ギャラは「川の流れの(逆の)ように」

前回の記事を投稿した約1週間前から、コロナショックによる影響が激変しています。

東京オリンピックは延期され、小池都知事から様々な自粛が強く要請されたことで、僕の知人が営むギャラリーも含めて多くのスペースが会期途中で休業に入りました。

著書『商売が苦手なイラストレーターのための仕事のつかまえかた』の告知チラシが納品されたので、都内のギャラリーを巡って置かせていただこうとはりきっていた矢先にどこもお休み。。ちょいと困ったことになりましたが、個展を会期中に断念したアーティストや、日々の糧が煙のように消えてしまったギャラリーオーナー達(僕の知人も多いです)の苦悩を考えると、チラシを置けないことなんて些細なことです。
でも「置かせてやんよ!」というスペースがあればぜひ!お願いします。

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前回の投稿で書いた通り、イラストレーターの仕事がプロジェクト進行の途中で頓挫することはあまりないものの、この一週間でCMや広告案件では「制作のキャンセルが相次いでいる」と聞く機会が増えました。

僕の方にも相談が来ていた広告制作案件が、ついさっき軽やかに消えていきました。
コロナめ・・・いつか仇を取ってやる。

さて前回の記事で

(クライアントから直接発注されるのではなく、間に制作プロダクションなどが入る)間接受注の場合は、制作費減の影響が直接発注よりもさらに大きくなってしまいますが、このメカニズムは次回の投稿で解説しようと思います。

と書きましたが、この投稿ではその部分について解説します。

この「受注の下流に行くほど予算変動の割合が大きくなる」現象は、クリエイティブ業に限らずどの商売でも当たり前のように起こっていることなのですが、商売が苦手なイラストレーターの皆さんはあまり意識をされていないと思うので、身近な例を用いて説明していきます。

直接受注の場合

クライアントから直接発注を受けている場合は、例えば発注額が20%減った場合は、受注額も20%減ることになります。
当たり前のことですね。

ちなみに雑誌の場合は2000年代前半にインターネットバブル崩壊などのあおりを受けた出版不況で、多くの雑誌でページあたりの制作費が20~30%ほど一律に下がったことがありました。さらに2010年代前半の経済危機でまた同じくらい制作費が下がりました。
0.8の2乗は0.64なので、同じ仕事でも1990年代と比べると半額近くになったことになります。
1990年代当時は、ライターもカメラマンもイラストレーターも雑誌の仕事だけでもわりとちゃんと食べて行けたものです。

間接受注の場合

ほとんどのコミッションワークでは、制作業務のフローで最上流にいるクライアントイラストレーターなど最下流の事業者の間に、制作プロダクションやデザイン会社などの(イラストレーターから見た)発注者が介在します。
以下、発注の流れに登場するプレイヤーを、クライアント、発注者、イラストレーターと呼ぶことにします。

・たとえばクライアントがイラストを起用した制作物を、発注者に総額50万円で依頼したとします。

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発注者は自社の取り分(営業費、デザイン費、会社維持経費を勘案して)を30万円、イラスト制作費を20万円と設定すれば、イラストレーターに20万円で発注をすることになります。
たいていの場合は、クライアントは発注者が再委託者(たとえばイラストレーター)にいくらで発注しているかは関知していません。

・その後、なにかの事情でクライアントが同様の案件を20%減額して40万円に減額して発注者に依頼をしたとします。
その場合に、発注者が自社の取り分も20%減額して30万円-20%=24万円とし、イラスト代も20%減額して20万円-20%=16万円と計算すれば、イラストレーターも20%の減額となります。

しかし、発注者が自社の取り分を減額せずに30万円と設定した場合は、イラスト代は10万円になってしまいます。
割合にすると50%もの減額になります。

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会社の規模が大きくて固定費が高い企業や、イラストレーターの選択肢を豊富に持っている発注者は、このような判断をすることがあります。というか、わりと多いパターンだと思います。
現実の川は下流ほど水量が増えて川幅も大きくなりますが、発注という川が下流に行くにつれて急激に細くなるのは、こういったメカニズムが働くからです。

一方で、「低価格では受けてもらえない特定のイラストレーターをどうしても起用してコンペに勝ちたい」といった事情がある発注者は、イラスト代を据え置く=自社の取り分を減らす、という判断をすることがあります。

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上記の2つのケースを比べると明らかなのは、「価格の決定権を持っているプレイヤーの利益は減りにくい」ということです。
この2つの例では
・イラストレーターの選択肢を持っている発注者
・クライアント(発注者)の選択肢を持っているイラストレーター
ですね。

逆に価格の決定権を持っていないプレイヤーは、市場価格の変動によって自分の利益が翻弄されることになります。それも、一つめの例(=クライアントの20%減が末端で50%減となる)のような大きな変化と共に。

こうした現象は、例えば飲食の商売のフィールドにたとえるとわかりやすいのではないでしょうか。
・クライアント=お客
・発注者=飲食店
・イラストレーター=食材
です。

たとえメニューの価格が高くても発注してくれるお客をたくさん持っていれば、食材が高騰してもメニューの価格に転嫁できます。お寿司屋さんで見かける「時価」というやつですね。

一方で価格に敏感な客がターゲットのフィールドでは、競合店が値下げを始めてしまうと、
1.メニューの価格を下げるために食材の仕入れ価格を落とす
2.食材の質を維持して店の利益を減らす
のどちらかで対応することになりますが、これらはそのまま上記の2つのケースに当てはまります。

例外的な間接受注

コミッションワークのなかでも、発注者がイラストレーターの選定だけ(または条件交渉まで)を行い、契約書の締結や請求書の発行はイラストレーターがクライアントと直接行う場合もあります。

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こうしたケースの背景には、個人クリエイターに発注すると支払時に源泉徴収をしなくてはならないので煩雑な業務を回避したいというケースや、イラストレーターのギャラの相場が全くわからなくて「イラストレーターが提示した見積額」をそのままクライアントに投げて判断を委ねる、といったケースが多いと思います。
このケースでは、イラストレーターの見積額の設定がキモとなります。

飲食のフィールドでは、「魚市場でお客が鮮魚店の中から食材を選んで食堂に持ち込んで調理をしてもらう」ようなイメージでしょうか。
あれ、余計にわかりにくくなったかも・・・

まとめ

ちなみに僕は、先の例に挙げた「自社の取り分を据え置く」発注者と、そうでない発注者のどちらが「良心的だ」とか「正しい」と判断するつもりは全くありません。
我々のような受注者としては、「仕事を取ってきて、与えてくれる発注者がありがたい」というだけのことです。

しかしながら、経済危機のような局面でクライアントが総制作費を減額した場合でも、発注の下流で水量の激減にあえぐのではなく、「この食材(イラスト)の質だけは落としたくないから」と選んでもらえるようなサービスを提供することで「価格の決定権を持っていたい」と、つねづね考えています。

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著書『商売が苦手なイラストレーターのための仕事のつかまえかた』では、クリエイターが価格の決定権を持つ(クライアントの選択肢を持つ)ために必要なのは「商品的価値」+「商売的価値」=信用の総量と表現しました。
またこの記事でも書いたように、僕は商売に関することを飲食店に置き換えると理解しやすいと考えているのですが、その理由もたっぷりと書いております。
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