見出し画像

ロッド•スチュワートThat's What Friends Are For

50代の頃「保険の見直し相談」の相談員の仕事をしていました。依頼があったお客さんの家を訪問します。数年で600件程担当しましたが、元ヤンキーのまま大人になったようなその方のことは、今も忘れません。

始めは言葉使いがメチャクチャでした。訪問の時、家が分からず電話をすると「それ行き過ぎぃ〜もう少し戻ると庭に黒のBBが止まってるからさぁ~」(はいはい)と思ってお宅に着くと黒色の改造車が二台あって、45歳でシャコタンかい!と思いつつ玄関のベルを鳴らしました。

その方のご病気は多発性硬化症でした。
車椅子になる方もいて、お会いした時は、足を引きづりながらも歩いていたので少し安心しました。「お子さんの名前は○○君ってお読みするのですね?カッコイイ名前だなあ(あり得ないキラキラネームだ!)」「ほんとはケモノへんの○○にしたかったんだけど、役所でケモノヘンはダメって言われてマジかよって思って」

このタメ口のお客さんは始めから上機嫌で、しばらく彼女の話を聞くことにしました。「100万なんかあっという間よ。私なんか前のダンナがアメ車買った時、200万出したんだから!」そんな調子でひとしきり喋ったあと、その方がふと言いました。
「車椅子にはなりたくないんです」

私が親身に聞いていたので、タメ口は徐々に無くなっていて、寧ろ会話が進むにつれて感じるのは、コミニケーションが上手で、みずみずしい人でした。

「もしよろしければ病気のこと少しお話し頂けませんか」すると彼女は棚から自分の病気についてのガイド冊子を持ってきました。
「歯の神経にあたる痛さあるでしょ、あれが口の周りに広がるの。もう顔触れないから、お化粧なんか上半分だけポンポンって叩いて幼稚園のお迎えに飛び出すの」 
「今、働いていらっしゃるのですか?」
「子供も今度小学生だし、障害者の仕事で今工場で、部品を叩いて壊す仕事を始めたんですけど、こうやって叩いて壊すだけなの。こんなの楽勝って思って!」

私は、その冊子のページをめくりながら、質問したり話しを聞いたりしていました。頂いたミルクティーがほんとうに美味しかったので、思わず「美味しい」と言うと、嬉しそうな顔を見せました。

彼女は一年前にも他社で保険相談をしていて、死亡保険について考え始めていました。卓上にはその一年前のパンフレット「病気の方でも入れる死亡保険」があって、付箋が貼ってあったり蛍光ペンで色塗られているのが目に入り、ふと、これは彼女が一年間抱き続けていた大切な事なのだと気づいたのです。

「なぜ一年前の時、入らなかったのですか」「お金が無かったんです。子供も幼稚園で働けなかったし、色々とお金がかかって…」
「それで今回、お申し込みをしようと思ったのはどうして…」

「働きはじめたからです」 

私は思わず姿整を正しました。健常者である私には、この言葉の重みは到底分からないのです。それでも、彼女にとって再び働き始めるということがどんなに大きなことなのか、その一言は強く私に刺さりました。

そして今日は、自分の手で得られるお金で死亡保険に入る日であり、きっとそのことを人にも認めてもらいたいのだ。これは彼女の、働き始めたという未来への希望の一歩であり、現実的であるかもしれない死への責任の一歩なのかもしれない。

そう考えると、さり気ないおもてなしと感じていた幾つかの事もつながってくるのです。
「体調の良い日にしたい」と言って面談日が二転三転したこと。
「家が分からないのかと思って…」と私の携帯に不在着信が残っていたこと。
玄関に新しい花が置かれていたこと。
自家製のミルクティーに合わせて添えられた、ミルクティーのキャラメル。。

帰り際に玄関で私は努めて明るくしました。
彼女にとって喜ばしい日なのだから。
「すごくわかりやすかったです」
「また何かあったら相談してください」 

私は上着のポケットからミルクティーのキャラメルをひとつ取り出して彼女に見せて、「これ、さっき席を外されている時、ひとつ頂いちゃったんです。ミルクティーがすごく美味しかったので、こっちを記念に!」そう言ってお互いに笑い合って、家を出ました。

玄関のポーチでずっと見送り立ち尽くす彼女の姿が車のバックミラーに映った時、私は胸を締め付けられる気持ちになってしまい、彼女が車椅子にならないようにと、本当に願いました。

この曲は作曲がパート•バカラックです。いい曲ですね。三年後にディオンヌ•ワーウィックがヒットさせました。

歌詞には、and という言葉で始まる部分が多くて、大切な友人とのいつものおしゃべりの続き、改まった言葉は気恥ずかしくて、あのね、それでね、といった雰囲気が伝わってきます。

それからね、私としては
こう言える機会があって嬉しいわ
私はあなたが大好きなの

私がいなくなったことがあったら
その時は目を閉じて
今日の感覚を思い出してみて

それからね、もし覚えていてくれるなら
微笑み続けて 輝き続けて

いつでも何があっても
私を頼って良いと覚えていて
友達ってそのためにいるのよ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?