【1分小説】連れ添った者【300字小説】

お題：「影」
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　身寄りのない老人の遺体がひっそりと火葬室に運ばれた時、その白い棺に駆け寄って飛びついた者がいた。
　老人と生涯連れ添った、彼の影であった。

　影は震えていた。自らの腕と足を引き裂いて、それを棺の上に散らした。それは菊の花に似ていた。
　私は生まれて初めて、影のすすり泣く声を聞いた。

　ほんの少しだけ、棺の蓋を開けてやると、影は菊と共に、老人のいる暗がりへ滑りこんだ。やがて火葬室から骨が取り出された時、影はそこにいなかった。

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　共同墓地にその老人が埋葬されて以来、彼の命日に線香を焚くと、その煙は菊が咲くようにひらくという。

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