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COVID-19の医学情報をどう扱い行動するか(5)慢性炎症と抗酸化物質

 この記事では、成人の8割がかかっているともいわれる歯周病が唾液の力、そして免疫力や老化にどのように関わっているのかをお話しします。

歯周病が厄介なのは「慢性炎症」だから

 歯周病が原因で、大きく腫れたり強い痛みが出たりといった「急性炎症」がおきることはもちろんあります。ですが今回のテーマである「免疫力」という切り口で問題が大きいのは「慢性炎症」の方です。
 歯周病は、歯と歯肉の間にある歯周ポケットから細菌が入り込んで、歯周組織が炎症を起こすものです。細菌が歯を支えている歯槽骨を溶かしてしまい、最終的には歯が抜けてしまう、歯肉と骨の感染症です。
 2017年の厚生労働省の調査では、歯肉炎・歯周疾患の総患者数は約398万人(男性約162万人、女性約236万人)で、3年前の前回調査より 66 万人以上増加していま す。
 歯周病は「サイレントキラー(秘密の殺し屋)」といわれることもあり、通常は強い症状が現れることなく進行していきます。このジワジワと持続する慢性炎症が、酸化ストレスを通じて糖尿病や高血圧、がんなどの生活習慣病を悪化させることが分かってきています。歯周病を悪化させないことが、全身の健康と若さを維持するために非常に大事なのです。

唾液腺は高性能だが、デリケートな臓器

「唾液は透明な血液」というたとえをされることがあります。
唾液の原料は血液です。唾液腺に入ってきた血液をもとにして唾液は作られます。血液が赤く見えるのは言うまでもなく、赤血球に含まれるヘモグロビン(もっと細かくいえば鉄)の色が反映されている訳ですが、唾液には赤血球が含まれないため透明なのです。
 赤血球以外の成分も、唾液中にそのまま出てくる訳ではありません。たとえばホルモン。血液にはタンパク質などと結合した状態の「非活性型」と、本来の機能を発揮する「活性型」の両方が含まれますが、唾液に出てくるのは活性型だけです。量で比較すると、活性型は非活性型の千分の一ほどしかありませんが、ホルモンがどの程度機能しているかを評価するにはとても重要な目安です。
 このような高度な選別機能を発揮しつつ、しかも1日に1.5リットルのも唾液を作り出す唾液腺は鍛え抜かれたアスリートのようですし、別の見かたをすれば多くの条件に左右される気難しい、デリケートな臓器でもあります。

酸化ストレスに対抗するには

 多くの研究で、唾液腺は酸化ストレスに弱いことが示されています。どうしてそれが分かるかというと、酸化ストレスを増やす様々の要因が大きくなるとドライマウスが進行するからですし、その作用を打ち消す「抗酸化物質」を摂取すると唾液腺の機能が回復することが判明しているからです。

抗酸化物質早わかり

 酸化と、その逆の還元は分子レベルでの電子のやり取りです。電子を失えば酸化、与えられれば還元です。電子を与えることができる物質が、抗酸化力があるということになります。 

ひとくちに抗酸化物質といっても様々なタイプがあり、かなりザックリと分ければ水溶性、脂溶性ということになるでしょう。ビタミンを中心とした代表的な抗酸化物質には相互関係があり、「抗酸化ネットワーク」と呼ばれています。

抗酸化ネットワーク

 抗酸化力がある分子はこの他にもリコピンやレスベラトロールのようなフィトケミカル(植物が自衛のために作り出す物質)や、分子状水素など多くの種類があります。それぞれ作用の仕方が違いますし、抗酸化以外の作用を持つことも多いです。エネルギー産生や代謝のビタミンと思われていたビタミンB群でさえも、最近の研究では抗酸化力を持つことが分かってきていますし、体内で作られる抗酸化酵素SOD(Superoxide Dismutase)やカタラーゼなども重要な働きをしています。

唾液腺にとっての、抗酸化のエースは?

 唾液分泌がエネルギーを消費するプロセスであること、体の内外の多くの要因に左右されることから、あらゆる抗酸化物資が唾液腺の機能に関係していると思われます。 
 ですがここでは、研究データなどからある程度確からしいと思われるものをピックアップすると、ビタミンCとコエンザイムQ-10(Co-Q10)が浮上してきます。まずはビタミンCについてお話ししましょう。

水溶性だからといって、すぐに無くなるわけではない

 「研究成果は、最新なほど価値が高い」
大多数の場合はそうだろうと思います。でも古い論文の全てが無価値かというと、そんなことはありません。
 1975年発表の、ビタミンCに関する非常に重要な論文があります。 
雄のモルモットにビタミンC を与えて6日後にその体内濃度を測定したところ、中枢神経・下垂体・唾液腺・ 精巣・胸腺・網膜・水晶体などから多く検出されたという結果です。
「ビタミンCは水溶性ですぐに排出されてるから、沢山摂る意味はない」
 今でもそう思っている方が、いかに多いことか。でもこの研究からは特定の臓器には少なくとも一定の期間、ビタミンCが蓄えられていることが分かります。裏を返せば、その臓器はビタミンCを必要としているのです。
 臓器に蓄えられているのには理由があります。唾液腺もビタミンCを必要としているのです。
 口腔の健康を維持し、COVID-19の感染リスクを下げるために、ビタミンCには抗酸化以外にも大切な機能が沢山あります。次の記事ではそれを整理していきましょう。



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