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「風」を理解し、対策を考える!――近刊『都市の風環境ガイドブック-調査・予測から評価・対策まで-』はじめに公開

2022年7月下旬発行予定の新刊書籍、『都市の風環境ガイドブック-調査・予測から評価・対策まで-』のご紹介です。
同書の「はじめに」を、発行に先駆けて公開します。

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はじめに

─本書の構成とねらい─

古来より世界各地において、都市計画の際に、地域の卓越風を考慮して街路の方向や土地利用を決める方法が、主として温冷感や衛生上の観点から取り入れられており、都市と風の問題の歴史は長い。近代になると、19世紀に鉄骨構造とガラス張りの採用により実現した高層ビルが多くの国で都市景観の主流となり、従来考慮されていた都市と風の関係とはまったく異なる都市の風問題、すなわちビル風による強風問題を表出させた。その対応としてさまざまな検討や研究が行われてきたが、風環境を取りまく社会的背景や工学的技術、学術的な知見は、ビル風が社会問題化した当時とは大きく変化している。こうした変化をふまえて、従来にも増して、風と上手に付き合う建築や都市の設計が求められている。

しかし、風は非線形現象であるため、一般的な最適解が必ずしも当てはまらない場合もあり、一つの事例が特殊解となる場合も多い。したがって、対象とする建築物あるいは都市計画ごとに、それにかかわる技術者が風の問題に対する工夫や配慮を検討することが求められる。本書は、こうした都市の風環境の問題に対して、①基礎的な知識の習得、②問題に直面したときの拠り所(より詳しい情報を得るためのガイド)として使用できることを意図して企画された。また、風工学の専門家と非専門家がコミュニケーションをとるための認識共有の手段として使用されることも期待している

想定する読者は、建築関係の基本的な知識は有するが、風環境についてはとくに知識・経験のない技術者(技術研究所を有する大規模建設会社の設計部門、技術研究所をもたない建設会社、設計事務所、官公庁・地方自治体など)、さらには、これから都市の風環境について学ぼうとする大学院生などである。

なお、建築構造の分野に属する風と建築の問題については、基本的に触れていないことをあらかじめお断りしておく。これについては、適宜別の文献などを参照されたい。

本書は、以下の構成からなる。第Ⅰ編は基礎編として、都市の風環境にかかわる基礎的な事項を解説する。第1章では、統計的性質から地形の影響まで風環境問題の歴史と現状について概観した。第2章では、都市の風の性質について述べる。第3章では、建築・都市の形態と風環境の関係を、おもに強風発生の観点から解説する。一方、第4章では、風が吹かないことによる問題、すなわち弱風によって起こる環境障害について説明する。第Ⅱ編は実践編として、風環境の予測・評価・対策の一般的な手順に沿って各段階での要点を解説する。第5章では、まず風環境評価の一連の流れを説明する。第6章では、風に関するデータの収集・調査の方法について解説する。第7章では、都市の風環境の予測ツールとして、風洞実験やCFDの基本的事項を解説する。第8章では、都市の風環境の評価の考え方と使われる評価指標を説明する。第9章では、都市の風環境の対策を具体的な事例とともに解説する。巻末には、資料編として、風を活かした建築・都市の計画事例、全国主要都市の風速データおよび全国自治体の環境影響評価条例(風環境に関するもの)を示している。

 
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編:日本風工学会

 ◆風と上手に付き合う建築や都市を計画・設計するための基礎知識◆
風環境を考える際に技術者が必要とする「風に関する基礎知識」と「風問題に直面したときの拠り所」をまとめた書。建築物や都市の計画ごとに試行錯誤しなければならない風対策に役立つ内容です。
 
前半は基礎編として、風の基本的な性質とともに、どのような問題が起こっているのか、強風、弱風どちらの問題も含めて、都市の風環境問題の基礎的な事項を説明していきます。
後半は実践編として、風環境評価の一連の流れに沿って、データの収集・調査の方法、風環境の予測ツールである風洞実験やCFDの基本、評価の考え方と使われる評価指標を説明していきます。
巻末の付録では、より実践的な参考となるように、風をふまえたビル、団地、病院の計画事例を掲載しています。

 

【目次】

はじめに ─本書の構成とねらい─

第I編 基礎編

第1章 風と上手に付き合う建築・都市の計画・設計

 1.1 都市の風環境の変遷
  1.1.1 都市と風のかかわり
  1.1.2 高層ビルの出現とビル風問題
 1.2 都市における風に起因する諸問題
  1.2.1 強風による環境障害
  1.2.2 強風による粒子状物質の飛散(砂や雪)
  1.2.3 災害的強風による物の飛散
  1.2.4 弱風による都市の大気汚染,熱汚染の悪化
  1.2.5 弱風による都市内の建物の換気・通風の悪化
 1.3 都市の風環境問題の現代的課題
  1.3.1 ビル風問題の変化
  1.3.2 総合的な風環境評価の必要性
  1.3.3 予測手法の高度化

第2章 風の統計的性質と地形の影響─データとしての風の扱い方─
 2.1 風の時間的変化
  2.1.1 風の時間的変化─海陸風と山谷風─
  2.1.2 気象的要因で発生する強風
 2.2 風の性質と統計量
  2.2.1 風の鉛直分布
  2.2.2 風の乱れ
  2.2.3 風向・風速の発生頻度
 2.3 地形と風
  2.3.1 局地風
  2.3.2 複雑地形上に生じる流れ
  2.3.3 単純な山周辺の流れと風速分布
  2.3.4 地形の傾斜角度の影響
  2.3.5 実地形上の流れ

第3章 建物周辺の風
 3.1 建物形状・配置と風(単独建物を対象として)
  3.1.1 単独建物周辺の流れの特徴
  3.1.2 高層ビル周辺の流れと風速分布
  3.1.3 建物の形状と地表面付近の風速分布
  3.1.4 複雑な形状をもつ建物周辺の風速分布の検討例
 3.2 都市の形態と風(建物群を対象として)
  3.2.1 複数の建物周辺の流れの相互干渉
  3.2.2 単純な形状の街区における流れのパターン
  3.2.3 建物密度と街区内の風速
  3.2.4 建物高さのばらつきの影響
  3.2.5 都市形態と強風の発生確率

第4章 都市の弱風による環境問題
 4.1 弱風が温熱環境に与える影響
  4.1.1 人体熱収支と気流の関係
  4.1.2 気流と暑熱環境評価尺度SETとの関係
  4.1.3 適風環境
  4.1.4 風通しによる暑熱環境改善の限界
 4.2 都市の形態と熱・物質拡散
  4.2.1 広域スケールに基づく視点
  4.2.2 地区・建物周辺スケールに基づく視点
 4.3 建物の採風・通風
  4.3.1 建物の形状と風圧係数
  4.3.2 建築空間の風通しと熱環境
  4.3.3 適切な採風・通風計画のための工夫

第Ⅱ編 実践編

第5章 風環境評価の一連の流れ

 5.1 風環境評価の必要性
 5.2 風環境評価のフロー

第6章 風に関するデータの収集・調査
 6.1 風に関する気象データ
  6.1.1 風環境評価に必要な風データ
  6.1.2 入手しやすい気象データ
  6.1.3 気象データの適切な利用の仕方
 6.2 風観測調査の方法
  6.2.1 使用する機器
  6.2.2 観測における留意点

第7章 風環境の予測
 7.1 風環境予測の基本的な考え方
  7.1.1 風速比(風速増加率)を知る
  7.1.2 風環境の予測手法
 7.2 既往の研究結果に基づく予測(机上予測)
 7.3 風洞実験による予測
  7.3.1 風洞実験の前提条件
  7.3.2 風洞実験の実施手順
  7.3.3 風洞実験の精度と位置付け
 7.4 数値流体力学(CFD)による予測
  7.4.1 CFD解析の流れ
  7.4.2 CFDの実施手順
  7.4.3 CFD解析利用上の留意点
  7.4.4 CFDの精度

第8章 風環境の評価
 8.1 風環境評価の方法
  8.1.1 基本的な考え方
  8.1.2 よく使用される評価尺度
  8.1.3 評価実施例
 8.2 風環境評価の新しい考え方
  8.2.1 風安全指標
  8.2.2 風の乱れの影響を考慮した風環境評価指標
  8.2.3 風の体感に関するアンケート調査

第9章 防風のための対策とその効果
 9.1 防風対策の方法・種類
  9.1.1 建物形状や配置による工夫
  9.1.2 防風フェンス・樹木などによる方法
 9.2 防風対策の検討例
  9.2.1 検討対象
  9.2.2 各種防風対策の効果の検討事例

資料編
 資料1 風を活かした建築・都市の計画事例
 資料2 全国主要都市の風向・風速データ
 資料3 風環境調査にかかわる条例

索引


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