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経営陣に「刺さる」監査指摘の出し方

内部監査を実施していて、何も指摘がなかったり、被監査部署や経営陣から興味を持ってもらえない指摘しか出せないほど残念なことはありません。また、会計監査に従事する会計士の方々も、マネジメントレターや通常の監査の中で、問題点を指摘して改善を依頼する機会はあると思いますが、できれば相手に納得感のある建設的な指摘をしたいものです。このnoteでは、経営者や被監査部門の上級管理職の方に「刺さる」良い監査指摘の出し方についてご説明します。

監査における指摘事項

良い監査指摘事項を出していくことは、内部監査部門において最も重視されている業務の一つです(個人的には最重要だと思っています)。
また、会計監査においても、昔話で恐縮ですが私が監査法人に入ったころ(20世紀末)は、まだJ-SOXはありませんでしたし、コントロールテストと実証テストの区分やサンプリングの理論も未成熟で、会計監査の監査手続はかなりの部分、各監査人の判断に委ねられていました。一方、期中・期末・拠点などの監査の際には、その過程で発見された指摘事項をクライアントに講評会の形でお伝えして、数値の修正や統制の強化の一助にしていただくという部分が重視されていました。
その後、監査手続の精緻化、J-SOX導入による内部統制整備と会計上の誤謬の関連付けの強化、監査人の独立性に対する規制の強化などで、指摘事項を出すことが最優先というカルチャーはさすがに衰えたとは思います。しかし、現役の監査法人の会計士の方たちにお聞きすると、監査に付加価値を出すべきという昨今の議論の流れもあり、今でも有用な指摘を監査クライアントに報告することは重要なスキルの一つと伺っています。

なぜ監査指摘を重視するのか?

ではなぜ、そこまで監査指摘を重視するのか?それは、良い監査指摘を出さないと、内部監査部門が存在する価値が、経営陣に全く認識されないからです。特に日系企業の大半は必ずしも内部監査部門に十分なリソースが割り当てられているわけではなく、「J-SOX導入時にとりあえず部署ができました」、とか、「上場準備のために証券会社や証券取引所に指摘されたので仕方なく設置しました」、みたいな会社も多いと思います。こういった状況で、内部監査部門を引き続き維持し、コーポレートガバナンスの中で重要な役割を担っていこうとしたら、まずはその存在意義を経営陣に認めてもらう必要があります。しかし、社長をはじめとする経営陣や上級管理職の方を監査報告会にお呼びして、「25件のテストを実施して1件、承認印漏れがありました、今後改善してください」みたいな話ばかりでは、プレゼンスの向上や、リソースの増加など望むべくもありません。内部監査部門というのは、企業が絶対に持たなければいけない必需品ではなく、より良い会社になっていくための「上級材」「ぜいたく品」なので、ある程度以上のアウトプットが出せないようなら、そもそも存在する意味がないのです。従って、良い監査指摘を出して、経営陣にその価値を認めてもらうことは内部監査部門の最重要事項と考えられます。

良い監査指摘とはどのようなものか?

では、良い監査指摘とはどのようなものでしょうか?端的に言えば、経営陣に「刺さる」(この表現好きじゃないのですが。。。)指摘です。経営者や上級管理職の人たちが関心を持ち、積極的に改善に取り組む指摘こそ、良い指摘と言えます。では、具体的にはどういった指摘になら、関心を持ってもらえるのでしょうか?当然かもしれませんが、売上や利益にインパクトの出るものほど関心が高いです。ルールの遵守などの話は、重篤なもの以外は内部監査部門より、管理部門全般(経理部、人事部、法務部など)がちゃんと見てほしいと考えている経営陣が多いように感じます。また、表面的な事象だけでなく、背後にある理由を深く追及してくるのも、経営陣の特徴かもしれません。私は事象と改善提案だけをのこのこと外国人の社長に報告に行き、「それがダメなのはわかった、全社で二度と発生させない方法は?」と問われ撃沈した苦い思い出があります。

どうすればよい監査指摘が出せるのか?

事象の深掘り

良い監査指摘を出すためには、事象の深掘りが必要という言い方をすることが多いです。では、この「深掘り」とはどのような作業でしょうか?トヨタ生産方式の中の「なぜなぜ分析」と呼ばれる、問題が発生したときにその原因を「なぜ?なぜ?」と五回詰めていくという手法がありますが、それに似た思考です。具体的な例を挙げて説明しましょう。
「A事業部は売上も営業利益も予算をx期連続で下回っている」という事象があるとします。ここで「売上も営業利益も予算をx期連続で下回っている。改善が望まれる」みたいな監査指摘が結構多いのですが、これではダメですよね、予算達成したいという思いは事業部の人たちのほうがよほど強いでしょうに、こんなことを監査人に言われても反発と軽蔑しか生まないでしょう。では、どう深掘りしていけばよいでしょうか?以下はあくまで思考の例ですが、

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