ドラマ 見えても、見えなくても 脚本
`プロローグ
○藤田亮、自宅ワンルームマンション、夜
三十歳の、ひとりの誕生日を迎える亮
二本目の缶ビールを持ってベランダに出る
夜空を見上げるが星は何も見えない
主な登場人物
藤田亮 コンピューター技術者の男性
安東先生 全盲、鍼灸医の男性、亮が後に人生の師と仰ぐ
青山大地 中途失明の中学二年生、元サッカー部
小川清美 全盲、盲導犬ユーザーの30代女性、事務職
橘美鈴 視野障がい者の20代女性、事務職
第一部
第一話 ボランティアセンター
○ボランティアセンター、日曜日の午後
ボランティアセンターの受付を訪れる亮
亮「先日、お電話を差し上げた藤田です、ボランティア登録をしに伺いました」
佐藤「ああ、藤田さんですね、お伺いしています。どうぞこちらへ」
○同、応接室
応接室に通される亮
亮「お電話でもお話ししたのですが、僕はコンピューター関連の仕事をしています。それを活かして何かお手伝いできることがあれば、と思いまして」
佐藤「ちょうど今、パソコンの勉強会をやっていますので、是非藤田さんにサポートをお願いしたいのですが」
亮「もちろんです、お力になれると思います」
○同、小会議室
パソコン教室をやっている小さな会議室に案内される
佐藤「安東先生、こちらが、さきほどお話した藤田さんです。」
安東「ああ、藤田さん、お待ちしていました、安東です。
宜しくお願いします。」
両方の瞳が白い小太りの安東がニッコリ笑う
亮「こちらこそ宜しくお願いします」
安東「ちょっと見ていただけますか。
この通り今までDOSで音声パソコンとして使っていたんですが、
藤田さんもご存知でしょう、もうWindowsMEの時代です。
WindowsMEの操作を学習しているのですが、スクリーンリーダーが読み上げるところと、読み上げないところがありましてな、難儀しているところなんです…(苦笑)」
亮「なるほど、分かりました。
他にはどんなことをやろうとしているのですか」
第二話 パソコンボランティアネット発足
○亮、自宅ワンルームマンション、夜
23時 テレホーダイの時間になる
ネットに接続する
(ピーガガガ モデム音)
デジカメで撮影した勉強会の紹介
コンピューターの指導を手伝ってくれるメンバーの募集
廃棄パソコンを譲ってください
そんな簡素なホームページが完成する
第三話 定例勉強会
○ボランティアセンター、大会議室、日曜日の朝
口伝えで目が不自由な人達が押し寄せる
「私も音声パソコンやりたいです。」
「僕も。」
「どんなパソコン買ったら良いですか。」
「裕ちゃんの曲は聞けますか」
「雨ニモマケズ を読み上げることはできますか」
一度は光を失った人たちに希望の光が差し込む
亮「裕ちゃんも雨ニモマケズも読めますよ。
皆さん、パソコンがあれば他にも色んなことができると思います。
まずはパソコンを手にいれましょうね。
現金で安く買える店がありますから。
今度の休み、一緒に買いに行きましょう。」
第四話 大地
○ボランティアセンター、大会議室
初めて見る晴眼者の中年女性が来ている
青山「藤田先生、私、青山志津子と申します。
突然申し訳ありません。知人からこちらの教室の事を伺いまして
いてもたってもいられず…。
少しお時間よろしいでしょうか
亮「ええ、大丈夫ですよ」
青山「実は相談があって参りました
中学二年生になる息子、大地のことなんです。
去年の夏、病気で視力を失ってから部屋に引き込もってしまって…
以前は毎日サッカーで走り回ってた子なんです
心配して自宅に来てくれる親友の隼人君とも会おうとしませんし、
連絡も返していないようなんです。主人も私も心配で心配で…
何か立ち直りのきっかけが欲しいんです。
それで、自宅のパソコンで音声が使えれば気持ちがいくらか前向きになるんじゃないかと…」
亮「そうですか、それは心配ですね。勉強会の後でも良ければ、ご自宅にお伺いしますよ。」
青山「そうですか、藤田先生、ありがとうございます。
私勉強会が終わるまでお待ちしています」
亮「よければ勉強会を見学していってください」
○青山家、夜
藤田が青山の自宅を訪れる
テーブルにパソコンが用意されている
亮「それでは、お借り致します」
セットアップを行う
亮「使えるようになりましたので息子さんに説明をしたいのですが呼んで頂けますか」
青山「大地、この間、音声パソコンの話したでしょ。先生が使えるようにしてくれたわよ、説明を聞いて」
二階に呼び掛ける
無言の大地
亮「大地くん、音声パソコンを使えるようにしたから、これでいつでもメールを出すことができるよ。あとは、連絡したい友達のアドレスを教えてもらえれば…」
大地「ほっといてくれよ!」
大地の母親と目を合わせる亮
青山「先生、申し訳ありません」
亮「いいえお母さん、今日のところはこれで失礼します。何かあればいつでも連絡ください。」
名刺を渡す亮
2024/11/03
第五話 見えなくても
○亮、自宅ワンルームマンション、夜
安東に電話をかける亮
亮「安東先生、ちょっとご相談がありまして」
安東「はい、何でしょう。もしかして大地君のことでしょうか」
亮「ご存知でしたか」
安東「私は生まれつき視力がなかったので、見えなくなった大地くんの苦悩は図り得ません。ただ、ひとつ言えるのは、見えなくなっても、できることは、まだある、ということですな。」
亮「見えなくなっても、できることですか」
安東「音楽でも芸術でも、スポーツでも」
亮「先生、ありがとうございました。」
何かを思い立った亮
○大地の部屋、夜
パソコンの前に座り、定まらぬ焦点で空を見つめる大地
隼人と一緒にサッカーボールを追いかけていた頃の自分を思い返す
第六話 ブラインドサッカー
○大地の自宅、土曜日の午後
大地がいる二階に向かって話しかける亮
亮「大地くん、ブラインドサッカーって知ってるかな。
目の見える人も見えない人も目隠しのマスクをつけて一緒にやるサッカーなんだ」
大地の胸が騒ぐ
亮「明日の日曜日、10時からスポーツセンターで練習があるんだけど、僕と一緒にやらないか」
居間に飾ってあるサッカーの優勝トロフィーが輝く
亮「僕は余りスポーツは得意じゃないんだけど、どうかな」
大地からの返事はない
亮「お母さん、もし、大地君がやりたいって言ったら連絡いただけますか、待ってますので」
帰ろうとする亮
大地「待って」
二階から大地が降りてくる
「俺、隼人とブラインドサッカーやってみたい」
亮「隼人君?…ああ、よし分かった。隼人君の連絡先教えてくれるかな
亮、大地やりとり
亮「今電話するね…。
突然恐れ入ります。私、青山亮君のサポートをしている藤田と申します。隼人君の携帯でしょうか、今、大地君が横にいるので、代わりますね。」
大地「うん、俺。ずっと連絡できなくて、ごめん。
あのさ、やっぱり俺、お前と一緒にサッカーやりたいんだ。
ブラインドサッカーっていう、俺みたいな目の見えない奴でもやれるサッカーがあって、明日その練習に出てみようと思ってるんだけど、一緒に行かないか?」
隼人の泣き声
大地 「おい隼人、聞こえているか
じゃ明日、スポーツセンターに10 時集合、じゃあな。」
大地「隼人、一緒にやるって。先生、ありがとう。」
大地の母、キッチンの陰で涙ぐむ
第七話 試合当日
○スポーツセンター、朝、快晴
車から降りてくるユニフォーム姿の隼人
大地の姿を見つけて駆け寄る
隼人「だいち」
大地 「隼人か、俺さ、もうお前の顔見えないんだ」
大地をきつく抱き締める隼人
大地「でも俺は、お前の顔を一生、忘れないから」
大地をきつくきつく抱きしめる隼人
大地「隼人、痛えよ」
二人を見守る亮
青山「先生、ありがとうございます」
亮「大地君がすべて自分で決めたことですから」
大地「なあ、隼人、ブラインドサッカーってさ、鈴の入ったボールを目隠ししてシュートするルールなんだ
キーパーは健常者
中には健常者もいるけど、俺たちと同じように目隠しマスクする
これがマスクな」
隼人「ルールは昨日調べたよ、大丈夫。(マスクをつける)
わ、大丈夫じゃねえ、本当に何も見えねえ」笑いながら戸惑う
そんな様子の隼人を感じとって、楽しそうな大地「じゃ、行くぞ」
隼人「オッケー」
練習試合が始まる
隼人からのパスが大地へ。大地のゴールが見事に決まる
あたかも見えているかのように。
歓声があがる
大地 (超たのしい、、、)
隼人 (また、大地とサッカーが出来るなんて、、、)
大地、隼人のチームが見事、勝利。両手を突き上げて喜ぶ二人。
手を叩いて嬉しそうな様子の大地の母親。
大地と隼人のそばに駆け寄る亮
亮「いやー驚いたよ二人とも、
パスの息がピッタリでさ。どうして相手のポジショニングがわかったの?」
大地「うーん…なんとなく」
隼人「俺も。何でだろう、大地のいる場所が分かったんだ。なんとなく」
亮「すごいな、君たち、以心伝心か」
恥ずかしそうに笑う大地と隼人。
大地「そうだ、先生。隼人に連絡とれるようにまた家に来てパソコンのアドレス設定してくれない?」
亮「ああ、いいよ」
大地「あ、先生のアドレスもついでに」
亮「ついでって何だよ」
夕陽の中、笑い合う亮、大地、隼人、三人の姿。
2024/11/04 第一部完
第二部
第八話 ゴーストレート ベス
○ボランティアセンター、大会議室、日曜日の朝
亮「皆さん、今日から新しく参加される青山大地君です
大地、自己紹介して」
大地「中学二年の青山大地です。ブラサカやってます。彼女募集中です。宜しくお願いします。」
拍手が起きる
小川「若いって良いわね、ほんと」
小川の携帯が鳴る
小川「分かりました。直ぐに伺います。ご連絡ありがとうございます。
先生、私、急用ができましたので失礼します。」
亮「何かあったんですか」
小川「以前、一緒に暮らしていた引退した盲導犬ベスが危篤らしいのです。」
亮「僕の車で送ります、サポーターの皆さん、後、宜しくお願いします」
大地「先生、俺も一緒に行く」
2024/11/04
○亮の車の中
少しづつ渋滞が始まって焦る亮
重い空気が流れる
小川「私がベスに出逢ったのは二十歳の時です」
小川が昔話を始める
小川「その頃、まだ私は自分の殻に閉じこもっていました
そんな時、盲導犬協会の皆さんが私とベスを引き合わせてくれました
私はすぐにベスが好きになりました
彼女は私が笑っている時も泣いているときにいつも側にいてくれました
べスは私に一歩、踏み出す勇気をくれたのです」
亮「ベスはどんな子だったのですか」
小川「優しい気性で頭が良く、私が思っていることをすぐに察知してくれました
そして何度も私のピンチを救ってくれました
あの子がいなければ今の私はありません
彼女と暮らした八年間は本当に楽しい毎日でした」
亮「ベスは引退したとおっしゃっていましたが」
小川「十歳を過ぎたので引退犬飼育ボランティアの皆さんに引き取られて
余生を送っていました」
小川「私は彼女に何もして上げられなかった
彼女に御礼と許しを請いに行きたいのです」
○引退犬飼育ボランティアさんの自宅、昼
広い芝生の庭の家に到着する亮
車から降りる
小川「ご連絡いただきました小川です。」
ボランティア「小川さん、ベスに会ってやってください
もうすぐ小川さんが来るからと話しています」
絨毯の上でタオルケットに横たわるベス
毛は抜け落ち、やせ細って、苦しそうな息をしているベス
小川が近づく
小川「ベス、私よ、わかる?」
ベスが立ち上がろうとするが力が入らず倒れ込む
小川がベスを抱き締める
小川「ベス、ありがとう、私はあなたのおかげで人生が変わったの
あなたの人生を奪った私を許して、ベス」
ベスが息を引き取った
天国に召されたベスの穏やかな顔は小川には見えない
小川の嗚咽する声がいつまでも続く
○亮の車の中
小川を自宅まで送り届けた亮
大地と二人になる
亮「なあ、大地
大地はベスが幸せに死んでいったのか、ただ酷使されて死んでいったのか、どう思う」
大地「俺はベスは幸せだったと思う、小川さんと出会ってあんなに愛されてたんだから、人生のパートナーとして」
亮「人生のパートナーか、いい言葉だ」
大地「先生にもすぐにあられるよ、素敵な人が」
亮「なぐさめないでくれよ」
大地「だって、先生、すっげえ格好いいし
俺には見えないけど分かる
先生、自信持てよ」
亮「そうかなあ」
2024/11/09第二部完
第三部
第九話 亮の恋
つづく、、、
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