KOPWについて現時点で思うこと

オカダの提唱した新たなタイトル『KOPW』が様々なところで波紋を広げています。個人的にこの試みには賛成であり、ワクワクする反面、実際に運用されている所を見ないことには問題点含め判断できない部分も多く、現時点で語るのは少し難しいようにも思います。とはいえ、第一印象と実際に見た時の自身の感想の違いを語るのもプロレスの面白い所であり、来週には始まってしまうとのことなので、今の段階でKOPWに感じることや、賛否を含む反応についての考察をつらつら述べていきたいと思います。

・KOPWの第一印象と賛否について

KOPWはファン投票で決める特殊ルールの試合形式のタイトル戦ということで、当初はかなりバラエティ性のある印象を受けました。ここでいうバラエティ性とは、所謂ゲーム性であったりエンタメ性であったりと、色んな言葉で取って代わられるファンの共通概念のようなものですが、他のファンの人たちも恐らく概ね僕と同じような印象を受けたと思います。現存するベルトとは明らかに違う価値観のタイトルかつ、かなり異色な位置付けのタイトルということもあって、オカダの言う賛否両論とは、ここにあるのではないだろうかと思ってしまいました。

否の部分について憶測混じりで語るなら、特殊ルールを前面に押し出したというのもあり、介入・反則無しのシングルマッチを尊ぶ人はいまいちノレないのかもしれません。加えて特殊ルールの試合形式といっても、ある程度長くプロレスを見てる人間なら提案されるであろうルールに感じる新規性は薄く、大体予想の範囲内に収まるルールばかりになるという可能性もあります。ルール面での想像の広がりがない以上、想像を超えるか否かは実際に始まって見てみるまでは分からず、加えて、選手間の因縁やストーリーよりも、特殊ルールのほうにハンドリングされる部分が大きく、ファンの期待も投票システムでルール面に意識が集中してしまうため、現時点で微妙に感じるのはルールが先行されてしまうタイトル特有の性質にあるのではないかと思います。

ただ逆に、特殊ルールの試合形式が大好きな人間からすると、提案含めてワクワク感が止まらず、ストーリーの流れに沿いつつ、それに応じた特殊ルールの試合で分かりやすい帰結点が生まれるというのは非常に幅があるように感じますし、普通の試合では削ぎ落とされたり、見ることのできなかった部分が特殊ルールで炙り出される可能性があるのでめちゃくちゃ楽しみになっちゃうんですよね。ストーリー、選手、ファン投票によって試合そのものがリアルタイムでデザインされていくというのはかなり面白い試みであると個人的には思います。

あと批判的に捉えられがちな理由としては「ベルトが無い」という点と「年代わり」で王者が決まるという点でしょうか。これは新設である以上仕方のない話なのですが、平たく言えばKOPWには「箔」を感じにくく、IWGPと距離を置くと提唱者であるオカダが名言してる以上、参加選手は必然的にIWGPのメインストリームに関わらないことと同義になってしまいます。これはオカダ自身にも言えることで、そうした部分で残念に感じるファンもいるのではないでしょうか?あと年末のトロフィー授与がありますが、それをそこまでの生き残りをかけたサバイバル戦と捉えるのか、年末という大一番のゴールに向かっての参加選手全員のマラソンと捉えるかで随分印象が変わると思います。権利証のドームメインやNJCの王座挑戦権のような分かりやすい次に繋がる副賞がなく、KOPWの価値基準をどこに置けばいいのか掴みかねている人は多いんじゃないでしょうかね。王者決定戦が4wayというのもピンとこない要因かもしれないですね。ひょっとしたらここに何か「仕掛け」があるかもしれませんが。年代わりの部分に関しては、TCGで言うところのスタン落ちみたいなサイクルとして自分は捉えていますし、タイトル戦線に絡む人間の顔触れが変わらないという批判を回避できそうなので、わりと斬新な案だとも思うんですよね。問題は、防衛戦で年間通じてKOPWのイメージを作ってきた選手でも、最後の防衛戦に負ければ評価されないというのは色んな意味でリスキーですし、ポッと出で挑戦するには相当厳しいことになるので、挑戦者側もかなり難易度は高いですよね。ここはG-1の権利証が中々奪取できないことに似た難しさを感じますが、ルールを弄ったり流れ次第でどうにでもなる部分だと思います。最初の4wayさえ終わればそこからは王者への包囲網がスタートするので、ストップ・ザ・○○みたいな感じで挑戦者がクローズアップされるなら、最後の最後で奪取することの印象もだいぶ変わるでしょう。

・KOPWの特殊性について

KOPWはバラエティ性の強いイメージに見せかけて存外怖い部分もあり、それは選手の提示したルールがファン投票によって決まるというシステム面そのものにあります。選手個人のアイディアに試合形式を一任するということを「可視化」するのは思った以上に大きく、投票数はダイレクトにその試合に対するファンの興味や関心を数値化してしまいます。提案する試合形式のセンスはそのまま参加選手のプロレスセンスが反映されますし、センスという曖昧な評価基準がルールによってより明確にクローズアップされるため、他の現行タイトルとはまた違った厳しい戦いが待っていると思います。

余談ですが、KOPWの特殊ルールに関してDDTと比較する声も多いのですが、個人的な雑感としてはDDTの先見性と開拓者精神は素晴らしいと思う反面、これはDDTもわりと厳しいんじゃないかと思います。と、いうのも最メジャーの団体にこういうDDTのやりそうなことをやられちゃうと、たとえ後発だろうが否応なしにDDTは比較される立場になりますし、唯一性がなくなって先行者であるというアドバンテージしか残らなくなります。新日のダブルタイトルの二番煎じと言われてもダブルタイトルマッチを敢行し、ベストバウトを叩き出すことで、間接的にセンセーショナルさをとった新日への釘差しと価値観の侵略に成功したNOAHのような例もあるので、二番煎じとは言えない怖さがあるんですよね。最メジャーが真っ当にやるからこそ、そのパロディであったりルールの特殊性が際立つのであって、最メジャーに「らしくない」ことをやられると、そうではない側としては厄介極まりないんですよ。なんせ最もこのタイトルに適合するであろう飯伏を新日側は抱えているというのが大きく、飯伏がDDT的なあれこれを新日の選手に仕掛けることができるというのは考えると楽しみな反面、ちょっとゾッとするんですよね。ただ、これは当たり前の話なのですが、DDTはネタのみの団体に非ず、またKOPW一つで揺らぐような脆弱なアイデンティティの団体でもないので、心配はまるでしてないのですけどね。KOPWでDDTの名前がファンの間ですぐに出てくること自体に今まで培ってきた歴史とその先駆者ぶりには敬服するしかないですし、新日が絶対に真似できない部分や新日では味わえない興奮など、DDTには沢山あるのです。

KOPW、これは単なる憶測に過ぎないのですが、現行のタイトル(特にIWGPヘビー)で賛否の起こりやすい特殊ルールでの試合形式を、敢えてそれを名目に据えたタイトルを作ることで価値観を意図的に分離させたという見方もできます。KOPWに関して僕は賛成の立場なのですが、個人的にはここが少し残念な部分でもあり、KOPWができてしまったことで、IWGP含む現行タイトルでの特殊形式の試合は組みにくくなったのではないかと思ってしまうのです。一昨年、最も賛否両論を呼んだのはIWGPの3WAYマッチで、これは価値観の衝突という意味では非常に興味深かったですし、最近だと、取り沙汰されているNEVER無差別級の電流爆破などは、KOPWが創設された今となっては特殊ルールという面で被っており、インパクトもそちらのほうが強いため、成立に若干暗雲が立ち込めているのでは……と思ってしまいます。KOPWの創設により価値観が二分化され、他のタイトルではそうした特殊ルールの試合は生まれにくく、仮に提案されても「KOPWでやれ」って声が出てきそうで、そこは不安感がありますね。とはいえ、KOPWという「ベルトのない」タイトルには利点も多く、現時点ではIWGPとは別路線を強調していますが、それ以外のタイトルなら絡ませるのも場合によってはアリかもと思ってます。KOPWは「概念」に近いものだと個人的には捉えているので、既存タイトルのルールの上書きをKOPWでやっちゃうのは面白いかもしれません。それこそ賛否は今とは比較にならないぐらい出てくるかもしれませんが……。

・さいごに

僕自身、KOPWで見てみたいルールや組み合わせは沢山あります。ベタかつ定番が好きな人間なので、シンプルな金網戦が見たいですし、ザック・セイバーJr.のサブミッションマッチが見たいです。また前述の通り、参戦するなら飯伏のKOPWは俄然注目が集まるでしょうし、こういう頭の回転がモノを言う勝負なら、棚橋が参戦した場合、どんなルールを提案するかが気になります。また前述の通り、既存のタイトルに絡ませるのも賛成ですし、それはまだ形が定まっていない現時点で語るには時期尚早な気もするのですが、ベルトや箔がないというフットワークの軽さは利点になる上、ルールを弄れる関係上、王座移動もしやすいので幅が生まれていいのでは、という気もします。反発は大きそうでしょうけど。

KOPWは遊び心を感じますし、ファン参加型でありながら、手綱はルール提示するレスラー側が握ってるという塩梅が実は個人的には一番気に入ってる部分かもしれません。KOPWと踊り、KOPWで遊び、KOPWで強さを示し、KOPWでプロレスの真髄を味わいましょう。それだけの可能性のあるタイトルだと僕は思います。KOPWの歴史はまだ始まったばかりであり、選手、ファンの双方でじっくりと育てていきましょう。今日はこのあたりで筆を置きます。毎度のことになりますが、このクソ長い長文に、長々とお付き合いいただきありがとうございました。