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サンディ•デニー (京都の秋)

1984年頃の学生時代、私レンタルレコード店でバイトの店員をしていました…が、他にもやっていた季節限定のバイトがありまして、旅行会社の添乗員です。修学旅行シーズンになると社員の人手か足りなくなるので、秋だけ中高生の修学旅行に付いて行く臨時添乗員です。(デビーブーンの話)

初仕事は、中学生の修学旅行、京都奈良でした。私はあるクラスに同行したのですが、バスの席は最前列の補助席。右に教頭先生、左に担任の郡司先生が居ます。
お母さんみたいな郡司先生は私に気を遣って「いつもお忙しいのでしょ?」。教頭先生もずっと隣にいるので「お疲れ様、大変だね」
「あっ、はい。大丈夫です」
実は会社からは、先生方には社員ということにしておくこと。アルバイトととは言わないように。と言われています。

担当のバスガイドさんが、自己紹介を始めました。「皆さん、こんにちは。私はここ京都出身の○○と申します。実は私、今回最初のガイドのお仕事となります。一生懸命頑張りますので宜しくお願いします」
新人さんかぁ…じゃあ俺と同じだ。
ガイドさんは細身で京都弁の若い方です。
私は拝観料の大金を持ちながら、ガイドさんも行程をチェックしながら、新人の二人は気を張りつつ、生徒達と見学箇所を周ります。

三日目頃には慣れてきて「添乗員は眠ってはいけない」という言い付けを必死に守りながらも、補助席で私は船を漕いでいたと思います。でもガイドさんはドアのステップの所でほぼ立ちっぱなしで案内を続けています。

「皆さん、右手の山をご覧下さい。今ちょうど紅葉がまっ盛りでほんとに綺麗です…この山は平安の時代の〜云々」
外を見ると、目を奪われました。当時、紅葉や寺院仏閣にまったく関心が無かった私ですが、この山の紅葉は凄い…見たことがない、真っ赤に染まった美しい、京都の紅葉です。

サンディ•デニー 「SANDY」1972年

2nd

私はサンディ•デニーが大好き。
そしてこの曲(冒頭↑)がベストです。初めて紅葉が美しいと思ったあの山のような、大地と山の豊潤さを感じる曲です。

私は米国好きで、英国女性Voは疎いのですが、サンディ•デニーは別です。本作は英国を感じる彼女のソロの最高傑作だと思います。次作以降は米国市場を睨みポップになっていきます。

フェアポートコンベンション、
フォザリンゲイを経てソロに。

宇治平等院では楽しかった。生徒達は十円玉を取り出し写真を取ったり、池の辺りではしゃいでいます。ヤンチャな男子達とハイタッチを沢山交わし、手が痛くなりました。

一足先にバスに戻ると、ガイドさんと一人の女子生徒が座っていました。気分が悪くなった生徒を介抱していたようです。
私「大丈夫?」女子生徒はうなずきガイドさんもその子に寄り添っています。ここに着いた時、私は拝観料の支払いがあったので駐車場から道路を渡る誘導役をガイドさんに頼んでいました。

これは先日の近所の夕焼け

その夜、旅館のロビーですっかり元気になった女子生徒とガイドさんが楽しそうに話していました。私「元気になったね」「ガイドさんにもらったの」。さっきは半ベソをかいてた女子生徒は貰ったハンカチを私に見せてくれます。ガイドさんも「ねえー」と言って二人でにこやかに顔を合わせます。「よかったよかった」

「さっきは誘導役代わってもらって、すいません、平等院初めて来たけど綺麗でした」「あら、初めてでらしたの?何度も来てはるのかと思いましたわ」彼女は私のことは、旅行会社の社員、社会人の先輩と思っています。「添乗員さんにも色々助けて頂きおおきに有難うございます」「いいえ、こちらこそ(本当はバイトなのに…)」

最終日、郡司先生と並んで歩きながら、私はこの優しい先生に好感を抱いていました。「あっという間ね、帰ったらすぐ次のお仕事に行かれるのでしょ?」「…はい」。私は喉につかえている事を言いたかったです。
(私はアルバイトの学生です、ほんとうは自分の学校の事や将来の事など郡司先生とお話ししたかったです…すみません )

ツェッペリンに参加した唯一の女性

バスは京都駅へ向かっています。ガイドさんは最後に感謝の気持ちと言って京都の季節の美しさを讃える歌を歌いました。途中から泣き出しながらも最後まで懸命に歌いました。

目の前で泣きながら歌う彼女は、なんてみずみずしいのだろう。初仕事を終えようとする彼女のほとばしる感情は、あの山の紅葉の様に、美しく燃え立っている。

お互い初仕事の四日間だったから、
一緒に泣きたかった。
でも隠し事があってうまく泣けないよ。
俺は学生。先輩社会人のバスガイドさん、
これからも頑張ってほしいな。

英国トラッドの至宝

あれから30数年後。
私は紅葉や神社仏閣が好きになっていて、幾度か京都へ足を運びました。
あの山はいったいどこだったのだろうか。
胸を躍らせた、燃え立つあの山の名を、
心が揺さぶられた、あの歌の名を、

もしあの時のバスガイドさんに会えるものなら、聞いてみたいのです。

アルバムの解説はよっしーさんの記事が素晴らしいです!↓(丸投げ)


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