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NFTで電子書籍は管理されるべきなのか?

NFTというものが話題になってきて数年が立ってきていますが、ここ数年「NFTで電子書籍は管理されるべきなの?」「作家やクリエイター側にメリットはあるの?」「そもそもエンタメ業界にNFTって必要?」というテーマをずっとモヤモヤ考えていました。

そんなタイミングでTwitterで「NFTが実装された電子書籍」という言葉見かけてしまって、「ん?それは違うのではない」と思ってしまって思わず、反応をしてしまいました。

ただ、「違うのではない?」と一方的にいうだけでは私自身がその新しい価値を見逃している可能性もあり、なんで「ん?」と思ったのかという点について書きます。

まず大前提として「今の電子書籍」とこういった議論で言われる「NFT管理の電子書籍」は業界としては大きく異なる新しい仕組みです。すでにうまく回っている既存の仕組みから、新しい仕組みにシフトするには、既存のプレイヤーに大きなインセンティブが必要です。ここではクリエイター(作家)、読者に大きなメリットが必要になると私は考えてます。

ここ数年でNFTというものが登場して、「どういったものなんだろう」「コンテンツ業界には使えるものなのかな?」と調べてきた自負はあります。ただ、一般人が調べた程度の知識なので、正しいことを言っているかどうかもわからないです。個人的な意見であり、会社の立場での公式な見解でもありませんので、ご了承ください。

そもそもNFTはデジタルコンテンツを管理するもの?

そもそもNFT(non fungible token)とは、一般的には「偽造不可な鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ」「ブロックチェーンを基盤にして作成された代替不可能なデジタルデータ」という感じで説明されます。「偽造不可」「代替不可能なデジタルデータ」という言葉が、一般的に混乱を招いていると思ってます。NFTは「トークンとして管理された所有権を証明するもの」であり、「唯一性を証明するものではない」です。ここでの「偽造不可能な」は「デジタルデータ」にはかかってなくて、「鑑定書・所有権証明書」にかかってます。

簡単にいうと、NFTは「鑑定書」みたいなもので、そのイラストなりデータのコピーを防ぐものではないと認識しています。(違ったら教えてください)

筆者作成

「電子書籍を始めとするデジタルコンテンツがNFTで適切に管理されれば、違法コピーが防げるのではないか」という議論がたまに出るのですが、結論からいうと「防げません」。NFT(およびブロックチェーン)はコピーを防ぐ機能は持っておらず、あくまでも発行されたトークンの所有権を証明するものだからです。

細かい技術的なお話はご自身で調べてみてください。このあたりはあまりに複雑で、私も全容を把握しているわけではありません故に。

電子書籍の中古取引はメリットがあるのか

"本の所有権を NFTを使って実装すれば、読み終わった電子書籍を中古市場で売却することも可能になるだけでなく、中古市場での売上からも、作家に印税を支払うことが可能になります。  この手のシフトはまだ始まったばかりですが、私は必ず主流になると信じているし、すべきだと思います。これだけインターネットが発展した時代に、作曲家・歌手・作家などへの印税が小売価格の 10%以下などというのは不合理極まりない状況です。

https://read.amazon.com/kp/kshare?asin=B0BL6S9SBM&id=alu76vuxkvaihahancgiglk52m&reshareId=8QJTNV8BYDT62S6N9H54&reshareChannel=system

私が「ん?」となったのはこの文脈の「中古市場」と「作家の印税が不合理である」というところです。この点をなぜ疑問なのかを書きます。ちなみに、私は中島聡さんの個人的なファンでメルマガも長年購読しており、NFTの説明が本当にわかりやすい方だなと思ってますので、このポイントのみの異論なので、あしからず…

まず、紙の本の中古市場がなぜ成立するのかを説明すると。「紙の本」というのは数が限定されているからです。いわゆる「刷数」という言葉で管理されており、10万部の本であれば世の中に10万部しか存在しません。市場在庫が売り切れそうな場合に、いわゆる「重版」がかかり、市場に流通する本の数が増えるのですが、そこには大きなコストと在庫リスクが発生するので、無限に本を作り続けるということは非常に難しいです。本は汚れたり、捨てられたりしていくので、基本的には世の中からは数が減っていくものとなります。

「紙の本は有限である」この制約と稀少性が、「中古」や「トレード」という市場を作り出しています。「中古」や「トレード」が存在するのは数が「有限」であるものが基本的には前提であったりします。いわゆるトレーディングカードなども、限定されている稀少性がある商品であるからこそ二次流通で価値が増大しているという最たる例だと思います。

一方で電子書籍はデジタルコンテンツなので、「生産」と「在庫」という概念がないので、基本的には無限に発行ができます。なので、読者(ユーザー)にあまねく届けるという観点で「中古」という市場流通を組み込む必要性がほぼ無いんです。(正確には電子書籍を始めとする電子コンテンツは利用権を売っているので、少し説明が難しいのですが、ここは端折ります)

デジタルであっても、「読み終わった本を売れたら良いよね」というユーザーさん側の気持ちはわかるのですが、それはあくまでも消費側の観点であり、売り手側にとってのメリットはあまりないのです。なぜなら「手に入らない」ということがほぼ発生しない市場だから、「売れる限りたくさんの人に自社で売りたいから」です。

なので、「電子書籍の中古市場って、流通の概念としてそもそもどういうこと?」という疑問です。

続いて、著者にとっての印税の観点です。

紙の本では
本を刷る(印税発生)→Aさんに本を販売→AさんがBさんに売る→Bさんは本を読める
AさんからBさんに販売した際に、著者に印税が発生しないので、著者からすると中古市場は「儲からないなぁ」ということになります。

一方で電子書籍は前述の通りコンテンツは無限に供給されるので
電子書籍をAさんに販売(印税発生)→中古転売NFT→Bさんに販売(NFT手数料が入る)
こんな紛らわしいことをしなくても
電子書籍Aさんが買う(印税発生)→ 電子書籍をBさんが買う(印税発生)
と2回買ってもらうことができます。

この印税発生の計算式を覆すとなると
NFTトレーディングの手数料>電子印税 の場合ですが、無限にコピーができるコンテンツを売るデジタル流通市場で、2次流通でコンテンツの価値が上がることはほぼ無いため、NFT取引の2次流通で得られる手数料のほうが高くなるケースが想像つきません。

よって、「NFT管理をすると作家にとっての印税メリットが今の流通形式より高くなるってどういうこと?」という疑問です。

ちなみに作家の印税がもっと高まるべきである議論はNFTとは別の話です。現在は個人で電子書店と契約をして流通させる事ができる=印税率は高まるので、出版社やエージェントと契約をするメリットと個人でやるメリットを天秤にかける選択肢が作家側にある時代なので、そこは付加価値をつけられる方がより選択されるようになる未来があるよという議論なので、本件とは切り離します。

以上、いかにも今の電子コンテンツの流通構造が作家にとって不利益であるという書き方ではあるのですが、もしNFTで管理され、中古市場が存在することになれば、無限販売が可能なモデルのデジタルコンテンツ流通において、基本的には作家(クリエイター)に支払われる総印税は、減って行くことになると思い。書いた次第です。

NFTは電子書籍の所有権を保証できるのか

せっかくなのでもう少し踏み込んだ話をします。「NFTで電子書籍が管理されるとメリットはあるの?」「そもそもなんでNFTで管理しないの?」

個人的には電子書籍はNFT的な使い方を持って管理できる未来が来ると便利になるだろうなと思うことが一つだけあります。「読者が作品(デジタルコンテンツ)を買ったという証明」です。

電子書籍のサービスは電子書店を始めとするサービス側が運営を終了した場合、買った購買履歴(アクセス権)が消えてしまう可能性。があります。中古で売れる売れないよりも、この問題の方が問題なんだろうなと個人的には思ってます。

各電子書店さんの業界的な努力により、AサービスからBサービスに「本棚移転」をするといったことで一部担保されていますが、これもあくまでも自助努力の結果です。

ただ、これは非常に難しいなと思っており、そもそも出版社を始めとする版元(今回の場合は電子書籍の発行元)は誰がどの電子書籍を買ったのかという情報を自社運営のサービス以外は管理していません。

各電子書店さんに販売権(利用権)をライセンスし、各電子書店が取引に応じてユーザー側にアクセス権を適用するという形なので、各書店が把握している形です。

筆者作成

じゃあ、出版社がNFTを発行して、一元的に管理をすればいいじゃないかという議論も出るかと思いますが、全世界でデジタルコンテンツ販売管理のルールもなければ、業界横断的なルールフォーマットもない。そもそも過去数年に渡って販売された「数兆円」の電子書籍はどうなるのか、そもそも各電子書店のメリットはほぼ無く、本棚移転機能は自社にとってのデメリットにつながる可能性が高いため、投資をする必然性がないです。

筆者作成

以上、「今すぐに」という観点だと、電子書籍とNFT管理の仕組みは現実的に難しいだろうなというのが個人的な見解です。こうやって書くと「今のままで良いと思ってるのか!」とお叱りを受けるかも知れませんが、市場が大きく伸びてきている中で、業界として頭の良い人たちが、頑張って取り組んでくれると思います。自分は電子書籍の仕事を離れて少し経ちますが、電子書籍スタート時に比べると今は仕組みもドンドン変わってきていますので、きっと良い未来があると思っています。

NFTとクリエイターの未来

とはいえ、私自身も「NFTと電子コンテンツ」、「NFTとクリエイター」という未来に可能性も感じています。コンテンツがデジタルシフトして、「物理的な所有」という概念が薄まっていくなかで、デジタルはどういった付加価値をつけることができるのかという観点です。

ここで私が考える付加価値は「所有」ではなくて「体験」だと思ってます。

例えば自分なら「NFT電子書籍」をどうするという観点では「通常版と特別版(NFT)」みたいなことがあると思ってます。「通常版」は今まで通りの流通、「特別版」は100部(ダウンロード)限定でNFTトークン管理付で流通させます(配信のPFはどこでも良いけど適したものがあると良いですね)。通常版と特別版で電子書籍として読める情報は全く同じです。今の電子書籍と変わりません。

その代わり、NFT所有者は特定のコミュニティに加入できることとします。そのコミュニティはいわゆるファンクラブ的に機能させて、所有者のみがアクセスできる情報サイトや、限定リアルイベントに参加できるよ、特定のタイミングで持っている人にプレゼントを配るよといった付加価値をつけます。

この100個の権利は二次流通ができるものとして、そのクリエイターが人気が出れば出るほどにNFTとしての付加価値があがり、その二次取引コストの一部がクリエイターに還元されることで作家の収入も増えるというイメージです。

いわば企業における「株」のように、市場流動性や株主優待のようなものをつけて熱量があるファンに応援してもらうという仕組みです。

これはあくまでも、いちアイデアなのでもっと面白い人がいろんなアイデアを出してくれるといいなと思ってます。

最後に

NFTというと「アート」や「ゲーム」が思いつきがちですが、基本的には「NFTで管理する必然性が無い」サービスが多い事が今の課題だなと思ってます。

ゲームとかだと、「そもそもガチャで出たキャラクターってユーザデータで管理しているんだから、わざわざNFTにする必要ある?」という観点です。

これは「所有による価値上昇期待」がそうさせてしまっているなと。ブロックチェーンの仕組みが「2次取引性」に注目が集まるだけでなく「データ所有として正しさの証明」という観点(例えば、ソウルバウンドトークンのような仕組み)で仕組みができてくると面白いなと思ってます。

以上です。

何か自分が間違っているんじゃない?とかこういうアイデアはどう?などあれば是非DMなどで教えて下さい。デジタルコンテンツの良い形の流通、クリエイターがより正しく対価を得られる未来があれば、是非学びたいと思っています。

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