大晦日に感じた劣等感
大晦日地元の山形に帰った。
本当は帰りたく無かった。だが中学生時代の親友二人から誘われて断れなかった。
帰りたくない理由は親友のK君にあった。
K君は医者である。私が高校入学から大学を中退してそれ以降プラプラと悪戯に時間を浪費している間、彼は医学部に入って医者になる為に努力をし続けた。彼に会いたくない。彼に会ったら私はきっと劣等感を感じずにはいられないだろう。
きっと高校時代、彼が医学部に入る為に必死に勉強している間、私は女子高生モノのAVでオナニーしていたのだろう。
彼が大学に入学し記者になるための勉強をしている間、私は大学を中退して、女子大生モノのAVでオナニーしていたのだろう。
彼が医学部を卒業して医師国家試験のために勉強している間、私はOLモノのAVでオナニーしていたのだろう。
彼が着実に努力を積み重ねている間、私はなんの成長もしていない。性的対象の年齢だけがあがっている。
しかも彼は金遣いが荒いと、友人づてに聞いたことがあった。彼が東京に遊びに行った際、一晩でキャバクラで15万使ったらしい。
もし大晦日、酔った彼に「キャバクラ行こうぜ」と言われたら、私は断わることが出来ないだろう。
私には一晩で15万使う余裕はない。彼と対等でいたいなら、見栄のために消費者金融に借金するしかない。
きっと消費者金融でなんとか金を工面し、キャバ嬢を横に座らせて高い金を飲んだとしても、心の中の大地真央に「そこに愛はあるんか?」と聞かれるだろう。きっと私は言葉に詰まるだろう。
かと言って「医者なら稼いでるんだから奢ってよぉ〜」と道化になることもできない。
もし仮にプライドを捨て道化になってキャバクラ代を出してもらった所で、そこでキャバ嬢と喋って楽しめるだろうか?そこで飲む酒は美味しいだろうか?そこで食べるポッキーは本当に甘いだろうか?そこで見るキャバ嬢の髪の毛は本当に巻かれているだろうか?そこで見るキャバ嬢の胸は本当に柔らかそうだろうか。そこで見るボーイの服は本当に黒いだろうか。
私はバックレる事を決めた。大晦日当日。親友二人が20時に山形の居酒屋の予約をした。その日私は何をしていても時計から目が離せなかった。
一刻一刻と刻まれる時計の針を見つめ、時間は19時55分になったになった。
私達3人のグループラインに通知が来た「店の前で待ってるよ」
ここしかないと思った。ここでちゃんと伝えよう。山形にはいないし、帰らないということを。
だが私は「ちょっと遅れる」と文字を打った。
いわきから山形までどの交通手段でいってもちょっとでは済まされない。だが今更やっぱり行きませんとはどうしても返せなかった。
こんな私を求めてくれる唯一無二の親友二人なのだ。私はそれからテレビをつけて紅白を見た。どんな綺麗な女が、どんなに歌がうまい歌手が歌い踊っていても、全て眼の前を素通りしていくばかりだった。
20時半頃に彼らから電話が来た。紅白のボリュームを下げて電話に出る。
「お前今どこにいるの?」語気が強い。
「ごめん 新幹線に乗り遅れちゃって」私は嘘をついた。色んな感情で吐きそうだった。紅白ではあのちゃんがゲロチューを歌っていた。
「は?タクシー代3万までなら出すから今すぐ来い」 彼らは私を責めなかった。それどころかタクシー代3万まで出してくれるらしい。私の心はより苦しくなった。私は会いたくないのだ。約束をブッチした友達に3万までポンと出せるような気が良くて懐の広い幼馴染と会いたくないのだ。
テレビの中ではあのちゃんがウォーアイニーモーマンタイと歌っている。
モーマンタイどころか問題だらけである。
その後私はカタンくんにいわき駅に迎えに来てもらうように頼んだ。
私に出来る山形まで行く唯一の方法はカタン君しか無かった。
カタン君は私をいわき駅まで迎えに来てくれた。
そこで私は山形まで送ってほしいと頼んだ。彼は快く引き受けてくれた。そしてカタン君と山形に向かう車内で、私達は年を越した。
1月1日0時40分 私は山形に着いた。親友二人は今初詣の行列に並んでいるらしい。
私は行列をかき分け二人を探した。懐かしい顔がそこにはあった。
二人を見つけた瞬間、私は思い切り頭を下げた。二人は快く許してくれた。それも辛かった。どうせなら叱責してほしかった。
そのまま列に並びお参りをした。その後おみくじを買った。二人は中吉と吉 私は大吉であった。
1番出てほしくないのが出た。ここで大凶でも引ければ待たされた二人の溜飲も少しは下がるのに、ここで散々待たせた私が今年一番運勢が良いのだ。ここで大吉が出る時点で、私の今年の運勢は大して良くはないだろう。
おみくじの詳細を見てみると、待人 遅いが来ると書いてあった。散々待たせてやっと来た私を神は皮肉っているのだろうか。
その後どこかで飲み直そうという話になったが、お正月の深夜1時はどこの店も閉まっていた。なのでそこから近いK君の家に行くことになった。
医者の住んでいるマンションを見て、私は愕然とした。
隅々まで光を放つフローリング、全て最新だと思われる家電、最新のiPhoneとAirPods MACBOOK こみ上げる涙を止める事ができなかった私は、その部屋のトイレにかけこんだ。
ズボンをおろして便座に座る。優しい温かさが太もも周りを包んだ。まるでそこで春が、冬の終わりを待っているようであった。引き換え私の家のトイレは冷たい。失神するほどに冷たい。まるで冬の中心がそこにあるように。
これは私と彼を見る世間の目のようだと思った。
何も積み上げず時間を浪費している私を見る世間の目は冷たい。全ての命を終わらす冬のように
努力を積み上げてきた彼を見る世間の目は暖かい。命の息吹を告げる春のように。
私は泣きながらそこで大便をした。せめて彼のトイレを私の便で汚したい。それが私に出来る唯一の報復な気がした。
大便をした後レバーを引く。水流と常時吹き付けられるミストによって私の便は跡形もなく暗闇に流れていった。便器の中はまるで元々何も無かったかのように、汚れなき純白の光を放っている。
私は彼の便器すら汚せない。
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