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現役司法書士が教える商業登記ハンドブックを2倍楽しむ方法

はじめに

お気づきかもしれませんが、昨夜のワンオペがたたり、未だすごく眠いです。
連休、いかがお過ごしでしょうか。話盛太郎です。

さて、今回は、当職が仕事中によく参照している商業登記ハンドブック(以下、本稿において「ハンドブック」といいます。)について取り上げてみたいと思います。


4版は事務所にある。いい子のみんなはもちろん4版買ったよな?


商業登記ハンドブック by松井信憲。相変わらず名前の読み方がわからない。
実務についている関係者でまさか知らない方はいないとは思いますが、言わずと知れたキングオブ商業登記本であり、「これ知らない司法書士は全員モグリ」と申し上げても決して過言ではない虎の巻です。
余計な本をドコドコとタイトル買いして5ページ読んで積み上げるくらいなら、ハンドブック100,000回読みこんだほうが絶対にいい、そう私が普段から豪語する名著であり、法務局関係者も必ず参照する書籍なのです。
商業登記でメシを食っている司法書士にとってはトイレにおけるトイレットペーパーのような存在で、私はほぼ毎日なにかしらで開いています。

そんなハンドブックですが、私が考えている以上にみなさん重要視していないのではないか、そんな気がすることがあります。
同業の方やスタッフから質問を受けることがあるのですが、それハンドブックに記載されてなかったっけ?みたいなケースがあります。「ハンドブックに載ってなかった?」と聞いて「あ、見てないかも」みたいな回答をされると「いや逆に何を見たの?」という気持ちになるくらい私にとっては商業登記業務に向かい合ううえでハンドブックを確認することは当たり前の行動なのですが、他のよくわからん本を参照してハンドブックを見ていない、というのはやめたほうがいいんんじゃないかなあと思います。もちろん外国会社とかはハンドブックに載ってませんけども。

この情報化社会、色々な本が出版され、我々は手軽に手に取ることができます。ハンドブックもone of themになりつつあるのかもしれません。

これは非常に由々しき事態です。
そこで、ハンドブックを、100倍は無理だとしても、2番くらい楽しく読むためのハンドブック活用法をご紹介したいと思います。
ぜひハンドブックを好きになっていただき、いつか「松井信憲に会いに行くオフ会」をしましょう。


通読としてのハンドブック

まずオススメしたいのが、ハンドブックを精読・通読することです。
「いやあんな分厚い本無理でしょ」って思うかもしれませんが単元ごとに分ければ全然大変じゃありません。設立でも130ページ程度なので、さくっといけます。
まずはTwitterを閉じてください。話はそれからだ。

むしろですね、「最近、何かを精読するってことやりましたか?」と問いたい。「事例にあたったらそれを調べる、調べて回答を出したら終わりで忘れる。そしてまた調べる…」みたいなこと繰り返してませんか?と問いたい。
もし一瞬でも「うっ…」と思い当たる点があったなら、ぜひハンドブックを通して読んでみてほしいです。もう飽きたよって方にも必ず得るものがあると思います。

精読の良いところが「自分の”知ってる”の浅さを知ることができる」点かなと思います。
「管轄外本店移転?知ってるから読む必要ないわ」っていう人の”知ってる”が実はとても浅かったりするわけで、ハンドブックがその基準になると私は思います。
ハンドブックに記載されているものは司法書士として当然知っているべきものばかりです(といいつつもちろん私はまだ網羅しておりませんが。。)。
ですのでそういう意味では、ハンドブックに記載されていることを質問する、というのは、リサーチ・通読・理解が甘い、ともいえるのかもしれません。

ちなみに、読む際にオススメなのが、ページリンクを書き込むこと。
ハンドブックは「前記■1の(2)④が~」などとめちゃ分かりづらいリンクを張ってきます。このままだとぱっと見どこを指すのか全然わからないので、読みながらページ数を追記していくと次回以降にストレスなく読めます。

こんな感じ

とりあえず週明けから毎日ハンドブックを持ち歩くところから始めるのはいかがでしょうか?クソ重くてイライラすると思いますが、重いからこそ「せっかく持って帰ってきたからちょっと読むか」って気持ちになれるんじゃないかなと思います。


辞書としてのハンドブック

これは普通の使い方ですね。仕事で出てきたときに参照する。
ただ、ハンドブックて権威がありすぎて登記官もやたら「ハンドブックにありますよ」って言ってくるんですが、たまに言葉足らずというか簡略化されている箇所もあってそのあたりは他の書籍と照らし合わせて知識を補完する必要があるのかなと思います。

例えば、非役会設置会社において、株主総会で代表取締役を選定する際の株主総会の押印について、

株主総会の決議により代表取締役を定めた場合(中略)には,その議事録に変更前の代表取締役が届出印を押印していない限り、議長及び出席取締役の全員が議事録に押印しなければならず,代表取締役の変更の登記申請書に当該押印に係る市区町村長作成の印鑑証明書を添付すべき旨の規定が設けられている

151ページ

(工)代表取締役の選任を証する書面に係る次の印鑑についての市区町村長の発行した印鑑証明書(商登規61条4項)。ただし,当該書面に,変更前の代表取締役が登記所に提出した印鑑が押印されているときは,会社法の原則どおりの記名押印があれば足り,全ての者について印鑑証明書は不要である。

・取締役会を置かない会社において,定款又は株主総会の決議によって取締役の中から代表取締役を定めたときは、議長及び出席した取締役が(中略)株主総会議事録に押印した印鑑

399ページ

上記2つは同じ事を書いているのですが、399ページだけを読むと、変更前の代表取締役が届出印を押印していても、印鑑証明書の添付は要らないものの、議長及び出席した取締役の記名押印が必要そうに見えませんか(もちろんよーくよめば「会社法の原則通りの~」とあることに気付くと思うのですが)。
その点、151ページの記載は非常に簡潔でわかりやすいですが、いずれにせよこのあたりわざわざ詳細な解説をしてくれないのがまたハンドブックのニクいところですね。

ちなみにTwitterにいらっしゃる某図書係の先生は、他の資料をハンドブックに挟みまくって一元化していました。ああいう使い方もありですね。


周辺知識を補完するためのハンドブック

そして最後は、ついでに目を通して周辺知識をまとめて補完する使い方です。
私自身、独立してからというもの、基本的な論点について受託した場合、時間がもったいないしもう頭に入っているのでわざわざハンドブックを開いて調べたりはしなかったのですが、スタッフを雇うようになり時間にやや余裕ができた今は、分かっていてもあえて一回ハンドブックを開くようにしています。

業務に際し、今回受託した範囲をざーっと流し読みします。
「ああそういえばこんなんあったな」と記憶を刺激させることで長期記憶を保つことができるのかなあと思っています。
特に(注)の部分ですね。ここはポイントも落としてあって普段わりと流しちゃいがちのところなので、このへんを中心に流し読みすると「あれ、俺この本まえに通読したはずなのに読んだ記憶ない…」みたいなところが出てきたりしますので非常に有意義です。

また知らず知らずのうちに自分が勘違いして覚えている部分がないのかも併せて確認できるので、そういう点でもハンドブックを再参照する意味はあると思います。

忙しくなるとわかっていることをいちいち調べるのってめちゃめちゃだるくなるんですが、目の前の仕事を処理するだけって緩やかに下降しているんじゃないかなあと個人的に思っていて、実際私も独立1~1.5年目くらいはそんな感じでした。
どうしてもインプットの時間は必要になる気がします。特にこういう知識フィーの仕事だと。


おわり

以上、目新しいものはなかったかもしれませんが、私的ハンドブック活用法でした。
自宅に置いておいたら娘にめちゃめちゃに落書きされた3版も、いよいよ裁断して電子化しました。
ブック派の私としては個人的には少しさみしいですが時代ですね。



おまけ

実は商業登記法コンメンタールもかなりおすすめです。

こちら、タイトルそのままに商業登記法のコンメンタールになりまして、なんかツイッター界隈であんまり話題になっていないような気がするんだけど、個人的には超名著だと思っています。ぜひ改訂を続けてほしい。
いわゆる学術書ではなく圧倒的実務書。すぐ使える知識がてんこもりで、こちらもほぼ毎日参照している気がします。お勧めです。金子節がすごいです。
外国会社の登記の記載も厚くていいですよ。

ただし、司法書士が書いているので法務局に根拠として提出しても「司法書士さんが書いているんスよね?」と鼻で笑われます。ご注意を。


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