずれにせよ、猪木モデルのレインメーカーはそれぐらいキャラクターとしての完成度は群を抜いており、清宮戦を通してその怖さに拍車がかかったなとさえ感じます。やはり神を降ろすための生贄には若い子の生き血が必要なんですよ(笑)どちらかといえば猪木というよりグレート巽が近い気はしますけどね(笑)

キャラクター性は互いに申し分なく、王座戦の空気の醸成としては上々でした。さて、もう一つの不安要素は試合内容だったわけですが、SANADAのコンディションは抜群に良かったですね。まず最初に目を見張ったのはSANADAの「間」であり、四冠王小島聡の時に近しい間の取り方が頭をよぎりました。全日育ちであることをどことなく感じたとでもいいましょうか。そしてオカダの首に落としたエルボーの一発一発もいつもより重く、使う技こそ変わっていないものの、こうした部分で変化を出してきたのは嬉しい誤算ですね。

SANADAが口にした「変化」は潜在的にSANADAのスタイルへの不満を炙り出したとも思っていて、敢えてロスインゴというカテゴライズを取っ払うことによって自身の本当の価値というものを可視化したかったのかもしれません。SANADAには好勝負こそあれどパッと思いつく名勝負と言われたら答えに窮する感じで、それこそオカダにとってのオスプレイ戦やケニー戦、内藤にとってのケニー戦や飯伏戦など、その選手のファンでなくとも「ああ、あの試合ね」となるような通りのいいメルクマールとなるような試合ってないんですよね。この試合はそれとなるか否かの分水嶺であり、絶対に外すわけにはいかなかったわけなのですよ。

ここでSANADAの選んだ選択は、今まで培ってきたものを出すというシンプルな解答でありながら、変わっていないように見えて変わっているという非常に難度の高いことを成し遂げたわけで、変わったことをやってないのに異質に見えるのって超一流の証なわけですよ。端的にいえば見せ方を変えただけではあるのですが、新技!新ムーブ!というガワの変化にばかりやる側も見る側も囚われがちな中で、ここに注目したのは素晴らしいことですよね。それが一番大事なことなのですから。これでようやくトップレスラーのいる領域に足を踏み入れつつあるなと思いました。

どっしりとした重厚感のある展開をやりながらも、要所要所のSANADAの動きはキレッキレで、特にショルダーブロックを被弾したときの受け身の速度や、コーナーに振られたときの速度がとにかく素早く、たっぷり取った間に反比例して動きはとにかく切り詰めていましたね。この辺りの緩急はやはり師である武藤敬司を彷彿とさせます。才能は一級品でありながら弟子としては落第生というコンプレックスの果てに見た大人としての折り合いですね。単なる四天王オマージュよりよほど実感した全日の血脈と、武藤ゼンニッポンかつ武藤塾一期生であるという経歴を示す動き。王座戦の試合の中にSANADAこと真田聖也のヒストリーが詰まっているのです。

以前までのSANADAが端正かつスマートなスポーツカーならば、J5GのSANADAは精悍なオフロードの荒地仕様であり、ハードヒットや大技連発というわけではなく、一つ一つの技の気迫が違いました。特に実感したのはこの試合で再三に渡ってオカダを苦しめたスカルエンドであり、SANADAの技セットの中ではやや格落ち感こそ否めませんし、前哨戦でのオカダ失神は以前の抗争の焼き直し感があって個人的にはあまりノレなかったのですが、この試合のスカルエンドは今まで見た中でもベスト・スカルエンドでしたね。

特に攻防のキーとなったオカダのオカダドライバーを抱え上げられながら逆手で絞り上げた姿はシンプルながらとても理に適っていましたし、風貌のパワフルさもあって説得力抜群でした。そしてこの仕掛けられているときのオカダの表情がまた素晴らしく、ぶっちゃけた話、試合における表現力では圧倒的にオカダが上ではあるのですが、こうしたエモーショナルな苦痛はスカルエンドの説得力に華を添えたと思います。進化したツームストンであるオカダドライバー(仮)も、元を辿ればSANADAのスカルエンドのしつこさから半ば偶発的に生まれた技であり、時を経てそのオカダドライバーを再び蛇の如き執拗なスカルエンドで切り返すのはまさにウロボロスの蛇のようで、円環が閉じ大河ドラマとして完結したような、そんな趣さえ感じさせました。

オカダも負けてはおらず、ショートレンジのラリアットの使い方が今回はとても上手かったですね。手首を捉えたまま相手の周囲を回りつつ体勢を崩すいつもの流れもさることながら、捉えたまま離さない姿が鉄拳制裁前の猪木に酷似していたというか、所作に猪木を紛れ込ませるのが上手いなあと……。あと叩きつけた後に離さずそのまま密着して絞めつけたマネクリなどもまた前述のスカルエンドと同じく理に適っており、SANADAのスカルエンドとのいい対比になっていたと思います。

しかしながら、この試合に関してはオカダはややいつものパターンにズレがありましたね。オカダの戦術は定型化されて周知されているからこそ、その仕掛けやタイミングをほんの少しズラすだけで違和を生じさせることができるわけです。言葉悪く言えば負けフラグのようでもありますが、対清宮戦などはその仕掛けの早さで相手は作戦の修正を余儀なくされたわけで、パターンが決まっているからこそ戦術でも作品としても「ハズし」が機能するわけなのです。

そんな中、SANADAの放った掟破りのレインメーカーはアイディアとして目新しさはないものの、以前のSANADAらしいテクニカルな一撃ではあり、またSANADAらしくないラリアットという技もあって他の選手が使う以上に掟破り感があったのはいいと思います。オカダも何度か開脚式や旋回式のドライバーで肉薄しますが、前述のスカルエンドでオカダを崩れ落ちさせて、片膝立ちにしたところで新たな勝ちパターンの一つであるシャイニングウィザード!これはモロに入りました。

SANADAのシャイニングウィザード。やはり系譜である説得力は強いんですよ。オカダの入場の時の項目で書きましたが、個人的に系譜であることの条件の一つって、師や先達に対して何らかの鬱屈や屈託があることで、平たく言えば上の世代に対してのコンプレックス=重みを知ることが受け継ぐことの重さを知ることだと思います。だからこそ僕はオカダは猪木になり得ないと思いますし、それと同じくどれだけ丁寧に教わろうとも清宮は武藤の系譜とは思えないんですよね。

ただ、清宮好きとして前言撤回するならば、単純なシャイニングウィザードのクオリティとしては清宮のほうが現段階では圧倒的に上です。それはやはり正当な伝承をされたからというのもありますが、見てわかるぐらいにフォームに差があるんですよ。ジャンピングニーと並行して使う物珍しさも含めてスタンディング式のシャイニングは本家顔負けではありますし、清宮のシャイニングは全体的にべらぼうに完成度が高い上に、色々言われてるフィニッシャーの変形シャイニングウィザードも、原型である真正面からの膝と、正調の振り抜き式のハイブリッドで、膝を横殴りで当てることによるアンバランスさを頭をクローで捉えて支えにすることで補うという説得力を出しているのは素晴らしいんですよ。間合いとテンポはほぼ完コピに近いですしね。それにしても、清宮が武藤の弟子としての実感が湧いてくるのって、今ではなく恐らくは10年後20年後……「武藤さん、見ていますか」と壮年の末期に差し掛かって在りし日の青春を思い返したそのときこそ、武藤との日々は輝きを増すのだと思いますよ。……すみません、妄想で話が脱線しました(笑)

話を戻しますと、そう考えるとSANADAのシャイニングウィザードはまだ未完成でありつつも、試合の中で一撃しか使わないという拘りっぷりで、技として大切にする宣言であると同時に、師匠のシャイニング乱発に対する明確なアンチテーゼでもあるのでしょう。とはいえ、武藤はシャイニングの乱れ打ちで試合そのもののリズムを作るわけなので一概に批判はできないんですけどね。しかしながら、この練度の低さを器用さで補ってるあたり、使えばいいのにと言われつつ長らく避けていたことのリアルさが如実に現れているように感じます。教わるのではなく見て盗む。これもまたプロレス技の奥深さであると同時に、武藤とSANADAの関係を思うと何とも味わい深いではないですか。こういう継承もありだと僕は思います。

そして最後は猛威を振るった変形DDTことデッドフォール。名付けてもらったにしてはそんなに目新しい名前ではないなと思いはしますが、それでもSANADAの技セットの中で浮いている印象は感じず、すんなりと「馴染み」ましたね。レインメーカーを切り返しての一撃でフォールを奪い、念願のIWGP世界ヘビー級王者SANADAが爆誕しました。ショートタイツにしたのもあってベルト姿が映えますね。ちょうどコスチュームが隠れて履いてないように見えると言われていますが、ベルトを履いているんですよ!だからいいのです。あと余談ですが、黒髪にしたことでサングラスと合わせて記者会見のときの貫禄が増したというか、試合前の王者の風格があり、試合後のベルト姿が似合うのってビジュアル面での大勝利感がありますね。色々言われはしますが、終わりよければ全てよしで、今回の戴冠劇は素晴らしかったと思いますよ。

試合後に現れたのはまさかのヒロム。褒めはしたもののSANADA政権はわりと課題は山積みであり、キャラクターが変わってもまだ発信力に難はありますしストーリーも紡げそうな相手が少ないんですよね。征矢との因縁はありますしリベンジ戦は個人的にはめちゃくちゃ見たいですが、新日ファンに刺さるかと言われたら少し微妙というか……。当分はヒロムや鷹木、そして内藤との旧ロスインゴメンバーを使ってのストーリーラインになりますかね。vs内藤戦は見たいですが、せっかく風景が変わったので真新しい未知の相手とのシングル王座戦が見たいですかね。

総括するなら、今回は変化がキーとなりましたが、その受け取り方は様々です。今回の試合も超がつくほどの名勝負、というほどではないにせよ、いくつかの諸要件はクリアしており、初戴冠の試合としては及第点以上であると思います。厳しいことを書くなら本来こうした試合はもう少し若いキャリアのときに終わらせておくべきだとは思いますが、そうすんなりと物事が進まないのが人生というもので、30も半ば過ぎた男の「自分探し」の難しさというのは近い年齢というのもあって、なぜか胸に沁みるものがありました。

「人生は配られたカードで勝負するしかない」とはピーナッツことスヌーピーの名言ではあるのですが、ある一定の年齢を過ぎるとカードの補充自体が行われず、今まで得たカードがどんな絵柄なのか?どんな役ができるのかに注意を払わなければいけません。全部捨てて心機一転、というのは憧れとしては理解しつつも、必要なものまで捨ててしまっては話にならないわけで、たとえジョーカーを抱えていようともどこかで切らなくては勝負は始まらないわけです。今回のSANADAは変わった部分もあり、変わらなかった部分もありで、その配分に関しては各々思う所はあるでしょう。しかしながら配られた手札の中では最高のプレイだったと、この試合を見て僕はそう思いました。

意地悪な言い方になりますが、王者になったことで今まで水面下で言われていたような不満は批判はより苛烈になると思いますし、試合内容が悪ければ今までと違って容赦なく叩かれると思います。ただ、とりあえずそれなりの立場を与えてみてから決める新日のやり方に僕は賛成ですし、SANADA政権、まずはお手並み拝見といこうじゃありませんか。本来のスペックならとっくに団体トップになっててもおかしくない逸材ではあるわけで、どうにはその才能が花開いたことに、今はただただ安堵の気持ちでいっぱいです。チャンピオンSANADA、楽しみにしていますよ。





一試合だけなのに脱線したり余計な話をしたりでまたしても長くなってしまいました……すみません。毎回毎回こんな長ったらしい文にお付き合いいただきありがとうございます。さてさて、書くこと全部書いたのでこれからの新日も楽しみにしていきましょう。ではではこの辺で。