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「シン・オジサン」 第3話

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夕方のかじわら商店は子供たちで賑わっていた。

紐がついたコーラ味やフルーツ味の飴、五円チョコやきなこ棒やラムネ。子どもたちはお菓子を食べながら、狭い店内で嵐のようにはしゃいでいた。

三奈本小学校3年生の佐々木達也はミニバスケットの練習が終わり、チームメイトと共にかじわら商店にやってきた。

3年生以上の子どもたちは梶原のじいさんの特製ジュースがタダで飲める。
娘の洋子さんはバスケの事や学校での出来事を飽きずに聞いてくれた。
アンジェラという名前の茶色い毛のラブラドールレトリバーを飼っていて、吠えたところを見たことがない程おとなしい犬だった。

三奈本小学校の子どもたちはかじわら商店が大好きだった。

2週間に一度、子どもたちが楽しみにしているイベントがある。

梶原のじいさんが一人一人に変身ベルトを着けてくれるのだ。子どもが着けるには重く物々しい作りだったが、特に男子は変身ベルト装着が毎回楽しみだった。

変身ベルトを着けてもらえるのは小学3年生以上で、下の子から一人ずつ名前を呼ばれる。

「達也ー。変身ベルトをつけるから奥においでー。」

梶原のじいさんが店の奥の部屋から読んでいる。

部屋に入ると、まずはじいさん特製のジュースを一杯。少し酸っぱくてどろっとしているが、甘くておいしい。ジュースの後はじいさんの問診だ。

「ノブとターチには1on1で勝てるようになったか達也?」

「あの2人には勝てないよ。だって4年生だもん。」

小学校3年生の達也にとっては1学年上の上級生に技術も体力も歯が立たなかった。

「ははは。達也も4年生になったら、ノブとターチみたいになれるから心配ないよ。」

梶原のじいさんは身長、体重、関節の曲げ伸ばしなど細かく調べていく。懸垂や垂直飛びなんかもやらされた。

面倒くさかったが、みんな変身ベルトのためと思い我慢した。

「よし。それじゃあベルトを着けてみよう。洋子ー。えーっと、OGの3を取ってくれ。」

「オージーのサン?オジサンみたいだねー!僕たちオジサンに変身するの
ー?あはははは!!」

それを聞いた他の子ども達も「オジサンベルトだー!」と言って笑いころげた。


🏃‍♂️

「加藤。お前の事情は分からないが、やり方が荒いと思うぞ。LINEで要件を言ってくれればいいじゃないか。」

島ちゃん先輩は落ち着いた口調で加藤に話しているが、人質に取られている遥人の安否を気にして焦りが見える。

どこからどう見ても男子中学生の加藤は、その容姿にそぐわない余裕のある笑みを浮かべている。

「俺だってこんなことは本意じゃないんだけどな。生活の向上のためには研究と実地調査を重ねていかないといけないんだよ。」

「生活の向上?30年前からお前らは生き物の上位にいるじゃないか。それ以上に向上する必要がどこにある?」

加藤は笑いながら軽くため息をついた。

「かのイチローもこう言っている『少しずつ前に進んでいるという感覚は、人間としてすごく大事』ってね。」

「人間として大事なことは前に進むこと以外にもたくさんある。お前らは知らないだろうけどな。」

島ちゃん先輩はそう言うとシャツをまくり左腕をさらす。

呼応するようにノブとターチと達也も同じように左腕を露わにした。

「おいおい、ここでドンパチやっちゃうっての?息子が怪我しちゃうんじゃないのか?」

加藤は止めるような素振りをしたが焦っている様子はない。達也たちが暴れ出しても心配には及ばないと言わんばかりだ。

「それなら、お前らが暴れて怪我でもしないように俺が島貫の息子を守ってやるよー。」

次の瞬間、加藤は遥人の椅子の横に移動した。

「加藤。息子に指一本触れたら無傷では帰さないぞ。」

島ちゃん先輩は右手で左手首を掴み力を込めると青く光る文字が上腕に浮かび上がった。達也たちの左上腕も同様に青く光りを発した。

「Oath Generator System Version ε3 Start Up…」

機械のような女性のアナウンスが小さく聞こえた。


🐣

達也たちの体は左腕から順に光に包まれていく。

皮膚は濃い青と白に変化した。頭髪は銀色になり角のようなものも生えている。身長は変わっていないが体つきは筋肉質になっている。ドーピングをしたくらいではここまでの変化はない。達也たちは明らかに変身していた。

「なんか、前と雰囲気違うねー。髪切った?まぁいいや。どれだけ走れるかやってみなよ。」

次の瞬間、加藤と遥人の姿がその場から消えた。

同時に島ちゃん先輩とターチの姿も消え、工場内に地震のような揺れと破壊音が響いた。

4人の姿が見えるようになった時、加藤の傍らには椅子に座って眠ったままの遥人がいた。島ちゃん先輩とターチはそこから20メートルほど離れた場所にいた。

「どうなってる…変身前であのスピードなのか?」

島ちゃん先輩が小声でつぶやく。

「変身前でも部分的に能力を開放出来るのかも知れない。何にせよ、今は遥人の奪還をどうするかだ。」

ターチが冷静に答えた。

「そんなにパワー全開で取りに来たら息子ちゃん怪我しちゃうんじゃないのー?息子ちゃんも変身させてみればいいじゃん。」

加藤が薄ら笑いを浮かべている。汗もかいていないし息も上がっていない。

「遥人を変身させる?何の話だ?俺たち以外に変身できる人間がいないのは
お前も知っているだろう。」

加藤は少し考える素振りをした。

「へぇ。そうなんだー。じゃあ試しに腕を片っぽ切り落としてみよっかなー。」

加藤が言い終わる前に破裂音とともに島ちゃん先輩の姿が消えた。

遥人の位置から15メートルほど離れた場所で、島ちゃん先輩が加藤の首を掴んでいた。右ストレートを打った瞬間に加藤が体を横回転させ回し蹴りを放った。

その間にターチが遥人を椅子ごと抱えて、達也とノブの位置まで戻る。

「ノブ、達也!行け!」

ターチが鋭く支持を出すと同時にノブと達也が走り出した。ノブが従業員用の入り口を破壊する。達也は遥人の頭を庇いながらノブに続くていく。

圭吾が待機している車までは1㎞ほど距離がある。ノブは周りを警戒しながら進む。追手はいないようだ。

2人は圭吾がいるハイエースに乗り込むと遥人を拘束している結束バンドを切断した。

「外傷なし。バイタルも安定してるけど、脳の損傷は分からない。すぐ病院に連れていく。」

圭吾は遥人を座席に固定すると運転席に移動してイグニッションを回した。

「圭吾頼んだぞ。達也、俺らは島ちゃん先輩のバックアップだ。」


📱

ノブと達也が現場に戻ると戦闘をしている様子はなかった。

加藤の他に増援はいないようだし、攻撃する意図もないようだ。

「やっぱりお前らつまんないわー。三奈本出身の奴まじ合わないわー。」

加藤は完全に興味を失った様子でスマートフォンを弄っている。

「これは何の余興だ加藤?何故今になって俺たちにちょっかいを出してくる?息子を誘拐して何のメリットがあるんだ!」

遥人を取り戻した以上、加藤との戦闘は意味がない。ターチは激昂する島ちゃん先輩を黙って制した。

「だからー。大人の事情ってやつだよ。こっちもお前らと遊ぶ理由なんてないんでねー。もういいや。帰る。ブレイキングダウン見たいしー。」

加藤は達也たちを見ずに「おつかれー。」と言ってその場から消えた。


🤔

病院で精密検査を受けた結果、遥人の体に異常はなかった。念のため1日入院することになり、島ちゃん先輩が付き添っている。

圭吾の運転で達也、ノブ、ターチは帰路についた。12時を回る少し手前だった。

「狙いは何だ?遥人を誘拐して俺たちをおびき出す必要がどこにある?」

ターチが窓の外を見ながら自問する。

「ユウ君だったら何が知ってるんじゃないですか?その加藤と改中で同じクラスだったんですよね?」

圭吾が運転しながらバックミラー越しに質問した。

「島ちゃん先輩も加藤と同じクラスだよ。それにユウ君は面倒くさい事情に首を突っ込まない。」

ノブが小さくため息をついて言った。

「何にせよ奴らが俺らに手を出して来たわけだし、須貝の件もある。洋子さんに状況を説明して対策を考えないと。」

達也が環七通りの夜景を見つめながら言った。

バスケの試合に負けた帰り道だってこんなに暗くはなかった。

大切なものはいつも突然に奪い去られる。どんなに気を付けていても、無数の種から芽を出した植物が大きな建物を破壊していく。多くの人は突然足元が崩され、なす術はない。それでも逃げ切ってやる。何も知らなくていい。大切なものを奪われなければそれでいい。

そんな事を考えながら達也は儚い日常へと帰っていった。



謎の中学生加藤の狙いは!?
達也たちの変身の秘密は!?
かつての改村中に一体何があったのか!?

第4話に続く!

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