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井の中の私、大海を知る。

「あなたの人生で戻りたくない時はいつですか?」

私は迷いなく中学生の時と答える。

女子中学生。多感。

一言でまとめると簡単だが、実際に生きてみると困難しかない。

わざと聞こえるように言う辛辣な悪口。

昨日までおはようと挨拶していたのに、今日には無視をしてくるクラスメイト。

学校に行きたくないと言えば、子どもの言い分をまともに聞かず、正論だけをふりかざす教師。

それでも、学校という狭い世界が、私にとっては全てのように思いこんでいた。

他に世界を知らなかったから。


小さい頃からイラストを描くことが好きだった私は、中学生になっても変わらなかった。

しかし、地味な趣味だと馬鹿にされる世界。それが私の中学生時代。

クラスの中心になっている子がいいと言えば、他のクラスメイトもいいと言う。だめと言えばだめと言う。

違う価値観など認められない。

次第に私はイラストを描くことを隠し、かわりに流行りの音楽を聴いて、まわりに話をあわせていくことになる。

苦しかった。

好きなものを好きだと言えず、偽って生きていかなければならなかったのだから。


そんな私に、転機は突然やってきた。

偶然読んでいた情報誌に、イラストサークルの募集が出ているのを見つけたのだ。

なになに?参加者のイラストを集めた会誌を発行している?全国どこに住んでいても仲間になれる?

どんなイラストでもOK?楽しく交流しながら描きませんか?だって?

サークルというものがどんなものかも知らなかった当時、魅力を感じながらも、参加することに緊張していたことを覚えている。

でも、申し込んだ。

きっと学校という世界から、一歩踏み出したかったのだろう。


イラストサークル参加者の属性は様々だった。

高校生、大学生、社会人に主婦。

それだけ違ったバックグラウンドを持った属性の人たちが、イラストが好きという共通点だけで集まるのだから、考え方の違いは大きかったはず。

それでも決して考えを押しつけることはせず、互いの違いを認めあっていた。

ここでは、誰も私を否定しない。

イラストサークルでの活動は、参加者がイラストを描くだけではなく、会誌に載っている作品には感想を送って、交流を深めたりなんかもした。

感想を送れば、無視されることなく返事がきて、感想が送られてくれば、いそいそと返事を書いたりして。

「そういう表現の仕方をあるんですね。」「私にはない考え方で感心しました。」

互いを認め合う温かい世界が居心地よかった。

もちろん、上手い下手問わず、自分の好みではないイラストもあったし、私も同じように受け取られていたこともあったはず。

が、別に苦手な作品を無理に好きになる必要はない。ただ他者が好きであるものを認め、否定しないだけでいいのだ。

人の数だけ存在する価値観。価値観の数だけ広がる世界。

私は当たり前のことを見失い、学校という世界に縛られて苦しんでいた。

会誌が毎月届くのを楽しみにしていて、発行予定日が近くになると、学校帰りにウキウキしながら郵便受けをチェックをする。

相変わらず学校は苦しかったけど、私を受け入れてくれる他の世界が救いになってくれたのだ。


世界は広い。

今自分が存在している場所以外にも、果てしなく続いている。

そして、例え今生きている世界が辛いものだとしても、どこかに自分を受け入れてくれる優しい世界があることを知っている。

絶対に戻りたくはない中学生時代。

けれど、狭く生きるのが辛い世界を知っているからこそ、他者を認める思いやりの心を持ち続けることを忘れないでいたい。

誰かを否定しない大切さが、かつて狭い世界から学んだ思いやりの心であり、広い世界の優しさにつながる源だから。

井の中の私大海を知る。されど思いやりの心を忘れず。

以上、もろこしでした!

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