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書は捨てずに町へ出た

 節分に恵方巻きではなく、焼き立ての明太フランスを頬張ってしまった。もちろん方角は東北東だ。


 休日に出かけることは好きだけれど、どちらかといえばインドア派だと思う。パソコンの前に座って日記や小説を書くならまだしも、SNSをだらだらと眺めて動かないことも珍しくない。
 この日は後者だった。座りっぱなしの体は凝り固まる。当然、お腹も空かない。
 このままではいけないと思い立ち、買い物がてら外に出た。駅へ向かう通勤ルートとは反対方向に歩き出す。
 迷子猫のチラシ、鳥が啄みそうなパンくず、病院の前でぽつりぽつりと咲いていた梅の花。「この先行き止まり」の看板の前で横に逸れて、別の道からスーパーを目指す。
 30分ほど歩き、気分転換にもなった。当てのない散歩も悪くない。何かと三日坊主になりがちな私でも、これなら続けられるかもしれない。

 午後からはYouTubeで期間限定公開中だった『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX The Laughing Man』を観て、夜は近所の居酒屋へ。
 入荷状況を知ってからどうしても飲みたい日本酒があり、おすすめメニューの菜の花の酢味噌和えも注文した。

鈴木酒造店長井蔵「蘇る」
能登半島地震の災害義援金専用酒

 日本酒は何年も飲んでいるけれど、今年に入ってから飲んだ感想を文字に残すようになった。これが意外と面白い。テイスティングと呼べるほどではないけれど、曖昧になりがちな記憶よりも、正確に記録を残せるような気がする。
 たまたま同じもの(愛知県の青木酒造「米宗」)を飲んでいた常連さんらしき人は、飲み込む前の蜂蜜のような甘さや、苦みや渋み、酸味の混ざった複雑な味も感じ取っていた——私はまだまだのようだ。
 お酒を飲むと何か食べたくなる。一人飲みでも関係ない。
 マグロのテール煮込み、箸休めのガリ、湯葉の包み揚げ、「食べるよね?」と出してもらったイワシの塩焼きは、昔は嫌いだった内臓のほろ苦さが癖になりそう。卵も美味しくて、頭から尻尾まで完食した。

 居酒屋のちょうどいい賑やかさで気も緩み、さくっと帰るつもりが3杯も飲んでしまった。

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