鷹と太陽の解呪〜2021.7.25 WRESTLE GRAND SLAM in TOKYO DOME 試合雑感〜

◼️KOPW2021争奪ニュージャパンランボーwith手錠

第0試合という位置付けですが、ランブル戦はドームの定番というのもあって、安心感がありますよね。KOPW、良くも悪くも矢野の試合スタイルの補強という意味合いが強すぎるのが現状で、ファン参加型のタイトルながらその発展性にはやや難が出てきた印象があります。今回のもそうなのですが、出場した全員がKOPWのタイトルを欲しているのか?という疑問があるのですが、こうしたフォーマットを何の忌憚なくやれるのがKOPWの強みでもあるので難しい所ですね。

気になったのはディック東郷という「代役」を立てたEVILの動向で、これは後の乱入を予感させますね。飯伏の代役となった棚橋への目配せにも思いますし、EVILの名前がコールされただけでTwitter上では「暗転」を期待されるなど、昨年から積み上げてきたものはしっかりと浸透しているなと思いました。出場するだけで話題になり、後の行動を色々とファンに予感させる。あれだけ嫌われつつIWGPを巻いたのも伊達ではなかったということです。

あと面白かったのは手錠に繋がれながら介入し続けたKENTAであり、こうした役回りは本当に上手いですよね。前日の棚橋との死闘と比較して幅の広さはやはりWWEで培ったものであり経験値の成せる技です。あの動きはボンバーマンのみそボンシステムを思い出してめちゃくちゃ笑ってしまいました(笑)最後は矢野vsオーエンズの戦いから、裕二郎介入でのオーエンズ勝利。まさかの矢野の陥落はKOPWの新時代を予感させますし、言語の壁はありながらも、オーエンズがタイトルを奪ったことはとても喜ばしいことだと思います。

◼️第1試合 IWGP Jr.タッグ選手権試合
田口&ロメロvs石森&ファンタズモ

石森&ファンタズモは単純な完成度なら今の新日Jr.の中では随一で、完璧な二人が組むことによる強豪チームとしての説得力が非常に強いんですよね。加えてドームという舞台でのダイナミズム感を強調する動きは素晴らしく、馴染みのあるムーブながら映えるものを優先的に選んでいくセンスには惚れ惚れしました。ファンタズモの背中引っ掻きはすっかり技として定着した感がありますが、コミカルでありながらもその嫌らしさとジワジワと自分のペースに誘導していく様はまさに魔爪と言っても差し支えのないものです。石森もそのファンタズモのコミカルさに合わせてキープオンジャーニーのアピールを見せるなど、特別感を出してきたのは上手いですし、この辺りの頭脳的な融和が一番の魅力だとも思います。

対する田口&ロッキーは職人タッグ的な位置付けながら、パーフェクトなチャンピオンに対してのコミカル&テクニカルという強みで張り合う構図は面白く、田口も以前試し切りをした時間差ロープワークめいたフェイントダッシュを見せて、コミカル方面でも見せ場を簒奪しにかかったのはまさに曲者の面目躍如です。ロメロにしてもそうなのですが、下地となる実力がしっかりしてるからこそできることで、単なるネタタッグではないのですよ。田口は本当に器用ですし、以前のアポロ55も田口ジャパンもそうなのですが、タッグやユニット運営の才覚だけなら同世代の中ではトップクラスで、あの中邑や後藤より確実に上なのです。

派手な飛び技としっかりとしたインサイドワークの応酬となった試合なのですが、圧巻なのはファンタズモのロープ渡りからの鉄柵越えケブラーダでしょう。ファンタズモは客観的に見ても過剰なアピールが目立つのですが、それが逆に仰々しさと胡散臭さを際立たせているのがいいんですよね。直立不動のトルベドスプラッシュめいたフロッグスプラッシュもさることながら、一つ一つの所作、繰り出す技の姿勢の美しさもその理由になるのではと思います。

最後は田口がアンクルホールドで捕獲し、サドンデスの威力を担保する「疑惑の足」の正体に迫りましたが、レフェリーに判断される前に石森の妨害。そこからファンタズモの急所攻撃、CR IIの悪の連携で田口轟沈。疑惑の足の謎はいまだ明かされず。足に焦点が絞られる以上、どうしてもややこじんまりとした幕引きになるのが難点ではあるのですが、それがまたファンタズモの世界への誘いでもあるのです。好勝負。

◼️第2試合 IWGP Jr.ヘビー級選手権試合
エル・デスペラードvsロビー・イーグルス

デスペラードがJr.のチャンピオンとなって、念願のドームでのシングル戦。凱旋帰国当初にライガーに「流し」呼ばわりされた頃から見ている身としてはこれだけで感慨深いものがあります。繊細でありながら口調は乱暴で、しかしながら王者としての責任感は強く、Jr.の柱、エースとしての役割がヒロムならば、それらのJr.を取りまとめる「キャプテン」としての、謂わばご意見番としての役割がデスペラードになるのでしょう。品行方正ではなく「ならずもの」としてその役割にいるのが面白い所で、その殺伐さとハードさは間違いなく新日の直系であるという血の濃さと自負を感じさせるものですし、今の新日Jr.に必要なものの一つですね。

試合序盤、ロビーに仕掛けたねちっこいレスリング。ザックvs辻で「こういうの大好き」と言っていたデスペラードらしい振る舞いながら、前日の試合で椅子で痛めつけた足を狙うなどのダーティさも見せていきます。前回のYOHもそうなのですが、ロビーが相手というのにバリューという意味で微妙さを感じるファンもいるとは思うのですが、デスペラードを「触媒」として、あまりピックアップされてない選手にスポットライトを当てるという意味では、今までと差別化できている面白い防衛ロードであると思います。

対するロビーは徹底して足を攻められつつもヒロイックに反撃します。分かりやすいフォーマットでありながら、ロビーほどの強豪がこうしたチャレンジめいた文脈に乗るのは違和感が少しあるのも事実で、個人的な評価では単純なスペックならオスプレイに匹敵するセンスがあると思いますし、ファンに伝わってないのは単純な不見識でしょう。BOSJを丁寧に追っていればロビーの地力はよく分かると思います。

不用意にリングに戻ったデスペラードにスワンダイブ式の低空ドロップキック。ここから仕掛けの早いロン・ミラー・スペシャルからロビーの反撃開始です。時折見せるスピニングレッグロックは金本を彷彿とさせますよね。デスロックからの両膝レッグブリーカーなど、ロビーの足殺しのバリエーションもデスペラードには負けませんし、その一連の攻撃が足を抱えるターボ・バックパックに繋がるというロジカルさもいいですね。

前述のドームという大舞台を立体的かつダイナミズムに扱ったタッグ王座戦と違い、Jr.王座戦の二人の攻防は互いの足を喰い合って狭い領域で深化する争いになりました。押さえ込みも視野に入れた緻密な切り返しの攻防は互いの技術の鍔迫り合いです。最後は足へのワープ4.5(450°スプラッシュ)からのロン・ミラー・スペシャル!足への執拗な膝蹴りという追撃込みで粘るデスペラードをリング中央へと引き戻してタップアウト負けへと追い込みました。

ヒロムの眼前での王座陥落。ヒロムの前説による復帰宣言を受けての敗北は、デスペラードは悔しいでしょうね。これもまたすれ違いなのでしょうか。一つ苦言を呈すなら、デスペラードは王者としてはやや内向的で、YOHにしろロビーにしろ、相手を潰してそこからの立ち上がりを求めるという方法論。それら全てを受け止めるほどの器はまだ彼にはあるとは言い難いです。しかしながら、それは王者としての評価に壇上に立ったからこその、一段階上のステージに立つ人間に向けての苦言であり、言うなれば王者としてはまだまだ発展途上なんですよね。誤解なきよう書いておきますが、今回の試合は好勝負でしたし、デスペが王者として相応しくなかったというわけではありません。どちらかといえば、現在の力量では厳しいほどの重い責務に晒されていたという意味のほうを読み取ってくれると幸いです。王座から解放された今、デスペラードはまた一皮剥けるでしょう。今回の結果で確信しましたが、デスペラードのBOSJ優勝、あると思いますよ! チャレンジングで発展途上。しかしながらJr.の重鎮としてのならずものの道。ヒロムの対極に位置する者としての、デスペラードの時代はまだ始まったばかりです。

◼️第3試合 スペシャルシングルマッチ
オカダ・カズチカvsジェフ・コブ

人生で逃れられないものは三つある。死と税金と、コブのスープレックス。オカダのマネーキャラに対しての督促の意味を込めつつ「この世で確かなものは死と税金だけ」というベンジャミン・フランクリンの格言をアレンジしたこれは、コブのインテリジェンスを感じさせる中々の名言だと思います。オカダをヤングボーイ呼ばわりしつつ、TNA時代のサモア・ジョーのことも持ち出すなど、戦前のコブのアジテーションは予想以上に素晴らしく、これはもっと注目されていいのではないかと思っています。挑発としては100点満点ですよ、これは。

対するオカダは、こういうパワータイプのガイジン選手相手は大好物でしょうね。ファレという巨漢相手の、ボディスラムをめぐる攻防に代表されるような古典的なアイディアの掘り起こしもそうなのですが、日本人vs巨漢ガイジンという昭和感のある古風な試合はオカダの好みに合致しているんですよね。

試合序盤は分かりやすいロックアップ。超人vs超人を意識しつつ、いきなりオカダのお株を奪うコーナートップへのドロップキックにコブの野心と挑発が見え隠れします。自身の身体ポテンシャルへの強固な信頼と、顔役にカマす確かな自負心。対するオカダも体格差は互角でありつつも、パワーや当たりの強さはコブが上という配分が絶妙で、やたら弱々しくても逆に互角に張り合っても、オカダの体格だと違和感があるんですよね。それでいながらフラップジャックというコブのパワーをいなす合気道的な攻めや、ロープ往復で加速してのペースチェンジのバックエルボー、打たれた反動を利用してのロープワークからの反撃のエルボー、鉄柵越しのハングドマンDDT、脇固めのように腕を極めてからのマネークリップと、全てにおいて巨漢相手の切り崩し、武術としての理合を感じる攻めを見せます。そしてオカダの恵まれた体格は、コブのブン投げるスープレックスが驚異的に映えるという、受けの面での相性の良さ。単にプランチャを受け止めてブレーンバスターをやるだけでも、オカダ相手にやると体格もあってド派手に見えるんですよね。

何をやってもキャッチされ投げられるーーそんな中、ツアーオブジアイランド狙いのロープワークを走り込んでのショットガン・ドロップキックで切り返します。あと
逆さ押さえ込みフェイントからのラリアット……続く相手のリストを極めてグルグル相手の周りを周回しての起き上がりこぼし式ラリアット……足のステップがいつもと違って、右足を前に出すレインメーカー式だったんですよね。コブの体格差を考慮してなのか?それとも無意識の所作なのか?普段やらない走り込んでのドロップキックといい、何もかも弾き返すコブの「肉壁」に合わせて技をアレンジしたのはいいですよね。

対するコブも投げっぱなしのドクターボムでオカダを瀕死へと追い込みます。そして相手をロープに振っての再トライとなるツアーオブジアイランド。能動的にこれをやると受け手がただ突っ込んでいくことに違和感が出てくるのですが、この時に全力疾走ではなくヨタヨタと走るオカダが素晴らしく、これだけで終焉を予感させちゃうんですよ。同じ動きはG-1で鷹木もやったのですが、こういう所作こそ超一流の証なのです。

頼みの綱のレインメーカーもかわされ、お株を奪うコブのレインメーカー……オカダ万事休すかと思いきや、それをショルダースルーの要領でハネ上げて押さえ込むオカダの「隠し技」エビ固め。いやあ……素晴らしいものですね。以下にリンクを貼りますが、思い返せば、2018.6.9のケニーとの三本勝負2019.6.9のジェリコ戦、G-1公式戦では、2019.7.18のファレ戦2020.10.5のみのる戦2020.10.7のコブ戦で火を吹いた、オカダマニア垂涎の技です。こういう技を躊躇いなく使うあたり、オカダのオールドスクールへの強いこだわりを感じますね。

オカダのエビ固め、相手の上半身に馬乗りになって押さえつけることでフォール返しを誘発し、そこで相手がハネ上げた足をクラッチすることで完全に固めるという「二段構え」になってるのが面白いんですよ。相手の肩を3カウントつければ勝てるという、プロレスの基本にして奥義。加えてオカダの恵まれた高身長を活かしつつ、前述の理合の思想にも合致した技です。派手な技を見慣れているとこの決着は微妙に思うかもですが、ピンフォールは丸め込みではなく押さえ込み。レスリングにおいては「必殺技」なのですよ。それにこういう基本技で勝利するの、オタクはみんな好きじゃないですかね(笑)僕はそういうの大好きです。ただ、現状のオカダはIWGP戦線から一歩引いてるのもあり、求められているのは「カタルシス」で、以前のオカダの超人イメージこそが今のオカダの最大の敵です。それはやはりレインメーカーという懐刀の煌めきであり、その誘惑は妖刀でもあるのです。当面はその期待感との戦いになりますかね。でもわりと誤解されがちですが、マネークリップといい、エビ固めといい、こういう方向性こそがオカダの本質だと僕は思いますよ。

負けたコブなのですが、飯伏戦に引き続き、オカダ戦も連敗となりました。しかしながら試合内容を見る限り、今回は実質的には勝利であり、もうこれはIWGP世界ヘビー級王座戦を任せてもいいんじゃないですかね。誰とやっても一定以上のクオリティのあるコブのポテンシャルも素晴らしいのですが、何よりこのスープレックスですよ。これこそが大衆がイメージするところの「レスラー」であり、今一番現地で見たい選手ではないかと思います。G-1のコブ無双、めちゃくちゃ期待しますし、個人的には鷹木vsコブのIWGP世界ヘビー級王座戦、G-1公式戦では内藤の受けを活かしたコブvs内藤戦、あと意外と手の合う後藤vsコブ戦が見たいですね。

◼️第4試合 IWGPタッグ選手権試合
内藤&SANADAvsタイチ&ザック・セイバーJr.

内藤vsザックのレスリングからスタート。前日は徹底してザックの持ち味を殺して、ほぼ完勝に近い形で勝利を収めた内藤なのですが、前日に敢えて付き合わなかった面を見せるあたり内藤は本当に憎いですよね。チョロいので、こういう「地力」を見せつけられると一瞬でファンになってしまいます。

そこからサブミッションに一日の長のあるザックを内藤とSANADAが捕獲する展開に。挑戦者だった前回と違い、今回はタッグ王者としての老獪さを示しつつ、後に入るタイチのヒロイックさを煽る意味でもいいチームワークです。助けに入ったタイチが今度は捕獲されるという展開も挑戦者側の苦戦を感じさせますし、タッグにおいて明確に分断を狙うのは戦術として理にかなっています。裏で糸を引く内藤とSANADAの広がりのある華麗さのマリアージュがいいですね。特にSANADAが最近多用しているダイビングボディアタックやアトミックドロップなど、古典技への目配せが素晴らしく、これを自身の華でブラッシュアップしている所にSANADAの非凡なセンスを感じます。同じく使い出したタイガードライバーはそれらと比較するとやや新しい技になりますが、SANADAは投げ技のレパートリーがやや少なく、そこに加えるという意味ではいいチョイスだと思います。

捕獲されたタイチの反撃がこの勝負の勘所と見るやいなや、即内藤を排除にかかるザック。ダウンしていたのも三味線であり、これもまた戦術です。ここから四者四様のロスインゴ&テッカーズの至高のカルテット。ユニット連携をフルに使えるのがユニットに属するタッグチームの強みであり、今まで積み重ねた攻防の集大成でもあるのです。

この試合、全員が全員手が合うせいか、タッチワークが非常にスムーズで、誰が入れ替わっても攻防の印象が途切れず継続したままになっているんですよ。前日、前々日の互いの相手を入れ替えてのシングルマッチの連戦がここで活きたといっても過言ではなく、タッグとしての決着戦の様相がより濃くなってくるわけですね。

しかしながらトータルで見ると押され気味で消耗戦を強いられるデンジャラス・テッカーズ。いやはや……内藤&SANADAは恐ろしいです。今までで一番の難敵かつ強敵ですよ。その頑張りを嘲笑うかのような、内藤のショートレッグシザースとSANADAの足4の字の共演。タイチを排除するSANADAのプランチャに合わせて、切り替わったカメラが捉えたのは脳天を串刺しにする内藤のエスペランサ。余談ですが、このままフォールにいけるように技を進化させた内藤は凄いですよね。ここ最近のコリエンド式デスティーノのタイミングは抜群ですし、技は使い手の成長によって進化するものだというのも頷けます。これでザック危うしかと思いきや、内藤の雪崩式フランケンを切り返しての三角絞め、それに合わせてタイチが聖帝十字陵でSANADAを捕獲し、今度はデンジャラス・テッカーズがサブミッションの共演を見せます。捉えられたSANADAが切り返してのドロップキックから、執拗に内藤を絞め続けるザックに対して、コーナーを駆け上がっての速射式のラウンディングボディプレス。タイチがSANADAにブラックメフィスト。復活した内藤がタイチへのコリエンド式デスティーノ。さらにザックにも続けてデスティーノを狙いますが、ザックが一瞬のザックドライバー。この必殺技のカルテットにより全員がリングに伏して、一気に勝負はクライマックスへと雪崩れ込みます。ダウンカウントを止めて一人立ち上がったザックが内藤との一騎打ちへ。ここのエモーショナルさには涙腺が緩んでしまいました。

孤軍奮闘のザック。タイチがSANADAをデンジャラスバックドロップで排除し、さらに内藤に白鵬ばりの立ち合いからのランニングエルボー。この時のタイチのザックへの叫びがより二人のエモーショナルさを加速させます。天翔ザックドライバーで幕引きかと思いきや、即座にバレンティアで切り返す内藤。それに合わせてデンジャラスバックドロップで沈黙してたSANADAが息を吹き返し、一気にタイチを押さえ込む。この試合は最後の最後まで油断ができません。これを勝機と見た内藤が満を持して正調デスティーノを繰り出しますが、それを切り返して、ザックがヨーロピアンクラッチで押さえ込んで激勝!先日完封された悪夢のシングル戦の借りを返すと同時に、この完成度の内藤&SANADAを初防衛失敗という短命政権へと終わらせる意趣返し。いやあ……後半の流れに関しては文句のつけようがありません。ドームでセミファイナルという位置付けにまで格の上がったIWGPタッグは、間違いなくデンジャラス・テッカーズと内藤&SANADAのおかげですね。そしてこの試合のタイチ&ザックの悲壮感と、苦悩を突き抜けて歓喜に至る(by井上亘)エモーショナルさ。内藤&SANADAに対して、エモさで上回ったのは凄いことですよ。サブミッションが目立つ極悪さから、ピンフォールによる逆転勝利の引き出しと、ザックは本当に素晴らしい選手です。

試合後に現れたのは後藤&YOSHI-HASHI。同じく格の爆上がりしたNEVER6人タッグの中核を支える二人であり、ゴトヨシはタッグチームとしての練度は高いながらも、デンジャラステッカーズ相手の勝率はあと一歩なんですよね。この四者と比較すると実績として後塵を拝するというのは、逆説的に今のIWGPタッグ戦線のレベルの高さを感じます。恐らくこの流れだと次は3wayになるのでしょうか。以前は数合わせで押し込んだ印象が強い試合形式だったのですが、今のIWGPタッグのクオリティだと最高の3wayが見れそうでドキドキします。役者さえ揃えばいつでもIWGPタッグはセミはおろか下手したらメインにまで復権できる。それを確信したという意味でも、非常に価値のある一戦でした。

◼️第5試合 IWGP世界ヘビー級選手権試合
鷹木信悟vs棚橋弘至

この試合が決まるでの紆余曲折の混乱はファンの記憶にも新しいことでしょう。そもそもがオスプレイの欠場に端を発したもので、オカダのコロナ罹患によるアクシデント、鷹木の戴冠で一旦はハッピーエンドとなったものの、続く飯伏との防衛戦は、飯伏の誤嚥性肺炎による欠場で一気に暗雲が立ち込めました。ベルト新設の荒れ具合から防衛戦に至るまでのこのガタつきぶりは「呪い」を感じる人も多く「呪われたIWGP」の再来ではないかという声も多いのです。

そんなトラブルは何のその、鷹木のあっけらかんとした天性の明るさとジャイアニズムがそんな負の印象を打ち消しており、ファンとしてはそれに救われはするものの、オスプレイ戦に続いて飯伏戦という「宿題」の増えた鷹木に流れの悪さを感じるのも事実で、この完成度の高い王者を活かし切れない団体に対してフラストレーションがないかと言われれば嘘になります。

一日前になっても決まらないドームメインの相手。そこで手を挙げたのは、前日、柴田のアシストで勝利を収めた棚橋。やはり棚橋頼りか……という声もありますが、その気持ちに反して棚橋のアピールは至って真っ当かつ、いつもの棚橋のスタンスを示しただけに過ぎませんでした。エースたるものいつでもトップを目指すのは「当然」であり「棚ボタ」と自虐しつつも、そのスタンスはいつだって棚橋は変わりません。王座を目指すのが当たり前なら、準備はいつでもできているのも当たり前で、何一つ言葉に嘘がないんですよね。棚橋が偉いなと思うのは、鷹木からNEVER王者を奪った実績があるので挑戦理由も因縁も明確でありながら、そこを過度にアピールはせず、また役割としては代役でありながらも、それを決して口にしなかったことにあります。これは飯伏への配慮であり、また「誰もがトップを目指すもの」という自身の信条、言うなれば棚橋個人の強固なプライドの現れであるとも言えるでしょう。またそうしたことは言わずともファンが捕捉してくれる。そうしたファンへの信頼も感じさせますね。

ファンの心情的に今回の流れに乗りにくいのもあるかもですが、プロレスとは「リアル」であり、ミック・フォーリーの自伝曰く、Show Must Go On=それでもショーは続くのです。幕が降りない限り、現実的なアクシデントすら巻き込んで、現実すらも侵食し、その境界線を曖昧にして続いていくのがプロレスで、プロレスとは予定調和を見せるものではありません。カード変更も運命という言葉に集約されます。結局は星の巡り、結局は「持っている」か「持ってないか」であり、その「天運」もまたレスラーがトップに立つ上で大事な要素の一つであるわけですね。今回のカード変更で思ったのは、自分は選手単体ではなく、あくまで「プロレス」という現象を見続けているのだなあと思い直しました。

それでも代打棚橋で新日が叩かれるのは仕方がないことで、チケットを売り、選手目当てで見ているファンも多い以上、団体の判断が遅いのは否めませんし、何より会社にとって一番大事なのは選手の商品価値なので、批判の矛先が選手に向かないよう、こういう時に矢面に立って叩かれるのは当然のことだと思います。

何が言いたいかというと、ようはファンの心持ち次第なのですよ。これは以前も書きましたが、プロレスとは恐ろしいもので、自分で「こう」だと規定してしまえばそれが全てとなり、そこから決して「先」にいけなくなるジャンルでもあるのです。よく言われる言葉ですが、プロレスとは見せる側と見る側の感性の真剣勝負で、その手綱を握っているのは団体だけではないのです。プロレスとは最終的には戦っているレスラーの手を離れ、団体の采配、ファンの思いすら超えていく「自己成長し続ける物語」であり、団体に「楽しませてもらう」のではなく、常に「自分がどう楽しむか」それがプロレスを見る上での大切なことだと思うのですよ。

前置きが長くなりましたが、試合について語っていきましょう。まず目を引いたのは両者の気迫で、特に棚橋の気合いはドームメインの王座戦モードでしたね。棚橋という存在の「強さ」はもうその一個人の枠に収まるものではなく、その知名度や実績もさることながら、棚橋には確実に「何か」が乗り移っているのです。オカルトチックな言い方になりますが、往々にしてそういうことはあり、それは時代の要請であったり、たとえばファンの期待とかになるのでしょう。単にファン人気があるから代役を任せた、という単純な話ではなく、棚橋が出てくること=新日そのものが出てくるに等しく、新日の「化身」となった棚橋は本当に恐ろしいものです。その背後に背負ったものの数々の「重さ」は、筆舌に尽くし難いものがあり、話題になっていた柴田の喝なんて、むしろ棚橋の背負ったものと比較するとほんの些細な情緒の火花に過ぎないのですよ。エースであり続ける限り、棚橋は決して時代からは「解放」されません。彼が普通でいられる場所は、プロレスラーを続ける限り、世界のどこにもないのですから。

棚橋がこの試合に賭けた意気込みは単なる代役や棚橋頼りというものすら超えたものでありました。互いが互いに徹底した足殺しから始まり、それを乗り越えて棚橋が繰り出した、柴田の技である串刺しドロップキック。そしてまさかのカミゴェは、単なる拝借を超えた覚悟のほどを感じて見ていて思わず声を上げましたね。鷹木がハイフライにいく棚橋の足へとすがってでも止めようとする様は、2008年1月4日の棚橋vs中邑戦を彷彿とさせますね。その試合のリフレインのようでいて、そこから意外性のあるカミゴェへと繋いだのは、14年前のあの頃の先へ今の年齢で進もうとする気概すら感じさせます。そもそもカミゴェはいくら飯伏との絆があろうとも、自身を超えた因縁の技であり、たぶんなのですが、ああいった技は棚橋自身のスタイルにも好みにもそぐわないものでしょう。またこれらをヒロイックかつエモーショナルなラーニング技として使うのも「安易」なものだと棚橋は考えているはずです。それでも躊躇なくこの技を出したあたりに、いい意味でファンの期待を裏切ろうとする棚橋の本気度が窺えますし、何が何でも王座を、そして時代を奪い返そうとする野心が見えました。エースを自称し、ファンの評価の壇上に晒されながらも、トップを目指す限り手抜かりなく全力で戦う。それは老害なんて生やさしい言葉で呼べるものでは決してなく、あくまでエースだからこそ、ただ本気で奪いにいった。それだけのシンプルな話なのです。

鷹木はそれと比べると孤独であり、また王座を戴冠していながら自由であるとも言えますね。ロスインゴの絆、解説席のヒロムすら棚橋のオーラに飲み込まれ、新日そのものが相手というのは個人闘争の枠組みすら大きく超えているのですが、そんな中でも一切気後れすることのない、確信に満ちた鈍感さ。全てを個人の喧嘩へと繋げていく胆力は、ハツラツおじさんという単語では済まされない強靭な精神力を感じますね。棚橋の異形さに隠れがちではあるのですが、このドームメイン仕様の棚橋相手に胆力で負けていないのは考えてみれば恐るべきことなのですよ。前回のオカダ戦でほぼ決め手となったスライディングDをリングに戻ろうとする棚橋に温存せず躊躇なく放つあたり、勝ちへの執拗なこだわりもありましたね。以前、鷹木の試合中の言葉のアピールを指して、鷹木ほどの空気の支配力を持つレスラーが非言語コミュニケーションの極みであるプロレスにおいて、言葉でアピールするのは「ズルい」と書きはしたのですが、この試合はあまりそれが目立ちませんでしたね。エース呼ばわりしての叱咤やいつもの鼓舞などはありましたが、それほど目立たなかったというか、棚橋の存在感が強すぎてかき消されたようにも見えますし、それを押し通すほどの余裕がなかったようにも見えます。しかしそのどちらも恐らく正しくはなく、棚橋の耳目を集めるオーラと方法論に対して、比較するとやや安易に映るアピールを敢えて封印したという戦略的な判断で、同じ土俵でも決して負けないという喧嘩根性にも思えますよね。こう考えると怪物ですよ、鷹木信悟は。

最後は張り手すら耐えた鷹木が、入魂の張り手を叩き込み、全力全開全身全霊のラストオブザドラゴンで棚橋から完全ピンフォール勝ちを収めました。対オカダや対内藤、最近だと似通ったルーツを持つ対SANADAといった、ある種の「王位継承」でしか許されないバージョンの棚橋。そして一時代の象徴でもある、ドームメインの棚橋相手の勝利という大役を立派に務め上げたあたり、鷹木には運命めいたものすら感じます。アクシデントありきとはいえドームメインになったのは、棚橋が「持っている」ことの証左であるとも思うのですが、このタイミングでドームメインで棚橋戦ができる鷹木もまた「持っている」人間だと思いましたね。間違いなく時代の旗手であり、IWGP世界ヘビー級王座が、そして時代が選んだのは鷹木信悟だったということです。棚橋推しではありますが、ここまでやって超えられたのなら、これはもうぐうの音も出ないですね。

ただ、前回のオカダ戦に引き続き、今回の棚橋戦と、新日本プロレスのアイコンとでもいうべき二人が立て続けに屈したというのは「新日本プロレス」としては憂慮すべきことだと思います。もうそうした考えは古いのかもしれませんが、新日本が負けたわけですから。これこそが本物の「緊急事態宣言」ですよ。ユニット人気No.1のロスインゴベルナブレスの一員であり、名勝負製造機の超ベビーという立ち位置であんまりそんな印象はないかもですが、STOP THE 鷹木信悟は新日に課せられた大きな命題であると思います。

そして試合後にはやはりといえばやはり、リングが暗転してのダークネスメッセージからのEVIL急襲。バクステコメントの○○○発言はあまりにも危な過ぎてヒヤリとしましたが、後に削除したようで……。このnoteには書きませんでしたが、以前のオーカーンの某発言もそうですが、新日もその辺のコンプライアンスはしっかりして欲しいものです。別に僕自身はそこまでコンプラ意識の強い人間ではありませんし、いちレスラーが政治家並みの潔癖さを求められる世界というのはディストピアにしか思えないので、過剰に反応はしないのですが、今のご時世の表現コードにそぐわないものである以上、言葉のみが一人歩きする危険性があります。それは不要な争いの火種となり、本来伝えたい文脈が疎かになってそちらにばかり注目が集まりますし、それは当人にとっても、団体にとっても、またその表現に対してモヤモヤを抱える人間にとっても、望まないものであると言えるでしょう。その表現でどうしても伝えなければならず、世界を敵に回してもその表現と心中する覚悟があるならば、僕は使うことを止めるつもりはありません。しかしそれぐらいの度胸がないのであれば、安易に過激な表現を使うべきではないと思うのです。

まあそれはそれとして、先に書いた通り、第0試合の段階でファンの大多数に乱入を予感させたのは間違いなくEVILの実力によるものです。それに鷹木vsEVILってロスインゴの因縁があるようでそれをあまり感じない一戦であり、勧善懲悪の新鮮味もありますよね。棚橋弘至をドームメインで倒した今、鷹木政権は意外と長くなるかもしれませんし、見方を変えれば「生え抜き」であるEVILが手段を選ばず挑戦するというのは、昨年と同じテツを踏んでも奪い返さなければいけないという焦りと解釈することもできますし、鷹木に対して新日が本気で牙を剥いたようにも見えますよね。こう解釈するとEVIL戦も面白いと思いませんか?

さて、今回は興行終了と同時にアップするという形で、最速の更新を目指しましたが、誤字脱字やてにをはが色々とおかしいこともあって、色々と手直しがてら追記しました。速度を競ってるわけではないのでアレですが、こんな風に思い返して色々と書き出せるのがテキスト媒体のいい所であるとも思うのです。長くなりましたが今日はここまで。

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