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「その鉄塔に男達はいるという」土田英生(MONO)

MONOの土田英生さんの戯曲。初演は1998年。OMS戯曲賞受賞作。2001年のOMSプロデュース公演での再演を経て、今年の春にMONOとして改訂再演。
戯曲は今年再演した際の上演台本。緊急事態宣言発令のタイミングギリギリでなんとか上演できたそうです。

2010年にEXILEのメンバーが上演したりして話題になりましたが、私が観たのは2008年の青山円形劇場のpnish版のみ。残念ながらMONOバージョンのオリジナルは観たことがありません。
pnish版は扉座の茅野イサムさんが演出。元第三舞台の小須田さんが客演と聞いて観に行きたかったのだけど、自分の本番と重なってて行けなかったので、後でDVDで観ました。

戦場へ派遣された日本兵の駐屯地に慰問に訪れた若手芸人チーム。しかし自分達の芸が戦争美化に用いられることや、まもなく大規模戦闘が始まることを知って怖くなり、座長を残して4人で脱走する。逃げ込んだ鉄塔には、彼らを追って脱走してきた兵士も逃げて来る。4人は戦闘が終わるまでこの鉄塔に隠れてやり過ごそうとするが、脱走兵の話では、どうやらとっくにバレているらしい。
やがて周囲ではゲリラ掃討作戦が始まり、機銃掃射の音が聞こえる中、極限状態の彼らの間にも、小さな「戦争」が巻き起こる。
この鉄塔という場所設定が曲者で、周りの様子は手にとるように見えるのに、下で交わされるの会話は聞こえない。鉄塔を取り囲んだ兵士達が笑いながら銃を向けてくるのを見た彼らには、それが兵士達の悪ふざけなのか、彼らを嬲り殺そうという残虐さの表れなのか、知る余地はない。

2020版の戯曲「+」では、この本編の前に新しく40年前のエピソードが追加され、それによってこの本編の設定がよりリアルに感じられるようになっていた。あと、脱走兵の城之内は初演からずっと金替康博さんが演じているので、役者の年齢に合わせて、入隊の経緯や脱走してきた背景などが少し書き換えられていた。
全体的に良い本でした。上演観たかったなあー。

ちなみにpnish版の上演はDVDで観たけれど、若手4人の芝居は、特に前半は間延びした感じがあって、もうちょっと煮詰められたのでは?という気がしてちょっともったいなかった(どこから目線?!)。煮詰まってないのか、煮詰まりすぎてあそびが全然なかったのか。…若手の中で良かったのは上原健太さん。あとで扉座の役者さんだと知ってなるほどと思いました。そして唯一のベテラン小須田さん。一見、頼りなくふにゃふにゃした役なのに、出てきてから舞台の空気が一気に締まりました。そして頼りない人っぽい印象を与えておいてからの、やはり戦争をこの目で見てきた城之内の言葉の説得力が凄い。あと、階段のエチュードは死ぬほど笑いました。いやはやさすがです。

ラストシーンははっきりとした結末を描いていないのだけど、一瞬先の未来が見えない中で「今」を生きる登場人物たちの決意を描く、良いラストだと感じました。

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