暗転ーー……2020.7.12新日大阪城大会試合雑感

お久しぶりです。もるがなです。書いたり書かなかったりを繰り返してるプロレス雑記のnoteなのですが、書く時は常に何かが起こった時で、それ即ち衝撃的なことがあった場合、ついつい筆が走ってしまいます。コロナ禍がまだ色濃く残る新日マットで、ようやく訪れた有観客試合。誰もが待ち望んだその興行は、まさかの結果に終わりました。さてさて、あまり前書きで引っ張るのは好きではないので、いつも通り気になった試合をピックアップして雑感を書いていきましょう。

NEVER無差別級選手権試合
鷹木慎吾vsSHO

昨年のBOSJがこの二人の因縁の始まりでした。名勝負数え歌というのはある程度の意図はあれど、基本的には偶発の産物で、この二人は予想以上に手が合っていましたね。当初は格とキャリアの差で完敗したSHOなのですが、前回のNJCで見事鷹木超えを果たしました。新技による安易な鷹木超えではなく、筋肉の増量と技の切れ味という基礎のベースを鍛え上げたことがその勝因で、即ちここからが本当のライバル関係の始まりというわけですね。

SHOの鷹木相手の勝利は非常に重く、レスラーはたった一戦で大きく化けることがあります。鷹木戦がそのきっかけになったのは明白なのですが、当然のことながら、一度勝っただけでは単なるフロックで、挑戦者としての立ち位置を克服したことになりません。二度勝たないと、本当の勝利ではないのです。

対する鷹木も、王者である以上、一敗の意味は他のレスラーより重く、また簡単に超えられては壁ではなく単なるハードルです。そう思わせたことがSHOにとってはしてやったりで、想定された王座戦のための敗北という印象はなく、純粋に負けたというのがより因縁を深くしていて僕は好きです。

SHOと鷹木のライバル関係が他と違うのは、両者の格やキャリアに差がありつつもライバル関係になっており、そこに世代闘争めいた意味合いがない点ですね。これは数多あるライバル関係の中でもかなり珍しく、キャリア、年齢、格のどれかが上だと中々対等にはならないんですよ。新日だと古い話になりますが、山本尚史(現ヨシタツ)ls崔リョウジという名勝負数え歌がありましたが、ちょうどあんな感じですね。同団体内の選手だとどうしても「意味」が生まれやすく、そうした不純物のないライバル関係というのは他団体の印象が色濃く残る選手相手でないと成立しないのかもしれません。

試合はまさにハイボルテージで、様子見はあまりなく、体の動く限りの真っ向勝負という非常に気持ちの良い一戦でした。そのチャラさを批判されることの多いSHO&YOHなのですが、ことこういう分かりやすい熱さを出せるのがSHOの魅力で、浅いキャリアながらも明日を省みない突貫ファイトは次世代のホープとして非常に共感しやすいものがあります。単なる技見せに走り過ぎることがなく、戦局に応じた最善手を突き詰めていったタクティクスな部分も面白く、バリエーションに富んだ腕攻めや、途中に見せた突進した高木をスカしてロープの反動を活かしたジャーマンなど、閃きも冴え渡っていました。

対する鷹木も遊ばせすぎることなく、SHOの攻め手を真っ向から受け止めていましたね。ただその印象は小僧っ子に対し遊んでやった前々回と違い、SHOを一人の強敵として認めた感じの受けっぷりであり、そこに余裕の表情はありませんでした。それでいながら時に老獪で、エースを何度も張った男は伊達ではありません。意味合いは違えど、最後は鷹木の完勝に終わりました。届いたと思えばまた遠のく……しかし今回は両思いで、続きをさらに期待するなら、次の舞台はひょっとしたらドームかもしれません。

IWGPタッグ選手権試合
棚橋&飯伏vsタイチ&ザック・セイバー

ゴールデン☆エースは華やかさに極振りしたスペシャル感のあるタッグチームで、実力も拮抗しておりながら、シングルプレイヤー同士のタッグというのが大きいですね。どうにもタッグチームの独壇場になってたIWGPタッグ戦線のイメージを変えるにはピッタリのタッグだと思います。

対するタイチ&ザックは鈴木軍で、分かりやすい勧善懲悪の図式です。トーナメント戦がタッグ戦線の前哨戦めいた形になったのは賛否が分かれるとは思うのですが、リベンジ戦という建前は非常に明快で、それぞれが個々として独立しつつ、試合の分かりやすさを維持するというのが、ひょっとしたら今までのIWGPタッグ戦線に欠けていたものかもしれません。

試合当初は善と悪の秤は平等だったのですが、試合の雲行きが怪しくなるに従って悪へと大きく傾いていきます。結果を先に言うならゴールデン☆エースは文字通りの惨敗で、まさかここまでになるとは思いませんでした。試合を決めたのは実質棚橋を羽交い締めにしてのザックのドラゴンスクリュー連発であり、膝に爆弾を抱えた棚橋の悲壮感も相まって非常に凄惨な光景になりましたね。タイチはファイプロ弄りやTwitterでの発言から、コミカルヒール寄りに見られることがあったり、試合で見せる王道ムーブのエモーショナルさから、ヒールらしくない人気もあるのですが、そこの部分の軌道修正をしつつ、お遊びのない明確な「悪」として改めて存在感を示したのは非常に大きいと思います。勧善懲悪の図式を期待させてからのバッドエンドはよくある光景ではあるのですが、今回はそれを超える「処刑」の様相を呈しており、ライガーが連呼する選手生命の危機という言葉も相まって、その「ざらつき」が非常にビターな味わいとなって残った試合でした。分かっていそうで分かっていなかったのですが、タイチは紛れもない大型ヒールだと思います。

IWGP&インターコンチネンタルダブル選手権試合
内藤哲也vsEVIL

恐らく一番物議を醸し出した試合であり、また内藤陥落という衝撃的な試合でもありました。今回久しぶりにnoteを書こうと思った要因になった試合でもあります。

最初に書きますが、僕は今回のNJC優勝の予想は大きく外しました。本命石井、対抗棚橋、大穴ヒロムという予想だったのですが、オカダの躍進と対抗馬のEVILは全然読めなかったですね。また、これらは内藤の長期政権を想定した予想であったため、終わってみればEVERYTHING IS EVIL……全てはEVILだったことに改めて気づかされたわけです。

言い訳になりますが、元々EVILのブレイク自体は昨年のキャスでも話した通りある程度予想はしていて、EVILプッシュの噂を聞いた時は「やはり……」と思ったんですよね。ただ、噂は噂で終わってしまい、そこからEVIL自身のポテンシャルは認めつつも、どこか信じ切ることができなかったわけです。理由は明確で、プロレスファンというのは「格」に対する純然たる意識があり、僕もまたそれに囚われていたわけです。その「格」に対する意識を裏切ることがプロレスの意外性に繋がったりもするのですが、蓋を開けてみるまでは吉と出るか凶と出るかは分からないものです。よくブックだのアングルだの賢しげな言葉を使いたがる人もいますが、結局のところはやってみるまで分からないのがプロレスの一つの醍醐味なのです。プロレスとは残酷なもので、華があろうが才能があろうが体格に恵まれていようが、それだけでは成功を約束しません。最後のピースである「天運」がないと、真の栄光は掴めず、持ちうる全ての才能を投げ出して、ようやく得るか失うかの選択権を得られるものなのです。EVILは今回文字通り手段を選ばずに全てをそれにベットし、結果として「賭け」に勝ちました。言葉にすれば容易いですが、下手すれば積み上げたものが一瞬で崩れるため、誰でも容易にできることではないのです。

今回の衝撃は下馬評に一つの要因があります。NJC初優勝はしたものの、EVILに向けられたファンの視線は一言で言うなら「曖昧な寛容」でした。王座を失えど尚新日のエースとして君臨するオカダを反則三昧で倒し、バレクラ入りで明確にヒールターンを打ち出したのに、向けられた視線はどこか優しく、その殆どはロスインゴでイマイチ芽の出なかったEVILのステップアップを期待する声だったわけです。その証拠に、普段なら荒れる新日公式Twitterのリプ欄も、ロスインゴ脱退を惜しむ声や反則に対する批判はあれど、半分以上は激励の声でした。いくらEVILが好かれていようが、しでかした悪行との釣り合いがとれておらず、またステップアップを期待されてるのは舐められてる証拠であります。個人的にここはかなり不安感がありましたね。

あとはやはり、バレクラ内でのEVILの立ち位置に自信が持てなかったというのもあります。同ユニット内にはKENTAとジェイ・ホワイトがいる関係上、その二人を押し除けて目立つのは現状のキャラでは相当に難儀で、せっかくのヒールターンでも、下手をすれば格や位置付けはロスインゴ時代と変わらないのでは……という懸念がありました。そうした不安感もあり、せめて内藤を倒して二冠を巻かないとやった意味がないと思っていたわけですが、それは後ろ向きな考えだったんですよね。

そうして迎えた肝心の王座戦なのですが、大方の期待通り、EVILは風貌を変えてきました。ギミックチェンジ、という大袈裟なものではないのですが、コスを変え、入場曲を変え、ダークネスなキャラクターをより怪奇方向に煮詰めましたね。元々、EVILのキャラクターには賛否両論あり、怪奇ギミックを見慣れたマニアの評価は厳しくて失敗扱いする人も多く、あまりウケが良くなかった記憶があります。ただそれ以外には概ね評判が良く、会場での入場シーンやグッズ展開、わかりやすいフレーズも相まって、キャラクター込みで意外と人気だったりもするんですよね。今回どうするかは結構気にはなっていたのですが、持ち味を殺さずにより研ぎ澄ます方向にしたのは、このキャラクターでメシを食ってきたEVILの意地が垣間見えてとても良かったと思います。

試合のトーンが変わったのはEVIL大好き侍だったミラノとの決別シーンで、大鎌のグッズを目の前でヘシ折り、激昂したミラノを問答無用で鉄柵へと放り投げたシーンにはゾクゾクしました。EVIL悪堕ちによるミラノの涙は微笑ましく受け止められていたのですが、ここで暴行することによって半分ネタめいていたやりとりを一気にシリアス方面に舵を切ったのは凄いと思います。他のレスラー解説者が攻撃されるならともかく、ミラノは現役を退いて長い上、手を出すのは「禁忌」として見られていた雰囲気もありました。それは実況席というファンに近い世界の住人という証でもあり、影響はあれもリング上の登場人物とは違うんですよね。そこに対し手を出すというのは文字通りの侵略で、TVから手が出てきてブン殴られたような衝撃でした。何よりも、観客にコロナを忘れさせた大ブーイングを引き出させたというのが大きいでしょう。

内藤も反撃を試みますが、今回の試合は王者側のリーアクションは薄く、内藤自身も裏切り者に制裁するのか、それとも勧善懲悪にするのかで二の足を踏んだ感じがあります。その薄さは王者としてはどうかと思う反面、その戸惑いや悲しみ、根底にある状況を楽しむ大胆不敵さは非常にリアルで、ロスインゴファンの観客心理に非常に近いものがあるんですよね。その辺がオーバーリアクションで能動的に煽るオカダとは対極的で、内藤は受動的に観客に感情移入させるタイプの選手なんですよね。今回は攻めというより受けのほうが目立ち、特に断崖でのニークラッシャーやその後のサソリに耐える痛々しさなどは目を引きました。

特にEVILのサソリは準フィニッシャーとしての格があり、また見栄えも重心が低く非常に良いものとなっています。EVILはその受けっぷりやスタイルや風貌に見合わない小技の巧さが特徴として挙げられますが、地味に一番凄いのは使う技に「背伸び」が一切無いことなんですよね。ラリアット、セントーン、サソリ固めと、どの技もスタイルとピタリと符号しており、無理に派手な技を使ったり体格に見合わない技を使うということがなく、かなり高い水準でまとめられています。実はこれができているレスラーは非常に少なく、トップ級の選手でも当人のイメージや体格に合わない技を一つ二つは使ってたりするんですよ。それが一切無いというのは、いい意味で身の丈を知っていることの証左でもあり、僕がEVILを評価する点でもあります。

そして大事なクライマックス。今までEVILがいまいちブレイクしきれなかった原因の一つに「終盤力の弱さ」があります。フィニッシャーであるEVILはカウンターとしても万能で、ジャイアントキリングに違和感のない技ではあるのですが、その前のフィニッシュ間近の攻防は、ラリアット一辺倒に偏りがちという欠点がありました。端的に言えば展開の幅が非常に狭く、序盤〜中盤こそ小技の多彩さが光るものの、終盤に尻すぼみになる悪癖があったんですよね。今回ヒールターンしたことでそこを乱入という形で補いつつ、金的やレフェリー誤爆などをインサイドワークの巧さで見せることでかなり改善してきました。そして二重構造の乱入劇で煙に巻きつつ、最後は満を辞してのEVIL。3カウントが入った時の興奮は凄まじいものがありましたね。やった!やりおった!と心の中で叫んでました。

IWGPとインターコンチネンタル……二冠の意味合いは相変わらず薄く、ベルトを分けることなく同時防衛をし続けていくことに僕自身は懐疑的で、元々二冠自体も広がったオカダと内藤の格の帳尻を合わせるためでしかないと思っていたのですが、今回EVILが奪取したことで逆説的に権威の強大さを示した形になりましたね。まさかEVILが二冠を巻くとは思わない……ある程度善戦して、今のキャラのままで再出発するのでは……そんな風に考えていた人は多いでしょう。それは二冠という強大な権威がレッドヘリング(燻製ニシンの虚偽)として働いたことでもあり、恐らく IWGP単独ではこれほどのインパクトは出せなかったように思います。EVILの格に見合わない権威だからこそ成立した大逆転劇であり、権威を問う声も沢山出てきたこと自体が、彼が新日の中心に立った何よりの証拠でもあるんですよね。

考えてみれば、再三語っていた通り、今回は取らなきゃ叛逆をした意味はなく、オカダを倒した以上内藤に勝っても不思議ではないのですが、今の新日でオカダと内藤の二強を倒すことの意味は非常に大きいです。それは純然たる「格の差の壁」を壊したのと同義で、 IWGPの防衛ロードの面子が固定化しているというのは昔から根強くあった批判の一つなんですよね。それをEVILが戴冠したことで、エース候補として選ばれている選手も以外も巻ける可能性があることを示したというのが何より大きなことだと思います。

そしてその引き金を引いたBUSHIマスクの新しいパレハ……ディック東郷の登場には一番度肝を抜かれました。邪道、外道との所縁も深く、コーチ役として彼の右に出るものはそうはいません。面白いのはEVILって新日生え抜きでありながら、その風貌やスタイルにはどことなくインディーっぽさがあるんですよね。なので怪奇キャラをやめてそちらにシフトすればいいのではとずっと考えていたのですが、まさかディック東郷が加入し、邪道外道と合わせてそちらの血脈を受け継ぐことになるとは思いませんでした。怪奇キャラを進化させつつ、素のポテンシャルの方向性も強化する。今のEVILは盤石に等しく、まさに怪物を解き放ってしまったのかもしれませんね。そしてこれはディック東郷自身のチャレンジという見方もあって、そういう意味では目が離せません。

オカダと内藤の敗因を考えましたが、単純な話、両者ともに舐めてたからだと思うんですよ。EVILが変わることに対して寛容で、王者の姿勢を崩さなかった。これはファンも含めての話で、舐められてたことがEVILの原動力な繋がり、舐めてたからこそ度肝を抜かれた。勿論、EVILファン自体はそんなことはなく彼の勝利を信じていたわけで、こういうあたり、自分はまだまだ勉強が必要だと痛感します。顔じゃない、器じゃない、そんな声はこれからどんどん増えるでしょう。しかし今回の結果はロスインゴファン以外のファンにEVILの名を知らしめたというのが一番大きいでしょう。加えて、よもやすればロスインゴの内ゲバになりそうだった試合のスケールを広げ、自身の格を爆上げしつつ、ロスインゴとバレクラの一大抗争に仕立て上げた手腕は見事でしたね。

お世辞にも今回の内藤戦は試合としては凡戦で、名勝負とは言えないのですが、細けえことはいいんだよ!と言いたくなるパワーがあります。間違いなく記憶に残る一戦ですし、コロナ禍の後だからといってすんなり以前の新日に戻るわけではないという団体側の強い意志を感じました。EVIL戴冠は暗黒時代の到来です。闇の王ですからね。この暗雲を晴らすのは誰か……新日も楽しくなってきましたね。今日はここらで筆を置きます。また会う日まで。



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