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2022.8.17 新日本プロレスSTRONG SPIRITS Presents G1 CLIMAX 32 DAY19 試合雑感

◼️ 第7試合 時間無制限1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』ファイナルトーナメント準決勝戦
オカダ・カズチカ vs タマ・トンガ

この二人のマッチアップは昨年のタマの大金星が想起されますが、そのリベンジは果たしており、因縁はありつつも決着はついているんですよね。立場もベビーvsベビーでグータッチから始まるクリーンなものであり、下馬評はともかく、昨今の試合にしては珍しくスポーツライクな戦いとなります。

先の内藤vsオスプレイ戦を意識してか、序盤から丁寧に積み上げるようなオーソドックスな攻防が続き、擬似王座戦とでもいうべき「見えないベルト」の存在を確かに感じましたね。やや失敗したランス戦での盛り下がりや、ジェイ戦を終えて個人としての戦いに踏み出したタマ・トンガへの期待感などももちろんあるのですが、そうしたもの全てが雑念のように思うほど、澄み切った熱のある試合でした。

ポイントはやはりガン・スタンを巡る攻防で、アンダーソンとの対戦経験が活きているカウンターを見せつつ、技としての完成度の高さ故か、被弾したシーンの興奮度は凄まじかったですね。まさに夢を掴みに行く一発と言ってもいいぐらいの名シーンで、恐らくこれで決まることはないだろうと思いつつも、それでもこのG1で使い続けてきたからこそ宿った魔力とタマの野心。レインメーカーをカウンターしての一発はそれらが合わさったベスト・ガン・スタンだと思います。

オカダも延髄斬りにオカダ版の卍エメフロ、そしてレインメーカーという現状の最高レベルのフィニッシャーを繰り出して勝利。場内に満ちた「ああ……」の落胆は強者の証明で、壁となり弾き返してこそのオカダですよ。アーチャー戦で狂った歯車をいつも通りの自身の立場を演じることで調子を無理やり戻したような気もします。

戦い終わればノーサイドの抱擁で、ベルトこそないながらも、これもある意味ではトップ戦線に足を踏み入れるための王位継承だったのかなと。タマの敗退は残念ですが、シングルプレイヤーとしては昨年と比較すると間違いなく頭一つ抜けましたし、これから先も期待ですね。

◼️ 第8試合 時間無制限1本勝負 
『G1 CLIMAX 32』ファイナルトーナメント準決勝戦
内藤哲也 vs ウィル・オスプレイ
 

このnoteでも何度か触れてきましたが、ようやく実現しましたね。新日が意図的に寝かしていることは明白でしたし、やるならドームかG1リーグ戦の目玉として出してくるんじゃないかと思っていたのですが、準決勝というタイミングで抜いてくるのは少々意外でしたね。

こうしたプレミア感のあるマッチは互いのムーブのお披露目に焦点を置きがちでよもやすれば上滑りする危険性もあったのですが、それはほんの序盤だけで、試合が進むに従って攻防はどんどん激化します。

ハイライトはやはり内藤が仕掛けた雪崩式リバースフランケンシュタイナーで、サムライvs金本の直撃世代からすると技そのものが大きな意味を持つ絶技であり、対オスプレイという特別性に加え、これは解説席にいたジュニアのヒロムの眼前で繰り出すのもまた面白いですよね。ここからの互いのエクストリームな技と切り返しの応酬は凄まじく、続くデスティーノを体幹で支えると、危険技に呼応する形で放った両足と片腕をロックしてのオスプレイの変形ドライバー。内藤も負けじと封印していたストームブレイカーを切り返してのデスティーノと、二人に期待されていたであろう技を想像を超える形で次々と繰り出していきます。その合間で何度も刺さる正面と背後からのヒドゥン・ブレードにチェルシーグリンと強烈なエルボーが内藤の首を襲います。そして限界を迎える膝。そして最後は本日二度目のトライとなる、温存していたストームブレイカーを炸裂させてオスプレイの勝利。

げに恐ろしきはオスプレイであり、才能と身体ポテンシャルをフルスロットルで出し切った一戦のようでありながら、今回は平面上の戦いを高速化するだけに留めており、飛び技含めた立体的な攻防はまだ先にお預けというのが恐ろしいですよね。短時間でザック戦を終わらせて余力のある内藤すら上回る馬力と燃料。ブロック突破も納得の化け物ぶりです。

そして内藤……。今年に入っての内藤の負けはオカダ戦もG1の公式戦も、負けでありながらもその結果はどこか納得のいくような感じではあったのですが、久方ぶりに負けらしい負けを突きつけられた気がしますね。完敗ではなく、惨敗でもなく、惜敗でもなく、身体の熱気が汗とともに時間経過で静かに冷めていくような……実感のある敗北。あくまで個人的な感覚で言語化は難しいのですが「夏の終わり」とその余韻をこのときの内藤には感じましたね。まだ決勝戦は先にあるのですが、一足先に燃え尽きてしまったような……ああ、内藤の夏は終わったんだな、と。行ったことないですし野球にさほど興味もないのですが、まさに甲子園の敗退のような感じで、内藤の試合でこうした心境になるとは思いませんでした。分かりにくい喩えで申し訳ないのですが、映画の『カーズ/クロスロード』を見たときに抱いた心境に近いかもしれません。いい映画なのでみんな見ましょう。この試合にあまり関係はありませんが。……まあそれはともかくとして、そういう意味では、オカダ連覇か!?タマ残念!オスプ怪物!といったワクワクした心境を上回る余韻を与えてくれただけで今大会のMVPは僕は内藤哲也ですよ。プロレスは勝つばかりではなく、負けることも当然あります。負けで何を残せるか、敗者として先に何をこの先に賭けるのか。そんなことを色々と考えてしまいましたね。昨日感じたザック戦でのイラッとした憤りは嘘のように霧散して、今はただただ夏の終わりを噛み締めています。内藤は本当に素晴らしいですよ。






いつになくしんみりとした感じではありますが、ガッカリとか失望とか怒りではなく、冷めたわけでもないのであしからず。決勝戦に向けて気持ちを切り替えなければいけませんね。内藤vsオスプレイは確実に再戦はあるでしょうが、このタイミングがギリギリだったような、そんな気持ちさえするほどの驚異の刹那性でした。こうした心境にさせてくれることがあるから、新日を見るのはやめられないんですよ。ではでは、今日はここまでで、また明日お会いしましょう。

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