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日本フライングディスク協会の財政危機について

日本フライングディスク協会(JFDA)の現状に関する会長声明が発出されてから初めての週末を迎えました。10月から11月にかけて開催される大会に向けて練習を行う予定だったチームも多いことと思います。今回の会長声明では、大会の延期・中止をはじめ、多くの競技者にとって残念な内容が含まれておりますが、感染症対策の徹底に関する開催地や宿泊施設との調整などの兼ね合いもあり、このような判断に至りました。

大会の延期・中止も去ることながら、「JFDAが巨額の負債を抱えることになった」という事実に衝撃を受けた方も多いのではないでしょうか。このエントリーでは、会長声明の中にある「2. 昨今の厳しい社会情勢への対応に向けた協会業務執行体制改革について」のうち、「(1) 財務状況と新型コロナウイルス感染症特別貸付制度の利用」の内容の補足・解説を行いたいと思います。なお、JFDAの決算状況については以前に解説記事(解説:日本フライングディスク協会の決算)を書いていますので、そちらも併せてご覧ください。

はじめに

会長声明にあったとおり、JFDAは日本政策金融公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付制度」を利用して4,500万円の特別借入を行いました。ここからは、なぜ借入れを行う必要が出てきたのか、なぜ4,500万円なのか、どのようにして返済していくのか、の3点について書いていきます。なお、借入条件は以下の通りです。

金  額:4,500万円
利  率:0.46%/年(当初3年間)⇒1.36%/年(4年目以降)
返済金額:50万円/月(元金均等)
返済期間:75ヶ月=9.5年(うち2年据置き)

なぜ借入れを行う必要が出てきたのか

まず、借入れを行う必要が出てきた理由についてです。一番の理由は、「会費収入が激減したため」です。JFDAの財政は、個人年会費、年間チーム登録費が前年度と同額入ってくれば、少なくとも1年間は競技会や代表活動、講習会などを行わなかったとしても協会の機能が維持されるようになっています。他方、競技会や代表活動などに掛かる費用は、その事業の参加者のエントリー費や参加費で全額賄われます。そして、エントリー費や参加費は、事業の実施による利益がほとんど出ない水準、すなわち収入と費用が同額になる水準に設定されているため、大会をやればやるほどJFDAの懐が潤うというわけではないのです。

以下の図は、JFDAの財源とその使い道を表したものです。上でも述べたように、競技会、代表派遣、指導普及の各事業(図の外周部分)の費用は、エントリー費としてその事業の参加者が負担する仕組みになっています。そして、協会機能の維持(図の中心部分)に必要な費用は、年会費として会員全員が負担する仕組みになっています。つまり、今年のように競技会や代表活動が行われず、本来入ってくる予定だった収入が全く入ってこなかったとしても、その収入が充てられる費用も一切発生しないため、JFDAの懐は痛まないのです。

<図 JFDAの財源と使い道>

今年の場合は、競技会の開催可否が不透明だったことから3月中の会員更新件数が例年の水準を大きく下回り、結果的に会費収入が激減しました。その結果、9月末には資金が底をつき、人件費や光熱水費といった協会機能を維持するために必要な費用を支払うことができなくなることが判明したため、金融機関から借入れを行うことで対処することにしました。

なぜ4,500万円なのか

次に金額についてです。この4,500万円という金額は、以下のような考えの下で年間収支のシミュレーションを行い、算出しました。

・2021年度まで事業が再開されず、会費収入もゼロ
・補助金、助成金もゼロ
・人員整理を行い、職員数を半減
・上位団体(JOCやWFDFなど)加盟費や家賃等の管理費は2019年度と同額

このシミュレーションの結果、2021年度末時点で約4,200万円の資金不足が発生することが判明しました。言い換えれば、2020年9月から2022年3月までの19か月間、JFDAという組織を維持するために追加で4,200万円もの資金が必要ということになります。今回は、このシミュレーションの結果を踏まえて、資金不足額4,200万円に少し余裕を持たせた4,500万円を金融機関から借り入れることにしました。

ちなみに、日本政策金融公庫から巨額の借入れを行うことができたのは、日本スポーツ協会に加盟していたことが大きく影響しています。「日本スポーツ協会の紹介」というだけで、借入申請をとてもスムーズに行うことができました。この他にも、コロナ禍の経営への打撃を緩和するため、JFDAの事務所が入居するJapan Sport Olympic Squareの家賃の支払い猶予を受けています。このように、有事の際に手を差し伸べてくれる上位団体があるということも忘れてはなりません。

どのようにして返済していくのか

最後に返済の見込みについてです。当然のことながら、借入申請時には返済計画も提示しなければなりません。上でも述べましたが、返済期間は75ヶ月で、そのうち最初の2年間は据置き期間となっています。据置き期間とは、「元金の返済は行わず、利息の支払いのみを行う期間」のことです。つまり、最初の2年間は年間20~30万円ほどの利息のみを支払い、3年目から元金を毎月50万円ずつ返済し始めることになります。

返済原資は、毎年の会費収入です。元金の返済が始まる2022年から2029年の途中まで、元金と利息を合わせて毎年620~630万円ほどを返済に充てなければなりません。ここ数年のJFDAの決算を見ると黒字額はほとんど出ていませんが、2021年より年会費が1,000円値上げされるため、単純計算で500万円(1,000円×5,000人)の収入増加が見込めます。その増収分が返済原資になります。残りの100万円ほどについては、年会費と同様に値上げされた競技会エントリー費の一部の充当と経費削減によって対応することを想定しています。

おわりに:年会費について

会長声明の最後に年会費納入のお願いがありました。今回の借入れは、今年度想定していた会費収入の不足分を補うためで、会費収入が例年通りであれば借り入れる必要はありませんでした。そして、利息の支払いが発生している分、未来のフライングディスク競技者の負担が増加したと言えます。一方、会員数増加など、何らかの要因で収入が増加した場合には、元金を早めに返済することもできます。その場合、利息の支払い期間も短くなり、返済総額も少なくなります。特に、今回の借入額(4,500万円)は、2021年度も会費収入が入ってこないことを前提として算出されたものです。したがって、仮に2021年度も競技会が開催されなかったとしても、会費の納入者が一定数いれば、それだけで完済が早まる可能性があります

今回の借入れに関しては、年度当初に会費を支払うインセンティブが機能しないような制度を運用している協会側に責があるとは思いますが、JFDAが持つ中央競技団体としての機能を維持し、フライングディスク競技が長きにわたって多くの人に親しまれ続けるよう、年会費を納入していただくことを、私からもお願い申し上げます。

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