サスペンダーズのコント『痴漢の冤罪』が、互いの人生で滅多に訪れない幸運と不運がぶつかり合い、最高に面白い人間劇場になっている件

エロいタコパなんですぅううううううう!!!!!

負けたよぉおおおおおおおおおおおお!!!!!!

あったかい世界だ

卒業おめでとう!

サスペンダーズ『痴漢の冤罪』

 やるせない幸運と不運の激突
 キングオブコント準々決勝。面白さのあまりTwitter上で『サスペンダーズ』の名がトレンド入りするほどウケたネタが、この度、Youtube上にアップされた。
 私も、SNSを見る限りでは『エロいタコパのやつ』や『痴漢の冤罪』という呟きを見て、「タコパと痴漢と冤罪がどんな関係があるのだろう?」と気になっていた。
 今回、動画を見た。10回見返した。
 声を大にして言いたい。

こんな面白いコント

 見たことねぇ〜〜〜〜〜!!!!!!!


 何度見ても腹を抱えて笑ってしまう面白さ。なんともいえない状況に陥ったサスペンダーズの二人が繰り広げる人間の喜劇と悲劇。まさにサスペンダーズにしか描くことのできない、濃縮された人生模様がコントに昇華されていた。
 もはや私が語らずとも、サスペンダーズのファンの方にはその面白さは十分に伝わるであろう。今回は、私が面白いと思った部分を含めて、まだサスペンダーズを知らない方にも、その面白さを知っていただくために、記事を書いていく。

 隠されたタコパの魔力
 冒頭、何やら紐でくくった箱を片手に持つ古川さんと、椅子に座って悩んだ様子のサラリーマン依藤さんが登場する。
 どうやら依藤さんは痴漢をしたという疑いをかけられており、痴漢をしていない場面を古川さんは見ていたという状況だ。
 冒頭から謎が展開される。依藤さんは古川さんに警察が来るまで待ってもらい、自分が痴漢をしていないことを証明してほしいとお願いをするのだが、古川さんは困りながらお願いを拒否する。
 最初は「タコパがあるんです」という言葉で濁す。古川さんが持っているのは、「それが無きゃ始まらないだろ」というたこ焼き器である。なぜそんなものを急遽買って持っていくことになったのかと想像するだけで、古川さんがどのようなポジションにあるかがなんとなくわかる。
 単なるタコパの用事で、自分が冤罪を背負わされる依藤さんは黙っていられず、古川さんを説得しようと試みる。
 タコパに行かなければならないという古川さんと、痴漢をしていないことを証明してほしい依藤さんの対立関係は、古川さんの放つ一言で一気に激しさを増していく。
 追い込まれた古川さんが放つ「エロいタコパなんです!」という一言で、それまでのタコパに対するイメージがガラリと変わる。
 たった一つ『エロい』という形容詞が付くだけで、単なるタコパという名詞に、とんでもない奥行きが生み出される。
 パワーワードをこれでもかと積み重ねてきたサスペンダーズの真骨頂とも呼ぶべき、形容詞の鮮やかな付加が会場に笑いを巻き起こしている。
 
 畳み掛けるように、古川さんは『エロいタコパ』が自分にとってどれほど重要であるかを語りだす。重要性の根拠となる古川さんの悲しき過去、そして、『エロいタコパ』という、これまでの人生で一度も味わったことのない幸運な機会。古川さんの語りを聞いているだけで、もはや「それは仕方のないことかもしれない」という説得力が生み出される。
 自分に巡ってきた人生最大の幸運と、目の前の不運なサラリーマンとの間で、完全に身動きが取れなくなった古川さんの追い込まれた姿が面白い。まさに古川さんの放つ雰囲気が醸し出す『日陰感』が、コントに迫力と説得力をもたらしているように思う。そして、メタ的に自分の置かれた状況を語る古川さんのキラーフレーズ。サスペンダーズの全てが詰まった最高の展開である。

 『エロいタコパ』がどれだけ重要かを語った古川さんの後で、依藤さんはなんとか古川さんを説得しようとする。『エロいタコパ』の代わりに、『コンパ』を提案する。一見すれば、良い提案のように思えるのだが、その後に古川さんが放つ、『エロいコンパのディティール』を聞いて、ぐぅの音も出なくなってしまう。
 

看護師
レースクイーン
コカレロ
マンションのワンフロア

 このディティールの凄まじさ。安易に提案された『コンパ』を叩き潰すクオリティでエロいタコパを語る古川さん。そのリアリティはどこから仕入れた情報なのかと疑問に思うのだが、『青学 タコパ』で検索すると、割と簡単にイケイケな青春を謳歌する男女の大学生の画像が出てくるので、いわば定番になっているのかもしれない。
 古川さんの強烈な『エロいタコパのディティール』に食い下がることなく依藤さんは提案をするのだが、ことごとく古川さんのさらなる『エロいタコパの詳細』の開示が行われる。この『エロいタコパの詳細』も絶妙に面白い。なぜタコパなのかという理由もさりげなく語られていて、さらには古川さんの風貌や雰囲気によって、『エロいタコパ』の『エロ』の部分がさらに加速されていく。もはや洪水となって溢れ出した『エロいタコパのディティール』に押し込められ、依藤さんが放つ「負けたよぉ!!」で、最高潮に達した面白さが爆発する。
 その後の、依藤さんの「えっろいなぁ〜」の言い方も凄まじく、サスペンダーズの二人の半端ではない演技力が光っている。サスペンダーズのコントを見ると、コントというのは優れた演技力がなければ成り立たない笑いの形式なのかもしれないと思わされる。それほどに、二人の演技力が凄まじい。
 
 依藤さんの完敗宣言。ここから怒涛の勢いでコントは展開していく。
 自らの冤罪の罪を晴らすよりも、若き大学生の性春の『エロいタコパ』を優先する優しさ。内容はくだらないのだが、それが決して単なるくだらなさではなく、むしろ人間の美しさに転換されている。人を思う優しい気持ちによって、目の前の人の大切な人生の時間を優先させる。無実の罪を着せられた依藤さんの懐の大きさが目立つ。
 しかし、ここで古川さんはあっさりと『エロいタコパ』に行かない。むしろ、依藤さんの優しさに感化され、自らの運命を自らの手で変えようとする。まさかの『エロいタコパに行かない宣言』である。
 近頃は、いわゆる『感動系のコント』や『笑えて泣けるコント』のような言葉で表現されるコントが数多く見受けられる。『笑いと泣きの融合ネタ』は、これまでにも数多くのコント師、漫才師たちが試みてきた。例を上げるとするならば、フットボールアワーの『タバコ止めろ』、金の国『満員電車』、さらば青春の光『いじめ』、ピース又吉の『火花』、『劇場』などなど、それほどクローズアップされることはなくとも、きらりと光る名作が幾つもある。
 そのような系譜に、サスペンダーズなりの金字塔を打ち立てたのが『痴漢の冤罪』であろう。互いに互いの言い分を言い合い、互いに譲り合う人間の『情』が、ここにある。
 人生で二度と訪れない幸運なエロいタコパを自ら断った古川さんと、痴漢の冤罪を晴らすことを諦めた依藤さん。互いに譲り合った結果、依藤さんが放つ『あったかい世界だ』というフレーズの、ジーンと胸に響く面白さと感動。凄まじいまでに見る者の感情を揺さぶる人間劇場。まさに、サスペンダーズの二人にしかできない、笑って泣けるコントになっている。
 感動のラストシーンまで、『エロいタコパ』と『痴漢の冤罪』が、最終的に美しいハッピーエンドとなる。ここまでの流れは誰にも予測できない。だからこそ、このネタにサスペンダーズの、これまでの全てが詰まっており、そしてさらなる進化を遂げる偉大なる土台にもなっていると思うのだ。

 『痴漢の冤罪』。その面白さと、最後の感動の場面まで、試行錯誤の末に生み出された、サスペンダーズの渾身のネタに笑い転げた。しかも、これは初出しである。おそらくは準々決勝、そして準決勝一日目と、ここからどれだけ磨き上げられたのか、それは、幸運にもサスペンダーズのネタに触れる機会のあったお客様が一番分かっていることであろう。
 こんなにも、パワーワードが飛び交い、登場人物の環境や思いがぶつかり合い、そして、誰も予想しなかった最後を迎える。ネタづくりにおいて「5:5の天竺を目指す」と宣言した古川さんの言葉どおり、サスペンダーズの二人が互いに譲り、譲らずなせめぎ合いの極地を見たように思った。
 衝撃の『ペイチャンネル』から2年半。サスペンダーズの二人がこれほどまで、縦横無尽にコントの中で言葉をぶつけ合い、凄まじい面白さを生み出すことの素晴らしさ。それまでは、どちらかといえば、古川さんにクローズアップされる時期が多く、依藤さんのキレッキレのツッコミ時期や、古川さんの人生哲学オンパレード時期を超えて、ついに『古川さんと依藤さんの互いの激突』がネタにおいても形になっている。日頃、サスペンダーズのYoutubeチャンネルを見ているときも思うのだが、二人の掛け合いが何よりも面白い。どちらか一方が面白いのではなく、どちらも面白いのだ。
 
 SNSで話題になったサスペンダーズのコント。話題になるのも当然と思えるほどの面白さだった。欲を言えば生で見たいほどである。
 前記事にも書いたように、サスペンダーズの進化は止まらないだろう。これから、どのようなコントが生み出されていくのか。楽しみで仕方がない。

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