イラストレーターが知っておきたい「コンテスト」「ストック」「クラウドソージング」における著作権譲渡問題
(この記事は、『イラ通・スクール』の「著作権譲渡問題04 「コンテスト」「ストック」「クラウドソージング」を転載したものです)
■ イラストレーションのお仕事以外でも、著作権譲渡の危険がある
ここまでに、「著作権を譲渡してしまうと様々なトラブルにつながる可能性があること」を解説してきました。
解説してきたのは、企業等からイラストレーションのお仕事の依頼を受けた際の問題に絞った内容でした。
しかし、著作権譲渡関連の問題があるのは、こうしたお仕事のケースに限りません。
こうしたお仕事以外でも、イラストレーターの知らないうちに著作権が譲渡されてしまうケースがあるのです。
著作権譲渡の危険があるのは、例えば次のようなケースです。
イラストレーション・コンテスト(コンペ)に応募した場合。
ストック・イラストレーションに登録して、作品をアップした場合。
クラウドソージングに登録して、イラストレーションのお仕事が成立した場合。
「コンテスト」「ストック」「クラウドソージング」には、著作権譲渡が前提条件となっているものがあるのです。
今回は、駆け出しのイラストレーターが陥りやすい、こうした問題について解説します。
■ 「イラストレーション・コンテスト(コンペ)」における著作権譲渡
一般からイラストレーションを募集するコンテスト(コンペ)は、無数にあります。
いくつあるのか分からないほどたくさんあります。
入選・入賞すると、賞金や賞品等をいただけるコンテスト(コンペ)もあります。
商品化されたり、どこかで展示されたり、雑誌等に掲載されたり、Webサイトに掲載されるコンテスト(コンペ)もあります。
駆け出しイラストレーターがこうしたコンテスト(コンペ)に積極的に応募することは、良いことです。
プロへの登竜門となっているものも少なくないからです。
しかしーー
気をつけなければならない事があります。
こうした「コンテスト(コンペ)」の中には、著作権譲渡の罠が潜んでいることもあるのです。
応募要項等に「入選・入賞作品の著作権は、〇〇(企業名・団体名・自治体名)に属する」と、明記されている「コンテスト(コンペ)」があるのです。
こうした要項に気が付かずに応募して、うっかり入選・入賞してしまうと、募集している企業・団体・自治体等に著作権を譲渡することになります。
中には「応募作品の著作権は、〇〇(企業名・団体名・自治体名)に属する」という応募要項になっていることもあります。
こうした募集要項のコンテスト(コンペ)は、応募しただけで、入選・入賞しなくとも、企業・団体・自治体等に著作権が譲渡されてしまいます。
例えばーー
「ミツバチの一枚画コンクール」(山田養蜂場主催)の「よくある質問」ページを見てみましょう。
ここには、こう書かれています
つまりーー
入賞作品の著作権は、山田養蜂場様と共催者に譲渡されるということです。
次は、自治体によるキャラクターデザインの募集も見てみましょう。
「東村山ご当地キャラクターデザイン募集」(東村山市主催)の募集要項です。
「著作権譲渡+著作者人格権不行使」になっています。
個人的にーー
こうしたコンテスト(コンペ)は、「素人向けだ」と思います。
素人のイラストレーターなら、こうしたコンテストに応募してもいいでしょう。
プロのイラストレーターとして今後いろんな企業の仕事をするわけではないのですから、著作権を譲渡していたとしても、バッティング等の心配をする必要はないです。
受講生の皆さんが、プロ・イラストレーターを目指しているのなら、応募要項を熟読しましょう。
「著作権譲渡」となっているコンテスト(コンペ)への応募は、慎重に判断しましょう。
応募するなら、「著作権は、イラストレーターに帰属する」といった応募要項になっているコンテスト(コンペ)の方がおすすめです。
例えばーー
「TIS公募」(TIS主催)の応募規定を見るとーー
となっています。
「本人」というのは、「応募者本人」という意味でしょう。
このコンテスト(コンペ)なら応募しても大丈夫です。
「ザ・チョイス」(玄光社主催)に関しては、『イラストレーション』誌の最後のページに「作品公募のお知らせ」が載っています。
そこにはーー
と書かれています。
このコンテスト(コンペ)も、応募して大丈夫ですね。
昔からある有名なコンペではこうした規定が明記されていない事もあります。
法律上「何も規定がない場合の著作権は、応募者(イラストレーター)に残る」と解釈できます。
「HBファイルコンペ」(HBギャラリー主催)
「装画を描くコンペティション」(ギャラリーハウスマヤ主催)
「ペーターズギャラリーコンペ」(PATER'S Shop and Gallery 主催)
などは、応募規定に著作権の帰属に関する記述が見つけられなかったのですが、イラストレーターに著作権が残ると考えられます。
この3つのコンテスト(コンペ)も、応募して大丈夫でしょう。
■ 「ストック・イラストレーション」におけるリスク
駆け出しの方も比較的挑戦しやすいのが「ストック・イラストレーション」です。
うまくすれば、クライアントから直接依頼を受けてイラストレーションを描くよりも、多くの報酬を得る可能性もあります。
しかし、ストックサービスの中には、登録するだけで著作権が譲渡されてしまう規定になっているものがあります。
そしてーー
著作権譲渡の規定がないストックサービスだとしても、実は、著作権譲渡と同様のリスクがあります。
「著作権譲渡と同様のリスク」について詳しく説明しましょう。
あなたが企業Aから直接依頼を受けた広告の仕事をしていると仮定します。しかも企業Aからは、競合他社での仕事を禁じられているとします。
その一方で、ストックサービスに登録している作品が、企業Aと競合する企業Bの広告に使われたとしたらーー
これは、いわゆるバッティングになっていまします。
あなたは、企業Aから多額の賠償金を求められるかもしれません。
ストックサービスに登録されているイラストレーションは、世界中のあらゆる商品・サービスの宣伝・広告に使われる可能性があります。
どんな商品に使われるかをイラストレーター側がコントロールすることはできません。
クライアントから直接依頼を受けた宣伝・広告の仕事とバッティングする可能性があるのです。
つまりーー
ストックサービスには、著作権譲渡した場合とほぼ同様のリスクがあることになります。
○ストックサービスに登録するなら「別タッチ・別名義」で
バッティングなどのトラブルを避けるために、ストックサービスには「クライアントワークとは、別名義・別タッチ」で登録するようにしたいです。
ちょっと似たタッチや名義も避けたいです。
全く異なる名義とタッチにしましょう。
クライアントワークとストックワークは全く別人として活動しましょう。
そして、クライアントワークで「競合制限」の仕事が来たら、「ストックでは全く別のタッチと名前で仕事をしていますが、よろしいですか?」と確認しておきましょう。
全く似ていなければ問題となることはまずないですが、黙っているのは好ましくないです。
ストックをやっていることは、正直に伝えておくことが大事です。
○イラストAC
ここから、代表的なストックサービスの規約を確かめていきましょう。
まずは、イラストACです。
イラストACの利用規約の「イラストのアップロード」の項目には、こう明記されています。
つまり、作品をアップしただけで、その著作権はイラストACに譲渡されてしまいます。
さらに、著作者人格権不行使にもなっていますね。
ここに登録するのであれば、こうした規定をよく理解した上で登録しましょう。
「クライアントワークとは、別名義・別タッチ」で登録することをお勧めします。
○PIXTA
次にーー
PIXTAの利用規約をみてみましょう。
「第23条 クリエーター会員」にはこう明記されています。
つまり、著作権はイラストレーターにあります。
ただし、著作者人格権不行使になっています。
著作者人格権不行使の場合に懸念されるのが、イラストレーターが使われたくないもの(アダルト系等)への使用でした。
《イラストレーターに知って欲しい「著作者人格権を行使しない」契約のリスク》
PIXTAでは、一般的なイラストレーター使われたくないと考えるであろう題材への使用が禁じられています。
使用が禁じられているのは、
などです。(詳しくは、利用規約で確認しましょう。)
「これなら自分が使われたくないものへの使用はない」と思えるのなら、サービスへの登録も検討していいと思います。
著作者人格権不行使の場合にもう一つ懸念されるのが、作品の改変です。
PIXTAの利用規約では、ストックイラストレーションをダウンロードして使う側に対して、
と定めています。
作品の改変に抵抗がないのであれば、PIXTAへの登録を検討していいと思います。
ただし、登録する際は「クライアントワークとは、別名義・別タッチ」にすることをお勧めします。
著作権譲渡でないとしても、いろんな商品・サービスで使われることに変わりはないので、バッティングの危険があることに変わりはないからです。
○Adobe Stock
最後に、Adobe Stockです。
利用規約ではこう書かれています。
つまり、著作権はイラストレーターにあります。
著作者人格権全般を不行使にする規定は見当たりません。
著作者人格権関連の規約を探すとーー
イラストレーターは「作家名のクレジット表示がない可能性を承諾する」必要があります。
ポルノや違法な題材に使われる危険はないです。
作品が改変される可能性は承諾する必要があります。
著作者人格権全般を不行使にするのではなく、必要なものに限って最小限の不行使にしています。
クリエーターへの配慮が行き届いた規定になっています。
いいですね。
またーー
利用規約には、ストック画像をダウンロードして使う側への禁止事項として次のように明記されています。
コレも、素晴らしいと思います。
(H)では、他の作家名をクレジット表記することを禁じています。
著作者人格権全般を不行使にすると、違う作家名をクレジットする事も可能になることはーー
《イラストレーターに知って欲しい「著作者人格権を行使しない」契約のリスク》
で解説しています。
これをちゃんと封じる規約になっているのです。
イラストレーターの権利に配慮した良い規約だと思います。
個人的に一番お勧めできるのは、Adobe Stockです。
そうはいっても、やはりここでも「クライアントワークとは、別名義・別タッチ」にすることをお勧めします。
著作権譲渡でないとしても、いろんな商品・サービスで使われることに変わりはないので、バッティングの危険があることに変わりはないからです。
他にもストックサービスは、たくさんあると思います。
全てを調べる事は、できませんでした。
利用を検討する際は、規約をよく読んでから検討してくださいね。
いつか時間があれば、他のストックサービスについても調べて、加筆したいと思います。
■ 「クラウドソージング」における著作権譲渡
「クラウドソージング」でも著作権譲渡の規約となっているものがあります。
○ランサーズ
「ランサーズ」は、著作者譲渡が前提となっています。
参考ページ:https://www.lancers.jp/faq/l1016/107
ランサーズでは、著作者人格権不行使にもなっています。
その他詳しくは利用規約を確認しましょう。https://www.lancers.jp/help/terms
○クラウドワークス
「クラウドワークス」は、以前はクライアントに著作権が譲渡される規約になっていましたが、規約が改定されました。
今は個別に著作権譲渡契約をしない限り、イラストレーター側に帰属するようになりました。
参考ページ:https://crowdworks.jp/consultation/threads/12414
これはおそらく、著作権譲渡となってしまう規約に対して、多くのクリエーターから懸念の声があったために、クラウドワークスが規約を変更してくださったのだと思います。
素晴らしい事です。
ただし、「著作者人格権不行使」は今もまだ残っています。
https://crowdworks.secure.force.com/faq/articles/FAQ/10355?l=ja&url=10355
「著作者人格権不行使」の問題があるので、慎重に利用したいです。
クラウドソージングも、まだ他にあると思いますが、調べる時間がありませんでした。
いつか時間があれば、調べて、加筆したいと思います。