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熊本で46年続く鉄工所を継いだ三代目が、工場保全DXを推進する会社を始める理由

こんにちは。
熊本県の工業都市 八代市で46年続く鉄工所「株式会社石坂製作所」の代表の森田悠斗と申します。1998年生まれの24歳です。

代表取締役 森田 悠斗

この度、関連会社として「オーヘン工業株式会社」を創業し、こちらも代表に就任しました。

工業都市、八代(やつしろ)

私が生まれ育ったのは熊本県八代やつしろ市という熊本県南部にある町で、実家は祖父の代から鉄工所「石坂製作所」を営んでいます。

八代は、明治時代に九州最初のセメント工場や製紙工場が出来たことをきっかけに、熊本の工業都市として工業都市へ向かった地域です。

その後、軍需産業としての加速と共に生産を高め、戦中、戦後を通して田園地帯や海岸埋立地に新しい工場が立ち並び、さらにイ草の生産も伸びて空前の繁栄期を迎えました。

商店街、歓楽街や日奈久温泉の賑わいは「熊本一」で、当時、会社勤め一人当りの給料は県庁所在地である熊本市の173%だったそうです。

当時の賑わいはオイルショックや公害問題で鎮静期を迎えることになりますが、現代でも工業都市として、臨海部には次のような工場が立地しています。

・日本製紙(紙製品)
・YKK AP(窓やサッシ)
・ヤマハ発動機(船舶)
・メルシャン(お酒)
・興人フィルム&ケミカルズ(食品フィルム)

八代の五大工場

祖父の鉄工所はこのような工場で使われる大型のタンクや水槽、設備を製造し、工場に設置し、メンテナンスまでしています。

小さいときから祖父の鉄工所へ遊びに行ったときに見ていた、職人さんが大きい製品を作る姿や大きなトラックを操る様子は「カッコイイ」と思っていました。また格好良さを超える、芸術的な美しさも感じていました。

私は大学受験を目指して普通科の高校に通っていました。しかし、格好良くて、美しい職人に憧れて祖父の鉄工所に高校卒業後すぐに入社しました。

(株)石坂製作所の本社

最初は熟練の職人さんの元で図面の読み方から溶接のやり方などを身に付けていきました。また、鉄工所での仕事が終わった後は、夜間の定時制工業高校に通い、工業全般の知識の習得もしました。

そこからアトツギとして石坂製作所をより大きくしていくために、新規顧客や新しい協力会社の開拓にも取り組みました。

この石坂製作所で経験で、顧客となる製造工場が持っている課題と工場保全をする鉄工所の抱えている問題は、お互いを結びつけることで解決できるのではないかと思い、オーヘン工業を創業しました。

顧客となる製造工場が持っている課題

製造工場の課題
・設備保全の担当者が定年退職するが、技術が継承されていない
・人手不足により、自社で設備保全をする余裕がない
・工場設備が老朽化し、保全費用が増加している
・事業計画に合わせた工場設備の維持をしていきた

現在稼働している工場設備の多くは、1953年〜1973年までの高度経済成長期の生産拡大期に設置されたものになり、設置から30年以上経過しています。

工場設備の寿命は30年〜50年と言われています。そのため寿命が近づき、故障が多く発生しています。そのため新しい設備に入れ替えるか、大規模な修繕をして既存の設備を活用していくかを選択する時期に差し掛かっています。

また製造工場で稼働当初から設備保全を担当してきた人も、定年退職を迎えようとしています。設備保全は長い経験と技術が必要になりますが、熟練技術の継承が進んでおりません。
その原因は、地方における人手不足により、製造をすることで手一杯になり、保全の担当者をおけず技術を継承する人がいないことにあります。

工場設備はを1つ購入するのに2億円〜10億円掛かり、30年〜50年稼働するものになります。

私は石坂製作所にいる間に熊本県や宮崎県、大分県、鹿児島県の50件以上の製造工場を訪問しました。工場経営者からは、後継者がいないことや需要が減っていく中でも必要とする既存顧客に販売を続けられるように、設備を維持していきたいと考えているということを多く聞きました。

しかし設備を維持したいが、保全担当者の定年退職が近い、社内で保全を行う人的な余裕がないなどの課題があり、外部にお願いしていきたいということでした。

工場設備を新しく購入する場合は、メーカーや商社に問い合わせを行えば、最適な設備の提案を受けることができます。設備の維持をするためには、鉄工所に依頼する必要があります。しかし、鉄工所でホームページを持って情報発信をしているところは少なく、どこにあるのかも分かりづらいため相談するのが難しいです。

工場保全をする鉄工所が抱えている問題

鉄工所の問題
・多重請負構造になっており、収益性が低い
・特定の企業との結びつきが強く、売上が安定しない
・他社にはない設備は技術を持っているが、うまく活用されていない

工場設備を製造・施工する業界は、営業を担当するメーカーや商社、設備の企画や設計をする会社、製造や施工する鉄工所がいて、それぞれが別々の役割を担っています。

この中で技術力を持ってるのは鉄工所のみになります。しかし、鉄工所は製造工場と直接やり取りはしません。メーカーや商社が聞いた要望を元に作られた指示通りに製作や施工をしていきます。

鉄工所はメーカーや商社からの指示に答えるため、必要となる設備を購入しています。この設備は1つの仕事のみに使用されることや使う頻度が少ないこともあります。

指示に答えるという目の前の目的を達成するために購入された設備なので、他にもこういう用途で使うことができるのような長期的な目的がないことが多く、設備がうまく活用されていないところがほとんどです。

また、鉄工所は製造・施工をする役割は担っていますが、営業や企画、設計などの役割は別の会社に依存しており、鉄工所単独で仕事を受注するのは難しい現状です。

祖父の鉄工所周りの状況は知っていましたが、他の地域の状況も同じなのか知るために、2021年9月あたりから宮崎県や大分県の鉄工所を10件程度、回って見ました。

その時に見たものは、九州だとここにしかない設備があるが2年前から使われていないや何十年と経営してきたから経験豊富な熟練の職人が多いが案件が減ってきているなどでした。

製造工場と鉄工所の架け橋になる

溶接作業 風景

工場設備の維持をしたくて、鉄工所を探してる製造工場。
他にはない設備や技術を持っているが、うまく活用できていない鉄工所。

この2つはお互いの足りないものを埋めるにちょうどいい関係にあると気づきました。

私のご依頼いただいた中で、大分県の工業用ゴムの製造をしている会社は部品の修理を埼玉県のメーカーにお願いしていました。
この部品は重たく、修理するための設備も特殊なものでした。なので重たいものに対応でき、特殊な設備をもっている会社を九州で探すのは難しく、メーカーに依頼していたという背景があります。
しかし、この条件に当てはまる鉄工所が宮崎県にありました。これまでより近くで対応することができるため運送費が抑えられ、運搬する時間も減らすことができるようになります。

技術を探している製造工場はあるのに、他にはない設備や技術を鉄工所が埋もれてしまっています。

オーヘン工業は地域にあるそれぞれの鉄工所が持っている高度な技術や設備を集約し、日本・世界のものづくり工場が求めていることを実現できるようにお互いをつなげる架け橋になっていきます。

最後に

熊本県八代市の全景

かつて、奇跡と呼ばれた高度経済成長を遂げた国がありました。

国民所得倍増計画のもとに生まれた工業地帯が太平洋ベルトを形成。この国は「ものづくり大国」と呼ばれるまでに発展しました。

そして、現在。バブル崩壊後、生産工場の海外移転に伴う産業の空洞化、技術流出が頻発。成長を支えた団塊の世代が一気に高齢化を迎えました。地方の工業地帯にかつての活況もありません。

それでも、私たちは知っています。
世界屈指の技術者が、今もこの小さな工場にいることを。世界屈指の製造設備が、今もこの小さな工場で息づいていることを。

必要なのは、工場の細かい生産計画に合わせた工場保全の最適化です。

人に例えると「工場の健康寿命を延ばす」こと。私たちは45年の歴史で培った工場保全、設備メンテナンスの技術と知識とネットワークをベースに、あらゆるニーズに応えられる柔軟な仕組みを構築。

老朽化した設備を修繕し最適化を行った上で大切に使い続ける「アップキープ」をコンセプトに新会社としてオーへン工業株式会社を立ち上げました。

第四次産業革命の一翼を担うべくITの導入を進め、センサーやAIによる工場設備のモニタリングなどさらなる工場保全の最適化をめざします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

そんなオーヘン工業では、これからの工場保全業界を作っていくための仲間を常に探しています。

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