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イラストレーター必須のツール 「お仕事確認書」について知ろう!


■「お仕事確認書」が、あなたの身を守る

イラストレーターとして活動していると、様々なトラブルに見舞われることがあります。
例えばこんなトラブルです。

・話を聞いていない媒体に勝手に流用された。
・報酬金額を聞きそびれて、振り込まれてみたらあまりに安すぎてびっくりした。
・いつまで経っても報酬をいただけない。
・口約束していた報酬額から減額を求められた。
・ちゃんと使用期間を決めてなかったので、いつまでも使われている。そのために、競合する他の企業の仕事ができない。
 ・いつの間にか著作権を譲渡することになっていた。
・後から著作権譲渡を強要された。


長くイラストレーターをしていると、こんな体験は珍しくないですよね。
できることならこんなトラブルは避けたいものです。
でもなかなか難しいのが現実ではないでしょうか?

この記事で紹介するのはーー
このようなトラブルからフリーランス・イラストレーターを守るツールです。
長年、プロ・イラストレーター団体「イラストレーターズ通信」会員の間で使われ、たくさんの会員を救ってきました。

そのツールの名称はーー
「お仕事確認書」

です。

「イラストレーターズ通信」に所属していないイラストレーターの皆さんは、「何それ?」と思ったかもしれませんね。

そんな皆さんのためにまずはーー
お仕事確認書がどんなものなのか見ていただきましょう。
これが、お仕事確認書です。

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■これは、発注者とイラストレーターの間で交わす、お仕事の内容や条件に関する覚え書き

お仕事確認書を一言で言うとーー
「発注者とイラストレーターの間で交わす、お仕事の内容や条件に関する覚え書き」なのです。

・使用媒体、
・イラストレーションの点数やサイズ、色の数、
・流用の「ある」「なし」、
・報酬額、
・支払日、
・納期、
などを記入する欄がたくさん並んでおりーー
一般的なイラストレーションのお仕事において事前に確認しておくべきことが、ほとんど網羅されています。

実はーー
日本には下請法という法律があります。
この法律で、イラストレーターに仕事を依頼する親事業者(依頼主)には、事前に発注内容に関する書面(発注書など)を交付することが義務付けられています。
参考資料:https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/contentspamph.pdf

ところがイラストレーターの仕事の現場では、この書面(発注書など)を交していただけないことも多いのが現状です。
このお仕事確認書は、下請法で義務付けられている書面(発注書など)の代わりともなる書類なのです。
本来交付しなければならない書類の代わりとなるため、クライアント側も歓迎してくださるケースが多いです。
実際に、イラストレーションを発注する企業やそのご職業の方から「イラストレーターに仕事を発注する際に日頃から使いたい。使用の許可をいただけますか?」といったお問い合わせも、時々いただいています。(そうした企業やご職業の皆様、私の許可を取る必要はございませんので、どうぞお使いください。)

■これは、トラブルを防ぐための契約書代わり

最初に書いたようにーー
イラストレーターとして活動していると、思わぬトラブルに見舞われることがあります。
そんな時、あなたはどうしますか?
会社員なら、会社や上司が、うまく対応してくれることもあるかもしれません。
でも、フリーランスのイラストレーターはそうもいきませんよね。
大きな企業を相手に、たった一人で交渉し、自分の権利を守る必要があります。
あなたにそれができますか?

私は、長年にわたってたくさんのイラストレーターから相談を受けてきました。
トラブルで潰れていくイラストレーターも、少なくはありません。
そうしたイラストレーターたちを見て心が痛みました。
「なんとかならないか。イラストレーターがトラブルに巻き込まれないためにはどうしたらいいか」と考えました。
そして考案したのが、このお仕事確認書です。

お仕事確認書さえあればーー
トラブルの多くは防げます。
万一トラブルになったとしても、解決の糸口が見つかることが多いでしょう。

たとえばーー
無断で流用されるトラブルが発生したとしましょう。
お仕事確認書には、使用が許諾されている全ての流用に関して記入されています。
記入されていない流用や二次使用には、別途料金が発生することがしっかり明記されています。
このお仕事確認書があれば、後で勝手に流用があったとしても、「別途流用代が必要になる」ことが、明確なのです。
「その流用に関しては言っていた」「いや聞いてない」という。クライアント様とイラストレーターの間で起こりがちな行き違いも防げます。
このお仕事確認書を示して流用代を支払っていただくようお願いすれば、多くのクライアント様は対応してくださるのではないかと思います。

あるいはーー
イラストレーションを納品してから、「著作権譲渡の仕事です」と後出しで著作権譲渡であったことを伝えられるトラブルも多いです。
こうした時も、お仕事確認書を示してちゃんと交渉すれば、強要されることを回避できる可能性が高いです。
なぜなら、お仕事確認書には、「著作権はイラストレーターが所有しています。」とはっきり明記されているからです。
この書面に署名している以上、クライアント様もその内容を守る義務があります。

つまりーー
お仕事確認書は、契約書代わりとなって、あなたの身を守るのです。
これは、これから先も長くイラストイレーターとして活動していくであろうあなたの「転ばぬ先の杖」となるでしょう。


■これがあれば、仕事がスムーズにいく

お仕事確認書は、10年以上昔に考案しました。
以来、主に「イラストレーターズ通信」会員に利用を推奨してきました。

悪質なクライアントにひどい扱いを受けても、これを交わしていたおかげで、助かった会員はたくさんいます。

 クライアントとイラストレーターの間で生じがちな、「聞き違い」「思い違い」によるトラブルの多くも防げます。
イラストレーターの不手際によるミスも防ぐことができます。
「縦と横の寸法を逆にして制作してしまった」
「納品日を勘違いしていた」
などの不手際も、これを交わしていれば、かなり防げるのです。

多くの方から、
「仕事がスムーズにいくようになった」
「クライアント様と事前に確認すべきことが網羅されていて聞き忘れがなくなった」
と感謝の言葉をいただいています。


■全てのイラストレーターに、全ての仕事で使うことを推奨

すでにイラストレーターとして仕事をしている皆さんは、今すぐにでも使うべきです。
新人はもちろんですが、ベテランの皆さんのお役にも立てると思います。そして、今はまだプロを目指している方々も、いつか仕事をすることになった時に、使えるでしょう。
全てのイラストレーターが仕事で使うことを推奨します。

お仕事確認書が不要な仕事なんて、一つとしてありません。
企業、出版社、編集プロダクション、個人など、あらゆるクライアント様とのお仕事で必須です。
トラブルや不手際を防ぐため、必ず全ての仕事で、これを交わしましょう。

全てのイラストレーターの皆さんが、お仕事確認書を使うことでトラブルや不手際を回避し、豊かで幸せなイラストレーター生活を送ることを願っています。


ではーー
各項目について、解説していきますね。

■署名欄

一番上には、発注者様とイラストレーター、双方の署名欄があります。
可能な場合は、双方手書きで記入するのが望ましいです。

直接会って打ち合わせをする機会があるのなら、その時に全項目を記入し、お互いに署名し、双方一枚ずつ保管するのが、一番望ましいです。
より厳密にするには、それぞれが保管する2枚のお仕事確認書に割印をしておくといいでしょう。

割印に関する参考ページ:https://www.hankoya.com/untiku/keiin_wariin.html

昨今は、直接会うことなく、電子メールのやり取りだけで仕事を進めるケースも多いです。
直接会う機会がない場合は、電子署名を使いましょう。

イラストレーターなら Acrobat Sign が使いやすいでしょう。
Acrobat Sign は、Adobe CC の契約をしていれば使用可能な電子署名サービスです。
電子メールを使ってPDF形式のデータをやり取りすることで、正式な契約書を交わすことが可能です。
詳しくはこちらを参照してください。
https://www.adobe.com/jp/sign/digital-signatures.html

法律的には、口約束でも契約は成立します。
でも口頭で約束しただけだと、「いった」「いわない」で争いとなることもあります。
そうしたトラブルは、イラストレーション業界でも少なくはありません。
多くのイラストレーターが泣いています。
だから条件を書面にまとめ、双方が署名(または電子署名)をするのです。
署名(または電子署名)によって、「確かに、この内容で約束しましたよ」という証拠となります。
そして、様々なトラブルや不手際を防ぐことができるのです。

■クライアントの名称(発注者と異なる場合)、住所、電話、メールアドレス、担当者

次の「クライアントの名称(発注者と異なる場合)、住所、電話、メールアドレス、担当者」の欄には、発注者様と大元のクライアント様が異なる場合に記入します。
発注者様と大元のクライアント様が異なる例としては、たとえばこんなケースがあります。

例1)書籍カバーの仕事がイラストレーション・エージェンシーを通して依頼が来るケース。
イラストレーターに連絡してくる発注者様はイラストレーション・エージェンシーですが、大元のクライアント様は出版社です。
この場合は出版社名をここに入れます。
多くの場合、エージェンシーから報酬が振り込まれます。

例2)雑誌カットの仕事が編集プロダクションから来ることがあります。
イラストレーターに連絡してくる発注者様は編集プロダクションの方ですが、大元のクライアント様は出版社です。
この場合も出版社名をここに入れます。
多くの場合、編集プロダクションから報酬が振り込まれます。

例3)企業ポスターの仕事が広告代理店から来ることがあります。
イラストレーターに連絡してくる発注者は広告代理店の方ですが、大元のクライアントは企業です。
この場合は企業名をここに入れます。
多くの場合、広告代理店から報酬が振り込まれます。

こうしたケースで、発注者とイラストレーターの間でトラブルとなった場合にーー
大元のクライアントの連絡先が分かっていれば、問題解決の糸口となることがあります。

トラブルの例としてーー
「発注者から支払いがない」場合を考えましょう。

 A出版社の書籍カバーの仕事が、B編集プロダクションから来た。
支払いは、B編集プロダクションからの約束。
しかしいつまで待っても支払いがない。
問い合わせても相手にされない。
あるいは連絡が取れなくなった。

時折聞くトラブルです。
こういうケースでも、大元のクライアントであるA出版社に直接問い合わせると、なんらかの対応をしていただける場合が多いです。

他にもいろいろなトラブルが考えられます。
発注者との話し合いがうまくいかないトラブルに備えて、大元のクライアント名、住所、電話番号、担当者名を記入しておくのです。


■「使用媒体」

次に、使用媒体について解説します。
ここは、どの媒体に使うのかを記入する欄です。

媒体」というのは、イラストレーションを人々に向けて伝えるための手段のことですね。

イラストレーションは、書籍のカバーや雑誌やカタログやポスターやWebなど、様々な媒体に使用されます。
「今回の仕事のイラストレーションはなんの媒体に使うのか」をこの欄で決めておくのです。
正確には媒体でないものも含まれていますが、わかりやすくここでひとまとめにしています。

多くの場合、イラストレーター が受け取る報酬の大部分は、そのイラストレーションを使用する料金(使用料)です。
ネット上には、「イラストレーションの値段は時給で計算せよ」とか「日給から考えよ」と言った情報を発信する人もいるようです。
しかし、それは正しくありません。
イラストレーションの値段は、作業時間や労力から計算してしてはいけないのです。

例えばーー
ほとんど同じような内容のイラストレーションで、作業時間が全く同じであっても、雑誌のカットとポスターでは、その報酬金額に大きな差が出ます。
確実にポスターの方が、高いです。
時給や日給から計算していると、こうした報酬金額の違いをうまく説明できません。
また、イラストレーションの二次使用に料金を請求することもできなくなります。
イラストレーションの報酬は、絵を描く労力に対する対価を含むこともありますが、大部分はなんらかの媒体で使う使用料なのです。
ですから、報酬金額を考える上で、「どの媒体で使うのか」という点は、とても重要なのです。

また、幾つもの媒体で使う場合は、その使う分だけ金額は高くなります。
1枚のイラストレーションが、雑誌広告、ポスター、Web、TVCMと、多くの媒体で使われたら、その媒体数が多い分だけ報酬も増えます。

あとから勝手に、様々な媒体で使いまわされるトラブルも多いです。
文書で、使用媒体が決められていないと、勝手に使われた分の使用料を請求しづらくなることがあります。
そんなトラブルを回避するためにも、この欄で使用媒体を、明確に限定しておきましょう。

新聞広告に使われるのであれば、「新聞広告」に丸をつけます。
書籍カバーイラストレーションとその書籍の挿絵を描く仕事なら「書籍カバー」と「書籍挿絵」に丸をつけます。
雑誌挿絵(カット)とその雑誌の付録にイラストレーションを描く仕事なら「雑誌挿絵」と「雑誌付録」に丸をつけます。

ところでーー
書籍カバー」と「書籍表紙」の違いはわかりますか?
一般的な会話では、この二つは同じような意味で使われることも多いです。
しかし、出版業界・イラストレーション業界では区別されていることが多いです。
書籍の周りに巻かれている紙が「カバー」です。「ジャケット」と呼ばれることもあります。多くの書籍では、ここに印象的なイラストレーションを載せています。
そのカバーを外した書籍本体の外側が書籍の表紙です。多くの書籍では、比較的地味にデザインされています。ここにイラストレーションを使う場合もあります。
さらに説明すると、書籍の中面の最初の方で書籍タイトルや著者名が書かれているページが「」です。ここにモノクロのイラストレーションが使われることもあります。

書籍の各部分の名称に関して参考になるページ:https://www.shinchosha.co.jp/tosho/book_basic.html


SNSに使われる場合は、「SNS」に丸をした上で、そのあとのカッコ内に「Twitter」「Facebook」などと、具体的な名称も書きましょう。
勝手にいろんなSNSに使用を広げられないようにするのです。
SNSなら、どんなSNSでも自由に使っていい」という契約もあり得ます。
その場合は「あらゆるSNSに使用可能」などと明記します。ただし使用可能なSNSの数が増えるのですから、その分、報酬額も上がるのが一般的です。

イラストレーションが使われる媒体はほとんどのものが入っていると思いますが、ここにない媒体もあります。
その場合は「その他」に丸をして、その後の括弧内に、具体的に書きましょう。
たとえば、「LINEスタンプ」「SNS用アイコン」「店内壁画」などの媒体が考えられます。


■「媒体タイトル、書籍名、雑誌名、商品名、企画名、記事名、あるいはこの仕事の簡潔なタイトル」

次は、「媒体タイトル、書籍名、雑誌名、商品名、企画名、記事名、あるいはこの仕事の簡潔なタイトル」です。

ここには、「なんの仕事なのかが、一目でわかるようなその仕事のタイトル」を入れます。

もしここで「雑誌挿絵」という曖昧な名称にしてしまうと、今後あらゆる雑誌でそのイラストレーションを使うことが可能になってしまいます。
そんなトラブルを避けるために、明確に他の仕事と区別できる名称にしておきましょう。

○ 書籍カバーの仕事ならーー
ここに書籍のタイトルを入れます。
たとえばーー
「『人間失格』(太宰治・著)〇〇文庫カバー」
「『源氏物語』(紫式部・著) 〇〇文庫カバー」
「『タイトル未定』重松清さん、書き下ろし小説。単行本カバー」
という感じです。

タイトルがまだ決まっていないこともありますよね。
その場合は、『タイトル未定』などとしましょう。

○ 雑誌の仕事ならーー
「『an・an』No.0000号「星占い特集」挿絵」
「『オレンジページ』2021年0月0日号「ラーメン特集」挿絵」
「『小説新潮』2021年0月号、桜木紫乃さん、短編小説挿絵」

という感じです。

記事のタイトル決まっているのならそのタイトルで。決まっていない場合は、なんの記事なのか分かるように書きましょう。

○ 宣伝・広告の仕事ならーー
「JR SKI SKI 2021年キャンペーン広告、イメージ・イラストレーション」
「資生堂 2021年 新色ルージュ ポスターのイラストレーション」
「無印良品 2021年カタログ挿絵」
という感じです。

○ その他ーー
「アサヒビール 2021年秋の新作発泡酒のパッケージ・イラストレーション」
「ダイソー マスキングテープ用イラストレーション」
「SNSアイコン用 似顔絵」
「小学校理科教科書 2021年度版 「月の観察」のカット・イラストレーション」
という感じです。

わかりやすくて、他の仕事と区別がつきやすいタイトルにしましょう。

■「発注するイラストレーションの内容」

「発注側がどんなイラストレーションを希望しているのか?」その内容を具体的に、わかりやすく、そして端的に書いていただきましょう。

例えばーー
「満員電車に乗っているサラリーマン」
「パリの街で散歩している若い女性」
「昭和感あふれる路地裏」
「サッカーのフォーメーションの図解」
「カレーの作り方の手順」
「星座占いの12の星座」

という感じです。
多くの依頼では、描く内容が具体的に指示されると思います。
その具体的な指示を書きます。

より詳しい指示があって、このスペースで収まらないこともあると思います。
その場合はーー
別の紙に書いていただいたり、
料となるデータで提供していただいたり、
口頭やメールの文章で指示していただいたりします。
ここには簡単に書いて、「詳しくは別紙」としても良いでしょう。

稀にお任せであることもありますが、その場合はーー
「この小説のイメージで自由に描く」
「この企画に合わせた内容で、アイデアを凝らしてください」
「お任せ」
と、いう感じで書いておきましょう。

■「発行予定日、発売予定日(または使用期間)」

商品なら「発売予定日」を入れます。
広告・宣伝であれば、「使用期間」を入れましょう。

広告・宣伝の仕事では、競合他社での仕事を禁じられることも多いです。
タレントが広告・宣伝に使われる場合も、同業他社での仕事は禁じられていますよね。
NTTドコモのCMに橋本環奈さんが登場しているようです。(2021年2月現在)
NTTドコモのCMに登場している間は、その競合となるソフトバンクのCMに橋本環奈さんが出演することはないはずです。
それと同じことがイラストレーターにもあるのです。
一般的には、その企業や商品のイメージイラストレーションとして大きく使われている間は、その競合他社の仕事はできません。
たとえそのクライアントから競合他社での仕事が禁じられなくとも、そこで使われている間は、競合する他の企業は同じイラストレーターを避けることが多いです。
特に一流企業の報酬額の高い仕事では、その傾向が強いです。
例えば、あるイラストレーターがペプシコーラのポスターで使われたとしたら、そこで使われている間はコカコーラのポスターでは使ってもらえないはずです。

ですから、広告・宣伝の仕事においてはーー
「このイラストレーションがいつからいつまで使われているか」
というのはとても重要です。

あなたが東京電力のポスターの仕事をしたと仮定します。
そして、その10年後に東京ガスからも依頼が来たと考えてみてください。
もしも東京電力のポスターがその10年後も使われていたとしたら、競合する東京ガスの仕事を引き受けることはできないでしょう。
東京電力と東京ガスは競合する企業なので、ライバルと同じイラストレーターを使うことは避けるだろうからです。
東京電力のポスターがもう使われていないのなら、おそらくは東京ガスの仕事を引き受けることはできる可能性が高いです。

しかし、東京電力のポスターの使用期間を定めていなかったらーー
どうなると思いますか?

10年後東京ガスの仕事が来た時、東京電力の仕事を引き受けて良いのか判断できません。
「多分、もう使っていないだろう」と曖昧なまま受けてしまって、もしも東京電力のポスターがまだ使われていたらーー
多額の賠償問題にもなりかねません。
そんなトラブルは避けたいですよね。

東京電力で使用しているのかどうなのかを問い合わせることも可能ではあります。
しかし問い合わせを受けた東京電力が、こんな風に対応することもあり得ます。
「もうとっくにあのポスターは使っていなかったが、そういえばそんなポスターもあったな。じゃあ、もう一度使おうか」とーー
使用期間を定めていなかったなら、既に使用をやめていたイラストレーションの使用を再開することも、可能なのです。
いつ使用を再開しても、契約違反ではなく、なんの問題もありません。
それは完全に合法的な行為です。
イラストレーターの都合で「使用の再開を止めて欲しい」と訴えるのは可能ですが、受け入れてもらえるかどうかはわかりません。
判断は、クライアント様側が自由に行うべきものだからです。
イラストレーターの都合を考慮しなければならない理由はありません。
法律的には、半永久的に使用しても構わないことになります。
クライアント様に受け入れてもらえなかった場合、そのイラストレーターは生涯にわたって、そのクライアント様と競合する他社では仕事ができない可能性があります。
だから、使用期間は、必ず定めておくべきなのです。

ただし、広告宣伝であっても競合他社の仕事を気にしないクライアント様もいます。
競合制限をせず、「ライバルの会社に使ってもいいよ」と言ってくださるクライアント様です。
比較的小さな会社や競争の激しくない業界で、そうした企業が多い傾向があります。
ただし、その仕事のクライアント様が競合制限をしなかったとしても、その後問い合わせてくる他の企業が気にすることもあります。
「あ、ライバルのA社で仕事をしているのですか? A社は競合制限していない? でも、うちとしてはライバルのA社で仕事をしているイラストレーターは、使えないですね。。。」
となると、結局は競合する他の企業の仕事は難しくなってしまいます。

また、「競合他社の仕事はNGという依頼は一切受けない」というスタンスで活動をするイラストレーターもいます。
数十万円とか百万円以上といった報酬額が高い仕事は、ほとんどの場合「一定期間は競合他社の仕事はしないでください」と言われます。
「競合他社の仕事はNGという依頼は一切受けない」というスタンスで活動するということは、そうした報酬の高い仕事を諦めて、比較的安いカットイラストレーション専門で食べていかなければならないということになります。
高収入を目指さないのなら、そうした方法もありでしょう。
ただし、数をこなさなくてはならないので、なかなか大変だろうと推測します。

Webの仕事における使用期間も考えてみましょう。

その企業のWebサイトであれば、多くの場合は、その企業の宣伝となっています。
広告宣伝的なWebサイトで使われていたら、競合する他社の仕事がやりにくくなるでしょう。
特に一流企業ほど、その傾向があると思います。
Webの仕事においても、宣伝・広告的な内容であるなら、使用期間を定めた方がいいでしょう。

書籍や雑誌であるなら、使用期間を定める必要はないです。
この欄には、発行予定日を書きましょう。
使用期間を定める必要がない理由は、一般的に出版社は競合他社の仕事を制限することが、ほとんどないからです。
ごく稀に、雑誌の仕事では競合する雑誌の仕事を制限することがあるかもしれません。
特に、雑誌の顔となるカバーイラストレーションではそうした話も聞きます。
その場合は、右下の「競合他社での仕事を禁じるか」の欄に記入していただきましょう。


■「使用地域」

宣伝・広告の仕事では、「使用地域」も重要です。

次の3つのポスターで考えてください。

a)地方の小さな商店街だけで使われるポスター
b)ある大都市の一つの商業施設で使われるポスター
c)日本全国の商業施設で、大々的に使われるポスター

イラストレーター が受け取る報酬額が大きいのは、どれでしょう?
宣伝広告の仕事における報酬額は、その経済効果によって決まります。
だとしたら一番高くなるのは、「c」の「日本全国の商業施設で、大々的に使われるポスター」です。
次に高いのは、「b」の「ある大都市の一つの商業施設で使われるポスター」です。
1番安いのは、「a」の「地方の小さな商店街だけで使われるポスター」です。

ただし、これはあくまでも目安です。
「b」であっても、東京の特別大きな商業施設のポスターであれば、全国的な商業施設より高くなる可能性もないとは言えないです。
この辺りはその経済規模にもよります。

世界中で使われるとしたら、さらに金額は膨らむでしょう。

出版系の仕事では、ほぼ日本での販売になると思います。
海外で販売される場合は、その国の名称を記入しておきましょう。

■「商品の数、部数」

宣伝・広告の仕事では、数も決めておく方がいい場合があります。
例えば、ポスター1枚と100枚の場合は、一般的には100枚の方が高くなります。
しかし、数を決めておかない場合もあります。
必要なだけ印刷し、足りなくなれば増刷されることになります。
そうした場合は「数量制限なし」などと記入しましょう。

商品に使われる場合も、事前に数を決めておくことがあります。
例えば、あなたのイラストレーションを大きく扱った雑貨を作って販売してもらうとします。
報酬額を、生産量10,000個で報酬5万円と決めておいたとしましょう。
評判が良くてこの10,000個が売り切れて増産するとなったなら、その増産分の報酬をいただくことができます。
もし数を決めずに「報酬5万円」としていたら、たとえ増産されても、あなたが受け取れるのは最初に決めた5万円のみになります。
日本中で大ブームになって、どんなにバカ売れしても、5万円以上はいただけません。
だから、数量は決めておいた方がいいわけです。
商品の場合は、数量は決めずにロイヤリティ制にすることもあります。
売り上げの何%かをイラストレーターが受け取る方式です。
この場合は、ここには記入せず、斜線を引くなどしておきましょう。そして、右下のほうにある「印税、またはロイヤリティ」に記入します。

数量を決めないケースもあります。
特に駆け出しの場合は、何か商品を出してもらうにしても、数量を決めてもらう契約にしてもらうのは、難しいかもしれません。
決めない場合は、「数量制限なし」などと記入します。

書籍カバーや雑誌の挿絵等、出版系の仕事では、部数を決めないのが一般的です。
発行部数に関係なく、報酬額が決められます。
書籍がベストセラーになってたくさん売れても、イラストレーター が受け取れるのは最初に決めた報酬額だけです。
「カバーイラストレーションを描いた書籍が重版になったら、イラストレーターも追加報酬をいただける」かのように書かれた書籍がクリエーター向けの著作権本として販売されています。
しかし、その本の作者は弁護士なので出版業界のルールには詳しくなかったのだろうと思います。

出版系の仕事では、「数量制限なし」と記入しましょう。
「記入の必要なし」という意味で、斜めの線を引いても構いません。

ただし、画集などご自身が著者の本の場合は、印税制となります。
絵本や漫画や文章メインの本でも、ご自身が著者なら印税制であることが一般的です。
挿絵をふんだんに使っている児童書でも、印税制になることがあります。
印税制の場合は、ここには記入せず、右下のほうにある「印税、またはロイヤリティ」に記入します。

■「競合他社での仕事を禁じるか」

ここも大事です。
「発行予定日、発売予定日(または使用期間)」の項目でも解説した通りーー
広告・宣伝の仕事では、競合他社の仕事を禁止されることが多いです。
禁止される場合は、
・どんな業種(あるいは商品)で禁じるか?
・いつからいつまで禁じるか?

を明確にして記入しましょう。
「いつからいつまで禁じるか」は、使用期間と一致するとは限りません。
使用が終了しても数年間は競合他社での仕事を禁じる場合もあります。
昔、タレントの織田裕二さんがNTTドコモのCMに出演していましたが、そのCMの契約が切れた直後にその競合となる他の携帯会社のCMに出たことから大きな波紋を呼びました。
そうした事態を防ぐため、期間終了後も、しばらくは競合での仕事を禁じるケースがあります。
ただし、競合での仕事を禁じる期間が長いほど、イラストレーター が受け取る報酬額は高くすべきです。
きちんと交渉したいです。

長くイラストレーターをやって入ると、競合する企業から依頼をいただくことは少なくないです。
例えば風邪薬の店頭POPの仕事をしたとして、
・禁じられるのは風邪薬の仕事だけなのか?
・医薬品全般にだめなのか?

その辺りを明確にしておきましょう。

明確にしておかないとーー
十年後、他の会社の胃薬の店頭POPの仕事が来た時、受けていいのかダメなのかが分からなくなります。

ただし、「競合での仕事に何の制限も設けない」といわれたとしてもーー
今後他の企業が気にすることはあります。
例えば、製薬会社Aの風邪薬の店頭POPの仕事をしたとして、「競合制限なし」とされていたとしてもーー
製薬会社BがイラストレーターCに薬のTVCMの仕事を依頼しようと問い合わせてきたけれど……
イラストレーターCが製薬会社Aの風邪薬の仕事をしていると分かった途端に、「申し訳ないのですが、やはり別のイラストレーターにお願いすることになりました」と、風向きが変わってしまうことがあります。

ですから、競合制限がないとしても、宣伝広告に関する仕事の報酬は高くあるべきなのです。

■「掲載サイズ」

サイズは重要です。
ここを間違えると描き直しになることがあります。
正確に記入するようにしましょう。

縦と横を間違えることは、結構多いと聞きます。気をつけましょう。
単位もしっかり書きましょう。
グラフックデザインの世界では、ミリで指示するのが一般的です。
Webの仕事なら、ピクセルで指示されると思います。
ミリとピクセルでは大違いです。注意しましょう。

サイズは7種類まで記入できるようになっています。
ほとんどの仕事は、7種類のサイズまでで収まると思います。
それ以上にサイズのバリエーションがあり、ここに収まりきらない場合はーー
別紙にサイズ一覧を書く手があります。
もう一枚を使う場合は、特記事項の欄などに、サイズは別紙参照などとして、サイズ別の点数や色や金額を表にしましょう。
合計金額は、確実にこちらのお仕事確認書に書きましょう。

サイズの項目を増やした、オリジナルの「お仕事確認書」を自分で作って使用するのも、良いでしょう。

サイズが7種類もない場合は、記入欄が余ってしまいます。
勝手に増やされないように、余った記入欄には、斜めの線を引いておきましょう。

依頼時にサイズが決まっていないこともあります。
まだレイアウトができておらず、レイアウトができてからサイズを指示してもらうケースです。
この場合は、おおよその目安となるサイズを記入しても構いません。サイズの数字の後に(目安)と書くのもいいでしょう。
あるいはサイズ欄を空欄にして「サイズはレイアウト完成後指示すること」などと書いても構いません。

出来上がったイラストレーションを基にレイアウトを行う場合もあります。
比較的自由なサイズで描いて、デザイナーがそれを基にデザインする場合です。
この場合は、サイズ欄には、「イラストレーター にお任せ」「自由」「定めなし」などと書いたり、あるいは「雑誌見開きのおおよそ4分の3程度」「雑誌1ページの半分程度」などと、おおよそのサイズを書きましょう。

■「作品点数」

作品点数はサイズごとに記入するようになっています。
間違えないようにサイズごとの点数を入れましょう。

■「色(1C、2C、4C、特色など)」

印刷物の仕事では、カラー、モノクロ、2色、3色などいろんなパターンがあります。特色が使われることもあります。
イラストレーション業界、グラフィック・デザイン業界、印刷業界では、印刷する色の数を「1C」「2C」「4C」などと表現します。

○1色のインクで印刷される場合は、「1C」と書きます。
黒一色の印刷は全てそうですね。
黒以外にも、他の色1色で印刷されることもよくあります。
シアン1色、マゼンタ1色、あるいは特色が使われることもあります。

「1C」の場合は、具体的な色名も書いておきましょう。

○2色のインクで印刷される場合は、「2C」と書きます。
「マゼンタと黒」「シアンと黒」などの印刷をよく見かけます。
その他のあらゆる色でも、2色印刷される可能性があります。

「2C」の場合は、具体的な色名も書いておきましょいう。


○4色のインクで印刷される場合は、「4C」と書きます。
一般的なカラー印刷は、YMCKの4色のインクで全ての色が再現されます。
ですからーー「4C」とは、一般的なカラー印刷のことを指します。
雑誌のカラーページは、ほぼ全てこの4色で印刷されています。
書籍のカバーも、この4色によるカラー印刷が多いです。
イラストレーターに対する指示では、「カラーで」「4Cで」「4色で」といった表現になります。
「4色で」といわれて、色を4つしか使ってはいけないと誤解してしまう新人イラストレーターの笑い話も時折聞きます。
某編集者によれば、「赤、青、黄、緑の4色で彩色すればよろしいですか?」などと、真面目な顔で尋ねてくるイラストレーターが時々いるそうです。
「4色で」と言われたら、フルカラー印刷なので、一般的な色なら何色でも使って大丈夫です。
(ただし、金色、銀色、蛍光色、とても鮮やかな色など、一般的なカラー印刷で出にくい色はもちろんあります。)

ちなみにーー
Yは、イエローの略です。
Mは、マゼンタの略です。
Cは、シアンの略です。
Kは、ブラックの意味です。「Bk」と表記されることもあります。

一般的な「4C」は、この4色ですが、その他の特殊な色を使う場合は、その色名も書いておきましょいう。

○その他に「3C(3色)」「5C(5色)」「6C(6色)」「7C(7色)」あるいはもっと多い色数で印刷されることもあります。
インクの数が多いほど印刷代は高くなります。
「1C」よりも「2C」が、「2C」よりも「4C」が高いです。
印刷代を抑えるために、3色だけで4色のカラー印刷に近い味わいを出す場合があります。
これが「3C」です。
例えば、「YMC」の3色のこともあるし、全く別の色が使われることもあります。
「3C」の場合も、具体的な色名を書いておきましょう。

予算がある場合は、一般的な4色印刷では出にくい色(金・銀、蛍光色等)を再現するために、5色、6色などの多色印刷が行われることもあります。
たとえば少女漫画の鮮やかなカラーページでは、蛍光ピンクや蛍光イエローが、5色目、6色目に使われていることがよくあります。
こうした場合は「5C」「6C」となります。

あるいは、より幅広い色を再現するために「YMCK+RGB」の7色で印刷する手法もあります。
Rは、レッド。
Gは、グリーン。
Bは、ブルーです。
こうした場合は、「7C」ですね。

こうした特殊な印刷の場合も、使われる色名を記入しておきましょう。
ただしお金がかかるので、こうした特殊な印刷が使われることは稀です。


○「特色」というのは、「YMCK」以外の「特別な色」です。
金・銀等の金属色、
蛍光色、
様々な中間色、
CMYK以外のビビッドな色、
グレー、
白、
などなど、、、様々な特色があります。

デザイナーは、DICカラーガイドという色見本帳をもとに色を指示します。
https://www.dic-graphics.co.jp/products/cguide/

この色見本には、様々な特色が実際に印刷されています。
そして、すべての色に番号が振られています。
参考ページ:https://www.sakawa.jp/pdf/dic.pdf

特色は、このDICの色番号で指示されます。
特色の場合は、指示されたその色番号を書いておきましょう。
DICで指示されてどんな色なのかわからない場合は、ネット上を検索すると出てきます。
アドビ・フォトショップやアドビ・イラストレーターでも、DICの色を出すことができます。
でもディスプレイ上の色とは完全に一致しません。
どんな色なのか正確に知るには、DICカラーガイドを持っておいたほうがいいです。
※注意:YMCKの4色を組み合わせて印刷された色は、どんな色も特色とは呼びません。特色とは、印刷される前のインクそのものの色が、YMCK以外の特別な色なのです。


○ Webの仕事の色について
Webやゲーム、あるいはTVの仕事なら、色の数は関係ありません。
どのディスプレイでもカラーで表示されるからです。
「カラー」あるいは「RGBカラー」と記入しておきましょう。
※ディスプレイは、R(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の3色で表示されます。

■「1点あたり料金(1媒体、1回使用)」

ここは、イラストレーション1点の使用料を記入します。

一般的な仕事では1媒体、1回使用の料金をいただきます。

書籍カバーに描いたけど、店頭POPにも使われる場合は、そのままでは使用先が2媒体になってしまいます。
その場合は、ここには書籍カバーの使用料のみを記入して、下にある「二次使用・流用の有無」の欄に、店頭POPの流用代を記入しましょう。
「店頭POPに二次使用、¥〇〇〇〇-」という感じです。
書籍カバーに描いたけれど、書籍の扉等に流用されることもあります。
このままだと1媒体2回使用になります。
こうしたケースでは、ここには書籍カバーの使用料のみを記入します。
そして、下にある「二次使用・流用の有無」の欄に、扉への流用代を記入しましょう。
「扉に流用、¥〇〇〇〇-」という感じです。
しかし、クライアントの意向で、複数の媒体に使って(あるいは同一媒体に複数回使って)、流用を含めた値段で「¥〇〇〇〇-」と言われることもあります。
書籍カバーと店頭POPへの二つの媒体への使用で「¥100,0000-」という感じです。
この場合は、「1媒体、1回使用」を二重線で消して、
上の「使用媒体」の欄で「書籍カバー」「店頭POP」の二つに丸をつけておきましょう。
あるいは大規模な宣伝広告だと、たくさんの媒体に使われることもあります。
例えばーーポスター、テレビCM、カタログ、チラシ、などなど。
さらに色々な媒体に使われることもあります。
そういう場合も、「1媒体、1回使用」を二重線で消して、
上の「使用媒体」の欄で、「ポスター」「テレビCM」「カタログ」「チラシ」などに丸をつけておきましょう。
ちなみにーー
「流用」「二次使用」は、ほぼ同じような意味です。
一つのイラストレーションを別のところでも使う場合に言います。
一つの雑誌の中で何度も同じイラストレーションを使う場合がそうです。
一つのイラストレーションを、複数の媒体で使う場合もそうです。
イラストレーターとして活動していると頻繁に使います。
覚えておきましょう。


■「サイズ別料金合計(1媒体、1回使用)」

サイズごとに料金を合計してここに書きます。
1万円のイラストレーションが10点あるとしたらーー
¥10,000-×10点=¥100,000-
なのでーー
「¥100,000-」
ですね。
ここには「¥100,000-」と記入します。
流用代を別にいただく場合は、下にある「二次使用・流用の有無」の欄に記入しましょう。
流用代をまとめた料金にしている場合は、「1媒体、1回使用」を二重線で消しておきましょう。


■「二次使用、流用の有無」

イラストレーションを本来の目的以外で使用することを、「二次使用」あるいは「流用」といいます。
「二次使用」「流用」は、ほぼ同じような意味です。

上の「使用媒体」の欄では、主となる使用媒体を書きました。
それ以外の媒体に使わない場合は、「無」に丸をしておきます。
それ以外の媒体にも使う場合は「有」に丸をして、その媒体名をここに記入し、その流用代を記入します。

例えば、書籍カバーとして描いたイラストレーションをーー
・その本の表紙
・その本の扉
・店頭POP
・新聞広告
・車内吊り広告
・別の書籍
・Web
・別の雑誌
・全く別の広告
などに使うのが、二次使用(あるいは流用)です。


■「ロイヤリティ、または印税」

イラストレーターの報酬は、「イラストレーション1点につき〇〇円」と使用料を定めるケース以外にも、
売上高や発行部数に応じた使用料を定めるケースがあります。

売上高や発行部数に応じた使用料を受け取る方式を、ロイヤリティ方式と呼びます。

その商品においてイラストレーションの力が大きく寄与している場合に、この方式がとられることがあります。
たとえば、
・絵本
・書籍
・ジグゾーパズル
・ポストカード
・塗り絵
などなどです。
絵本の場合、ほとんどは印税方式となります。(一部例外もあります)
書籍でも、イラストレーターが著作者として大半を書いた場合は印税方式となることが多いです。
児童書でも、挿絵が多いものは印税方式になることがあります。
書籍以外でも、上に上げた例のような、その絵の魅力で売り上げが大きく左右される商品は、ロイヤリティ方式となることがあります。

例えば「1,000円の商品があって10,000個売れ、ロイヤリティが売上高の5パーセント」とするとーー
イラストレーターが受け取るロイヤリティは、50万円となります。
(1,000円×10,000個×5パーセント=500,000円)


ロイヤリティは、売上高に対する場合もありますが、
・製造数
・出荷数
に対する場合もあります。
何に対するパーセントかを決めて置きましょう。


一般的な商品のロイヤリティの相場は、3−7パーセント程度です。
5パーセントが、もっとも一般的でしょう。
新人は低め、売れっ子なら高めになることが多いです。

書籍のロイヤリティは、「印税」と呼びます。
1冊の本を一人で書いた場合は10パーセントの印税となることが多いです。
ただし、出版社によっては新人や無名作家の印税を低めに定めることもあります。
絵本などのように1冊の本の作者が2人いる場合は、それぞれ5パーセントずつで分けることが多いです。
書籍や絵本の場合、多くは、発行部数に対してのパーセントです。
しかし、出版社によっては新人や無名作家の場合、「売上高に対して」「出荷数に対して」などになる場合もあります。
絵本の絵だけを担当し、文章は他の方が書いたとしましょう。
1冊1,000円で、発行部数10,000部、印税は発行部数に対して5パーセントだとするとーー
イラストレーターが受け取る印税は、50万円となります。
(1,000円×10,000部×5パーセント=500,000円)
この絵本がよく売れて、重版が決まると、増刷された分の印税がまた発生します。
ただし、最近は出版不況もあって、初版が10,000部もないことが多いです。
特に無名の新人の場合は、5,000部以下ということもあります。


■「料金合計」
各サイズの料金を合わせ、更に流用代等も合算した合計金額を記入します。
消費税が別なのかどうかも事前に確認して「込」か「別」のどちらかに○をします。


■「請求書(インボイス)は必要ですか」

請求書(インボイス)が必要かどうかを事前に確認し、「不要」か「必要」のどちらかに○をつけます。
必要な場合は、いつまでに送ればいいのかも確認し、記入します。
最近は、郵送ではなく、電子メールでPDF形式の請求書が一般的です。
依頼主に確認の上、電子メールによる請求書が、「可」「不可」かを記入します。
請求書(インボイス)には、宛名が必要です。
依頼主側で宛名を指定されることもあります。
宛名を確認し、ここに記入します。

出版社は、請求書(インボイス)が不要なケースもあります。
一般的な企業の場合は、ほとんどのケースで請求書(インボイス)が必要です。
請求書(インボイス)が必要かどうかは、必ず事前に確認しましょう。

いずれにしても、「インボイス制度に登録しているか」を伝えておきましょう。
インボイス制度に登録しているのなら、登録番号も伝えておきましょう。


■「振込口座」

ここにはイラストレーターの銀行口座を記入します。
この仕事の報酬金を振り込んでいただくための口座です。
仕事用の口座とプライベートな口座は分けておきましょう。
そのほうが、経理や確定申告がやりやすくなります。

しかし、最近は同じ銀行で複数の口座を持てなくなりました。
同じ銀行の口座を作ろうとすると、支店が違ったとしても、ほぼ断られます。
仕事用の口座とプライベートな口座で資金を移動させる必要がありますが、銀行が違うと手数料を取られます。
仕事用の口座がある銀行のATMでお金をおろして、その足でプライベートな口座のある銀行のATMで入金するといったことも頻繁にあると思います。
大金を持って遠距離を移動するのは不安もあるでしょう。
銀行の口座を開設する際は慎重に考えましょう。
ネット銀行ならコンビニのATMで無料で入出金できることもあります。(出金は回数制限があることが多いと思います)
ネット銀行を使うのもいいでしょう。
コンビニATMでの手数料比較 https://diamond.jp/articles/-/50933

あるいは同じ銀行で普通の口座と法人口座を作る手もあります。
これならば同じ銀行の同じ支店で口座を作れます。
家のパソコンで、資金の移動が手軽にできて、しかも手数料がかかりません。
法人口座は、法人ではないフリーランスでも作ることが可能です。
ただし、どこの銀行でも法人口座を解説するにはそれなりの審査があります。
ちゃんとイラストレーターとして活動していることを証明する必要があります。
証明の仕方や条件などは、銀行によって異なるようです。
詳しくは、口座を開きたい銀行にお問い合わせくださいね。
どの銀行だとしても、開業届を出していて、ちゃんとしたホームページもあったほうがいいようです。

フリーランスが法人口座を作る際に参考になりそうなページ
https://agency-star.co.jp/column/freelance-account/

■振り込み手数料の負担

依頼主からイラストレーターに報酬を支払う際の振り込み手数料が、振り込み側で負担するのか、受け取り側で負担するのかも確認し、どちらかに○をつけます。

振込手数料は、ほとんどの企業や出版社は、振り込む側で負担してくださいます。
しかし、企業によって考え方に違いがあります。
関西圏の会社では、受け取り側の負担とすることが多い印象です。
それぞれに地域の商習慣があるので、これは事前に確認したほうがいいでしょう。

なお下請法では、受け取り側が事前に同意していないにもかかわらず、振込手数料を受け取り側とすることを禁じています。
しかし、事前に合意していれば、受け取り側の負担としても問題ありません。
振込手数料の負担に関して参考になるページ:https://www.rhythmoon.com/column/2014/12/post-1296.html


■「支払日」

依頼主からイラストレーターに報酬が振り込まれる日を事前に確認し、ここに記入します。
下請法2条の2により、親事業者には、納品後60日以内の入金が義務付けられています。
ただし、実際にはもっとかかるケースもあります。
例えば編集プロダクションから依頼があった場合ーー
出版社から編集プロダクションに振り込まれてから、イラストレーターに振り込むことも多いのです。
その場合3ヶ月程度かかるのではないかと思います。

本来は、全てのケースで60日以内に振り込んでいただくべきです。
しかし、現実には難しいこともあります。
場合によっては、柔軟に対応していくことも必要になると思います。
しかし、半年先などになってくるとさすがに問題です。

問題が大きい場合は、中小企業庁に情報提供することも出来ます。
https://mm-enquete-cnt.meti.go.jp/form/pub/jigyokankyo/shitaukeho_shinkoku

「下請け駆け込み寺」などの相談窓口もあります。
https://www.zenkyo.or.jp/kakekomi/

■「ラフ提出日」

ラフ提出日も決めておきましょう。
依頼主から指定してくることもありますが、
イラストレーター側から提案することもあります。
事前に合意してから書き込みます。

いざラフを送ってみたら、担当者が休暇をとっていたり、出張にでていて、数日返事がないこともあります。
いつ送るかを事前に決めておくことは大事です。

なお、ラフというのは、簡単なスケッチのことです。
おおよその完成イメージが伝わるものがいいでしょう。
かつては鉛筆で簡単に描いたものが主流でしたが、
最近はパソコンで色付きのラフを作る人、
パソコンで、ほとんど完成品と同じレベルのラフを送る人も増えてきました。
本描きは絵の具だけど、ラフはパソコンソフトで簡略に色を付ける人もいます。
依頼主に確認していただく方法は、かつては皆FAXを使っていました。
今は、電子メールでラフ画像を送るのが一般的です。

■「締切日」

完成したイラストレーションを納品する日です。
これは必ず確認し、ここに明記しておきましょう。

納品が遅れると、雑誌の発売日に間に合わないこともありえます。
絶対に守りましょう。
これに遅れると、2度と仕事は来ないと思って間違いないです。

病気等でどうしても間に合わなくなった場合は、早めに連絡を取り、相談しましょう。

また、事故や急病で、自分では連絡が取れなくなる事態もありえます。
そんなときのために、家族には現在進行中の仕事内容とその担当者の連絡先を伝えておくことをおすすめします。
わたしは、iPhoneやMACで同期できるカレンダーアプリを妻と共有しています。
これを見ると、いつ何の締め切りがあるのかわかります。
メモ欄に担当者の連絡先も入れているので、何かあったときは妻が連絡してくれることになっています。
Apple派でない場合は、Googleカレンダーなどがお勧めだと思います。

■「納品の形式と方法」

これも事前に確認しあっておきたいです。
今は殆どのイラストレーターがデータ納品です。
だから、事前に何の説明もなく、いきなりアナログの原画を送ると、相手が慌てることもあります。

原画の場合、デザイナーがスキャニング作業をしなければならないこともあります。
点数が多いと大変です。

張りキャンバスなどで厚みのある作品、あるいは立体作品などは、スキャニング出来ません。
カメラマン(あるいは撮影会社)に撮影をお願いする必要があります。

雑誌などは大概ギリギリで締め切りを設定しているので、急にカメラマンを探すことが難しい場合もあります。
あるいは、そもそも撮影代金までは予算を組んでいないことも多いです。

必ず事前に納品形態を相談しましょう。

納品するデータの保存形式は、
印刷物の仕事なら、
・アドビフォトショップ形式(psd)
・フォトショップEPS形式(eps)
・アドビイラストレーター形式(ai)
・イラストレーターEPS形式(eps)
のいずれかがいいでしょう。
アドビイラストレーター形式の場合は、バージョンも確認しておきましょう。

Webやアプリの仕事なら、
・jpeg形式
・PNG形式
・GIF形式
が一般的です。

 いずれの形式で納品するとしても、必ず、事前に納品先に確認しましょう。

納品の際は、これをさらに圧縮してから納品しましょう。
圧縮方法は、zip形式がポピュラーです。
特殊な形式だとデザイナーが開けないこともあるので、注意が必要です。
また、zip形式にパスワードをかけてはいけません。
zip形式にパスワードをかけたものをメールで送信すると、途中でウィルスチェックができないため、感染を広げる可能性があります。
絶対にやめておきましょう。

zip形式にパスワードをかけてはいけないことに関して、参考になるページ:
https://note.com/egao_it/n/nb7a4fddc3ec7

「納品方法」は、1メガバイト程度までの軽いものならメールに添付しても問題ないです。
それ以上の容量がある場合は、メールに添付せず送ったほうがいいでしょう。

メールに添付しない送信方法は、いくつかあります。
かつては、大容量データ転送サービスがよく使われていましたが、これは時代遅れとなりつつあると感じています。

個人的には、Dropboxを使う方法が一番お勧めだと思います。

Gmailは、Google ドライブを使用することで大容量のデータも送信可能です。
 https://support.google.com/mail/answer/6584?hl=ja



■「特記事項」

その他に、事前に約束したことがあれば、ここに明記します。

・「流用において作品をトリミングすることがある」
・「ラフまでで仕事が見送られた場合、発注主はイラストレーターに対し、予定していた料金合計の50%を支払う」
・「ラフの修正は3回まで。それ以上の場合、発注主はイラストレーターに対し、一回の修正に付き〇〇円支払う」
・「この書面にない媒体への流用が必要になった場合、発注主はイラストレーターに対し、一媒体につき、元の金額の50%を支払う」

などの取り決めをしておくこともあります。

特記事項がない場合は、勝手に記入されないように、斜めの線を引いておきます。


■「1社、1個人、1団体、1自治体等での独占的使用許諾契約となります。(イラストレーターは、この作品を他の企業、個人、団体、自治体等に対して、使用許諾いたしません。)」

欄外下の1文目を解説します。
この文は、一言で言うとーー
「イラストレーターは、この作品を他の企業等に使い回ししませんよ」という意味です。

一般的なイラストレーションのお仕事では、そのクライアントに独占的な使用を許可します。
その一社が独占的に使う使用権を販売します。
だから、イラストレーターは、同じ作品を他の企業等の仕事で使ってはいけないのです。
ちょっと変えて使うのもダメです。
同じ作品を使い回ししないように気をつけてくださいね。

ただし、例外があります。
ストックイラストレーションです。
これは、いろんな企業(または個人、団体、自治体等)が使うことが前提です。
ストックサービスのサイトが色々とありますが、そうしたサービスを通さず、クライアントから直接依頼を受けた場合も、ストックにすることがあります。

クライアントの予算が少ない場合に、
「お安くする代わりに、このイラストレーションをストックとし、今後他の企業等にも使用許諾する」
という契約を結ぶことがあります。

この場合は、
・競合する他の企業でもOKなのか、
・競合しない企業に限ってOKなのか?
・競合する企業がダメなのだとしたら、いつからいつまでダメなのか?
といったことを詳しく取り決め、契約書に盛り込まなければなりません。
これはかなり例外的な難しい契約です。
またいつか、noteで詳しく解説したいとは思っています。


■「著作権はイラストレーターが所有しています。この書面に定めのない二次使用や流用には、別途使用料が必要となります。」

欄外下の2文目を説明します。
この文は、「著作権はイラストレーターにありますよ」「このお仕事確認書にない二次使用や流用には別に代金が必要ですよ」という意味です。

残念ながらーー
イラストレーターに断りなく、勝手に二次使用・流用されるトラブルは多いです。

それに対してイラストレーターが抗議すると「著作権を譲渡してもらったから」と、勝手な流用を正当化しようとするクライアントもいます。

「著作権に関して事前に約束がない場合は、著作権は譲渡されず、イラストレーター側にある。」ということは、いくつかの判例で確定しています。
判例とは、法律の隙間を埋めるものです。なので、そうした法律が明文化されていなくとも、それと同等の拘束力があります。
法的に「事前に著作権に関して取り決めをしていないのなら、著作権はイラストレーター側にある」ことは間違いないのです。

しかしながら、それでもクライアントが著作権譲渡を言い張ったり、後から著作権譲渡を強要してくる事例が多発しています。
プロの現場では、決して珍しくないトラブルです。(それが有名な出版社や世間的には優良なイメージの大企業だったりするのが、とても悲しいです)
そうしたトラブルを防ぐために、この一文を入れています。
「著作権はイラストレーターにある」ということをここで明確にしているわけです。

ちなみに著作権とはーー
「このイラストレーション(作品)はこの本に使っていいいですよ」「このポスターに使っていいですよ。期間はいつからいつまでですよ」「このパッケージやおもちゃでも使っていいですよ」
というように、その作品をどこで使うかを許可できる権利です。
この権利を持つ人(あるいは企業・団体自治体等)だけが、使用許可を出せます。

イラストレーションは描かれた瞬間に著作権が発生します。
それを描いた人に発生します。
しかし、著作権は譲渡が可能です。
企業・個人・団体・自治体等に売り渡すことが可能なのです。
著作権を買い上げた企業(または個人・団体・自治体等)は、何に使用するのかを許諾する権利を持つことになります。
そうなると、もともと著作権を持っていたイラストレーターには著作権がないので、何に使うか許諾を出す権利がありません。
著作権を買い上げた企業が何に使おうが、文句を言えなくなります。

著作権を譲渡したらどんなことになるのかは、こちらのnoteを読んでくださいね。
https://note.com/moriryuichiro/n/nf534429ece7b


■「イラストレーターは、著作者人格権を行使することができます。(多少のトリミングや色の変更を「可」とする場合、名前の表記をしない場合は、「特記事項」に記入すること。)」

欄外下の3文目を説明します。
文字通り、「イラストレーターは、著作者人格権を行使できますよ」という意味です。

プロ・イラストレーターの現場では、「著作者人格権を行使しない」と書かれた契約書を強要される事例が多発しており、大きな問題となっています。
後からこうした契約書を強要されないよう、この一文が、お仕事確認書に盛り込まれているのです。

著作者人格権についても解説しておきますね。
著作者人格権には、主に、次の4つがあります。
1)公表権(著作権法18条)
2)氏名表示権(著作権法19条)
3)同一性保持権(著作権法20条)
4)名誉声望保持権(著作権法113条6項)


○ 一つ目の「公表権」とは、未発表の作品を世に出す権利です。
イラストレーターは、いつどんな形で作品を公表するか決める権利を持ちます。
例えば小説家が「この作品は私の死後に発表して欲しい」と作品を編集者に託すケースがあります。

○ 二つ目の「氏名表示権」は、著作物を公表する際に、どんな名前を表示するか(実名、芸名、ペンネームなど)、あるいは名前を表示するのかしないのかを決める権利です。

○ 三つ目の「同一性保持権」は、作品を勝手に修正・改変されない権利です。
多くのイラストレーターにとって、作品は自らの分身です。
感情や思想、そのものを込めて描きます。
何かの都合で、変更を加えられることに、大きな抵抗感があることも少なくありません。そうしたイラストレーターの心情を保護するのが、この権利です。

○ そして4つ目の「名誉声望保持権」は、著作者の名誉や声望を貶おとしめるような利用を禁じる権利です。
著作権法113条6項では「著作者の名誉又は声望を害する方法によりその著作物を利用する行為は、その著作者人格権を侵害する行為とみなす。」とされています。
例えば、真面目な美術作品をアダルト系のサービスに使うことなどが、名誉や声望をおとしめるような利用に該当すると考えられます。

「著作者人格権を行使しない」という契約を結ぶと、そのイラストレーターはこの4つの権利を全て行使できなくなります。

イラストレーターが、「氏名表示権」を行使できないということはーー
たとえば、勝手に違う名前のクレジットを入れられても、文句を言えなくなるということです。
あなたの作品の作者名が全く知らない誰かになっていてもいいでしょうか?
ゴーストライターの仕事でない限り、そんな契約はしたくないですよね。

イラストレーターが、「同一性保持権」を行使できないということはーー
魂を込めて描いた作品を、大きく改変されても文句を言えません。
作者の意図をねじ曲げられることを歓迎するイラストレーターは、少数派のはずです。
例えばこんな改変だってあり得ます。
・衣類を着た真面目なテーマの女性画を、はしたない内容に改変される。
・人物画の顔部分を、カルト宗教の教祖の顔に改変される。
・差別反対がテーマのイラストレーションを、ヘイトな内容に改変される。
・原発反対をテーマにした作品を、原発の素晴らしさをテーマにした内容に改変される。
・原発推進をテーマにした作品を、原発の酷さをテーマにした内容に改変される。

「名誉声望保持権」さえあれば、作者の名誉を傷つける用途での利用は、やめさせることが可能です。
しかし、「その権利を行使できない」ということは、何に使われても文句を言えなくなります。
作品がアダルトゲームに使われても、カルト宗教で使われても、ヘイトや差別に使われても……
それをやめさせることができないわけです。

さらに「著作権譲渡」の契約も結んでいたとすると、イラストレーターの同意なく、様々な媒体で使えます。
著作権を買い取った企業Aが、はしたない内容に改変したうえで、イラストレーターの同意を得ていないアダルトゲームに、勝手に利用することすら、可能になってくるのです。

「著作者人格権を行使しない」とされた契約書の危険性が理解できたでしょうか?
こうした問題に関してnoteで詳しく書いています。
こちらも読んでくださいね。
https://note.com/moriryuichiro/n/nb6d23eab97f6

■「イラストレーション納品後に、その使用が見送られた場合も料金が発生します。ラフまでなど、制作途中であってもその進行状況に応じて料金が発生します。」

欄外下の4文目を説明します。
イラストレーションの納品まで行ったにもかかわらず、その使用が見送られることがあります。
または、ラフまでなど制作の途中で使用が見送られることもあります。
「こうした場合も、代金をいただきますよ」というのが、この文章の意味です。

これを入れておかないと、万一の時、「1円も貰えずじまい」となりかねません。

一般的な書籍や雑誌で納品後に使用が見送られた場合は、もともと約束していた金額の50パーセント程度が相場です。

広告・宣伝関連では一概に言えません。まず相場はないでしょう。
これはクライアントと話し合って決めるしかないだろうと思います。

「完成後使用が見送られた場合」「ラフまでで使用が見送られた場合」等にいくらにするかを事前にクライアントと話し合い、その金額やパーセンテージを「特記事項」に書いておくのもいいでしょう。


■「原画・データ等は、作業終了後、イラストレーターにご返却願います。(オンライン納品のデータは除く)」

欄外下の5文目を説明します。

アナログの原画は必ず返却していただきましょう。
なかなか戻ってこない場合は、問い合わせをしましょう。
返却を忘れてそのままになる担当者も、時折いらっしゃいます。
遅すぎると紛失される可能性もあるので、早めに連絡しましょう。

原画を受け取ったら、メールでお礼をしておきましょう。
届いたことがわかると、クライアントも安心します。
データをCD-Rなどで納品するケースは、今は滅多にないと思いますが、データも返していただくのが基本です。
返却不要な際は、その旨書いておきましょう。

オンライン上で納品する場合は、返却いただく必要がないです。
というよりも、返却できないですよね。



■「印刷物や商品見本が出来上がりましたら、イラストレーターにお渡し願います。Web上に公開された場合や電子書籍は、そのURLをお知らせください。」

欄外下の6文目を説明します。

そのイラストレーションが使われている「雑誌」「書籍」「商品」などは、見本として1つ(またはいくつかを)いただけます。
これを忘れる担当者は、時折いらっしゃいます。
届かない場合は、問い合わせをしましょう。


■「イラストレーターは、今回の仕事の画像を「Webサイト」「ポートフォリオ」「SNS」等で仕事歴として掲載することがございます。問題がある場合は、事前にお知らせください。」

欄外下の7文目(最後)を説明します。

そのイラストレーションが使われている「雑誌」「書籍」「商品」などは、仕事の実績として、ポートフォリオなどで使いたいですよね。
著作権がイラストレーター側にあるのなら、通常はイラストレーターが自分のポートフォリオやSNSに掲載するのは自由です。

しかし、クライアントの事情で「実績として公開しないで欲しい」と言われることもあります。(この場合は、報酬額を高めにしていただきましょう)
後から揉めることのないよう、ここで確認しておきましょう。
「実績公開不可」の場合は、「特記事項」に書き入れましょう。



■「お仕事確認書」ダウンロードコーナー

「お仕事確認書」のデータは、こちらからダウンロードしてください。

・日本語版の使用フォントは、「ヒラギノ角ゴシックW8」「ヒラギノ角ゴシックW6」「ヒラギノ角ゴシックW3」。

・英語版の使用フォントは、「Avenir Next Demi Bold」「Avenir Next Medium」 「Avenir Next Regular」。

「うまくダウンロードできない」「データを開けない」という場合は、お問い合わせください。
お問い合わせ電子メール:iratsu@moriillustration.net

○日本語版「お仕事確認書」ダウンロードURL

PDF形式はこちら:https://www.dropbox.com/s/3mlvtnt7lpnk5mv/oshigotokakuninnsyo.pdf?dl=0

ai形式(CC2020年度版)はこちら:https://www.dropbox.com/s/4yguersrdtaxr5a/oshigotokakuninnsyo.ai?dl=0

ai形式(CS2にバージョンダウンしたもの)はこちら:https://www.dropbox.com/s/ko8ecxm1e6oqewi/oshigotokakuninnsyo_CS2.ai?dl=0

○海外の仕事をする際に使える英語版ダウンロードURL

英語版PDFはこちら:https://www.dropbox.com/s/13kx7p063j858qp/E_oshigotokakuninnsyo.pdf?dl=0

英語版Adobeイラストレーター形式はこちら:https://www.dropbox.com/s/mheyy787hkyaku0/E_oshigotokakuninnsyo_CS2.ai?dl=0


○お仕事の条件などは、adobe Illustrator上で入力し、PDFに書き出してから、発注主に送るのがいいでしょう。
ai形式のまま送ると、先方が開けないことがあります。
その上内容をいくらでも改竄できるので、契約書には使えません。
かならずPDF形式に書き出してから、Adobeサインを使って送信しましょう。

○お仕事確認書の著作権は放棄しています。(著作権があるのかどうかも疑問ですが)

○自分が使いやすい内容に変更してもOKです。
ai形式のデータは、ご自身の仕事に合わせて、使いやすい内容に変更して構いません。
デザイナーの方なら、デザインの仕事にあった内容に変更するのもいいと思います。
ただし少しでも変更を加えた場合は、「制作:イラストレーターズ通信 https://illustrators.jp」の文字は外してくださいね。


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このnoteは、あなたの幸せなイラストレーター生活を願って書きました。
何度も繰り返し読み、お仕事確認書をうまく使ってくださいね。

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お仕事確認書制作にあたっては、次の2つを参考にさせていただきました。
・雑誌「イラストレーション」(玄光社)168号102ページに掲載されている「CHECK SHEET」。
・文化庁の「誰でもできる著作権契約」
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/keiyaku_intro/index.html

「下請法」「著作権法」などの法律も参考にしました。
顧問弁護士である小沢一仁先生からのチェックも受けています。
「イラストレーターズ通信」会員の皆さんからも様々なアドバイス、ご意見をいただき、改善を重ねてきました。
アドバイスやご意見をくださった会員の皆さんには、心からお礼申し上げます。

「イラストレーターズ通信」は経済的にとても苦しく、森流一郎は借金をしてなんとか運営を続けております。もしよろしければ、サポート(投げ銭)をお願いします。団体の活動資金とさせていただきます。