見出し画像

あゝ LAメタル!! その三

1984年頃の学生時代、私、レンタルレコード店でバイトの店員をしていました。そのレンタルレコード店で、私とバイトの相棒の先輩が「ロック姉さん」と名付けていた常連客の女性がいました。
ロック姉さんは頻繁にライヴに行ってるようで、黒の皮ジャケットにタイトなパンツ、髪型もモリモリにパーマがかかっていて、腰には鎖のようなベルトが巻かれていましたから、もう店に入ってきた瞬間空気が変わります。イメージとしては、若き日の浜田麻里ですね。ザ•ヘヴィメタルファッション。

ただ、ロック姉さんは見た目の印象とは反対に、話すと物静かなでおしとやかでした。いつも小さな声で「こんにちは」と言って借りたいものを借りてすぐ帰ろうとします。彼女は洋楽ロックに精通していたので、やはりモリモリのパーマのロッカー店長先輩としては「同志」なので、よく彼女を引き留めロック話しをしていました。

その後、店は閉店してしまい、それから一年程が経ち、私は悠太の影響と悠太ママの魔法(その二を見てね)で、すっかりLAメタルのライヴに通っていたのですが、ある日、カトマンドゥというバンドのコンサートに行った時、アリーナの最前列で一際目立って踊っている女性二人が、二階の私の席から見えまして、それは、ロック姉さんでした。

カトマンドゥ

終演してホールで久しぶりに再会しておしゃべりなどしながら、一緒に踊っていた女性も「ロビン・サンダーが好き」と言う人で、ロック姉さんも「いつから80sメタルを聴くようになったの?」と嬉しそうに言います。

その後、デフレパードのコンサートもその二人と同じ日だったので、今度は三人で開演前に飲み食いしたり写真を撮ったりして過ごしました。終演後は、私の車で家まで送るよって言ってあげて、あのレンタルレコード店があった街に向かって、車で走り出しました。

二人だけになると、彼女は知性を感じる人でした。外見は、鋲入りのレザーパンツを履き、肩はざっくり露出していて、どぎついファッションなのに、話すと、テレビタレントのこととかは全く知らず、ジェーンバーキンの近況を良く知っていたり「スティングのソロはもう聴いた?」とか「美術館はよく行くわ」と言います。その格好で?とふと思いましたが、そういう体裁をまず気にする自分の方がつまらないのです。
「ああ疲れた」と言うので「そりゃあ、あれだけ踊っていれば疲れるでしょ」と言うと「そうね」と言って、あまり会話は続かないのですが、それでも落ち着いた気持ちでいられるのは彼女の内面性が外見と違って、浮ついていない知性を感じるからです。

その時彼女が「これ絶対、好きだと思うわ」と私に教えてくれたのが、ホワイトライオンの「プライド」というアルバム。ロック姉さんは、車内で数曲私のプレイリストを聴いただけで好みの傾向を分析してしまいます。
彼女のおかげで、永らく私はホワイトライオンがLAメタルでもっとも好きなバンドになりました。

プライド

88年、待ちに待ったホワイトライオンが来日。好きな曲の歌詞まで覚えて参戦したのですが、そのライヴは実力の無さが露呈していました。ギターのヴィトブラッタ(その一を見てね)は良かったのですが、不安視していたヴォーカルのマイクトランプが高い声がぜんぜん出なくて、大好きだったCDの曲群は、すべてが人工的だったのか…とガッカリしてしまいました。

人は見かけによらぬもの。
CDも実力とは違うもの。

本当の姿ではないと分かってしまったホワイトライオンですが、それでもずっと私のお気に入りで、いわば人工甘味料みたいに楽しめる音楽でした。


それからしばらく経ったある日、ロック姉さんから、一枚の絵葉書が届きました。

そこには、今、ロンドンにいること、ブルージュの街は美しかったこと、明日はウィンザー城へ行き明後日はモンスターズオブロックへ、マーキーにも行きVowwowを観ます、と手書きの字で綴られていました。

その字がとても綺麗で、それを見た瞬間、ああやっぱりそうなんだ!彼女の本来の姿はこれなんだ!と思いました。どぎつい外見に惑わされていたけど、彼女の字は綺麗でその行間は一糸乱れず美しく、文章も礼義正しく女性らしい…彼女の本来の姿がこの絵葉書に正しくパックされていると感じたのです。

その後、ロック姉さんと会うことはありませんでしたけど、あの絵葉書に彼女の本当の姿を垣間見ることができて、嬉しかった。

時代は90年代に入り、華やかなLAメタルの時代はその終焉を迎えていました。
ホワイトライオンは人工のパック
絵葉書は真実のパック

生きていけば、
人工甘味料みたいに偽物や飾りも必要だし、
見た目や体裁にとらわない生き様も必要。
今はそう思うのです。

ロック姉さん その後もきっと、人目を気にせず自分の道を歩いていると思いますね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?