UFO Lights Out
私、洋楽98%邦楽2%なので、邦楽にめっぽう弱く会社仲間のカラオケや取引先とのお付き合いの時、困りました。「何を歌えば、歳相応で嫌味っぽくならないですか?」と紳士服店でスーツ選んでもらうみたいに知り合いに相談してアドバイスされたスピッツを覚えたりもしました。
ある時は、職場の女性がPUFFYを歌い終えた時「パフィー?知らない」と本当に知らなかったので呟いてしまい、場の雰囲気を悪くしたことがあり、それ以来「パフィいいよね〜」とか殆ど知らない邦楽をまあまあ知ってるような顔しています。まあ酔っ払ってるし、たかがカラオケなのでいいんですけど、心底楽しめてはいないですよね。
だから、たまには好きな洋楽を歌おうとエルトンジョンの「ユアソング」を練習して上手に歌ったのに、静かなリアクションしかなくて、やっぱり洋楽を歌うのはやめました。笑
ある日、会社のいつもと違うメンバーとカラオケに行った時、やまさんという別の課の課長さんがビリージョエルの「オネスティー」を熱唱して拍手喝采を浴びていて、洋楽披露のお手本を見せてくれたのです。やまさんは完全に洋楽派でした。
その後、やまさんとも話すようになり、なにかの帰りだったか、やまさんの車の助手席に私が居て、彼が「今度、市民イベントでさ、バンドやるのよ、良かったら来てよ」と私が洋楽好きとも知らずに言うので「何やるんですか」「知らないと思うけどさ、UFOのライツアウト」「おれ好きですよ。ライツアウトは70sヴァージョンより95ヴァージョンの方がカッコいいですよ」と言うとやまさんは隣でビックリしていました。
その後、私も異動でやまさんと同じ部になり、研修の帰りとかは好きな洋楽話しをしながらよく一緒に帰りました。
ある時は一緒に飲んだ時、やまさんは奥さんも連れてきて、奥様はカンサスのファンクラブの会長をしてたほど洋楽好きで3人で洋楽話で盛り上がり、その勢いで「洋楽しか歌わないカラオケ」に直行。馴染みのロック名曲の数々は歌ってみると、想像以上にぜんぜん歌えなくて笑、もうメチャクチャな英語で騒ぎまくり日頃のお付き合いカラオケの鬱憤を晴らしたのです♪
ある時、会社で大トラブルが起きました。それは今なら報道沙汰になってもおかしくないレベルです。トラブルは下請け業者のミスでしたが、該当課の課長であるやまさんは、その時は相当大変でした。会社が品質管理やコンプライアンス重視に舵を取り始めた時代で、新しく創る仕事が得意で自由闊達なタイプのやまさんは、次第に居場所がなくなり、その後、自ら退職しました。
私とも連絡が途切れて何年か経ったある時、あるイベントでやまさんに再会しました。彼は好きな音楽関係の仕事をしていて、とてもお元気そうだったので私も安心しました。
「今さ、新人発掘のプロモートやってるのよ、今週ここでステージ作ってイベントやるから絶対観に来てよ」「どんな新人発掘してるんですか」「○○スタイルの○○系みたいなやつ」「??」「要はアイドルよ、御当地アイドル」「ア、アイドル!?」「ロックなんてムリムリ、これからはアイドルよ」
私はカラオケで困っていた時代の自分に引き戻されたような気持ちになりました。ブリティッシュロックで意気投合したやまさんが、アイドルの発掘をしてるなんて!?
でも、なんであろうと彼は音楽好きな若者に場を作る仕事をクリエイトし、元気で自分らしくて、それだけでオールライトでした。
「行きますけど、一曲くらいロックやってくださいよお〜」「そっかあ何がイイかなぁ」「そりゃあ、UFOでしょ!笑」「ハハハ、ピンクレディーのUFOなら女の子達も分かると思うよ!笑」
それから数年が経った頃、全国紙地域版で地域活性化に貢献している人物紹介の欄で、やまさんが掲載されているのを見ました。さすが!
しかし、その数年後には、彼が手掛けるライブハウスが、コロナ渦でピンチに立たされ、クラウドファンディングで寄付を募っているという状況もネットで見ました。
私はラクなサラリーマンを続けたけど、
やまさんは、会社を辞めて音楽で自らの道を開拓した。
マイケルシェンカーで有名な、UFOの「Lights Out」という70sのロックの名曲の歌詞は、ロンドンの街の灯りが消えていく…と歌われていて、当時(77年頃)英国のパンクやニューウェイヴが流行り出して、それまでの正統派なハードロックの勢いは消えていくという喩えであるけれど、逆に言うと、主導権は取られたけど、今に見てろよ!必ず取り返してやる!という意気込みでもある曲なのです。
オネスティで雰囲気を一変させ、
ライツアウトでロック魂をみせ、
カンサスの奥さんとロックな絆があれば、
彼は必ず困難を乗り越え、
主導権を取り返すだろうと、
私は思っています。
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