総合事務所という選択肢について
私は、ある士業グループ、総合事務所の司法書士部門の代表をしています。
総合事務所とは、いろいろな士業が集まり、同じグループ名を冠して、クライアントのために総合的なワンストップサービスを提供するという事業形態です。東京には割と多いんですかね。弊グループは傘下に複数の事業会社もあり、士業だけでない総合グループとして組織しています。
元々は個人で司法書士事務所をやっていましたが「一緒にやらない?」と誘われたのがきっかけでした。独立しひとり自由を謳歌してたのでいまさらだれかと一緒にやることも想像できず「いや、大丈夫っす」と断ったのですが、何回かオファーが続くなかで、こういうチャンスもなかなかないし、今なら年齢的にも頑張れる。それに『来たバスに乗る』という人生もいいかもしれないなぁ…と考えるようになり、グループにジョインすることにしました。
事務所名こそ変わったものの、実際には何も変わっていません。グループ化していなくても、他士業と(ゆるい)アライアンスを組んで仕事に取り組むのはどんな司法書士もやっていることで、グループにジョインした後も、イチ司法書士としてクライアントのためにしっかり働くだけです。
独立する前に勤務した数々の事務所のなかにも総合事務所がいくつかあり、今でもとても良い印象ですし良い経験になったと思っています。つまり、私はこの総合事務所という形態がもともと好きなのです。
そこで、今回は、自身の経験も踏まえ「総合事務所に勤める/総合事務所にジョインする」という選択肢について、Q&A方式で書いていきたいと思います。
Q1,総合事務所の良いところは?
4つ思いつきました。
1.他士業が近く(同じフロア)にいる
プロジェクトのスキーム作りのところから関われます。通常だと「スキームは確定しているんでこれに基づいて登記を頼むわい」というメールが来て、それに基づき登記をする、ということが一般的だと思うんですが、総合事務所だと一番最初の入り口のところから参加できます。というか参加させられます。そして初見にも関わらずその場で「リーガル的に問題はないか?」「メリットは?デメリットは?」「コストざっくり教えて」とグイグイ聞かれます。けっこうキツイです。
でも、そうすると「なぜわざわざこういうことをするのか」「このスキームによってどういうメリット・デメリットがあるのか」「それをどうやって登記までつなげていくのか」「登記以外に司法書士が関われる部分はないのか」という視点でプロジェクト全体を見ることができます。けっこうな経験値になると思います。
もうひとつ、些細な質問が毎日のように飛んで来ます。すごく当たり前のこととか、忘れているような論点とかを聞かれます。千本ノックです。これがなかなか鍛えられます。自分自身がよくわかってないのをごまかして説明してると明らかに相手に伝わっていないのが分かりますからね。そう毎日大量の質問を捌いているうちに説明スキルが上がっていったりします。
2.仕事のスケールが大きくなる
自分一人で営業して取ってくる仕事より、スケールの大きな仕事が来やすくなります。それこそ上場会社の仕事だったり数十億~の仕事だったり、なかなか体験できない規模の仕事ができます。複雑なスキームを理解する経験は自分のキャリアにとって大きなプラスになると思います。
3.全体の人数が多いので優秀な人と働ける可能性が高い
総合事務所だとグループ全体で少なくても30人~の母数になります。そうすると、なかにはいるんですよねとんでもなく優秀な人が。そういう人と一緒のプロジェクトを進めると「なるほど、こうやって仕事進めてるのね」という気付きがあったりします。むしろ他士業だからこそ違う視点で仕事を見てたりするので、同業者の働きぶりを見るのとまた違った学びがあったりします。
母数が多い=優秀な人がいる可能性が高いという意味では、司法書士の大規模事務所でも同じですが、いずれにしても、優秀な人の近くで仕事ぶりを見る・学ぶということはとても有意義だと個人的には思います。
4.独立後のつながりができる
同じプロジェクトをこなしたり、普段からしゃべったり、飲みに行ったり、そういうことをして仲良くなった他士業が事務所を移ったり独立したりする際に、仕事をいただけることが実は多いです。実際私もそうです。向こうからしてみても、一緒に働いて仕事ぶりだけでなく人間性もある程度わかってるので頼みやすいんじゃないかと思います。総合事務所でせっかく縁あって知り合ったのですから、事務所移ったりしても繋がりをもっておくのは得策じゃないかなと思います。
まあでもこういうのって「営業のために繋がりをもっておこう!」って考えると続かないんですけどね…。「この人面白いし仕事来なくてもいいから飲みたいな」って思える人がいたら、くらいの心持ちでいいんじゃないかなと思います。私が仲良くしているのはそういう方ばかりですし、一緒に仕事がしたいと思う方もそういう人ばかりです。
Q2,総合事務所の良くないところは?
私の経験上、良くないところは以下の2つです。
1.仕事量が多い
全体の母数が多い=クライアントが多い、なので、仕事も多いです。ですので関わるプロジェクトも増え、比例して労働時間も増えます。「のんびりやりてえんだ俺は」みたいな人には合わないと思います。いまはそうでもないですが、勤務した2つ事務所はまあ忙しかったです。
基本的に士業事務所間でのやり取りは避けられないので、めちゃめちゃ変な人は少ない印象です。
2.業務が偏ることがある
いまは商業が80%くらいですし、最初に勤めた総合事務所はほとんど相続登記がありませんでした。仕事量の割に、けっこうそういう偏りは出るのかなと思います。
Q3,士業事務所間でお金のやり取りはあるの?
たまに業務委託契約に基づくやり取りはあるけど、ほぼありません。他事務所がどんくらい稼いでるのか全く不明です。言うまでもないがバックもなし。なんなら逆バック欲しいくらいですね、無理なスケジュールで仕事完遂させたときとか。
Q4,士業事務所間でヒエラルキーはあるの?
なし。
税理士チームから依頼が来ることのが多いのでちょっと懸念していたんですが、お互いの専門性を尊重し合っていてすごくフラット。どちらかが指示するという関係性はありません。もちろん違反行為についてはきっぱりアウトだと伝えますしそのへんはクリアになっています。私でいうと、税務チームの顧問契約が切られても登記だけはそのまま継続、みたいなことも多いです。
Q5,テナント料などの経費はどうしてるの?
コストについては、各士業の占有面積・占有席数で割った額を負担しています。でも、細かいコストについてはうちは払ってなくてどこかのチームで負担してくれているものもあると思いますね正直。安いですもん。
まあそんなところですかね!個人的には勤めるにしても組成するにしても総合型の事務所は結構おすすめです。それでは。
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