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#2 命を産み落とす牛と、産み落とされる子牛。そして命を絶たれる牛。

産み落とされた子牛が成長し、今度は命を産み落とす側になった時の私の初めての牛のお産介助の経験です。この牛はT-Boneという名前です。

過去記事 https://note.com/mortalcoil40/n/nff262fb4355d

その、と殺される直前に産まれ、すぐうちに来た子牛T-Boneが、初めてのお産をしたんですけど、結果から言うと死産でした。

広いパドックの中で、野放しのままのお産です。(動物は普通自分で生みやすい場所を探してお産をします。)後ろに立ってのお産介助は、蹴られるんじゃないかと恐怖感がありました。しかし最終的には荒ぶることもなく、おとなしく私に手伝いをさせてくれました。実際助けに行った時には、もう助けないとT-Boneさえも命が危ない状況だったので私も必死でした。

 さて、何が起きたかというと、お産を控えているT-Boneの様子を見に行ったら、横たわって息んでいる状態でした。見たら子牛の蹄が見えてて、「あ、産まれる産まれる」と思ったんです。でもそのまま経過観察してても一向に出てこないんで、子牛が大丈夫かどうか恐る恐る試してみました。(蹄の間をぎゅーっとつまみ、元気なら反射的に足をひっこめる。日本の牛飼い先輩Youtuberさんより。)
正直やりたくなかったです。だって牛から子牛の足が出てて、なんか白くてぬるぬるしてそうだったし。でもやりました。無反応です。体温もひんやりしてました。息絶えてると悟りました。そこには煌々として生があるとはとても思えませんでした。

 T-Boneがどのくらいの時間息んでいたのが正直わからなかったので、すぐ子牛を出すために、ロープでわずかに出てる足を縛って、T-Boneと呼吸を合わせながら引き出そうと、頑張りました‥‥全身の体重をかけて引っ張りました。でもまったく動かないんです。引っ張れないんです。鼻と頭が引っかかって全く引っ張れなかったんです。
この時、もう後戻りできない自分の状況に、精神ががたがたと崩れ始めて涙が出始めてました。あ、パニックってこういう事なんだなーと体で感じました。子牛はもう死んでる、せめてT-Boneだけでも助けないとと必死で、両足に繋いだ紐を片足ずつに縛り直し(前足の関節がズレて動くように)片足づつ角度を変えながら引っ張りました。と同時に鼻も出るように片手で広げながらやったんです。T-Boneも足がふらつき、もう最後の力を振り絞るかのように息んでました。
何とか首まで出たとこで、再度悟りました。生きた動物から死んだ動物が生まれてくる。(もちろん動物、生物界にはあることなんだろうけど)目の前に現実として在るこの牛2頭、さらに紐で私の手とつながっているこの3体の動物、この状況から、今までに感じた事のない何かが私の体の中に入り込んできたんです。衝撃でした。そしてさらにT-Boneは私の方に振り向きながら、聞いたこともない大きな声で鳴いたんです。泣いてたんです。悲壮感の現れだったのか、私に向かって何か伝えたかったのか。そのたまらなく悲痛で辛そうな目をしっかりみました。足も手も震えました。

 もうあと半分だから頑張ろうと続けて引っ張っても、今度は胴回りが大きいせいなのか出てこない。冷たく息のない子牛は、なだれ落ちるのを待つだけ。しんどい。T-Boneが息む、私が引っ張る。T-Boneはもうこの時きっと限界だったんだろう。ほんの少しだけ子牛を引っ張りだせた時に、次までは待てないと思い全体重をロープにかけていきみを待たず引っ張り出しました。(その時にご近所さんが手助けに来てくれました。)
子牛から胎盤からすべてが一気につながって、うみおとされました。胎盤が一緒に出てくるということは、子牛はもうだいぶ前に息絶えていたのかもしれません。
T-Boneはお産後、母親として最初にする行動である、子牛を探し、舐めてきれいにすることもせず、一気に横たわり半日以上動きませんでした。

死産だとわかっていて、自分の生んだ子牛を探さなかったのか?それとも、もうあまりにも体が辛くて動けなかったのか?私も汗と涙で不快感極まりなく、心もズダズタに引き裂かれました。何か、人や動物がここで生きる目的や、命の存在意義、同じ地球で生きるもの同しの関連性ってなんなんだろう、と思う経験でした。たとえこれが牛と人の関係であっても、それは何の然もない事である、の、かもしれません。


「親は自分が産まれてすぐにと殺され、自分の子は死産」

T-Boneは、「学べ」と伝えている。