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「シン・オジサン」 第10話

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桐生崇憲は焦っていた。

新しいナノマシンの情報を手に入れてオーガの細胞の構造をアップデートさせなければ、いずれ改村中のオーガの頭数は減っていく。

細胞と身体能力の急激な変化を伴うオーガへの変態は体への負担が大きい。最初の変態から30年以上経った今でも、一日7000kcal以上のエネルギーを必要とする。

本来であれば、人間が成長する為に必要な成長ホルモンの類はオーガの変態とナノマシンに充当される為、見た目も身長も中学生の時のまま止まっている。中学3年生の時にオーガになって以来、人間らしい生活は失われた。

桐生の家は改村で代々続く豪農だった。現代では祖父の代から不動産会社と建設会社を所有していた。桐生崇憲も父親の会社を継ぎ、地元の明主となるはずだった。自分があの赤黒い化け物になって人を殺さなければ。


BroccoRangaのラボでは実験動物のような扱いを受けた。ガスで眠らされ、体の至る所を切り取られた。発動をコントロールする為にあらゆるセンサを埋め込まれた。消費カロリーや生命維持のスコアを見る為に二か月の絶食を課せられ死んだ仲間もいた。

家族が生きているか死んでいるのかも分からない。自分が生まれた街がどこだったのか、どこに向かっているのか分からなくなった。

全てを超越しうる力を手に入れたが、自分たちが望んでオーガになったのではない。得たものより失ったものの方が遥かに大きかった。

なぜ自分達がこんな目に遭わなければならないのか、なぜ自分達だったのか考えれば考えるほどに、怒りがこみ上げた。70人以上いた改村中のオーガは40人になっていた。

1993年にBroccoRangaのアリゾナのラボに収容されてから9年後。桐生たちはクーデターを起こした。

監視体制や逃走ルートを綿密に確認し、コントロールシステムのキーを盗み出し、体内のリミッターを解除した。

施設のセキュリティシステムのアップデート作業期間で、尚且つ警備員の交代時間に合せて一斉にオーガに変態。収容されている房を破壊し、決められたルートを進みラボから脱出を試みた。

スチール製の壁面をはぎ取り、前後からの麻酔銃を防いだ。催眠ガスによる制止も突破した。オーガに変態していれば20分以上無呼吸でいることは造作もない。

桐生、加藤、唐澤、八木を含む27名は脱出に成功したが、10名近くはBroccoRangaに捕らえられた。

脱出に成功した桐生たちは、家畜や農作物を捕食、採集しながらサンフランシスコの港から日本行のタンカーへ侵入した。

2002年。長野県で生まれたオーガは日本に戻った。




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桐生兼昌は笑っていた。

自分たちには鬼の力が宿っている。侍たちが束になっても敵わない脅威的な力だ。

狭い土地を耕して大根を育てたり、炭を焼いたりする必要はないのだ。隣の国や村から奪ってくればいい。山のシシやタヌキを食えばいいのだ。

桐生家は信濃国の豪農だった。家には10人もの使用人がおり、飢饉や不作の年でも食べ物に困るような事はなかった。

桐生家では代々、村の北側にある直里山の社を守り神として崇めていた。社では「異形なる者」である鬼を祀っていた。

兼昌は桐生家の次男坊として育てられた。兄弟は7人いたが2人は生まれてすぐに亡くなり、1人は神への供物として捧げられた。

幼少期から直里山を畏怖しながらも、小川や山林で魚や虫を取って遊んだ。


兼昌が14歳の時、鬼は語りかけた。兄の兼重が家督を継いだ少し後の事だった。

当時の兼昌は家業手伝いや土地や農作物の卸の仕組みの勉強で忙しかった。
しかし、両親からも祖父からも優秀な兄と比較された。

「こんなに頑張っているのに儂はこの家を継ぐ資格がない。なのに、やれ運搬じゃ、やれ収穫じゃと怒号を飛ばされて。これじゃ使用人どころか馬車馬と変わらんではないか。」使用人や昔からの馴染みにそんな愚痴をこぼしていた。

ある時、兼昌は牛小屋の管理や沢の配水がなされていない事で家族全員から叱責を受けた。理不尽な叱責に怒りを覚えた兼昌は父や兄の首を鎌で切り落としてやりたい衝動を必死で抑えていた。

「お前は何故いつもそうなんじゃ!どういう心づもりだ兼昌!お前のような出来の悪い奴は犬畜生以下じゃ!」

兄に罵声を浴びせられた兼昌はその場にいる事に耐えられなくなり、戸口を飛び出し直里山へ走った。

走りながら、拳を強く握り過ぎて爪が手のひらに刺さり出血した。あまりの興奮状態で鼻血も出ていた。

何も考えず山道を走っていった兼昌はいつの間にか「異形なる者」を祀っている社の前に辿りついた。

暗闇の中の社はいつもより大きく恐ろしいものに見えた。兼昌は自分は父や兄やここに崇め奉られている何かに怯えながら、押さえつけられながら生きていきくのだと思ったら、怒りは更に強くなった。

兼昌は社の入り口を蹴り壊し、大声で叫んだ。

「父上も兄上も見えもしない鬼やらに頭を下げて!何のために弟を殺した!頭がおかしいのはお前らじゃ!」

兼昌は社の周りの装飾品やお供えものを次々に投げつけて破壊した。

しばらくすると、顔に何かひんやりするような感覚があった。頬のあたりを触ってみると目と口から血が出ている。

体中が熱くなり、割れるような頭の痛みが襲ってきた。
そのうちに、手足が赤黒い毛に覆われた。頭部からは水牛のような角が2本突き出した。

妙に清々しい気分になった兼昌は、息を切らせて上ってきた山道を弾むように駆け下りていった。

村は火の海になり、桐生家とその周りの家の人間は体がバラバラになっていた。




オーガの始まりは鎌倉時代⁉
OG3とオーガが待ち受ける運命とは⁉

第11話に続く!!




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