2024.7.20 新日本プロレス G1 CLIMAX 34 大阪・大阪府立体育会館 開幕戦 試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。今年もこの時期がやってきましたね。普段は気ままに更新しておりますが、G1のときは全戦レビューをやってるので毎年夏は忙しくなるのですよ。では前置きもそこそこに、本日もやっていきましょう。

◼️第1試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
ボルチン・オレッグ vs 成田 蓮

棚橋、タイチといった大物を倒し、出場者決定トーナメントからヤングライオンのまま勝ち上がって初出場を決めたボルチンに期待が高まります。新入場曲に新コスチュームと、実質的なヤングライオン卒業であり、ここからがボルチン物語の本当の始まりですね。その怪物的ポテンシャルは折り紙つきではあったものの、レスラーの評価としては今までは良くも悪くもヤングライオンなのに!?という驚きが一つの売りではあったわけで、それがなくなるのは本格的な独り立ちであるとも言えるわけです。

ボルチンへの周囲の期待感のデカさに反し、それと比較すると成田は逆に想定より過小評価されてるな、というのが正直な感想で、昨年と比較すると試合構成や立ち回りはだいぶ洗練されており、動きに澱みがなかったです。序盤の鉄柵ホイップはボルチンの巨体も相まってド迫力かつ空間を大きく使えていましたし、ヘッドロックからのロープでの顔面擦り等のオールドスクールかつダーティーな所作もだいぶ板についてきましたね。コスチュームもロングタイツに変更していて、古典的なヒールのテクニシャンのような感じになっていました。あとこの試合で多用していたフロントハイキックも見所で、やや打撃に難があった部分が改善されていたのもポイントですかね。

成田はボルチンの腕に絞っての攻め。体格差や相手のパワーを考えると納得で、アームロックに脇固め。途中ボルチンに抱えられるも、アマレスの素養を生かして転がすと再びの腕ひしぎ。この辺りは上手いですよね。ストロングスタイルを完全に捨て切ることはなく、そこにダーティーな部分を織り交ぜたストロングスタイル・ヒールとでもいうべきスタイルは成田が見出した方向性で、これはわりといそうでいなかったタイプです。今までは立ち位置やキャラはヒールでも、スタイルはストロングスタイルといったタイプや、基本はダーティーで時折ストロングスタイルのナイフを抜くタイプとかはいたのですが、ここを融合させようとしたレスラーはちょっと思い浮かばないですね。

あと、技の神通力がそれなりに備わってるのも見過ごせない所で、ヒール転向前に使い出したギロチンニーのと断頭台は名前もあってかヒール転向後に使っても違和感はなく、ボルチン相手にダイビング式の地獄の断頭台として使ったのも素晴らしいですね。そこから間を置かず再三の腕ひしぎ……いや、成田、本当に良くなってないですか?キャラクターのせいか小物のように見えるかもですが、中身はやはり熱い魂を持つ若武者なんですよね。

しかしながら恐ろしきはボルチンで、怪力で極まりきってない腕ひしぎを抱え上げて解くと、そのまま振り回してのバーディクト!自分はやはり竜巻のスケールであるF5と言ってしまいますが、商標の関係もあって新日ではこの「評決」という名前ですね。レスリングベースの怪物といえば次代の大物と呼ばれたブロック・レスナーで、それが理想像としてあるのは間違いないのですが、やはり一世を風靡した技とあってインパクトは絶大です。

そこから間を置かず、カミカゼで成田轟沈!技の格でいえばカミカゼ→F5が妥当ではあるのですが、使い手としてのオリジナリティでいえば逆順が望ましく、これはツームストンとレインメーカーの技の格の位置付けを逆転して使っていたオカダメソッドでもあるわけです。F5があるから後のカミカゼが映えるわけで、全体重を乗せての躍動感のある一撃は説得力がありますよね。いやはや……ボルチン素晴らしいですよ。ようやく怪物が産声を上げた感じがあります。



◼️第2試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
海野 翔太 vs カラム・ニューマン

キツい言い方をするなら試合内容としては凡戦で、海野は腰の怪我からの復帰もあってか、身体の緩みや動きに精彩を欠いた点が目立ちましたね。キャラクターの華と入場パフォーマンスは頭抜けているのは間違いないのですが、レスラーとして現時点ではそこがピークで、試合内容はやはり厳しいものがあると言わざるを得ません。カラムはまだ粗さが目立つものの、トップスピードは素晴らしく、レスラーとしてのタイプは似てるようで異なるものの、名車であるオスプレイの後継機としては申し分ないですね。海野と比較すると技で歓声が上がるか否かが分水嶺になった印象もあり、そこが違いとしてクリアになった気はしますね。ただ、海野の負傷箇所を攻める「残酷さ」は思った以上にカラムには似合わず、ここは少し噛み合わせが悪かったように思います。

海野はレスラーに憧れ、志した他のレスラーと違い、その出自もあってかリングは遠い場所ではありませんでした。デビューして凱旋帰国して、未だなお憧れの渦中にいるような感じがあり、等身大のようでいて自分が憧れるレスラー像を再演してるような印象を受けます。プロレス好きな幼少期にゲームでクリエイトしたオリジナルレスラーのような感じというか……。ファイプロ脳で言うなら対角線中央の技がやや多すぎで、ブレイズブレイドにイグニッションと、その技の性質上、距離と間合いを取りすぎなんですよね。とにかく見せ場優先というある種の軽薄さが受け付けない人が多いのは理解できます。

しかしながら、個人的にはプロである以上試合評価が付き纏うのは仕方ないとしても、厳しく叩きすぎるのも少し思う部分があり、なんというか、自分のようなプロレスをそれなりに見てる自負のあるおじさんがついつい苦言を「言いたくなる」部分がとにかく目につきやすく、そこはある程度差し引いて考えておいたほうがいいように思います。逆オヤジ転がしとでも言いますか……。いかにもな言いたくなる若者像なんですよね。

あと「団体が推したいのは海野」というのがファンの共通認識として広まりつつあるのは海野にとってはかなりの逆風で、団体が推すレスラーに素直に乗りたくないファン心理もありますが、それ以上にその評価ってつまるところは「認めてない」ってことと同義なんですよね。そりゃキツいししんどいわなという話なわけで、期待されているというのとは全然違うわけなのですよ。現状の年齢だと海野の今の評価はやや叩きすぎな気もあり、中邑や棚橋も海野ぐらいの年齢だとあんな感じだったんですよね。

彼にとっての不幸は同世代が怪物揃いなことと「海野でなくてもいい」というぐらい新世代が豊作なことで、せっかくの復帰戦なのにイマイチ上がらない歓声や期待されてない感は見ててかなり苦しいものがありました。トップに立つための通過儀礼と割り切るにはやはり厳しすぎる空気で、プロレスの主流や風潮そのものを丸ごと作り変えた棚橋や、うだつの上がらないベビーからロスインゴ化で一気に風向きを変えた内藤といった先達がすでにいるのも厳しく、進む道が未踏ではなく先人によって開拓済みという悲哀があると思います。超えられない偉大な壁がいる新世代というキン肉マンⅡ世状態というか、すでに物語が残されていない桜庭一樹の赤朽葉家の伝説という小説のような感じというか……。

とはいえ、今は修練あるのみで、こうした難点は場数と経験でどうにかなるのはプロレスの歴史上間違いのないことなのです。見方を変えればキャラとしてはほぼ入場含めて仕上がっているのは非常に大きなアドバンテージで、ここがどうにもなってないレスラーも多い中で、これはやはり天性の部分がデカいんですよ。レスラーである以上試合内容が全てではあるのですが、ここさえどうにかなれば一気に化けます。今は見守りましょう。

◼️第3試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
エル・ファンタズモ vs HENARE

いい試合でしたね。ファンタズモはGODとの離別というストーリーが背景にあるせいか覇気はあまりなく、あの明るいベビーズモを思うと心が痛みます。対するHENAREも死の淵からの生還からNEVER戴冠という物語があり、この両者のストーリー性って作られたものではなく、リアルの部分が大きいからこそ見応えがあり、外国人選手同士でここまでの物語を紡ぎ、リング上に昇華させたことが素晴らしいですね。

そうした感情によるドライブがあったせいか試合内容は素晴らしく、HENAREの強靭な肉体とパワーをズモの躍動感が引き延ばしていて非常に面白い試合でした。ズモはタッグ戦のイメージもあってか、サンダーキス'86の格が少し上がった印象もあり、ヒール時代に猛威を振るったサドンデスもあってか技の周知が行き届いた感じがあります。

最後はほぼフィッシャーマンバスターと言ってもいいStreets of RageでHENAREの勝利。終わってみれば盤石で、当初はプロレス打撃技の格闘スタイルだったのが、今はマオリの戦士として完全にイメージを確立しましたね。王者らしい試合運びであり、NEVER路線を継ぐ者としての風格も確かに感じました。ボルチンや竹下との戦いも見たいですね。


◼️第4試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
グレート-O-カーン vs ザック・セイバーJr.

オーカーンが心に残るG1の試合として挙げてきたザック戦は素晴らしく、うるさ方の闘魂おじさんも納得のストロングスタイルの試合でした。今回の試合はそれをブラッシュアップさせた拡張版というような内容で、あのときの試合ほどマニアックかつ尖った試合ではなかったのですが、その代わりにレスリング勝負だけでなく打撃戦があったのはよかったですね。MMAに常在戦場とでと言うべき場外での乱打戦のような喧嘩めいた戦いといった贅沢仕様で、ちょっとブラスポ感なかったですか?全体的に独特な空気感があって面白かったです。

しかしながら最後は一瞬の隙をついてのザックドライバーでザックの勝利。オーカーンの巨体を軽々持ち上げるあたりに投げの「理」があるというか、ザックの試合は知的な喜びに満ちています。個人的にはザック優勝は大穴で、でも内心で一番優勝して欲しいのはザックなのでこのまま一気に走り抜けて欲しいですね。

◼️第5試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
後藤 洋央紀 vs ジェフ・コブ

G1出場最年長かつ、あの後藤ですらもはや古豪の扱いになる辺りに時代の流れを感じます。CHAOS参戦は後藤一人であり、また同世代もいないリーグ戦。しかしながらコンディションはすこぶる良く、若手推しが公言されたG1の中でのベテランの意地を感じたのがよかったですね。

そんな中で戦う相手のコブは誰が見てもハードかつ難敵ではあるのですが、そんな思いを払拭するかのような豪快なラリアットの撃ち合いに魂が震えてしまいました。ラリアットの乱発って言ってしまえば安易であり、昔はここも批判されていたように思うのですが、若さに任せた勢いでやっていた昔とは違い、加齢というリアルな部分を経てからの真っ向勝負は文字通り意味合いが違うわけで、むしろその曲げない姿勢こそ生き様と呼ばれるものなんですよね。同じ技、同じムーブでも年齢によって意味合いや文脈が変わってくる好例であると思います。

技といえば、後藤の好きな技って昇天・改を挙げる人が多く、フィニッシャーの変更が低迷の始まりとまで言う人すらいるのですが、個人的にはこの論にはあまり乗れず、昇天・改がフィニッシャーだった時代って7割〜8割やられまくって、大技で逆転するという「耐える後藤像」にあまりにも縛られ過ぎていたとも言えるんですよね。ブレーンバスターの体勢になって返されたときの落胆が思った以上に後を引いていたというか……技としてはいいのですけど、レスラーとしての幅は間違いなくGTR実装以降のほうがいいと思います。

単なる力任せの撃ち合いだけでなく、この試合でも荒武者プランチャや途中に見せた後藤弐式のようなテクニカルな押さえ込みといった業師の側面も素晴らしく、剛柔備わった今の後藤は劣化するどころか今が全盛期と言っても過言ではないかもしれません。

ただ、相手はやはり怪物。ブレーンバスターの体勢から抱え直してのツアーオブジアイランドでコブの勝利。いやはや……力負けした印象こそないものの、後藤をねじ伏せたコブのパワーは凄まじかったですね。

◼️第6試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
SANADA vs ジェイク・リー

ジェイク、シルクハット入場でなかったのは非常に残念ではありますが、セクシーなバレクラ仕様のロングタイツや厳かな入場曲も最高で、キャラクターが新日マットだと驚くほどハマっていましたね。SANADAの仕上がった肉体と合わさってリング上がスケベすぎて笑ってしまいましたwとはいえSANADAと相対するとやはりその圧倒的な長身は目立ちますし、強敵感がちゃんとあったのが良かったです。

そして試合内容は脅威の5分以内決着!ジェイクにとってはデモンストレーションに等しく、それだけにインパクトは絶大でした。仕掛けの早いチョークスラムは将棋で言うところの急戦棒銀のような感じで、それを見てSANADAもラウンディングボディプレスやシャイニングウィザード、オコーナーブリッジで試合のペースを急加速させたのが良かったですね。

しかしそんな応酬の最中、唐突に決まったFBS!コーナーにもたれかかること即ち死地となる一発であり、NOAH時代もそうなのですが新日でも他に例がない場面での決着なのでインパクトは絶大でしたね。被弾後のSANADAが微動だにせず前のめりに崩れ落ちたのがやけにリアルで、これが不意打ち感が際立ってて良かったですね。昨年は対清宮の最後の砦でもあったSANADAが、今度は元IWGP王者の瞬殺劇となって散ってしまう衝撃。ジェイクは台風の目になりそうですね。

◼️第7試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
上村 優也 vs デビッド・フィンレー

G1初出場の一戦でしたが、上村の試合は非常に良かったですね。オールドスクールなアメリカンスタイルがフィンレーとかなり噛み合っていて、見応えのある好勝負でした。

上村は使う技のチョイスが非常に僕好みであり、奇抜な技をやることなく、プレーンでシンプルでベーシックな技が多いのもいいのですが、やはりアームドラッグという銭の取れる「一芸」があるのが大きいですよね。あと試合のテンポ感や試合構成も現代新日本というよりは一昔前の新日本という感じがあって、昔から見てるファンはわりと馴染み深く見やすいというのもあるかもしれません。懐かしいとまではいかないんですけど、好きだったころのプロレスの空気があるというか。今のプロレスも嫌いではないんですけどね。

フィニッシュになったのはフランケンシュタイナーで、上村は武藤ばりにここからの腕ひしぎでギブを奪ったりもするのですが、フランケンシュタイナー単体でもフォールを奪ったあたりが憎らしく、ここら得意技はありつつもフィニッシャー完全固定というわけでもないあたりが素晴らしいです。拘りすぎず、勝てるときにそのまま勝つ気概とリアルさとでも言いますか。キャラクターの味付けは新世代の中では一番下かもしれませんが、試合内容単体でキャラクターとその魅力が伝わってくるのがいいですよね。

この試合は良かったのですが、現状の上村は相手が強ければ強いほど光輝く少年漫画的な判官贔屓がありつつも、そのイメージ一辺倒だけではこの先は少し厳しいというか「喰らいつく熱い若者像」から脱却できるか否かが今後の成長課題の一つであるとも思います。いい意味での若手らしさや新世代感は存分にあるものの、裏を返せば背負う重みを一番感じないとも言えるわけで、それは令和闘魂三銃士から外された故の自由さかつ等身大の魅力であると同時に、何を背負えるかと何を今後見せていくかの方向性がいまだ不明瞭であるという難点でもあるのです。厳しいですかね?でも期待の裏返しとして捉えてくれると幸いです。推しのいない今回のG1、地元での大会は僕は上村を見に行きますので。試合内容はこれなら申し分ないです。あとは是非とも頑張って方向性をしっかり見定めて欲しいですね。

◼️第8試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
ゲイブ・キッド vs “キング・オブ・ダークネス”EVIL

バレットクラブでありながらHOTの狼藉に怒り狂ってるゲイブという構図がまず素晴らしく、その根底には偏執的なまでに狂った新日愛とストロングスタイルへの異常な執着があるというのがいいですよね。ゲイブ以上に闘魂を感じるレスラーは今の新日にはいませんよ。ストロングスタイルを標榜するなら、その対極に位置するEVILが許せないのは当然で、言ってしまえば狂気的な解釈違いなんですよね。

試合は早々にゲイブがディック東郷を排除し場外戦に傾れ込む荒れ模様の展開となりました。そしてそんなゲイブを後押しする大阪の尋常ならざる熱気!昨年の清宮戦とは比較にならず、今年一年で一気に格を上げましたね。対するEVILも受けっぷりの良さを発揮しつつ、対角線からのラリアットなどヒール転向前の真っ向勝負のEVILの側面を出してきたのがよかったです。HOTのやり口は賛否はありつつも、その悪行が定着したからこそ今回のような変化球が生きてくるわけで、茶番だ劇場だと揶揄されつつも、そうした型が崩れたときにこそヒールとしての真骨頂が発揮されるんですよね。

しかしながら最後はレフェリーを突き飛ばしたのが仇となり、スポイラーズチョーカー、ローブロー、マジックキラー、EVILとフルコースでダーティーにEVILが勝利。最後はやや尻すぼみかつ型にハマりすぎたきらいもあり、欲を言えばあとワンアクション欲しかった気もしますが、それだけこの試合がレベルが高かったということでしょう。ワーストバウトなんてとんでもない。ここは悪としての貫禄を示した形となりましたね。それでいて悪の新世代の壁ともなる。EVILは最高です。


◼️第9試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Bブロック公式戦
辻 陽太 vs KONOSUKE TAKESHITA

海外でのキャリアを活かしての竹下のG1参戦はAO入試合格のような感じがありますよね。周りが部活動の高校生大会をやってる中で一人だけアメリカ留学をしているような……世界を見据えてのその行動はまさに新世代のトップランナーたる風格があります。対する辻は新日本の新世代の中ではまごうことなきNo.1であり、昨年の清宮戦といい最初の切り込み隊長を務めるというのは新日を背負う気概を感じさせます。

しかしながら並び立ってみると体格差は歴然で、身長もそうなのですが竹下は筋肉のつき方からして違うんですよね。その厚みと纏う怪物的なオーラと色気。これに空気感で負けてない辻もまた凄いのですが、それでも一見してレベチなのが伝わってくる凄みがあります。

その身体ポテンシャルを活かしてのノータッチトペや恐ろしく重いエルボーで攻める竹下に対し、辻は持ち前のルチャ殺法で対抗。ノータッチトペの返礼に普通のトペではなくトルニージョを見せたのはかなりの意地を感じさせました。他は負けててもこの部分ならギリギリ勝る。そうした「あがき」には心が震えてしまいますね。

目を見張ったのはスパニッシュフライのシーンであり、これは一度竹下が崩れ落ちて未遂に終わったわけですが、これに辻は拘りましたね。技の失敗からのやり直しは個人的にはかなり否定的なのですが、ここのシーンは少し見方が違い、どうしても怪物・竹下にこの技を決めたい。ド迫力のヘビー級の二人で宙を舞い、モノが違う二人なんだということを見せたいという気持ちの強さを感じてしまい、ここのシーンは感じ入ってしまいました。この技に関してはたとえ失敗したとしても完遂することに意味があり、それはある種の青春と呼ばれるものだとも思います。

明らかに自分より身体スペックが上で、かつ実績も序列も格上である相手との戦い。普段はクールかつスマートに振る舞ってる辻が普段見せない素顔が垣間見えていて、当初の思った以上に奮戦したなという印象が強く、辻は本当によく頑張ったなと思います。

しかし最後はジーンブラスターにピンポイントで膝を合わせられ、ブルーサンダーから旋回式ファルコンアローことレイジングファイヤーで竹下の勝利。辻の獅子奮迅とでもいうべき活躍で喰われはしなかったものの、終わってみれば完勝とでもいうべき試合内容。怪物vsバケモノの戦いでしっかり決着がついたのも素晴らしいことなら、一気に今大会のベストバウトを持っていったのも素晴らしいですね。誰がこの新世代の怪物を止めるのか。値千金の首を誰が取るのか。Bブロック最注目の男は竹下で間違いないですね。

◼️第10試合 30分1本勝負
『G1 CLIMAX 34』Aブロック公式戦
内藤 哲也 vs 鷹木 信悟

5年前のシングルの記憶が色濃く残る一戦ながら、現状の内藤は王者にしてはやや厳しいコンディションで、かなり苦しい戦いとなりましたね。この試合は不調というより、目や膝といったコンディションを慮って出力を意図的に落としていた印象もあり、受けの比重が多めでのらりくらり受けてたような感じもあります。今の壮年から中年に差し掛かった内藤はわりと魅力的で昔より今のほうが色気や哀愁があると思うのですが、それでも動きは結構厳しいものがありますね。

動けるプロレスこそが至高といった価値観は今の新日ではかなり根強く、ちょうど棚橋が王座を巻いていたときにはそうした批判は数多くあり、それを築き上げたのは対角線に立っていた内藤、ケニー、飯伏あたりなんですよね。それが時を経て同じように今度は言われる側に回ったというのは業の深さを感じます。

ただ、これらの批判は半分は仕方のない部分もあり、そうした動けるプロレスのイメージが根強いからこそ、出力を落としたり技のミス一つ取っても必要以上に動けていないと言われる部分もあるわけで、これからはこうしたイメージとの戦いになると思います。スタイルチェンジが最適解だと思いますがその難しさは飯伏もインタビューで語っていた通りで、やはりそのイメージを覆すのは至難の業なわけですよ。ファンの期待がある以上、どうしても過去の動きを再演しようとしてしまうわけで、そうなるとファンとして期待を賭けてしまうことに罪悪感を覚えてしまう側面もあり……この辺は本当に悩ましく、色々と寂しく、悲しいものもありますね。

あと、当人の責任にない部分として、立場や役割の重さが必要以上に重く、若干のキャパオーバーになってる部分もあると思います。元々、2010年代は棚橋オカダ内藤の時代であり、そこから一番若いオカダが抜け、棚橋が社長業との兼業で実質的に一線を退きつつある現状、旧世代の顔役として一人で三人分の負荷を一身に背負ってるわけなのですよ。たとえばモクスリー戦にしたって格や序列で釣り合うのは内藤ぐらいなもので、ビッグマッチとなるとどうしても現状は出張らざるを得ないんだな、と。新世代の台頭と引き換えに旧世代の限界が思ったより早く訪れたのが今の新日の難点で、時の流れが解決する問題ではありつつも、ここ2〜3年はわりと厳しいんじゃないかと思います。オカダの抜けた穴って思った以上に大きいんですよね。あとやはりIWGP世界ヘビー級王座は重荷であるとも思います。

そんな中での内藤の生き様を今はただ追うだけです。最後は鷹木ドライバー'98から叫ぶ内藤を黙らせたスライディングエルボー、そしてラストオブザドラゴンで鷹木の勝利。あの内藤の咆哮にはちょっと思う部分がありましたね。IWGP世界ヘビー級王者としては厳しいスタートとなりました。まだ開幕戦。内藤がどうなるのか。それも含めて見守りたいと思います。





久しぶりというのもあって一万字近い内容となってしまいました……。ここから地獄の連続更新の日々が始まります。もし良かったらサポートよろしくお願いします。励みになります。がんばります。ではでは、また明日会いましょう。

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