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宣伝会議賞ファイナリストが自分のコピーを解説するっち。

第57回宣伝会議賞の結果が発表されました。宣伝会議賞は国内最大の広告公募賞で、今年は62万4670点の応募がありました。

応募作品のうち事前に31点がファイナリストに選ばれており、本日、その中から、グランプリ1点、コピー/CMゴールドが各1点、シルバーが7点、眞木準賞が1点選ばれました。

今回この31点のファイナリストに選ばれ、惜しくもなく受賞を逃してしまった記念に、自分のコピーの解説をしたいと思います。

サッカー番組やべっちFCの人気コーナー「解説するっち」のような本人解説です。だれも僕のコピーをとりあげてくれないから仕方なく自分で解説するというわけではありません。決してそんなことはありません。

プレーを最初から最後まで解説する本家のように、どうやってコピーを作成していったのか、順を追って説明したいと思います。なのでコピー自体は最後の方に記載しています。


前情報(経歴やスキルなど)

職業:ITエンジニア (広告業界とは無縁。宣伝会議賞って何?という人たちに囲まれて生活しています)
コピー:宣伝会議コピーライター養成講座基礎コース修了生。現在上級コース(東京)に通っています。当時は上級コースに通っていないので、基礎コース修了レベルの人間が書いたコピーだと思ってください。金の鉛筆はたしか4、5本くらいもらった記憶があります。


お題

今回僕がファイナリストに選ばれた課題は、CBcloud株式会社の「企業が緊急配送でPickGoを使いたくなるキャッチフレーズ」 です。

画像1

誤解を恐れず簡単に言うならば、企業向けの荷物版 Uber Eats でしょうか。さっそく恐れが芽生えはじめてきたので早く先に進みます。

※ 以降の文章は過去の記憶をふんだんに美化している疑いがあります。あらかじめご了承ください。


言いたことを考える。

「PickGo の配達の早さ」というサービス特徴を踏まえて、考え始めました。

上記のオリエンシートには配送自体の早さは言及されていませんが、サービス的に見ても早く届くし、早く届くのが企業としては一番うれしいだろうといった感覚でこの切り口を選びました。


いきなり寄り道させてください。

先ほどから出ている「早い」というワード。僕のなかでは「安い」「うまい」「身体にいい」「センスいい」といったふんわりワードカテゴリに分類される1つです。

PickGo のはやさは、圧倒的だ。
Pick して Go して、もう到着。
はやい、はやい、はやい。

ふんわりを恐れずに、クリーニング屋も驚くほどしっかりとふんわりさせたままで3つのコピー(に擬態しているコピーではないもの)を書いてみました。

総じて「なんで早いの?」という疑問しか残りません。

「発想力に自信があります」と言う、知らないクリエイターの言葉くらい信用できません。

ふんわりワードはふんわりしてしまうからこそ、「安い」には 『イチキュッパ』 が、「うまい」には 『モンドセレクション』 が、「身体にいい」には 『トクホ』 が、「センスがいい」には『宣伝会議賞受賞』 という”証明” が必要だと思っています。

なので「早い」も何か証明しないといけません。

桐生祥秀の足が「はやい」 は一般人・日本人選手と比べた時です。ウサインボルトと比べたら「遅い」と言われます。

ウサインボルトも動物のチーターと比べたら「遅い」です。

そう考えると「早い」はふんわりワードの中でも、特に他者との比較でふんわりが解消しやすい言葉なのかなと思います。

「がんばって咲いた花はどれも綺麗だから仕方ないね」「今年のファイナリストは甲乙つけがたいね」のような世界線にはいない言葉です。。けっこうシビアです。


たくさん寄り道しましたが、結局のところ、PickGo は何と比べて早いのか、を示せるといいんじゃないかな、という結論に至りました。

そして、企業の荷物配送として第一に思いつくもの。そう、宅配便です。

課題は「PickGo を緊急配送に使いたいと思わせる」なので、宅配便の早いやつ ”お急ぎ便”よりも早いことが言えたらコピーの最低ラインには立てそうです。

いいたいこと:PickGoはお急ぎ便よりも早い


PickGoの特徴を考える

まだコピーは書きません(実際は書きながら考えてますが)。

なぜ早いのか。

ここで言葉の再確認。

PickGoは「速い」ではなく「早い」です。速度が速いわけではなく、到着時間の早いです。

PickGoの運転手だけが法定速度を無視してもOKと認められた世界線でもない限りは「早い」です。

なので、当然、宅配便の運転手とPickGo の運転手の「速さ」は同じになります。じゃあ、どうして「早さ」に差がでるのか?


。。。ここまで考えると、自然と 宅配便には配送センターがあるから。そしてPickGoにはないからはその分早いんだなというポイントに行きつきます。

天下の Amazon のお急ぎ便ですら朝注文して夜届くスピード感です。朝起きて直接千葉のAmazonの倉庫に取りにいけるのであれば、確実にお急ぎ便より早く受け取れます。たった1つの荷物の配達に関して言えば、配送センターというものは時間のロスになる最大の障壁ということがわかります。

PickGo の特徴:時間をロスする配送センターがない


コンセプトを考える

サービスが特徴的なので、今回はそれをそのままコンセプトにしても良さそうです。ちょっとだけ脚色してコンセプトにします。

コンセプト:PickGoは時間をロスする配送センターがないので早い。


コピーを書いて考える

とりあえず、思いつくままコピー書いてみます。

そうか、配送センターがあるから遅いんだ。

悪くない気もします、がサクラ感が否めません。裏で企業にお金をもらっているような、そんな気持ち悪さがあります。僕が審査員だったら一次まであがってきてもその先は確実に止めます。もし友達が言ってたら絶交します。

持論ですが、顧客にサービスの特徴をそのまま言わせると違和感になりやすい。つまり相性が悪い。なので、今回のコンセプトで書く場合は、より一層注意して嘘くさくないコピーを書くこと、そこに気をつけました。


配送センターは時間のロスでした。

そして一気につまらなくなりました。
そしてこれは PickGo コピーではなく、配送センターの悪口です。


PickGoは直接お届けします。

配送センターとの比較という骨がなくなってしまったので、初見だと「?」なコピーです。伝えたかった「早さ」もどこかにいってしまいました。

コンセプトをうっかり忘れてしまうと背骨の抜けたヘロヘロなコピーができあがります。気をつけます。


解像度の高いコピーを考える

色々書いても、いまいちしっくりこなかったので、コピーの常套手段「視覚的にイメージしやすい言葉で考えよう」の回です。

エクレアに姉を貼ったり、元彼の目覚ましで叩き起こしたりする、あれです。

ただ、ここで重大な問題があって、コンセプトに「配送センターがない」という、かなりシステマチックなところにおいてしまったので、情景の浮かぶコピーが書けない。。

何故、PickGoの他の特徴である「配送者の顔が見える安心感」「今どこに荷物があるのかすぐにわかる」や、依頼者自身の「急に配送が必要になって大変だ!」といった情景が浮かびやすいものにしなかったのか。自分で自分を恨みたいです。


詰みました。


つまった。





ところで

「つまっていない」時って「つまらない」時、とも言い換えられます。

となると「つまった」時って、実は「おもしろい」時なんじゃないかと思います。

....つまり「つまった」今が一番「おもしろい」時ってこと。きっとそう。ありがとうポジティブ!(脱線)

突然空から降りそそいだ格言:
 詰まってないから、つまらない。
 詰まった時が、おもしろい時だ。


解像度の高いコピーを考える②

もうすこし粘ります。

モヤモヤした時は「分解する」ことを心がけています。

当初から言いたかった「早い」を、もう一歩分解して考えてみたい。

算数は苦手なのですが、時間の計算式はかろうじて覚えています。

 時間 = 距離 × 速度

(この計算式は実際にノートに書いていました)(詰まる = おもしろい は今さっき考えました)

この計算式をぼーっと眺めていると、ふと

「時間がかかるってことは、配送センター経由だと、距離が長いってこと?」

「あたりまえだけど、配送センター経由って、最短距離じゃないよな?」

「逆に PickGo の配送って直線だな」

と、頭にイメージが浮かんできました。

こんなイメージです。

画像2

小学生が見たって「なぜ PickGo が宅配便と比べて早いのか」が一目瞭然。

だって距離が長いのだから時間がかかるのは当然です。

この図を元にしてデザイナーにポスター作ってほしいな、なんて考えたりしつつも、ここまでくれば、あとは言葉に落とすだけ。

まっすぐ届けるのが、一番早い。
配送センターは、最短ルートですか?
荷物「配送センター行ってきます」私「ちょっと待て」

実際に提出したコピーたちです。逆にイメージに縛られてしまって、ちょっと意味がわからないものも多いですね。

今書いていて恥ずかしいです。初見の人からすると解像度が低いものが多すぎる。

でも、あとすこし。あとすこし。


ファイナリスト選出コピー

ということで、ファイナリストに選出されたコピーがこちらです。

普通の荷物は、配送センターに寄り道する。


コピーには書いてありませんが、当然、続く意味として

でも、PickGoは、寄り道しないでまっすぐにお届けしますよ!(だから早いんですよ!)

と、読み取れるように設計したつもりです。本当は後者だけ言いたいのだけれど、それだと広告ではないので、ギリギリ自慢・嫌味にならず、続く意味も伝わるラインで書けたんじゃないかなと思っています。

「荷物は普通」ではなく「普通の荷物は」にしたのは『PickGoの荷物は特別待遇の "特別な荷物" ですよ』という意味をやんわり込めています(これは伝わらないかもですが)。

ここまでの作成意図が伝わったのかどうかはわかりませんが、晴れて0.005% の壁を突破して、このコピーがファイナリストに選ばれました。めでたしめでたし。


なぜ受賞できなかったのかを考えてみる。

現実を見ます。ファイナリストは結果的に「無冠」です。だって賞は何もとっていないから。悲しい。

なぜ受賞できなかったのか。端的に「受賞するコピーとして弱かった」のだと思います。誰かに言いたくなるような、そんな良い意味で心が動くコピーまで育ててあげることができなかったんだと思います。

グランプリ予想でエゴサしても、だれひとりこのコピーを取り上げてくれていなかったのが確固たる証拠です。

尖った言葉は使っておらず、かといってパッと一言で言い切ったコピーでもありません。

面白みがない、と言われればそうかもしれません。このコピーがなぜファイナリストにまで選ばれているんだ、とハラワタが煮えくりかえっている人も多かったのではと思います。心中お察しします。へへへ。

ただ「企業担当者に〜」という toB 向けの広告に使うなら、個人的にはこれくらいのトンマナや明確さがベストかな?とも思うのです。

企業向けのチラシやポスターに、CBcloud 様、いかがでしょうか?


解説するっちをしてみて

とても勉強になりました。宣伝会議賞は課題がたくさんあるので、うっかりすると深く考えることを疎かにしてしまいがちです。今回振り返ってみて、やはり1つ1つを丁寧に深堀りしていくことの方が大切なんだなと再認識しました。少なくとも、このコピーに関してだけ言えば、勢いだけでは書けなかったです。深く掘るという作業をたくさんして「早く」深く掘れるようになって、結果的にたくさん提出できた、というのが理想かもしれません。なので、今日解説した思考くらいなら、パッとできるようになりたいな、なんて思っています。

最後に。

脱線しつつ長くなった文章を最後まで読んでいただきありがとうございました。コピーライターでもない人間の文章を読んでいただけたというその事実が、ひとえに「宣伝会議賞」という歴史とブランドの強さを物語っています。そんな素晴らしい賞のファイナルまで残してもらい大変光栄に思っています。

もし、広告の神様というものがいるとしたら「この男に一度ファイナルの景色を見せておいてもいいかな」と魔が差したのかもしれません。でもやっぱり途中で気が変わって受賞式をなくしたのかもしれません。悪い神様です。

もっともっと、いいコピーが書けるように、精進します。


最後に、各賞を受賞された方々、おめでとうございます!



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