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大学のオンライン化を妨げる3つの壁

大学のコロナ対応に伴走して感じたこと

株式会社Schooで大学授業のオンライン化相談窓口を設置し、はや1ヶ月が立ちました。累計10以上の大学とやりとり・ディスカッションを実施。弊社でまとめている関連情報をお送りしたり、他社サービスを活用した学習内容設計をお手伝いしたり、数十人関係者を集めていただいてその大学独自のオンライン化スキームをプレゼンテーションさせていただいたこともありました。

2012年よりライブ配信を活用した学習サービスを運営し、2015年より大学と提携して実証実験を多々行ってきたノウハウが、ようやく大きく社会還元できるタイミングが来ているわけです。

ですが、この1ヶ月で感じているのは「3つの大きな壁」が、この有事であっても大きくそびえ立ち、大学のオンライン化を妨げ続けているという事実です。今日はそれを簡単にまとめておこうと思います。

(大学関係者の方、失礼な表現がございましたら大変申し訳ございません。)

壁その1:ITリテラシー

「Zoomを使って遠隔授業を行う準備を考えているんですが…」

「素敵ですね!念の為、Zoom以外の配信システムについてもバックアップとして環境を用意しておいた方が良いと思いますよ!」

「えっ、Zoom以外にも配信できるシステムがあるんですか…?」

こういう話からご相談を開始するケースが少なくありません。普段から国土の広さによって遠隔会議などが当たり前であった欧米の大学がオンライン化するのとは訳が違います。

実際のところ、このような知識は進めていく中で溜まっていくものなので大した話ではないんですが、「実際にライブ配信をやっていないとわからないこと」に関するリテラシーがかなり根深く、このままいくと各大学がオンライン開講した直後に大混乱が起きるだろうなと予想しています。

一番混乱を引き起こすだろうなと感じるのが「インターネット回線」に対する知見です。『ネット回線とは、そもそも契約によってスピードや強さが違う(配信に耐えうらないこともある)』『発信側だけでなく受信側の環境も合わせて計測し、配信するビットレート・容量などをコントロールする必要がある』など、若い世代やIT業界の人は当たり前だろうと思っているところから、全国700大学に従事する方々や先生方のリテラシーを高める必要があります。

かつ、僕も1ヶ月取り組んでみてビックリしたんですが、固定回線どころかポケットwi-fiですら、環境のないお家もたくさんあるんです。5Gが作るバラ色の未来どころか、まず4G環境の整備が急務です。

ちなみに皆さん大学の規模感ってイメージつきますか?都内で10,000人程度が通う大学であれば、「週1,000-2,000授業」「先生数1,000人」という圧倒的スケールです。もちろん「1授業参加者が数百人」に及ぶ大講義も存在します。これが5月から、一気に全部オンラインになる可能性が高いんです、、、、、、配信できない、見れない、途切れる、デバイスが落ちる、音が聞こえない、外部から荒らされた、、、、、、このままいけば確実に大混乱します。(しかも、この要因の切り分け・特定が慣れた業者でも相当難しく、その学生さんの問題解決には相当なパワーがかかります)

最近だと、「オンライン環境でより良い教育・授業をするには?」という知見交換が活発に行われているようです。これ自体はとても素晴らしく、望んでいた世界になりつつあると感じているんですが、正直まずは「オンライン環境でちゃんと全ての授業が混乱なく配信できるか・受信できるか」に我々は目を向けるべきだと思っていますし、そのために全関係者のITリテラシーを急速に高めることに取り組むべきだと考えています。

壁その2:予算

前提として、緊急事案であるため期初予算確保が追いついていないという背景はあると思います。ですが、オンラインシステムを使うこと・動画を制作すること・リッチなライブ配信を行うこと・その機材や専門職スタッフを集めることなど、オンライン開講に対する予算がほぼ組まれていない大学がほとんどです。大学からやりたいことと予算案を伺って「そもそも原価割れしているので、それを受けられる業者は株式会社には存在しないと思います」とお伝えするケースもありました。

特に現在の社会状況として、企業研修なども急激にオンライン化しており、動画制作・ライブ配信関連の事業者は凄まじい忙しさです。通常すぐに手に入る機材も、ほぼ市場から出払っています。

オンラインのシステムを使うにはお金がかかること。動画制作・ライブ配信の機材やスタッフにもお金がかかること(かつソフトウェア技術者と等しく専門職スキル保有であること)。さらに市場の需要が劇的に伸びているため相場観が歪んでおり、通常時に十分な予算であっても外部企業へ委託する難易度は極めて高いこと。これらを認識して、「より多くの予算を確保して事業者へ依頼する」のか「学内で無茶苦茶大変になることを覚悟してなんとかする」のか、究極の2択を決断してやり切るしかないと思います。

我々も実務的にお手伝いしたい気持ちは山々なのですが、大きく原価割れしている仕事を受けるわけにもいかず、遠隔での知見共有やアドバイザリー支援に留まってしまいます。仮に我々がその大学から仕事を受けたとしても、700ある日本の大学をカバーするには当然弊社だけでは不可能で、日本全国の関連企業が業として担える適切な市場価格を設定していく必要があります。現状は市場が高騰していることを置いても、オンライン開講の適切な相場観把握と今・未来の予算取りは大きな課題です。

壁その3:大学内の発言権

2015年から全国15大学と提携させていただき、ずっと感じていたことがありました。それは「事務側の発言権が強い大学」と「先生・教授の発言権が強い大学」の2つが存在するということです。

これ自体は度合いも存在しますし、良し悪しは双方に存在します。ただ、この有事の局面で学内一斉オンライン開講を果たす上では「事務側の発言権が強い大学」が圧倒的に有利です。というか、そうでないとほぼ間に合わないかと思います。

とある大学では、事務局から「ツールはこれらを推奨するが、各教授・先生ごとに知見を集約し、別個対応してほしい」という通達が全先生にあったという話を聞きました。この大学と接点があるわけではないので推察の域を出ませんが、おそらく普段から「先生・教授の発言権が強い大学」であったのだろうと思います。(実際、弊社相談窓口にも先生が直接ご相談にくるケースと、事務局からご相談がくるケースの2つが存在します)

これは国家・民間企業にも共通しますが、有事の急速な方向転換においては中央集権的なリーダーシップ・トップダウンが必要ですし、有用です。特にこの局面や大学という教育機関の役割を考えても、まずは全ての学生が確実に教育機会を得られるよう最低限のオンライン学習環境を均一につくることを目指すべきかと思います。先生ごと・授業ごとへのムラを許容すべき状況ではないかと思います(先述の通り、そもそも受講できない、という問題が多発することが想定されるため。)

壁1.2については、我々事業者が支援すれば乗り越えられる可能性のあるものでした。ですがこの壁3は根深く、強く、5月から全ての学生たちが満足のいく教育を享受できるかの最大の壁となっていくと思います。時間をかければこのバランスを大学ごとに最適化していくことは可能だと思います。ですがこの緊急時において「先生・教授の発言権が強い大学」はどうしていくべきなのか。

先生・教授による学校を超えたコミュニティの形成と、そこでの「受講環境構築(not教育品質)」の知見共有を加速、それに対するIT・動画やライブ配信に詳しい事業者の志高きサポート。

これが僕の中での仮説解ではありますが、極めて難しい挑戦になると思います。

「3つの壁」への向かい合い方が、分かれ目

大学オンライン化の一連の流れを、僕は、世の中が「変わった」とは捉えておらず、いつか訪れるであろう未来への時間軸が早まっただけと考えています。

日本は超少子高齢化社会への重力から逆らえません。これからの大学は、社会人や他国の学生を獲得していかなければ立ち行かないことが明白。そのためにはいずれにせよオンライン活用・遠隔教育に本腰を入れねばなりませんでした。

教育無償化の政策によって大学進学率が上がることが見込まれていたため、もう20年~30年のんびりと準備できていたらよかったかもしれない大学のオンライン化。それがコロナをきっかけに急速に進みだしたのだと思います。

そして、仮にコロナが落ち着いたとしても、今回のことによって「オンラインの知見を上手に取り込み、アフターコロナでも活用していく大学」が生まれてきます。ほぼ全ての大学がオンラインに疎かった時代は終わり、オンラインを上手く活用している大学が大きなアドバンテージを得ていく。そして学生や市場は、オンラインの良さに気付いてしまいます。オンラインを上手に活用している大学が選ばれる時代になっていく

今、様々な大学が向かい合わねばならなくなった「3つの壁」。この『向かい合い方』で、その大学の10年後が変わってくるのであろうと思います。ドラスティックな変革を行う大学が生まれてくることを期待しつつ、この社会・大学生・未来のために、我々にできることは引き続き全力で取り組むつもりです。

(大学関係者の方、失礼な表現がございましたら大変申し訳ございません。※2回目)

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