雨の音と記憶の引き出しの詩

雨の音
感情のように
波のように
時に人を癒し
時に人を呑み込む
ただそこに水の塊が落ちる音がするだけなのに
人の心にも水面のような波紋を投げ込む
心の奥底にある何かを引き出す
それは過去の想いで
それは現在の繋がり
それは未来の架け橋
ただそこに在るだけなのに
感情なんて存在しない単なる現象に
人は想いを馳せて
物語を作るのだ



彼女は呟く「今度は何の詩を書いているの?」と。
僕は雨の音を聴きながら考えたことを感じるままにと伝えた。
僕がまだ小さい頃に空気の中に水滴がたくさん浮かんでいる雨があって、霧雨って呼んでいたんだ。
傘はささないで、その中を歩くと身体は濡れるんだけれど、なんとなくそれが心地よかった記憶がある。
彼女は呟く「そこにあるだけなのに、あなたの心に何かを響かせていたのね」
細かい霧みたいな雨がどこまでも続いて、とても幻想的な空間だった。
どこまでも僕は独りで、どこまでも僕は無限の空間を歩いていける気がした。
だけど家に着くと物語は終わってしまう。
物語は終わってしまうけれど、でもきっとまた続きが生まれる。
その時は人生は無限の中を歩いていけるものだと思っていたけれど、でも今は有限を知ってしまった。
人は有限を知ってしまったときから、何かが変わるのかもしれない。
彼女は呟く「無限に続くように思える世界も有限で、いつかは変わってしまうものかもしれないけれど、あなたの記憶の物語はきっと今もどこかに大切に眠っているのでしょうね」
そう言って彼女は微笑んだ。

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