バレットクラブの逆襲〜WRESTLING DONTAKU 2022試合雑観〜

ご無沙汰しております。ここ最近リアルがとにかく忙しく、Twitterではポツリポツリ感想等を呟いていたのですが、長文を書く時間が中々取れませんでした。ただ、無理に感想を捻り出してもそれは言葉として弱く、書きたくて我慢できなくなったときに書くぐらいのスタンスのほうが長続きしそうなんですよね。そんな感じですので気まぐれな更新に気長にお付き合い頂ければ幸いです。ではでは、相変わらずの長文で申し訳ないのですが、試合の感想を書いていきましょう。

◼️第2試合 スペシャルシングルマッチ
YOH vs 高橋ヒロム

色々と思うところのある試合でした。SHOのヒールターン以降のYOHは、昨年のBOSJこそ準優勝で終わりつつもその結果や来年への期待感、それに見合うだけの支持をこの一年で得られたかと言われたら悩ましいところで、袋小路に入り込んでしまったような印象を受けます。どうにもスッキリしないんですよね。

正統派ベビーの道を歩むという彼の選んだ道のりは苦難の一語に尽き、その方向性こそ疑いはしないものの、今のままだと本当に厳しいなと思ってしまいますね。当人の問題だけでなく取り巻く状況もそうで、これはデスペもそうなのですが、ヒロムのYOHに対する厳しさもどうにも一辺倒なんですよね。嫌な話、彼らの吹かせる先輩風が微妙にYOHとの相性の悪さを感じるというか……確かに感情表現はYOHにとって必要なものであるとは思うのですが、それが熱血というのはいくらなんでも安易過ぎますし、精神論ばかりのコーチを見ているような違和感を覚えてしまいます。それに呼応しちゃったのは見てて少し痛々しさを感じましたし、それをやっちゃったら没個性的なんですよね。はっきり言えば、YOHのスカしに苛立つ層への溜飲を下げる以外の効果はなく、試合としてプラスになってるとは言い難いわけですよ。

一応、デスペとヒロムの擁護をするなら、彼らもまた発展途上であり、そうした手探りかつ拙い先輩像もまた後輩との戦いの過程で成長していくものだと思うのですが、やはり現状の新日Jr.は彼ら二人を中心に回っているため、壁役としても厳しく見てしまうのが本音ですかね。YOHの自己責任と切り捨てるには二人の振る舞いが正しいものとは僕には思えません。しかしYOHに瑕疵がないかと言われたらそれは別の問題で、自分の持ち味というか良さを見失ってるような気もします。

あと、これはわりと難題な気もするのですが、そもそも論として、今の新日Jr.に正統派ベビーフェイスの「席」ってあるのかな?とさえ考えてしまいました。主人公オーラならヒロムはズバ抜けているのですが、正統派とは程遠い奇才であり、そうしたアクの強い主人公と相対すると、どうしても正統派は弱く映ってしまいます。つまりは「正統派ベビーにニーズがあるのか」という命題に行きついてしまうわけで、以前の主役であったKUSHIDAですらそうした部分の支持は完全には得られなかったように思います。まああれはファンの評価にも問題があったと今でも思っているのですが、それぐらい今のJr.戦線においてベビーに対する目って厳しくなっているのですよ。だからこそ目指す価値があると思っていますし、敢えてそれを選んだYOHに可能性を見出しているのですけどね。

方向性が異なるため比較はできないのですが、ベビー的立ち位置かつ、未来のホープとしての役割はすでにワトが担っていますし、今のワトに向けられている温かい目があれば、これほど悩まなかったかもしれません。そして拒否した以上、ヒールターンの道はすでになく、ヤンデレサイコの道はSHOに奪われてしまったわけで、振り切ることも現状だとかなり難しいように思うのです。

YOHに何が足りないかと聞かれたら、僕なら「キャッチーさ」と答えますかね。YOHをどう「消費」していいかがわからない。これに尽きると思います。しかしながらプロレスは試合一つでひっくり返すことができるジャンルであり、今は単に歯車が噛み合ってないだけかなという気もするのですよ。物語性による後押しなのか、それともライバルなのか。変化のきっかけがどれになるかは分かりませんが、当人の頑張りは勿論のこと、分かりやすい箔付けではなく、シチュエーションでの何かしらのお膳立ても必要なのかなと思いますかね。YOHはみんなに好かれようとしなくてもいいのです。3Kの残像をずっと引きずらなくてもいいのです。YOH自身を見せてください。何度も言いますが、最終的に上になるのはYOHだと僕は思っています。正統派かつコテコテの王道的主人公。本当のヒーローになることを期待して、これからもYOHを応援していきますね。

◼️第6試合 NEVER無差別級選手権試合
EVIL vs タマ・トンガ

超ベビーと化したタマの相手としてEVILはまさにうってつけで、中ボス的役割だけでなくバレットクラブを巡る因縁があるのもいいですね。散々批判されたEVILの悪行三昧ですが、カードの位置付けと物語性の補強さえやれば十分に機能しますし、この辺りはしっかり修正したきたなと思います。加えて今までの対角線に立つヒールという感じではなく、バレクラの内紛というお家騒動だからこそヘイトもいい意味で薄まるというか……シチュエーションというのは大事だなというのを改めて実感しました。

試合は怒りに燃えるタマが奇襲を仕掛けつつ、それを悪の包囲網で集団リンチという、制裁の文脈が乗っかっていたのは良かったですね。ハイライトはEVILが場外戦でタマの呻き声をマイクで轟かせたことで、アイクイットの変奏というか、こういう小ネタのアイディア性は本当にEVILは凄いんですよ。あと面白かったのはタマのシャープシューターをディック東郷がゴングを鳴らして「誤認」させたシーンで、プロレスのルールそのものを「ハック」できるのはハウスオブトーチャーの最大の強みですね。

最後はレフェリーを追突させようとしたEVILの企みをリープフロッグで飛び越えてかわし、そのままガンスタンでタマが勝利。今のEVILに完全ピンフォール勝ちからの戴冠は本当に大きいですよね。そしてそんな歓喜も束の間。乱入してきたのはまさかのグッドブラザーズ!アンダーソン&ギャローズの乱入もさることながら、何よりもカール・アンダーソン・リターンズの衝撃たるや凄まじく、バレットクラブとの戦いというストーリー性がより際立ちましたね。印象深かったのはタマ・トンガに対して本家ガン・スタンをアンダーソンが放ったことであり、この意味は重たいですよ。ブラッディーサンデーを出してのオカダからの勝利は、バレクラでの王位継承を表すものだと思っていたのですが、ここに来ての本家ガンスタンはそれを認めないことの何よりの証明です。平たく言えばガンスタンはバレットクラブの「玉璽」みたいなものであり、あくまでタマ・トンガのそれは偽物であるという……。この手の争いにおける正当性は本当に大きな意味を持ちますし、ここに来て継承権に物言いのついたタマ・トンガが、バレクラと戦っていくというストーリーの歴史大河ぶりたるや素晴らしいものがありますよね。いやはや、対バレクラにおいて主人公に成れるのはタマ・トンガ以外いないと思いますよ。

◼️第7試合 IWGPジュニアヘビー級選手権試合
エル・デスペラード vs 石森太二


デスペはすでに石森超えは果たしているので新鮮味こそないのですが、それは単なる勝敗の話でしかなく、内容で完全に超えたとは言い難いんですよね。それほど石森のレベルは現・新日Jr.の中でも突出しており、先輩不在となった今の新日Jr.の中では外敵とはいえ貴重な先輩枠なのです。デスペからすると因縁よりもやはり越えるべき目標としての意識のほうが強く、そうしたリスペクトが込められていたのはいいですよね。

試合はやはりといえばやはり、高い壁となった石森が縦横無尽に攻め立てて、Bone Lockでタップアウト勝ちという完勝。今のデスペを持ってしても本気になった石森にはまだ及ばずといった印象で、だからこそまだ成長する余地があるというのがいいですね。外にばかり目を向けていたことへの批判が、石森の「俺だけを見ろ」で再び内に向けられましたし、生き急いでいても、新日Jr.が苛烈な生存競争であることに変わりはないということの証明にもなりました。第三次石森政権の目標はJr.版の絶対王者であり、すでに評価こそ固まっていても、そうした絶対王者イメージは言われてみれば確かにないかもしれません。いっそ最多防衛記録を塗り替えてもいいんじゃないですかね。それぐらいのポテンシャルは十分にあるんですから。

◼️第8試合 IWGP USヘビー級王座決定戦
棚橋弘至 vs 石井智宏

オスプレイのコロナ罹患で急遽決まった決定戦でありながら、カードに込められた文脈からはさほどブレておらず、危険な匂いの漂う一戦です。

棚橋にとってのオスプレイとの戦いは、SANADAとの蜜月に茶々が入った三角関係で、シチュエーションこそ今回と異なりはするのですが、裏の意味としては「今の棚橋が最前線の戦いにどこまでついてこられるか?」だと思っているんですよね。棚橋に対する信頼感にこそ差はあれど、ファン、アンチ問わずそれは誰しもが一度は胸に抱いたことのある感情です。現代プロレスの申し子であるオスプレイ相手だとそれがより際立つわけですが、その意味を大事にしつつ相手を石井にしたのは単純に上手いなと。困ったときの棚橋頼りと言いますが、それは石井も同様で、棚橋頼りに石井頼りをぶつけるという手堅い采配は見事としか言いようがありません。カードとしては名勝負間違いなしの安パイでありながらも、顔合わせは意外と少なく、独自路線を突っ走り個人ブランドを確立した石井は、ある意味では棚橋と同格とも言える数少ない選手でもあるわけです。

この場合の同格とは、選手としての格ではなく世代的な意味合いも多分に含んでおり、他選手だとどれだけ拮抗しようが、シチュエーションとしてはどうしても下からの突き上げになってしまうわけです。それは若獅子に追われる老獅子という分かりやすい物語へと帰結してしまい、オスプレイ戦のネックはそこだったのですが、そこに代役として石井を据えることにより、元の「最前線についてこれるか?」というテーマを踏襲しつつ、世代闘争という「逃げ場」を棚橋から奪ったんですよね。語弊を恐れず言えば、餓狼伝じゃないですが「保護された達人」である棚橋に対して堂々と上から目線で否定できるのは団体内だと現状は石井ぐらいなもので、同格というよりは同目線と言ったほうがより正確かもしれません。棚橋にとって同目線で競える相手というのはすごく貴重なのですよ。新日という国体や、志半ばで欠場してしまったSANADAの思い、そして応援するファンという様々な思いを背負ってきたプロレスの殉教者が、初めて己のために戦うという……。石井のコメントもそうしたシンプルな個人闘争へと誘うもので、あれは棚橋も内心嬉しかったんじゃないですかね。

そうした背景のせいか、二人の戦いは死闘を極めました。前述の「棚橋はどこまでやれるのか」は転じて「棚橋にここまでやるのか」へと容易に変化するわけで、ほんの一瞬のコンタクト、打撃の応酬の際の睨み合いで生じたヒリついた殺気の正体はまさにそれです。しかしながら寡黙な石井は「問う者」としてのスタンスだけではなく「石井にとっての棚橋戦」を思いのほか大事にしており、それはやや意外ではありましたね。そうした並々ならぬ石井の想いに対しての「怖ェ〜」という棚橋の軽薄なスタンスは実に「らしい」というか「いけず」というか(苦笑)以前の中邑のときもそうですが、追うときはご執心なくせに、追われた瞬間にラブコメ主人公ばりの鈍感さを炸裂させるのはいかがなものかと(笑)とはいえ、そうしたすれ違いが戦いを通じて徐々に融和していく過程が個人的にはとても面白かったですね。プロレスとはやはり「対話」であることを実感してしまいます。

試合のポイントは禁断の技である「イシイドリラー」を抜くかどうかに集約していき、これは二人のわかりやすい「共通の思い出」なわけなのです。これを出して受け切れたならば、試合に負けてもコンディション的な意味やプレミアム性では棚橋の「勝ち」かなと思っていたのですが、これは許しませんでしたね。それはやはりベテランが手癖でやる安易さに傾く危険性があったからこその拒否なのか、はたまた勝負論を重視するからこそ全力で防いだのか。いずれにせよ、ここをクライマックスの焦点にしたのは本当に凄いですね。

棚橋の石井に対する解答はやはりといえばやはり、徹底した「受け」にあり、ボロボロの状態で受ける姿はそれだけでヒロイックではあったのですが、それだけで空気の掌握を許すほど石井も甘くはなかったですね。棚橋のラリアットはシェフの気まぐれのような味付けで、たまに好んで使用する隠し技ではあるのですが、そこから恐らくは当人が嫌っているであろう技であるヘッドバッドや、直下式のブレーンバスターを引き出させたのはまさに石井ならではですよ。あれは石井のフォーマットであり、掟破りという形であれ、石井の要求に対する棚橋の満額解答ですね。先ほどイシイドリラーを受けたら結果に関わらず棚橋の勝ちと書きはしましたが、これを思想やスタイルの違う棚橋にやらせたのであれば、これは石井の勝ちだと思います。

ボロボロになりつつも、最後は圧巻のハイフライフロー。思想もスタイルも違えど、その技に込められたメッセージを受け取ったからこその試合後のマイクで石井に対する感謝があったわけで、甘えるときはとことん甘える人ですよね。代理戦争ではありつつも文句なしのベストバウトで、ここまで身体を張れば野暮なことは言いっこなしです。そしてそうした「査定」めいた視線を向けられることは、まだ彼が最前線にいる証でもあり、US戴冠と相成りましたが、遠く離れたIWGP戦線、そしていまだ巻いたことないIWGP「世界」ヘビーへの憧憬は、新たな目指す目標となる。先へ続く道がある限り、彼にエース以外の生き様は許されないのです。それは呪いなのか祝福なのかは分かりませんが、棚橋の神通力はいまだ生きていることが分かっただけでも、一ファンとしては一安心するしかないですね。

そんな余韻も束の間。試合後に乱入してきたのはまさかのジュース・ロビンソン!これには完全にやられましたね……。上手く騙したな、というのも野暮というものでしょう。ジュースの噂はそのときは僕にとっては紛れもない現実であり、プロレスとはリアルとファンタジーの境目を曖昧にし、現実を書き換えるものだったなと。ただそれだけの話です。

襲撃を受け、大の字になった棚橋は歓喜から一転しての悲劇的結末で、こうした姿は本当に似合いますね。正直な話、USヘビーはショートリリーフだと思っていますし、個人的にSANADAへの王位継承は済ませていると思っているので再戦を望みはしないのですが、ジュースにやられた棚橋の無念を背負ってのSANADAのUS挑戦という筋書きはコテコテながら燃えるものがあります。SANADAに足りないのって、何を隠そう物語性だと思っているので、この流れは大歓迎ですし巨悪となったジュースも楽しみですね。思う存分ナックルを振るって、それでKOしちゃってもいいんじゃないですかね。


◼️第9試合 IWGP 世界ヘビー級選手権試合
オカダ・カズチカ vs 内藤哲也


前回は因縁なき戦いというスポーツライクな幕引きではありましたが、短いスパンでの再戦となると話は随分と変わるものです。挑戦者たる内藤の、IWGP世界ヘビーに対して憧れを持たないアジテーションに、いつまでもスカしてんじゃねえという火の玉ストレートなオカダの返答。それでいながらジクジクとした不燃物のようなジェラシーはやはりあまり感じず、これはこれでシンプルな喧嘩という感じがあって悪くないですね。

話題性こそ乏しかったものの、いざゴングが鳴ればやはり新日を背負った両雄だけあって見入ってしまいましたね。神は細部に宿ると言いますが、内藤の受けは素晴らしいですね。デンジャラスな技の受けばかり話題になりがちですが、打撃の応酬での腕を振り上げての大仰な受けに、俯いての苦痛、顔を上げての気合いと、どれもがシンプルでありながらも他のどんな動きより雄弁です。毛の先から指先に至るまで、その全てが意思を物語っていて、オカダのダイナミックさを覆うように、内藤哲也が存分に表現されていました。段階的にダメージを刻むネックブリーカーと切り返しのDDTという首攻め一辺倒だったのも面白く、90年代の流行技がDDTなら、ゼロ年代以降の流行技はネックブリーカーなのでは?と思ってしまいました。この辺りはより詳しい有志の見解を仰ぎたいですね。地味に好きなのは内藤のスパインバスターで、一旦抱え上げて静止しつつ、勢いで叩き落とす二段式とでもいうべきスパインバスターはいいですよね。デスペといい、日本人の使うスパインバスターはわりとそうしたイメージのない選手が使うのもわりと面白いなと思ってしまいます。

両者の攻防も前回とはかなりトーンを変えてきており、再戦ならではのプレミア感に満ちていましたね。驚いたのはオカダの雪崩式パワーボムで、雪崩式をほとんど使わないオカダがこうした「安易」なハイダメージな技を使うというのも特別性があるのですが、雪崩式フランケンを切り返す形とはいえ、明確な「技」として使ったのは本当に意外でした。内藤に対する信頼でありつつも、こうしたスペシャルな技を出すあたり、絶対王者再びのオカダも恐ろしいものですね。

今回のような短スパンでの再戦の見どころって濃度と練度が増した「技」の応酬にもあるとも思っていて、単なる新技だけではなく、たとえばドンピシャで決まった内藤のデスティーノがほんの少しのカバーの遅れでそのまま勝機を逃してしまうという風に、リアリティの重みがあったのも良かった点です。切り返し偏重ではなく、レインメーカーに対して体勢が崩れるように逃れたりといった泥臭さもまた、この試合の魅力だったように思います。いやはや……それにしても出すとは思っていましたが、やはりスターダストプレスを内藤は抜いてきましたね。今回の試合は完全に決まりそうな流れでしたし、プレミア技として割り切った前回と違い、いつでもフィニッシャーとしても使えるという自由さが良かったです。普段使いするブランド物のような印象……とでも言うべきでしょうか。決まらずとも試合の空気を変えたならそれは明確な意味がありますし、当たらなかったことが悲劇性を帯びるならば、それは逆説的に技の価値を証明しています。前回も書きましたが、被弾の有無に関わらず、内藤がスターダストを放つその瞬間を超えるカタルシスはオカダを持ってしても超えられず、そこがオカダが唯一内藤の後塵を拝している部分なのかもしれませんね。

そんなオカダではあったのですが、互いに手詰まりとなった最後の最後でサプライズを用意してきましたね。デスティーノを切り返す形でのレインメーカーと見せかけてのレインメーカー式延髄斬り。猪木フォロワーと化したオカダが猪木技のチョイスとして選んだのが延髄斬りというのがまた憎らしく、代名詞技の一つでありながらも、猪木落日の象徴というネガティブな見方も混在する技で、猪木と世代的な距離感があるからこその技のようにも思いました。オカダにとっての猪木はそれこそ孫ぐらい離れていると言っても過言ではなく、憧れはあっても執着は抱かず、それは無垢な「なりきり」でしかありません。しかしながら、猪木"信者"ではなく猪木ファンという本来ならありえない呼称、つまりは非常に現代的な解釈ができるのもオカダだからこそで、その「囚われなさ」が逆に興味深いというか……。現新日は猪木脱却の成果ではあるのですが、ストロングスタイルとはウロボロスの蛇のような自己破壊性にあるというのが僕の持論であり、継承という「後追い」をする以上、永遠に猪木に辿り着くことはできないとも思っています。猪木イズムを否定し、再構築した棚橋は、それをやることで逆説的にストロングスタイルを延命させたとも思っていますが、そこから一周回って無邪気な憧れを抱くのがオカダというのも運命の悪戯めいていますよね。

そして卍固めか!?と見せかけてのバンプハンドル式のような形で放ったエメラルドフロウジョンのような変形ドライバー。ツームストン→旋回式ツームストン→開脚式ツームストンという技の進化の過程があったわけですが、こんなに早く進化するとは思いませんでした。エメフロ自体は以前に出したことはあるのですが、ここに来てそのエッセンスを取り入れていくというのも面白く、まさに最終形のような感じもありますね。そしてレインメーカーのセットアップがスムーズだったのも素晴らしく、そこから一気に正調レインメーカーへと畳み掛けてオカダ勝利。最後のスペシャルな技の連発は、内藤戦に掛ける想いを感じましたね。

試合後の「3回目でもめちゃくちゃ楽しかったよ」オカダのこの台詞はいいですね。戦い終わればノーサイド。そうした言葉すら軽く感じるような、因縁の果ての爽やかさ。もう互いにジェラシーには囚われない、本当の意味での好敵手になった印象さえあります。グラシアス!これに尽きますね。オカダと内藤、どちらが欠けても今の新日は成り立たなかったと思いますよ。内藤の張り手を闘魂注入と解釈したのもオカダらしいというか(笑)内藤を巻き込んだ50周年の猪木遊びでしたね。

オカダの試合後のマイクで気になったのは「"ゴールデン"ウィーク」と強調したことで、これは少し意味深に感じてしまいました。いや、単なる気の所為だとも思いますが……。深読みしちゃいますよねえ。

そんなことを色々と考えつつも、大団円……と思いきや、鳴り響くスイッチブレードのテーマ!もう乱入なしかな?と一瞬思ってしまっただけに焦らしが本当に上手かったですね。今のオカダを止められる唯一の可能性を持った男。ジェイ・ホワイトの乱入。そしてアンダーソン含めたバレクラ勢のリング占拠からの、バレットクラブ記念日としてバッドエンドで今回は幕引きとなりました。いや、個人的には超ハッピーエンドなんですけどね(笑)ジェイ・ホワイトがリーダーとして存在し、ジュースも加入した新生・バレクラでありながらも、その傍にファレとアンダーソンがいるならば、オリジンとしての正当性もありますし、歴史上最高のバレットクラブと言っても過言ではありません。何よりバレクラ関連のストーリーが一気に結実して動き出したことの興奮がヤバくて、最高に絵になる幕引きでした。新日本プロレス、ようやく本気を出してきましたね。







久しぶりに書いたらめちゃくちゃ長くなってしまいました。これからもマイペースに更新していきますので、また感想とかあればよろしくお願いします。ではでは。今日はここまで。