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洗濯物語

ただでさえ晴れの日が少ない、その名も”山陰”の鳥取に住んで6年になる。特に冬のこの時期は、一週間晴れ間無し、なんてこともよくあることで。一人暮らしだと、出勤してから帰宅するまで、オール晴れてくれないと洗濯物も干せない。飼い猫が洗濯物を取り込むくらいしてくれたらとても助かるのだけど、なんて高望みして、いやいや居てくれるだけでいいのよなんて首の後ろをさすって差し上げて誤魔化している。

カゴから崩れんばかりの洗濯物の山を、押しつぶしつつさらに積み上げる日々。そんな折、昨夜はアプリの週間天気予報に、久しぶりの晴れマークを見つけて、「7時に起きるように」と自分に念をかけつつ、張り切って眠りについた。

そうして、見事に悪夢(何かしら恐ろしいものから必死に逃げる夢だった…)を見て、7時に飛び起きた。寝起きの気分は決してよくはないが、予定通りに出勤前に洗濯をできそうだということで自分を盛り上げる。
しかも、この洗濯山の標高を見るに、2回戦コースだ。ちゃんと起きれたおかげで、余裕で2回まわす時間がある。

まず第一回戦のスイッチを入れて、その間に顔を洗い、着替えを済ませ、テレビをつけて朝のニュースを拾い聞きしながら昨晩の洗い物(食器の方)を片付ける。お湯を沸かして、水筒に注ぎ、残りを湯呑みに注いで朝の一杯(白湯)を立ち飲みする。そうこうしているうちに、脱衣所から終わりを告げる「ピー」っという音が聞こえてくる。

さっきまで「未洗濯」の山だったカゴに、洗濯機から「洗濯済」を引きずり出してまた山をつくり、ベランダへ持ち出す。洗濯バサミで挟めるものは、何年選手かわからない洗濯バサミがいっぱいついている折りたたみのやつ(あれはなんと呼ぶのだろう)にハサミ一つも無駄にするまいとみっちりセットし、はさんだ跡をつけたくない主にカットソーやTシャツやスウェットなどの上半身に着るもの(?)はプラスチックのハンガーにかける。
タオルは、自立式のタオル掛けを干すようにしているのでそれに掛けて、百均のクリップで止める。その間にも第二回戦のスイッチを入れて、今度は朝ごはんを済ませたりしながら、ピーッと呼ばれたら、一回戦同様に絡み合った洗濯物たちをずるずると引っ張り出して、パンパンッと小気味良く音を鳴らしつつシワを取り、ベランダに干してゆく。
冬の衣服は分厚いものが多いし、重ね着もしたりするので干場も満員御礼という感じだ。それでも、干しきれないということはなく、ハンガーに洗濯バサミに、物干し竿にとあるものをフル動員してぴったり干しきるところに、自分の性格と長年にわたる生活の積み重ねを感じる。

そうやって2回にわたる戦いを制して、ベランダから、まだ私の抜け殻の形をした布団の上で猫が眠る部屋に戻る時。朝日に、さっき白湯を入れたやかんが反射して、部屋全体が白く発光しているのを見る時。この小さな箱の中に、私の自由な生活があることに、心から歓喜する。

小さな、でも全て、私だけの、自由。


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