著者の先生に寄稿していただきました――近刊『都市の風環境ガイドブック-調査・予測から評価・対策まで-』を読むにあたって
2022年7月下旬発行予定の新刊書籍、『都市の風環境ガイドブック-調査・予測から評価・対策まで-』のご紹介です。
発行に先駆けて、著者の先生に寄稿していただきました。
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「ビル風」という言葉を聞いたことがあると思います。高層ビルの周辺で発生する局所的な強風のことを指す言葉で、1970年頃から使われるようになりました。ビル風によって引き起こされる問題としては、歩行障害、地物の飛散、建物の破損などがあります。我が国では、国内最初の超高層ビルである霞が関ビル(1968年竣工)で発生したものが最初と言われています。
「ビル風」の場合、風は悪者であり、風が弱いほど望ましいと言えますが、昨今の都市環境を考えるとどうでしょうか。地球温暖化と都市のヒートアイランド効果によって夏の都市の暑さは年々厳しさを増しています。都市のヒートアイランドの要因の一つとして、建物群によって風が遮られ、都市内の高温の空気が滞留してしまう問題が指摘されています。また扇風機の例を挙げるまでもなく、風は人間の体感温度を下げる効果がありますので、風は都市の暑熱環境を改善するために大事なものです。しかし気温が人間の体温より高くなってしまうと、むしろ風を受けることで体温が上昇してしまいます。昨今の夏の気温上昇を考えるとそちらの心配をするほうが現実的かもしれません。
このように都市の風は強すぎても、弱すぎても問題が生じます。風自体はもちろん自然現象ですが、都市の風というのは、建物などの人工的な要因の影響を強く受けています。そのため、都市や建築の形を工夫して、少しでも都市の風を人間にとって好ましいものにすることが期待されます。「風まかせ」という言葉があり、風はまったく捉えどころのないもののように思われるかもしれませんが、一定の法則や規則性があり、予測することが可能です。風洞という風を人工的に起こす装置と建物の縮尺模型を用いる実験方法が長らく使われてきましたが、最近では流体力学の方程式を解析するコンピュータ・シミュレーションが用いられるようになってきました。
皆さんが街を歩いていて、いつも風が強い場所、あるいはいつも風が弱い場所はないでしょうか。あるいは風が吹いて不快なとき、風が吹いて気持ちいいときはどういう場合でしょうか。都市を吹いている風を想像しながら街を歩いてみると、いつもの風景も少し違って見えるかもしれません。
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