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データを知恵に変える「多モデル思考」とは――『多モデル思考』(スコット・E・ペイジ著、11月刊行予定)

2020年11月初旬刊行予定の、『多モデル思考:データを知恵に変える24の数理モデル』のご紹介です。

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データを使って状況を把握し、取るべき行動を決める――今ほど、その力が求められている時代はないかもしれません。とくに、新型ウイルスに見舞われた2020年は、そのことを痛感する年となりました。私たちは感染者数を日々モニターし、それをもとに専門家が示す見通しを、生活の指針としてきました。そこでは、人口学にルーツを持つ「SIRモデル」など、さまざまな「数理モデル」が活用されました。

しかし、今回多くの人が知ったのは、感染症ひとつをとっても、分析のための数理モデルは一種類ではないこと、そしてモデルの選び方・使い方によって、結論も変わってくるということではないでしょうか。現に専門家のあいだでも、分析手法と提言内容にはばらつきがありました。

統計学者のジョージ・ボックス氏は、「すべてのモデルは間違っているが、中には役立つものもある(All models are wrong; but some are useful)」と述べたそうです。必ずしも「正しい」とは限らない数理モデルを、いかに「役立て」ていけばいいのでしょうか。

本書『多モデル思考』の著者のスコット・ペイジ教授は、以下のように言います。

ジョージ・ボックスが指摘したように、すべてのモデルは間違っているのである。これはすべてのモデルに当てはまることだ。私たちが法則と呼ぶくらい卓越したニュートンのモデルでも、一定の範囲内で当てはまるだけだ。モデルが誤っているのは、単純化するからである。(…)ひとつのモデルに頼り切るのは傲慢な考え方であり、破滅を招く。(…)どのようなものであれ、ひとつのモデルだけで1万年後の海面レベルや10か月後の失業率の数値を正確に予測できると思ってはいけない。複雑系を理解するためには多くのモデルが必要なのだ。(『多モデル思考』第1章より、長尾高弘(訳))

ペイジ教授が提案するのが、「多モデル思考」、つまり多くのモデルを「組み合わせて使う」方法です。まず著者が強調するのが、数理モデルを使う目的は、一つではないということ。「何のための数理モデルか」を考えることが、第一歩となります。

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そのうえで、本書では、多モデル思考を実践する際に有用となる数理モデルを24種類ピックアップし、各章で解説していきます。

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最終章では、「アメリカにおけるオピオイド(麻薬性鎮痛薬)問題」と「所得格差問題」を取り上げ、それぞれに対して多様な数理モデルを当てはめることで「多モデル思考」の実演を行います。

下記は、本書を監訳された椿広計先生(現・統計数理研究所所長)によるコメントです。

人工知能に支配されない人間力というのはこの本で鍛えられた方々を言うのであろう。
数理的かつ深遠な概念を日常世界に引き下ろすことが、この本の随所に見られる。」(椿広計「監訳者あとがき」より)

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『多モデル思考:データを知恵に変える24の数理モデル』

スコット・E・ペイジ(著)、椿広計(監訳)、長尾高弘(訳)

世界約100万人の受講者を熱中させた、数理モデリング講義の書籍化!

「データ」を意味づけ活用するのに、「数理モデル」は不可欠だ。リーマンショック、COVID-19パンデミックといった世界規模の事象から、企業経営、個人の意思決定まで、「何が起こったのか」を理解し、「どうすればよいのか」を判断するには、「データ」と「モデル」の両輪が必要となる。

しかしモデル=現実ではない。モデルごとに異なる説明/予測/判断が出てくることもある。究極的には「すべてのモデルは間違っている」。

ではどうするか。社会、政治、経済、複雑系を縦横に扱う数理モデリングの第一人者スコット・ペイジ氏は、「組み合わせて使う」という処方箋を示す。モデルの多様な「用途」を意識し、単一のモデルにこだわらない態度――これを「多モデル思考(Many Model Thinking)」と名づけ、本書では「数理モデルの7つの用途」と、それを達成するためのミニマムセットとしての「24の数理モデル」を解説。多彩な「多モデル思考の実践例」を披露する。

「データに振り回され、モデルに騙される」から、「多モデルを使いこなして、データを生かす」へ。現代人必須の教養を身につける一冊。

【目次】
第1章 多くのモデルで考える人
第2章 なぜモデルなのか
第3章 多モデルの科学
第4章 人間の行動のモデリング
第5章 正規分布:ベル型曲線
第6章 べき乗則分布:ロングテール
第7章 線形モデル
第8章 凹関数と凸関数
第9章 価値と力のモデル
第10章 ネットワークモデル
第11章 ブロードキャスト、拡散、感染
第12章 エントロピー:不確実性のモデリング
第13章 ランダムウォーク
第14章 経路依存性
第15章 局所相互作用モデル
第16章 リアプノフ関数と均衡
第17章 マルコフモデル
第18章 システムダイナミクスモデル
第19章 フィードバックをともなうしきい値モデル
第20章 空間/ヘドニック競争モデル
第21章 ゲーム理論の3つのモデル
第22章 協力モデル
第23章 集団行動問題
第24章 メカニズムデザイン
第25章 シグナリングモデル
第26章 学習モデル
第27章 多腕バンディット問題
第28章 起伏地形モデル
第29章 オピオイド、不平等、謙虚な姿勢


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