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ジャクソン•ブラウン For Everyman

NHKの番組「世界ふれあい街歩き」でよく見た覚えがあるのですが、欧州の建築物の中庭、パティオ。これには憧れます。
噴水や井戸、それを取り囲む花々で飾られたオープンスペースで、中庭の周りの住人や路地を行く人たちが、ちょっと涼を得ようと立ち止まって、井戸端会議をするようなスペースです。

パティオ


ジャクソン•ブラウン For Everyman

1973年

ジャクソンは、そのパティオにある井戸の側の椅子に座っています。その建物は工芸家だったという彼の祖父が芸術家のコミュニティーにすべく建てたものだそうです。

本作は、私の好きなベスト10アルバムに必ず入ります。ジャクソンの作品の中でも一番よく聴きました。特にA面は私の永遠のフェイバリットサイドです。

I thought I was a child ↑
冒頭のピアノが美しいこの曲は、「時間」がひれ伏すほど彼女は自由で無垢な人なのに、
ぼくは「時間」に捉われている孤独な男。
そんな彼女に恋するラヴソングです。

彼女はこんなにも賢明で無垢で
魔法を使っているようだ
まるで時がきみにひれ伏すように
若いきみを自由にさせている

ぼくは自分が自由だと思っていたけど
結局は時間に捉われていて
心の中では孤独なんだ

パティオへ

子供の頃は「時間」に捉われず自由でした。子供に腕時計なんか必要ないし遊んで日が暮れたら家に帰ればよかった。大人になって自由を感じていても、気持ちのどこかで必ず時間や社会に捉われているのかもしれません。

13年前、母が永眠した時、私は何か形見を持ちたいという気持ちになって、腕時計を買いました。高校に入学した際、お祝いで母が贈ってくれた事を思い出したからです。
それはまだクォーツが無い時代の自動巻きの時計で古風なデザインが好きでした。私はそれに近いものを探して東南アジアからセイコーを逆輸入する形で、母の思い出の時計に似ている自動巻きの時計を買ったのです。

笑ってしまうのが、これが一日に2、3分遅れるのです。だから毎朝出勤前にテレビを見て時刻を合わせます。これを毎日やっていると、なんだか(たまごっち)みたいにだんだん愛しくなってしまって、しばらく使っていました。「時間」に囚われたくないという、ちょっとした抵抗であり、天国の母と通信しているようでした。

These Days ↑
彼が16歳の時書いた曲で、思春期から大人になっていく過程の中でその喪失感を歌います(16歳にしてはかなりオマセな歌詞です)。失ったものはかつての恋人だけでなく、若き日々の思い出もあり、不安を感じながらも前を歩いていこうという希望の曲です。

それでも僕は進み続けるよ
きっと物事は良くなっていくさ
ジーズデイズ きっといつかは
These days I sit on corner stones And count the time in quarter tones to ten
僕はどっしりとした石に座って
四分音符で十まで数えたりしたんだ

ここでも彼は「時間」を「ジーズデイズ(近頃)」と繰り返しつぶやいたり、十まで数えて落ち着こうとしたりします。

彼にとって「time時間」は音楽家らしい例えであり、精神的な計りでもあり、さらには、自由を得るための道標なのかもしれません。

涼をとる場なので噴水

先月、姉と二人で東北旅行に行きました。アメリカに在住する姉は時折り日本に帰国し私がガイド役で連れ回ります。
笑ってしまうのが、姉的には相当久しぶりの新幹線に乗った際「食堂車行こう」と言われまして「もう無いって!」「ええーいつから?」「かなり前!」「…そう」
時間が止まってますよね笑

秋田に向かった新幹線は3時間もの移動で、たかが5分の遅れを何度もお詫びしていて、気ままな私達には、過分なことでした。
物凄く早い車内清掃も、物凄く早い新幹線はやぶさも、丁寧で細かい日本人の「時間」はスピーディーかつ分刻みで、この質の高さも、人に満足感を与えてくれるものです。

時間と対峙しながら人は自由や幸せを求め続けているようです。

「時間」に囚われない時空であるかのような「井戸」の側で、ジャクソンは自由と幸せを求めて、そこに座っています。
このパティオは、幼い頃彼が過ごした場所であり、妻のフェリスが彼の子を身籠った時に移り住んだ家なのです。

本作「For Everyman」の出だし、「テイクイットイージー」と「泉の聖母」のメドレーは、近年のライヴではラストに演奏されていて感動的な終わり方でしたし、B面ラスト2曲のメドレーは彼の最高な瞬間だというファンの声も多いです。

最後に、本作から参加しているデビット•リンドレーについて。
彼のスライドギターのみならずアコースティックギターでも随所に美しく、ジャクソンの歌や詩の世界に広がりをもたらせている事も、忘れずに付け加えておきましょう。

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