商売が苦手なイラストレーターのための仕事のつかまえかた~はじめに~第0章
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商売が苦手なイラストレーターのための仕事のつかまえかた~はじめに~第0章

note版の公開にあたって

Kindle限定で出版していた電子書籍『商売が苦手なイラストレーターのための仕事のつかまえ方』を各章ごとに分割し、noteの記事として投稿します。

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0章~1章は無料で公開し、2~6章は有料記事としますので、気になるトピックの記事がありましたらそれぞれお求めください。
※第6章の「◆自己紹介」以降は無料ですがマガジンを購入していただいた方のみご覧いただけます

なお2~6章の有料記事まとめたnoteのマガジンやKindle(電子書籍)では、有料記事の各章を個別に購入するより金額を安く設定しています。
無料記事を読んで気に入っていただけたらマガジンやKindle版をご購入ください。

それでは、これより書籍本編に入ります。

はじめに

「会社の上司や取引先との煩わしい人間関係から解放される」
「場所や時間に束縛されずに自由な生活ができる」
「自分の作ったものが世間に認められる充足感が得られる」

あなたは「フリーランスのイラストレーター」という職業に、こんなイメージを抱いていませんか?

実際に「フリーランスのイラストレーター」という職業は、自由でクリエイティビティに溢れ、自分の創作物がどんどん世の中に広がっていくすばらしい職業です。
もしもあなたが、「商品的価値」と「商売的価値」を競合より高く提供し続けられるのであれば。

25年にわたってクライアントとして、コーディネーターとして、クリエイターの代理人として、セミナーの講師として数多くのフリーランスのクリエイターと関わってくると、まったく芽が出ないまま退場する人も、長年にわたって売れ続けている人も、その中間のグラデーションの人たちも数多く見ることになります。
当然のことながら、そうした人たちの仕事ぶりを見れば見るほど、売れている(またはいない)人たちの共通点もわかるようになってきます。

売れている人たちの共通点を具体的に言うと、
「依頼を受けて納品するまでに競合(ライバル)よりもお客を良い気分にさせる」
ということにほかなりません。

「良い気分」にさせるためには、商品的価値を高めることから、コミュニケーションのとり方まで、じつにさまざまな手段があります。
この手段を本書では「ポジティブサプライズ」と呼び、「それがどういうことなのか」の解像度を上げるために、できるだけフラットな視点で事例を並べました


これまでの経験から言わせていただくと、クリエイターが仕事を得るために最も大切なのは、まずは創り出す商品(作品)の価値が一定以上の水準にあることです。

そして、クリエイターを「職業」として長く続けていくためには、商品的価値に加えて「商売として提供するサービス=商売的価値」が備わっていることが重要です。
なぜなら、現実的には「ほとんどの仕事は頼みやすい人に発注される」からです。

実際、イラストの描き方に関しては美術系の大学や専門学校で教わるチャンスはたくさんありますが、「商売」を教えてくれる場はほとんどありません。しかも、同じようにフリーランスのクリエイターであるカメラマンやグラフィックデザイナーと比べて、イラストレーターはとりわけこの「商売」に関する知識とスキルが圧倒的に足りていないと感じます(理由は本書で考察します)。
僕が運営している「BUILDING」所属のイラストレーターがしっかりと価値を提供して対価を受け取り、しかるべき権利を行使できること。僕個人の職責はそれで果せます。
けれど俯瞰して業界を見渡してみると、グラフィック業界のなかでイラストレーターの価値を上げるためには業界全体の底上げをしなくてはいけないと痛感するのです。
そうした想いと、セミナーの受講生からのリクエストが、本書を執筆するきっかけとなりました。

なお、全般にわたってイラストレーターの商売っ気が不足している部分にフォーカスしているため、ともすればイラストレーターのコミュニケーション能力や人格を否定しているように感じられることもあるかもしれません。が、僕としては決してそんなつもりではなく、むしろ愛情からのエールなのだということをここで強調しておきたいと思います。自分の仕事柄を差し引いても、個人的に波長が合ったり、友だちとして長いつき合いとなったりするのは、ほとんどイラストレーターばかりなのですから。

ささやかでもこの本が、キャリアの路頭に迷うイラストレーターをひとりでも減らし、またイラスト業界発展の一助となることを願います。

本書の構成

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目次

第0章 本書のトリセツ
・本書の大前提の考え方
・自己紹介≪略図版≫
・クリエイティブ商売における「信用」の見取り図
・「クライアント」と「発注者」と「オーディエンス」
・コミッションワークを前提に考察します
・本書の目的

第1章 商売のフィールドに入る
◆商売をしていますか?
・イラストレーターは商売が下手?
・商売の基本を知らずに仕事をすることは、交通ルールを知らずに車を運転するようなもの
◆商売をできますか?
・あなたにとってクリエイティブは「職業」なのか「趣味」なのか問題
・絵は人生を豊かにしてくれるが「なくてはならないもの」ではない
・絵を描けるって、すばらしい
・イラストレーターはバンドメンバーのようなもの
・二足のわらじも良いのでは?
・仕事のやり方は真似できる


※以下有料記事となります

第2章 商売の行動指針を持つ
◆自分が目指す場所を知る
・商売のフィールドを理解する
・クライアントのポートフォリオを組む
◆商売の方法を考える
・フリーランスは企業の業務のすべてをひとりで担う
・近所にある繁盛している飲食店を研究する
・フリーランスの40代問題

第3章 商売の基本を知る
◆商売の基本原則
・商売は「信用」がすべて
・「ポジティブサプライズ」をどれだけ増やせるか
◆マーケティング(商品開発)
・マーケティングは必要か
・どの「商売のフィールド」に参入するか
・得意なものをかけ合わせる
◆まずは商品的価値だ
・重要なのは「商品的価値」そのもの
・我が子のために厳しい親になれるか
・商品的価値の構成要素は「はやい・やすい・うまい」
・あなたが「天才」ならば商売をする必要はない

◆「価格」を知る
・価格の仕組みを知る
・価格は需要と供給のバランスで決まる
・価格の構成要素
・クライアントの予算
・規定料金

第4章 商売のスタートを切る:新規獲得
◆まずは新規獲得から
・すべては新規獲得から始まる
・新規獲得の重要性
・最初にいちばんパワーが必要
・はじめの大きなハードル、アポとり
・良い発注者に会うのはハードルが高い
◆営業する
・ポートフォリオの送り方
・ポートフォリオの内容を吟味しているか
・何をプレゼンテーションするのか
・発注者は奇跡の一枚を求めていない

◆あなたと商品をセットで覚えてもらう
・作風と名前がセットで覚えられないと発注は来ない
・エレベーターピッチができるか
・自分の「売り」を簡潔な言葉で伝える
・仕事が順調に回るまではキャッチフレーズが大事
・能動的に動くか、待機するか
・個展を開催する価値
・「タダで描いてよ」問題~仕事を選んでいる場合ではない
◆受注して納品するために
・したい仕事のための準備はできているか
・自分のスピードを理解していないとチャンスを逃す

第5章 商売を安定させる:リピーター獲得
◆リピーターの重要性
・リピーターが仕事を安定させてくれる
◆あなたは「仕事をしたい」と思われているか
・ほとんどの仕事は「頼みやすい人」に発注される
・「その人でなければ成立しない」プロジェクトは1%あるかないか
・発注者は「儲けさせてくれる人」に仕事を頼む
・「速ければ速いほど良い」は全世界共通の商売の原則
・「仕事ができる人は即レス」は事実
・1秒の遅れが数時間のロスになる「赤信号の法則」
◆クリエイティブ商売もコミュニケーションが鍵となる
・「発注してもらえない」のには理由がある
・長く売れ続けている人の共通点
・お客にファンになってもらう
・「修正に明るく対応する」ことは効率の良い投資
・正論で勝ち、商売で負ける
◆考え方を少し変えてみる
・クライアントは自分の鏡
・「変態」しよう
・財布はいくつか持とう

第6章 番外編
◆写真を勉強しよう


※以下は無料記事ですがマガジン購入でのみ閲覧可能です

◆自己紹介
・ながいながい自己紹介
・BUILDINGが考えるイラストレーターの立ち位置
・もうひとつの財布を入れ替える
・クリエイティブな人生を

第0章

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 ・本書の大前提の考え方


「イラストレーター」とひと口に言っても、ゲームからファッションまでさまざまなフィールドが存在するため、本書ではできるだけ、どのフィールドでも共通するような商売の「基礎的」な内容を「最大公約数的」にまとめています。
また、商売に必要なそれぞれの項目について「こうすれば良い」という単純な答えは記していません。

その理由は、
・商売のフィールドによって求められることが異なる
・現在は有効な手段があったとしても、みんながやり始めると有効でなくなる場合がある

ためです。

本書に記しているのは「考える指針とヒント」です。

同じ理由で、「どうしたら売れる絵が描けるようになるか」という商品開発のテクニックについても本書では触れていません。
もしあなたがすぐに「手っ取り早い答え=ハック」を求めているとしたら、その発想自体を見直したほうが、「長くこの仕事を続けられるクリエイター」になれるでしょう。

 ・自己紹介≪略図版≫

ここでは、経歴の略図を掲載するにとどめておきますが、僕がなぜこの本を書くにいたったか、なぜ本書で述べているような考え方をしているかの根拠には、これまでのキャリアが大きく関係しています。そのため、できれば巻末の僕の半生記と、運営会社についての説明をお読みいただくと、本書をより深く理解いただけると思います。
→ながいながい自己紹介
→BUILDINGが考えるイラストレーターの立ち位置
※リンク先記事を公開後にリンクします

P008-森の経歴_0308-01

P008-BUILDINGの経歴_0308-01

 ・クリエイティブ商売における「信用」の見取り図

「『信用』の見取り図」はクリエイティブの商売に必要とされる「信用」を僕なりに因数分解した、この本の定礎にあたる図です。
読み進めているとき、また、必要な項目だけを抽出して読むときなど、いつでもこの図に立ち戻っていただけば、内容の理解に役立つでしょう。またこの図は、各章でも随時引用します。

P011-P051-信用の見取り図_0225-2-01

「ビジネスマナー」は、言葉使いや名刺の渡し方に始まり、立ち居振る舞いや「約束は必ず守る」といった、仕事をするためのベースの部分です。これは「クリエイティブ」や「フリーランス」や「商売のスキル」とは別次元の常識なので、本書では触れません。

「お金と権利の交渉術」は個別の取引において、金額や諸権利をどう設定し、何を根拠に交渉するべきか、というテクニックの部分です。
商売をさらに良く回転させるために知っておくべき知識ですが、基本的な内容ではないので本書では触れません。

 ・「クライアント」と「発注者」と「オーディエンス」

P012-各プレイヤーの呼び方_0225-2-01

-コミッションワーク
発注者からオーダーを受けて個別に作品を制作すること。大規模な案件では、納品までにさまざまな事業者が関わります。
プロジェクトのお金の流れのトップにいる事業者を「クライアント」、イラストレーターを選定し、制作指示を出すデザイン会社や制作プロダクションなどの事業者を「発注者」、イラストレーターの交渉代理人を「コーディネーター」、イラストレーターを「イラストレーター」ということにします。
さらに「クライアント」のお客様を「消費者」、イラストレーターのファンを「オーディエンス」といいます。
「クライアント」「発注者」「オーディエンス」「消費者」の区別がつきにくいシチュエーションや、それらをまとめて指すときは「ユーザー」といいます。
イラストレーターやカメラマン、デザイナー、アニメーターなど、クリエイター全般に対しては「クリエイター」といいます。

-ストックイラスト
受注する前にイラストを制作しておき、クライアントや発注者がそれを広告などに使用することで発生する使用料を徴収するビジネス。インターネットの普及によって頒布コストが劇的に下がったおかげで浸透した、比較的新しい業態です。ストックイラストを商用利用するのは、実際のところはデザイナーなどの「発注者」が多いと思いますが、ここでは便宜的に「クライアント」に総称します。
一方で、イラストレーターがLINEスタンプやオリジナルグッズを販売する商売もストック型ビジネスといえるでしょう。その購買者の多くはイラストレーターのことを知っている「オーディエンス」かもしれませんが、この場合は実際に対価を支払ったお客様という側面を優先して「消費者」と呼びます。

 ・コミッションワークを前提に考察します

イラストの仕事には大きく分けて「コミッションワーク」と「ストック型ビジネス」のふたつがあります。
プロのイラストレーターを目指すほとんどの人は、コミッションワークをベースに考えていると思います。

イラストレーターの卵が憧れる著名なイラストレーターは、コミッションワークでオリジナルの作品を提供することで世間に知られるようになったパターンがほとんどでしょう。ストックイラストのほうはというと、基本的には黒子役のため、名前が知られることはまずありません(「いらすとや」のように表舞台に出てくる人もいます)。

しかしストックイラストには「制作の時間や場所の制約から大きく解放される」といった、コミッションワークにはないメリットもあります。ストックビジネスの単価は非常に低いものの、デジタルデータは限界コスト(新たな利益を生むための商品制作に必要なコスト)がゼロなので、ひとたびヒットすれば寝ている間に大きな利益を生んでくれる可能性もあります。
コミッションワークとの最も大きな違いは、「クライアントと直のコミュニケーションに煩わされることがない」ことではないでしょうか。

しかし、ストックイラストは手軽に参入できるぶん、参入するイラストレーターも非常に多数存在します。クライアントと日本語でやりとりしなくて済むため、今後は世界中のイラストレーターが国内のマーケットにも押し寄せるでしょう。
ストック型ビジネスは何よりも「商品開発」の力量のみが問われる世界ですから、勝ち残るのがどれだけ大変か、容易に想像できると思います。ストックイラストやストックフォトで利益を上げているイラストレーターやカメラマンは、どんな素材が売れるかしっかりとリサーチし、何百点もの素材を毎月アップロードしています。そうした商品開発と生産の努力ができるなら、ストックイラストの商売を視野に入れるのも良いでしょう。

BUILDINGはストックイラストと対極の、コミッションワークを展開しています。
それは、我々のようなコーディネーターが、
・発注者側からは「安心して納品されるために」
・イラストレーター側からは「イラストの価値を上げるために」

必要とされている存在だからです。

本書ではコミッションワークを前提とした「商売の基本」における、「ポジティブサプライズの解像度を上げる」ことを考えていきます。

だからといって、コミッションワークに興味がないイラストレーターにはこの先、読み進めてもらわなくて結構、とは思いません。商売のスキルは、ストック型ビジネスの商品開発のヒントになり得るし、ストック型ビジネスの発展形と捉えられるライセンスビジネスでは、メーカーやライセンサーなどのビジネスパートナーとの商売も発生するからです。

MEMO:補足
LINEスタンプやSUZURIなどのグッズ通販もビジネス形態としてはストック型ですが、イラストレーターのオーディエンス数がベースとなる「商売」といえます。そのため、ポジティブサプライズを上げるプロセスとしてはコミッションワークを参考にして良いのではないでしょうか。

 ・本書の目的

本書は、
・売れ続けているクリエイターの共通点を参考にし
・商売の基本を学ぶ=「ポジティブサプライズ」の解像度を上げることで
・自分に足りない商売のスキルとの距離感を理解する

ことを目的としています。

 結果、
・駆け出しのイラストレーターが「商売」のスタートラインに立てるようになる
・キャリアのスタート後に自分の「商売」感覚のズレに気づく
・クリエイティブは本業とせずに、自由な創作を楽しむ人生を選ぶ

など、最終的にはあなたに合ったキャリアを選択できるようになってほしいのです。

人生において、「地図を持たずに旅に出て、無駄な時間を過ごす」人が、少しでも減ってくれたら。

なお、本書で提示する「ポジティブサプライズを上げるための手段」は、一般的に推奨される方法や考え方とは正反対の場合も多々あります。なぜならリアルな商売の現場では、お客は「あるべきほう」より「選びたいほう」を選択しているからです。


では次項より、いよいよ本題です。
少しずつポジティブサプライズの解像度を上げていきましょう。

>>>第1章はこちら

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グラフィックアーティスト・エージェンシー『BUILDING』と、クリエイターのキャリアについて考える『CAT'S FOREHEAD』を主宰。ドローンパイロットとビデオグラファーもやってます。 著書『商売が苦手なイラストレーターのための仕事のつかまえかた』『ドローンハンドブック』