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【読書】殺人出産/村田沙耶香

「コンビニ人間」で第155回芥川賞を受賞した村田沙耶香の2014年の作品。

舞台となる時代の日本では”産み人”となり子どもを10人出産すれば、選んだ誰かを1人殺すことができるという合法的殺人制度が成立していた。主人公・育子はこれに漠然とした違和感のようなものを感じつつも、自身の姉であり産み人制度で生まれた存在である環が、自身も殺人衝動を持って産み人になることを希望し子どもを産み続けているという複雑な立場にある。世間では産み人は人口維持の為に苦しい道を歩む人として称賛されていたが、育子は姉が産み人であることを公にはせずに暮らしていた。そんな育子の前に、産み人となったことで退職した同僚の替わりに入社してきた早紀子という女性が現れる。早紀子はなぜか育子の姉が産み人であることを知っており…というのがあらすじ。

産み人が殺す相手に指定した人は“死に人”と呼ばれ、どちらも人間世界を維持するための尊い存在として扱われるという価値観が持たれている世界。この作品はその世界の中で育子の価値観が揺らいでいく様子を描いている。殺人は悪という(この世界では)古い価値観を持ちながら、産み人・死に人という制度が正義とされる世界に生きることを受け入れている育子。合理的出産と殺人を正義とする大衆の総意の中で、育子がその渦に飲まれていく様は一種の恐怖感をもたらしてくる。

ファンタジーであり、社会的でもあるミステリー。


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